「生活保護制度にはどんな問題があるの?」「不正受給は本当に多いの?」日本のセーフティネットである生活保護制度には、様々な課題が指摘されています。
本記事では、厚生労働省の資料や国会の議論を基に、生活保護制度の8つの主要な問題点と、その背景、改善に向けた取り組みを詳しく解説します。
生活保護制度とは

制度の目的
生活保護制度は、生活に困窮する者に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長することを目的とした制度です。
憲法第25条(生存権) すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
受給者数の推移
生活保護受給者数は、平成24年3月時点で210万8,096人であり、現行制度が制定された昭和25年以来の過去最高を9か月連続で更新していました。
受給者数の推移(主な年度)
- 1995年度:88.2万人
- 2006年度:151万人
- 2012年:210万人超
- 2024年:約205万人(微減傾向)
長引く不況により現役世代の失業者が生活保護に流入したこと、また高齢者の生活保護世帯が増加したことにより、受給者の拡大に歯止めがかからない状況が続いています。
問題点1:低すぎる捕捉率(漏給問題)

捕捉率とは
捕捉率とは、生活保護基準以下の世帯で、実際に生活保護を受給している世帯数の割合のことです。

日本の捕捉率は極めて低い
日本の生活保護の捕捉率は15.3~18%です。
つまり、生活保護基準以下の低所得者で生活保護を受給していない人が82~84.7%もいるという事になります。
主要国との比較
| 国 | 捕捉率 |
|---|---|
| フランス | 90%超 |
| イギリス | 90%超 |
| ドイツ | 約60% |
| 日本 | 15~18% |
なぜ受給しないのか
実際、こうした屈辱的なミーンズテストをきらって申請しない人は多く、生活保護が受けられるのに受けていない人が多数存在しています。
申請しない主な理由
- 資産調査(ミーンズテスト)への抵抗感
- 親族への扶養照会の恐れ
- 社会的偏見・スティグマ
- 制度を知らない
- 水際作戦による申請拒否
問題は濫給ではなく漏給の方であるという指摘は重要です。
本当に支援が必要な人が制度を利用できていないことが最大の問題です。
問題点2:水際作戦

水際作戦とは
水際作戦とは一部の地方自治体で、生活保護者の担当者が申請書を渡さなかったり、受付を拒否したりして受給者の増加を絞り込もうとするやり方です。

不適切な対応の実例
一部の自治体で生活保護受給者への対応にバラつきがあり、高圧的で不適切な対応をされたという案件も少なくありません。
不適切な対応の例
- 申請書を渡さない
- 「働けるから受けられない」と虚偽の説明
- 親族に連絡すると脅す
- 窓口で長時間待たせる
- 何度も来所させて諦めさせる
利用者を毎日来所させ保護費を分割支給したことや、満額の支給をしなかった事例、誤った説明を行い生活保護制度の申請を受理しなかった事例など不適切な対応が相次いでいます。
背景にある問題
これらの問題には不正受給者の取締り強化という背景があることや、ケースワーカー個人の資質の問題ではなく研修不足など自治体の体制の部分が大きい。

問題点3:医療扶助のモラルハザード

医療扶助の割合
生活保護費の約半分を医療扶助が占めています。
生活保護費の内訳
- 医療扶助:約50%
- 生活扶助:約30%
- 住宅扶助:約15%
- その他:約5%

問題の内容
医療扶助には自己負担がないため、患者、医療機関の双方にモラルハザードを引き起こしているとの意見もあります。
具体的な問題
- 向精神薬の大量入手、不正転売などの不正事件も発生
- 受給者に不必要な医療を提供するという医療機関側に問題のある事例も発生
- 過剰な通院
- 重複受診
対策の試み
電子レセプトの活用により、受給者の医療費請求の点検の強化、薬の不正入手の防止等、医療扶助の適正化が図れると期待されています。
問題点4:不正受給

不正受給の実態
不当に生活保護を受け取る不正受給に関する報告も増加が続き、貧困ビジネスが横行している現状があります。
不正受給の主なパターン
- 財産や所得を隠して受給しているケース
- 所得収入の一部を隠して所得認定をしないケース
- 働いて収入を得ているのに申告しない
- 年金を受給しているのに届け出ない

不正受給の件数と金額
会計検査院は、被保護者が就労して収入を得たり、年金を受給しているのに、事実と相違した届出がなされるなどしていたため、保護費が過大に支給されていることを指摘しています。
誤解と実態
ただし、不正受給は全体の約3%程度であり、メディアで大きく取り上げられることで実態以上に問題視されている側面もあります。
こうしたことが報道されると、多くの人は、生活扶助の基準が高すぎるとか、通院のための交通費の扶助に限度を設けるべきだなどと思いがちであるが、犯罪や不正と、生活保護の水準や扶助のあり方とは、決して混同すべきではありません。
問題点5:貧困ビジネス

貧困ビジネスとは
生活保護ビジネスとは、公園等で集めたホームレスを「無料低額宿泊所」に住まわせ、食事を提供しながら生活保護費の大部分をピンハネする悪質な業態です。
貧困ビジネスの手口
- ホームレスに声をかけて施設に誘う
- 生活保護の申請を代行
- 保護費を施設が直接受け取る
- 劣悪な環境で生活させる
- 高額な利用料を徴収(月10万円以上など)

問題の深刻さ
受給者に借金をさせて毎月そこからピンハネをさせる業者や、不当に高額な施設利用料を徴収する事業者が横行しています。
問題点6:就労支援の不十分さ

自立が困難な現状
自立できた世帯は生活保護を受給している世帯の1%もいません。
この数字から生活保護から抜け出すことが如何に難しいことなのかが、わかると思います。
保護廃止率(年度)
- 全体:約0.90%
- 高齢者世帯:0.72%
- その他の世帯:1.6%
自立支援プログラムの導入
平成16年12月の「生活保護制度の在り方に関する専門委員会」最終報告書では、自立支援プログラムの導入が提言されました。
3つの自立支援
- 就労自立支援:就労による経済的自立
- 日常生活自立支援:健康管理や生活管理の自立
- 社会生活自立支援:社会的なつながりの回復

就労支援の課題
現役世代の受給者への就労支援により、実際に就職することが出来たのは全国の総数で何人になるのかという質問が国会でも取り上げられていますが、就労による自立は容易ではありません。
就労困難な理由
- 高齢化(受給者の半数以上が高齢者)
- 病気や障害
- スキル不足
- 企業の偏見
- 低賃金

問題点7:財政負担の増大

増え続ける生活保護費
生活保護費負担金(事業費ベース)は年々伸び続け、平成24年度当初予算ベースで約3兆7千億円となっています。
費用負担の割合
- 国:4分の3(75%)
- 自治体:4分の1(25%)
生活保護費の増加は、国、地方の財政を圧迫し、特に生活保護費の25%を負担する地方財政は厳しい状況です。
高齢化の影響
高齢化が加速していくこの国で、生活保護を受けている世帯の半分近くが高齢者というのは由々しき問題です。
高齢者が生活保護を受けているということは、裏を返せばその高齢者は死ぬまで生活保護を貰い続けるということです。

セーフティネットの機能不全
生活保護は、他の制度がうまく機能していれば、それほど国の支出は増えません。
失業率が低く、賃金が一定水準を維持し、社会保険がうまく機能している場合は生活保護の費用はそれほどかかりません。
問題は、生活保護が増えることそのものではなく、他のセーフティネットが機能していないことです。
問題点8:運用の不適切さ

資産活用の問題
被保護者が居住用不動産を所有したまま死亡し、相続人が当該不動産を相続することは、社会的公平の観点から問題があり、被保護者の所有する資産の活用は徹底する必要があります。

自動車保有の制限
都道府県・政令指定都市別にみた母子世帯の世帯保護率(2015年度、1カ月平均)(推計値)を見ると、東京都は19%に近い世帯保護率である一方、富山県は、わずか0.61%の世帯保護率など、一般的に自動車等の保有が必要である地方に行けば行くほど保護率が下がるという傾向があります。
問題点
- 地方では自動車が生活必需品
- 自動車を手放せば生活保護を受けられる
- 就労に自動車が必要な場合も多い
- 地方の保護率が極端に低い原因の一つ


過誤支給の問題
生活保護制度に基づき支給される費用が、なんらかの事情によって、本来支給されるべきものに比べて、過大に、もしくは過少に支給される事態(過誤支給)が各地で生じています。
過少支給に関しては、最低生活費を割り込む恐れもあることから非常に深刻な問題です。

改善に向けた取り組み

捕捉率の向上
必要な対策
- 制度の周知徹底
- 申請手続きの簡素化
- 扶養照会の柔軟な運用
- スティグマの解消
ケースワーカーの増員・研修
ケースワーカー個人の資質の問題ではなく研修不足など自治体の体制の部分が大きく、第三者委員会を設置するなどして生活保護の適正化を図る自治体もあります。
医療扶助の適正化
具体的な施策
- 電子レセプトによる点検強化
- 重複受診・頻回受診の指導
- ジェネリック医薬品の使用促進
- 健康管理支援の強化
就労支援の強化
効果的な支援
- ハローワークとの連携強化
- 職業訓練の機会提供
- 中間的就労の場の創出
- 企業への理解促進
生活困窮者自立支援制度との連携
生活保護制度は生活困窮者自立支援制度の連携も重要であり、両制度の共通理念である「自立を支援する」を下に、両制度の関係者同士で相互理解を深めた上での支援をすることや、連携のための取り組み内容の見直し、ケースワーカー等の人材育成も必要です。
誤解を解く:生活保護の真実

誤解1:「受給者は働いていない」
実際には、働いているが収入が最低生活費に満たない「ワーキングプア」も多く受給しています。

誤解2:「不正受給だらけ」
不正受給は全体の約3%程度です。問題は濫給ではなく漏給の方です。
誤解3:「生活保護費が高すぎる」
生活保護基準は、一般低所得世帯の生活費を基準に設定されており、決して贅沢な水準ではありません。

誤解4:「外国人が悪用している」
外国人の受給率は日本人より若干高いものの、適法に在留する外国人にも生存権は保障されるべきです。

まとめ:真の問題は「使いにくさ」

8つの問題点の再確認
- 低すぎる捕捉率(15~18%) 本当に必要な人の8割以上が受給できていない
- 水際作戦 申請を受け付けない不適切な対応
- 医療扶助のモラルハザード 過剰診療や薬の不正転売
- 不正受給 全体の約3%だが対策は必要
- 貧困ビジネス 受給者を食い物にする悪質業者
- 就労支援の不十分さ 自立が困難な現状
- 財政負担の増大 年間3兆円超、他のセーフティネットの機能不全が原因
- 運用の不適切さ 自動車保有制限、過誤支給など
本質的な課題
実際、問題は濫給ではなく漏給の方です。
生活保護制度の最大の問題は、「本当に必要な人が利用できていない」ことです。
必要な改革
- 捕捉率の向上(せめて50%以上へ)
- 申請のしやすさ向上
- 社会的偏見の解消
- ケースワーカーの質・量の確保
- 他のセーフティネットの充実
最後に
本当の意味での弱者救済と国民の最低限度の生活を保障し、自立と共生が両立する社会の形成が必要です。
生活保護制度の問題を考えるとき、不正受給や財政負担ばかりに目を向けるのではなく、「本当に困っている人が適切に支援を受けられているか」という視点が重要です。
制度の改善には、国民の理解と支持が不可欠です。生活保護は、私たち誰もが必要になるかもしれない「最後のセーフティネット」なのです。


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