生活保護では、毎月生活保護費として現金を支給しています。
しかし、現金を支給することで、食料等の生活に必要な物ではなく、パチンコ等のギャンブルに使ったり、受給者によっては、覚醒剤等の薬物に手を染めてしまう人もいるのも事実です。
そのため、現金支給をやめて現物支給にしてはどうか?と言った議論が起こっているのも事実です。
そこで、このページでは
・現物支給と現金支給の違い
・なぜ生活保護費は現物支給にしないのか?
・現物支給のメリット・デメリット
等について、詳しくご説明したいと思います。
現物支給と現金支給とは?違いは?
現物支給とは狭義の意味では現金を支給する代わりに米、野菜、魚、肉等の食料等、生活するうえで必要なものを支給する方法です。
また、現物支給は広義の意味では現金以外による支給方法を指すため、例えばプリペイドカードや電子マネー、アメリカで実際に使われているフードスタンプなども現物支給に含まれます。
現金支給とは世帯ごとに最低生活費を定めて、その最低生活費に必要な金額を毎月支給する方法です。
現物支給と現金支給の最大の違いは自由度です。
現金支給の場合は現金のため、何にでも使えますが、現物支給の場合は使える範囲が制限されてしまいます。
例えば食料そのものであったり、プリペイドカードや電子マネーは現金のように使えますが加盟店でしか使えなかったり、パチンコ等のギャンブルでは利用することができません。
なお、現在の生活保護制度では、現物支給ではなく、現金支給が採用されています。
原則は現金支給しなければいけない
現物給付と現金給付の2種類がある中で、なぜ現金給付を採用しているのか?と言いますと、生活保護法第31条第1項に規定があるからです。
生活保護法第31条第1項「生活扶助は、金銭給付によって行うものとする。但し、これによることができないとき、これによることが適当でないとき、その他保護の目的を達するために必要があるときは、現物給付によって行うことができる。」
これを金銭給付の原則と言います。
この金銭給付の原則があるため、法律を改正しない限り、生活保護費は現金給付をしなければいけません。
生活保護費の現物支給をしている地域もある
原則としては、生活保護費は現金給付ですが、中には現物給付をしている地域もあります。
例えば近所にスーパーやコンビニ、商店街など、買い物をする場所がないほどの田舎の地域であれば現金を支給しても、お金を使うことができないため、現物支給が採用されます。
また、大阪府では2015年度からプリペイドカードによる生活保護費の支給を実施しました。
しかし、利用世帯数の目標を2000世帯としていましたが、わずか65世帯しか利用しなかったため、現在はプリペイド制を取りやめています。
このように、日本では、大半が現金給付ですが、田舎や先進的な取り組みをしている自治体では現物給付を行った事例があります。
ちなみに、海外では、アメリカがフードスタンプと言う食料品購入用のクーポンを配布しており、タバコやビールなどの嗜好品は購入することはできませんが、生活保護受給者はプリペイドカードのようにスーパーマーケットなどで自由に食料品を購入することができます。
生活保護費を現物支給にするメリット
生活保護費を現物支給した場合
・パチンコ等のギャンブルに使えない
・生活保護受給者が減る
・貧困ビジネスが減る
上記3つのメリットがあります。
それでは、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
パチンコ等のギャンブルに使えない
生活保護関連のクレームでぶっちぎりで最も多いのが、生活保護費でパチンコ等のギャンブルをしている人がいるのに、なぜケースワーカーは注意しないのか?です。
まず、最初に説明をしなければい生活保護受給者はパチンコ等のギャンブルをしても特に問題はありません。
生活保護では健康で文化的な最低限度の生活を送ることが保障されています。
この「文化的な」がポイントで、最低生活費とは何とか食べていけるお金ではなく、多少の贅沢も含めた金額が支給されており、パチンコ等のギャンブルに使うことも認められています。
とは言え、一生懸命働いて税金を払っている市民からすると、やはり生活保護でパチンコ等のギャンブルをすることは到底許せるものではありません。
また、パチンコ等のギャンブルが文化的な活動とは言い難いですし、ギャンブル依存症になる方もいることから、ケースワーカーとしてもギャンブル以外の活動に時間も労力も使って欲しいところです。
もしも生活保護費の現物給付が実現すれば、生活保護受給者はパチンコ等のギャンブルをすることができなくなります。
短期的には生活保護受給に不自由を強いることになるかもしれませんが、長期的に見れば、生活保護脱却のモチベーションにもつながるため、市民、ケースワーカー、生活保護受給者の三方にとってメリットがあると言えます。
生活保護費の予算が減らせる
生活保護費を現物給付にすると、自由が利かなくなります。
そのため、現物給付にしようとすると、様々な団体から反対の声があがります。
しかし、逆に言うと、現状の生活保護制度は、それだけ生活保護受給者に自由を与えすぎているとも言えます。
人間はどうしても楽な方に流されがちです。
そこで、現物給付と言うある種の縛りを課すことで、現金を獲得しようと働く意欲が出るのではないでしょうか?
そう言うと、「病気や障害で働けない人はどうするんだ?」と言う指摘があると思いますが、病気や障害で働けない人は障害年金を受給すれば良いんです。
現在の生活保護制度では給料収入と違い、年金収入には基礎控除等がつかないため、年金を受給するメリットが全くありません。
むしろ、年金の方が2ヶ月に1度しか支給されないため、年金収入を得た方が損をしてしまう制度になっています。
そのため、本来は年金が受給できるのに、手続きをしない、もしくは適当に申請をするため受給できない問題が現場では起きています。
もしも生活保護費を現物支給にすることができれば、働ける人は働いて給料収入を得る、年金を受給できる人は年金を受給するようになるため、生活保護費に掛かる予算が減り、その分の税金を教育分野や道路整備に活用することができるようになります。
貧困ビジネスを防ぐことができる
生活保護受給者を食い物にする貧困ビジネスが多数存在します。
貧困ビジネスでは表向きは弱者救済を掲げ、ホームレスを福祉事務所に連れて来て自立に向けた支援を行っていますが、実態は六畳一間くらいの狭い部屋に詰め込み、生活保護費の大半を家賃やら手数料やらで搾取しています。
実際に生活保護受給者に渡るお金は月に5,000円くらいしかありません。
ケースワーカーが注意をしても、国や市役所等の行政は市民を騙すと言うイメージが強いためか、全く指導を聞き入れてくれません。
その結果、生活保護受給者は騙されて貧困ビジネスの食い物にされているのにも関わらず、むしろ相手に感謝していたりします。
貧困ビジネスに流れていった生活保護費が良くない組織に流れてしまっているケースもあるため、生活保護受給者自身だけの問題ではないため、尚更厄介な問題です。
もしも、生活保護費が現物支給になれば、仮に現金のように使えるプリペイドカードによる支給でも何に使ったのか等、足がつくため、貧困ビジネスにお金が回らず、本当に困った人たちに生活保護費が支給されるようになります。
生活保護費を現物支給にするデメリット
生活保護費を現物支給した場合
・食料などを準備・配給するのに手間暇が掛かる
・現物支給の制度設計が難しい
上記2つのデメリットがあります。
それでは、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
食料などを準備・配給するのに手間暇が掛かる
生活保護で食料等を現物給付する場合、準備から配るまでに非常に手間暇が掛かります。
まず、用意する食料は米なのか?パンなのか?野菜ならどの野菜を何グラム用意するのか?また、どこからそれらの食料を調達するのか?そして、その食料をどのようにして生活保護受給者に届けるのか?等、非常に手間暇が掛かります。
食料を生活保護受給者に届けることは配達業者に頼めば良いかもしれませんが、食料を用意するのが一苦労です。
また、もしも100キロ必要なのに、90キロしか集まらなかった場合の対応方法にも苦労します。
仮に110キロ集まった場合、この10キロをどうするのか?は民間企業と違い、行政の場合は税金なので、余った部分の処理にも非常に苦労します。
このように現物支給を採用すると、手間暇が掛かるデメリットがあります。
現物支給の制度設計が難しい
それでは、大阪府のように食料等ではなく、プリペイドカードや電子マネーを活用した電子マネーはどうか?についてですが、プリペイドカードや電子マネーを活用する場合は制度設計が難しくなります。
例えばどこの会社のプリペイドカード、電子マネーを使うのか?またプリペイドカードや電子マネーを使えるお店はどこにするのか?が非常に問題になります。
こちらも行政ならではになりますが、税金を使っているので、公平公正でなくてはなりません。
特定の会社のプリペイドカードや電子マネーを利用することになりますし、加盟店以外のお店では使えないため、それでまた市民や各種団体からクレームの嵐が吹き荒れます。
また、住宅扶助については、代理納付をすることができるので、特に問題はありませんが、光熱費は、現状の制度では代理納付をすることができません。
水道代については、自治体によって無料になったり減免になったりしますが、電気・ガスについては無料や減免にはなりません。
そのため、光熱費等の支払いのために、どうしても現金の支給が必要になります。
これらの理由により、現状だとプリペイドカードや電子マネーを活用しても現物支給は難しいです。
今後電子マネーの活用できる範囲が広がり、パチンコ等のギャンブル以外のあらゆる支払いが可能となれば、ひょっとすると、現物支給になるかもしれません。
ケースワーカーは現物支給にしたい
生活保護費を支給する立場であるケースワーカーは現金支給と現物支給どちらにしたいのか?
答えは現物支給です。
確かに現金支給の方が業務的には、はるかに簡単ですし、行政=仕事をしないと言うイメージから現金支給を選ぶと思われがちですが、現場はどれだけ忙しくなっても良いので、圧倒的に現物支給を採用したいと切に願っています。
なぜなら、生活保護受給者の実態をよく見ているからです。
小田原市が「生活保護なめんな」と書いたジャンパーを着ていたように、不正受給をする受給者や生活改善をする気が全くない人が非常に多いです。
また、現金を渡してしまうことで、闇金や貧困ビジネスにお金をむしり取られたり、パチンコ等のギャンブルでスってしまい、最低生活以下の生活を送っている人も多数います。
誰の何のための生活保護か?最後のセーフティネットとは何か?を考えると、現金支給よりも現物支給の方が、本当に困っている人たちのためになるため、現場のケースワーカーは忙しくなるとしても生活保護費を現物支給にしたいと考える人が多いです。
まとめ
生活保護の現物支給について、ご説明させていただきました。
上記をまとめると
- 現状では特別な理由がない限り法律上現金支給をせざるを得ない
- アメリカはフードスタンプ、大阪府はプリペイドカードを使って現物支給していた
- 現物支給にすることでギャンブルや貧困ビジネスに税金が使われなくなる
- 現物支給にすることで生活保護受給者が自立に向けた取り組みをするようになる
- 現物支給をするのには制度設計が難しく手間暇が掛かる
- ケースワーカーは生活保護受給者のためにも現物支給に切り替えたい
となります。
その他、生活保護の申請・手続き方法については、下記にまとめてありますので、ぜひ参考にしていただけたらと思います。
https://seikathuhogomanabou.com/category/tetuduki/
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