生活保護は皆さんが払っている税金を原資としています。
そのため、生活保護の不正受給は悪いことだ!生活保護費を不正受給するなんて許せない!と言う声を市民の方から、よく頂きますが、そもそも不正受給とは何なのか?詳しくご存知でしょうか?
実は一般的に皆さんがイメージしている不正受給と、生活保護法上の不正受給とでは、だいぶ認識に差があります。
つまり、一般的に生活保護の不正受給と思われている事の大半は実は不正受給ではなかったりします。
また、こちらもあまり知られていませんが、生活保護の不正受給を防ぐための対策はしているようで、実際は全く対策として機能していません。
同様に生活保護の不正受給が発覚した場合の罰則規定は実はあってないようなものだったりします。
そこで、このページでは、生活保護の不正受給の件数は年間何件発生しているのか?そもそも不正受給とは何なのか?不正受給の対策や不正受給が発覚した場合の対応はどうなっているのか?等について、わかりやすくご説明します。
生活保護の不正受給の件数
生活保護の不正受給の件数は厚生労働省のホームページで掲載されています。
下表は厚生労働省が発表している「生活保護の現状について」内の不正受給の部分だけ切り抜いたものです。
一時期は不正受給の件数が年間4万件を超え、不正受給の金額も190億円を超えている時期もありましたが、平成29年以降は件数も金額も年々減少傾向にあります。
不正受給の割合でみると、件数ベースで言うと生活保護を受給している世帯に対して、不正受給をしている世帯は2%程度、金額ベースで言うと、生活保護費総額に対して不正受給された金額は0.4%程度しかありません。
だから不正受給は少ないから、そんなに問題ではないとよく言われますが、本当にそうでしょうか?
年々減少しているとは言え、今も年間3万件以上、金額で100億円以上もの税金が不正受給されているため、決して不正受給が少ないとは言えない状況のため、更に不正受給を減らす対策は必要です。
生活保護の不正受給とは
生活保護の不正受給とは、簡単に言うと資産や収入があること等を隠して生活保護を受給することです。
先程の表をもう一度見てみましょう。
右側に「(2)不正受給の内容」とあるように、給料や各種年金、保険金、交通事故に掛かる収入もしくは預貯金等の資産が本来あるのにも関わらず、ケースワーカーに申請していなかった場合に生活保護の不正受給となります。
ここまで読んできた方は1つ疑問が湧くのではないでしょうか?
生活保護費を本来の趣旨である自立のために使わずにギャンブル等の娯楽に使った場合や本当は働けるのに働けない人が受給した場合も不正受給ではないのか?と。
世間一般の方の感覚では、パチンコ等のギャンブルに使ったり、働く努力をしていない人が生活保護を受給することも不正受給と考えている方が多いようですが、実は、どちらも不正受給には該当しません。
生活保護費をパチンコ等のギャンブルに使うことは不正受給ではない
勘違いをされている方が多いですが、実は生活保護受給者が生活保護費をパチンコ等のギャンブルに使っても、不正受給にはなりません。
日本国憲法第25条1項で「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」
と定められています。
そして、生活保護法は、この憲法第25条に基づいて作られており、毎月支給される生活保護費(最低生活費)の中には娯楽や贅沢をするお金も含まれています。
そのため映画や漫画、ゲーム等はもちろんパチンコ等のギャンブルに生活保護費をつぎ込んでも特に問題はありません。
その他にも生活保護費でお酒を飲んだり、タバコを吸ったり、旅行に行くことだってできます。
市民感情としては「私達が払った税金せ生活をしているのに、そのお金でパチンコ等に使うなんて許せない!!」と思いますが生活保護費をパチンコ等に使ってはいけないなんて決まりはありません。
もちろん、生活保護を受給する以上、してはいけないことも多少はありますが、その中にギャンブル等の娯楽は含まれていないので、生活保護費等をパチンコ等に使うことは不正受給ではありません。
働けるのに働かないは不正受給ではない
実は生活保護は、若くて健康な人でも受給することができますし、働けるのにわざと働かなくても不正受給にはなりません。
一昔前までは、働ける健康状態であれば、生活保護を受給することができませんでした。
しかし、バブル崩壊後、不景気となり、働けないのは個人の責任ではなく、社会にも責任があると言う考えから、病気等がなく、いたって健康であっても世帯の収入が最低生活費以下であれば、生活保護を受給できるようになりました。
そのため、世間でよく言われるいわゆる「本当に困っている人」「本当に病気やケガで働きたくても働けない人」だけが受給しているわけではなく、楽をするために生活保護を受給しているのも事実です。
しかし、現状としては、職業選択の自由が認められていますし、生活保護の条件に「病気やケガ等が原因で働けないこと」が含まれていないため、健康で働けるのに、わざと働かないことは生活保護の不正受給ではありません。
生活保護の不正受給を防ぐための対策
世間一般の人がイメージしている不正受給は、上記のとおり生活保護制度上の不正受給ではないため、残念ながら防ぐことはできません。
しかし、資産や収入があること等を隠して生活保護を受給することに関しては福祉事務所も対策を講じています。
具体的には
- 課税調査
- 銀行口座調査
- 訪問調査
等の各種調査によって、不正受給を防いでいます。
それでは、それぞれの調査について、詳しくご説明します。
年に1回の課税調査
福祉事務所では、年に1回、全生活保護受給者を対象に課税調査を実施します。
課税調査では、前年の収入について調査をするため、給料収入や年金収入等の何かしらの収入があった場合は必ず税務担当課に所得情報が挙がってきます。
そして、この所得情報と、前年に生活保護受給者が提出した収入申告書を全てチェックし、実際の所得と申告内容に違いがないかを1件、1件確認をします。
そのため、収入があるのにないと嘘をついた場合だけでなく、過少に申告していた場合の不正受給もすぐに発覚します。
ちなみに、よく課税調査で発覚する不正受給の例としては高校生のパート・アルバイトによる収入やボーナスの申告漏れが多いです。
なお、課税調査は課税情報が全て揃う6月頃から調査を開始し、9月頃には全ての調査を終えます。
預金口座の調査
福祉事務所では、生活保護の申請時の他、必要があれば、その都度銀行口座の調査を行います。
預金調査では、現在の預貯金の残高だけでなく、入出金情報も調査します。
そのため、生活保護費以外に例えば仕送りや保険金等の振込があれば、すぐに発覚します。
なお、生活保護受給者は生活保護費を貯金をすることは許可されています。
なぜなら、毎月支給される生活保護費の中に生活扶助と言うものがあるんですが、その中には家具・家電が壊れた時のための購入費も含まれているからです。
貯金=不正受給と勘違いされている生活保護受給者が多いですが、貯金することは不正受給ではないため、毎月の生活保護費は少しずつ貯金をしておきましょう。
生活保護受給者宅への訪問調査
福祉事務所では、訪問格付けに応じて数ヶ月に1度、実際に生活保護受給者宅を訪れる訪問調査を行います。
訪問調査では、生活保護受給者の居住実態があるのか?生活保護受給者の世帯状況に変化がないのか?等を調査します。
もしも訪問時に不在が続くような場合は、居住実態がないため、不正受給となります。
また、生活保護受給者が結婚や離婚等をして世帯員に変化があった場合も生活保護費の支給金額に変化が生じるため、担当ケースワーカーに報告していないければ不正受給となります。
その他、訪問調査では、訪問時に高級ブランド品やダイヤモンド等の装飾品等の売ればお金になるようなものがあれば、売却するように指導します。
ただし、ゲーム機やパソコン等も売却すればお金になりますが、所有が認められているものについては、売却指導の対象にはなりません。
なぜなら、売ればお金になるもの全てが売却対象となるのであれば、家具・家電全てが売却対象となってしまうため、あくまで所有が認められないものや余程高価な物でなければ売却指導の対象にはなりません。
生活保護の不正受給は防ぐことができない
不正受給への対策は上記のとおり行っていますが、残念ながら全ての不正受給を防ぐことはできません。
なぜなら、それぞれの調査には弱点があるからです。
始めに課税調査についてですが、夜のお仕事や日雇い労働の場合は、所得情報が挙がってこないため、不正受給をしていたとしても見つけることができません。
次に預金口座の調査も全国全ての銀行口座を調査しているわけではないため、調査対象に漏れがあります。
それに、そもそも銀行口座に預けておらず、タンス預金をしているような場合も不正受給を見つけることができません。
最後に訪問調査についてですが、訪問調査の権限として、タンス預金等を探す権限も付与されてはいますが、あくまで生活保護受給者の同意がある時だけです。
マルサのような捜査権限は持っていないため、生活保護受給者の許可なく勝手にタンス等を開けることは疎か、家の中に入ることもできません。
また、調査できる時間帯も市役所の開庁時間と決められており、最も重要な夜間の訪問調査をすることができません。
このように、ケースワーカーに与えられた権限では、生活保護の不正受給を防ぐことは残念ながらできません。
不正受給が発覚した場合は生活保護費を返還させる
不正受給が発覚した場合の罰則についてですが、不正受給した分の生活保護費全額が徴収金として返還させられます。
不正受給をした場合の返還方法は、原則一括返還です。
しかし、既にお金を使い込んでしまい、お金が手元に残っていない場合は、例外として分割返還となります。
なお、分割返還は例外ですが、ほとんどの場合、お金を使い込んでしまっているため、分割返還になることの方が多いです。
ちなみに、もう使い切ったから返還できないよ?と言う言い訳は通用しません。
生活保護受給中の場合は、毎月支給している生活保護費から差し引かれるようになります。
それから、生活保護の不正受給が発覚した場合の返還金の対象となるのは、実際に得た収入分ではなく、生活保護費として支給した分であることに注意が必要です。
例えば生活保護受給中に100万円の収入があった場合、生活保護費として60万円の支給を受けていれば、60万円が不正受給として徴収される金額となり、残りの40万円は手元に残る計算になります。
ただし、不正受給した生活保護費の中には医療扶助も含まれるため、病院に通っていた回数が多い方は全額徴収金となる可能性が極めて高いです。
不正受給が発覚しても生活保護の廃止にならない
生活保護の不正受給が発覚したからと言って、生活保護が廃止になるわけではありません。
不正受給した分を徴収金として、返還することになるため、月々の生活保護費の支給金額は多少減額されてしまいますが、不正受給をしたことを理由に生活保護が廃止になることはありません。
そのため、生活保護を不正受給しても生活保護を受け続けることができます。
ただし、不正受給した生活保護費を返還した後も、生活保護の条件を満たさない程、預貯金がある場合は生活保護は廃止となります。
例えば生活保護受給中に200万円の収入があった場合、生活保護費として100万円の支給を受けていれば、100万円が不正受給として徴収されますが、100万円手元に残ります。
100万円手元にあれば、しばらく生活保護を受給しなくても生活をすることができるため、生活保護は廃止となります。
この場合も、預貯金等がなくなり、世帯収入が最低生活費以下の場合は生活保護の条件を満たすため、再度生活保護の申請をすることで、生活保護の受給を再開することが可能です。
まとめ
生活保護の不正受給とは?不正受給の対策や対応はどうしてる?について、ご説明させていただきました。
上記をまとめると
- 不正受給は年間3万件以上、金額にして120億円以上発生している
- 不正受給は平成29年以降、年々減少傾向にある
- 生活保護費でパチンコ等のギャンブルをしても不正受給にはならない
- 若くて健康な人がわざと働かなくても生活保護の不正受給にはならない
- 不正受給を防ぐ取り組みとして、課税調査、預金口座の調査、訪問調査を実施している
- 各種調査には、それぞれ弱点があるため、全ての不正受給を防ぐことはできない
- 不正受給が発覚した場合は徴収金として生活保護費を返還させられる
- 不正受給しても生活保護を続けることができる
- 過去に不正受給をした経歴があっても生活保護の条件を満たせば何度でも受給することができる
となります。
その他、生活保護の不正受給に関する様々な疑問については、下記にまとめてありますので、ぜひ参考にしていただけたらと思います。
https://seikathuhogomanabou.com/category/fuseijukyu/
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