生活保護法における「扶助」とは、困窮する国民の最低限度の生活を保障するための具体的な支援内容を指します。
本記事では、生活保護法第11条に定められた8種類の扶助について、法的根拠、支給内容、具体例まで、初心者の方にもわかりやすく解説します。
生活保護法における扶助とは

扶助の法的根拠
生活保護法第11条では、保護の種類として8つの扶助が規定されています。
これらは、生活に困窮する国民に対して、その困窮の程度に応じた必要な保護を行うための具体的な支援項目です。
生活保護法第11条(保護の種類)
- 生活扶助
- 教育扶助
- 住宅扶助
- 医療扶助
- 介護扶助
- 出産扶助
- 生業扶助
- 葬祭扶助
これらの扶助は、要保護者の必要に応じて単給(1種類のみ)または併給(複数の組み合わせ)として行われます。
扶助の基本原則
生活保護法には、扶助を実施する際の重要な原則があります。
必要即応の原則(第9条) 要保護者の年齢、性別、健康状態など個人や世帯の実際の必要の違いを考慮して、有効かつ適切に行われます。
世帯単位の原則(第10条) 保護は世帯を単位として要否及び程度が決定されますが、これによりがたいときは個人を単位として定めることができます。
8種類の扶助を詳しく解説

1. 生活扶助【最も基本的な扶助】
法的根拠と内容
生活保護法第12条により、生活扶助は困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なもの、および移送費の範囲内で行われます。

具体的な支給内容
生活扶助は、食べるもの、着るもの、光熱水費など、日常の暮らしに必要な費用を支給します。
生活扶助に含まれるもの
- 食費(飲食物費)
- 衣服費
- 光熱水費(電気、ガス、水道)
- 日用品費
- 交通費
- 通信費(電話代など)
- 家具什器費
- 入浴料
計算方法
生活扶助の金額は、第1類費(個人的費用)と第2類費(世帯共通費用)で構成されます。
計算式 生活扶助 = (第1類費 × 世帯人数 × 逓減率) + 第2類費 + 各種加算
東京都新宿区など1級地-1の地域では、18歳、41歳、60歳の3人世帯の場合、これらを合算して算出されます。

各種加算制度
生活扶助には、特定の状況に応じた加算があります。
- 母子加算:ひとり親世帯に月額約18,800円
- 障害者加算:障害のある方がいる世帯に支給
- 介護施設入所者加算:介護施設入所者に支給
- 在宅患者加算:在宅で療養している場合
- 妊産婦加算:妊娠中または出産後の女性
- 児童養育加算:子ども1人につき月額10,190円
- 冬季加算:11月から3月に暖房費として支給
一時扶助
生活扶助には、特定の状況でのみ支給される一時扶助もあります。
新たに生活保護を受給した人がホームレスの方だった場合など、衣服や生活に必要な家電等を購入する費用が支給されます。

一時扶助の例
- 被服費(季節に応じた衣類購入費)
- 家具什器費(布団、テーブル、冷蔵庫などの購入費)
- 移送費(転居費用など)
2. 教育扶助【子どもの学ぶ権利を保障】
法的根拠と内容
生活保護法第13条により、教育扶助は困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、義務教育に伴って必要な教科書その他の学用品の範囲内で行われます。

具体的な支給内容
義務教育を受ける上で必要となる費用として、学級費、生徒会費、PTA会費、教材費、給食費などが支給されます。
教育扶助に含まれるもの
- 教科書代
- 学用品費(ノート、鉛筆、絵の具など)
- 通学用品費(ランドセル、通学かばんなど)
- 学校給食費
- 学級費・生徒会費・PTA会費
- 教材費
- クラブ活動費
- 通学交通費(必要な場合)
高等学校等就学費
生業扶助として、義務教育ではない高等学校等の就学費用も含まれます。

以前は大学進学自体が認められていませんでしたが、現在は一定の条件のもとで大学進学も可能になっています。

ただし、進学する学生は保護対象の世帯員から外れることになるため、奨学金の活用や生活費のためのアルバイトなど資金繰りを十分検討する必要があります。

3. 住宅扶助【住まいの確保を支援】
法的根拠と内容
生活保護法第14条により、住宅扶助は家賃、間代、地代などの居住に必要な費用の範囲内で行われます。

具体的な支給内容
家賃、間代、地代など、住むために必要な費用が支給されます。ただし、共益費などは生活扶助に含まれます。
住宅扶助の基準額
- 地域と世帯人数によって上限額が設定されている
- 東京23区の場合:1人53,700円、2人64,000円、3〜5人69,800円
- 福岡市の場合:1人36,000円、2人43,000円、3〜5人47,000円
注意点
- 共益費・管理費は対象外(生活扶助で対応)
- 駐車場代は対象外
- 基準額を超える家賃の場合、転居を求められることがある
住宅扶助の一時扶助
住居の取り壊し等により転居しなければならない場合、転居費用が住宅扶助の一時金として支給されます。
一時金の内容
- 敷金・礼金などの契約初期費用
- 引越し業者の運搬費用
- 火災保険料(必要な場合)
- 不動産仲介手数料
ただし、現住居の退去費用は原則支給されません。

4. 医療扶助【医療費の心配をなくす】
法的根拠と内容
生活保護法第15条により、医療扶助は診察、薬剤、治療材料などの医療に必要な費用の範囲内で行われます。

具体的な支給内容
病気やケガの治療や療養のために医療機関に支払う費用などが、治療として真に必要とする治療材料を含めて支給されます。
医療扶助に含まれるもの
- 診察・検査費用
- 薬剤費
- 治療材料費
- 入院費用(食事療養費を含む)
- 訪問看護
- リハビリテーション
- 歯科診療
- 眼鏡・補聴器などの治療材料
- 医療機関への通院交通費
医療扶助の特徴
生活保護受給者は国民健康保険の資格を失うため保険証を持つことができません。その代わり、医療扶助によって生活保護受給者の医療費負担がなくなります。

医療券の仕組み
生活保護受給者が医療機関に行きたいときは、事前に担当のケースワーカーに報告し「医療券」を発行してもらう必要があります。
ただし、夜間等に緊急で医療機関に搬送された場合は、医師に生活保護受給者であることを伝え、後日担当のケースワーカーより医療券を発行してもらうことも可能です。

現物給付の原則
医療扶助は保護を受ける人に金銭を給付しない、いわゆる現物給付の形式となります。
医療扶助の支給事務は、ケースワーカーと医療機関との間で行われます。

5. 介護扶助【高齢者の介護を支援】
法的根拠と内容
生活保護法第15条の2により、介護扶助は介護保険法に規定する居宅介護、施設介護などの範囲内で行われます。

具体的な支給内容
介護保険サービス利用で必要となる費用として、介護サービス利用者負担額や施設の食事負担額などが支給されます。
介護扶助に含まれるもの
- 訪問介護(ホームヘルプサービス)
- 訪問入浴介護
- 訪問看護
- 通所介護(デイサービス)
- 通所リハビリテーション
- 短期入所生活介護(ショートステイ)
- 福祉用具貸与
- 住宅改修費
- 施設介護サービス
- 地域密着型サービス
介護扶助の特徴
介護扶助も医療扶助と同様に現物給付の形式で行われ、利用者負担はありません。
介護保険料相当額については、介護保険料加算として生活扶助に加算されます。
6. 出産扶助【安心して出産できるように】
法的根拠と内容
生活保護法第16条により、出産扶助は分娩の介助、脱脂綿、ガーゼなどの衛生材料などの範囲内で行われます。

具体的な支給内容
出産扶助は、分べん等に要する費用が支給されます。
出産扶助に含まれるもの
出産扶助は、受給者が出産する際に受けられる扶助で、分娩介助費、衛生材料費、入院助産費用などが支給されます。出産を控えて新生児の産着等を用意する必要がある場合、新生児の被服費も支給されます。
支給額の目安
- 施設分娩の場合:実費(上限あり)
- 居宅分娩の場合:助産師への報酬など
- 新生児被服費:約50,000円程度
出産扶助は、出産前から申請が可能で、医療扶助とは別に支給されます。
7. 生業扶助【自立に向けた支援】
法的根拠と内容
生活保護法第17条により、生業扶助は生計の維持に必要な生業費、技能習得費、就職支度費などの範囲内で行われます。

具体的な支給内容
生業扶助は、生計を維持するための小規模な事業に必要となる費用や技能を修得するための費用として支給され、義務教育ではない高等学校等の就学費用も含まれます。
生業扶助の3つの柱
- 生業費 小規模な事業(屋台、クリーニング取次店など)を営むための経費
- 技能習得費 就労に必要な技能や資格を取得するための費用
- 職業訓練校の授業料
- 資格取得のための受験料
- 通学交通費
- 教材費
- 就職支度費 就職が決まった際に必要な費用
- スーツなどの被服費
- カバンや靴などの購入費
- 上限は原則32,000円程度
高等学校等就学費
高校生の就学に必要な費用も生業扶助として支給されます。
支給内容
- 授業料(公立高校は実質無償化により不要)
- 入学料
- 教科書代・学用品費
- 通学交通費
- 学習支援費
- 部活動費
- 修学旅行費
8. 葬祭扶助【最期の尊厳を守る】
法的根拠と内容
生活保護法第18条により、葬祭扶助は検案、死体の運搬、火葬または埋葬、納骨その他葬祭のために必要なものの範囲内で行われます。

具体的な支給内容
葬祭扶助は、被保護者が死亡した場合に、その葬祭を行う者に対して支給されます。
葬祭扶助に含まれるもの
- 死亡診断書の発行費用
- 遺体の搬送費
- 火葬料
- 骨壺・骨箱代
- 納骨費用
- 霊柩車使用料
- 簡素な祭壇費用
支給額の目安
- 大人:206,000円程度(地域によって異なる)
- 子ども:164,800円程度
葬祭扶助は、最低限の葬儀費用を保障するものであり、豪華な葬儀は対象外です。身寄りのない方が亡くなった場合は、福祉事務所が直接葬祭業者に依頼することもあります。

扶助の支給方法と留意点

金銭給付と現物給付
生活保護の扶助は、原則として金銭給付で行われますが、一部は現物給付となります。
金銭給付
- 生活扶助
- 教育扶助
- 住宅扶助
- 出産扶助(一部)
- 生業扶助
- 葬祭扶助
現物給付
- 医療扶助
- 介護扶助
保護費は原則として金銭で支給されますが、これによることができないとき、これによることが適当でないとき、その他保護の目的を達するために必要があるときは、現物給付によって行うことができます。
単給と併給
各扶助は、要保護者の必要に応じて単給または併給として行われます。
単給の例
- 医療費のみが必要な場合:医療扶助のみ
- 家賃が払えない場合:住宅扶助のみ
併給の例
- 一般的なケース:生活扶助 + 住宅扶助 + 医療扶助
- 子どものいる世帯:生活扶助 + 住宅扶助 + 教育扶助 + 医療扶助
扶助の使途制限
扶助はそれぞれの目的のためだけに支給されるものであり、「余ったから生活費に回す」ということはできません。
ただし、生活扶助は日常生活全般に使えるため、支給された生活扶助の使い方は原則自由です。
扶助を受けるための要件

4つの補足性の要件
生活保護を受けるには、世帯員全員が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することが前提です。

1. 資産の活用 預貯金、生活に利用されていない土地・家屋等があれば売却等し生活費に充てる必要があります。
2. 能力の活用 働くことが可能な方は、その能力に応じて働くことが求められます。
3. 他の制度の活用 年金や手当など他の制度で給付を受けることができる場合は、まずそれらを活用する必要があります。
4. 扶養義務者の扶養 親族等から援助を受けることができる場合は、援助を受けることが優先されます。
ただし、扶養義務者による扶養は生活保護に優先されますが、扶養義務者による扶養の可否等が保護の要否の判定に影響を及ぼすものではありません。

最低生活費との比較
厚生労働大臣が定める基準で計算される最低生活費と収入を比較して、収入が最低生活費に満たない場合に、最低生活費から収入を差し引いた差額が保護費として支給されます。
計算式 保護費 = 最低生活費 – 収入認定額
最低生活費は、必要な扶助の合計額で算出されます。

扶助に関するよくある質問

Q1: すべての扶助を同時に受けられますか?
A: はい、必要に応じてすべての扶助を同時に受けることができます。例えば、高齢で介護が必要な方が病気になった場合、生活扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助を同時に受給できます。
Q2: 働いている場合でも扶助は受けられますか?
A: はい、収入が最低生活費に満たない場合は受給できます。就労収入には一定の控除が適用され、全額が収入として計算されるわけではありません。これは就労意欲を促進するための制度です。



Q3: 扶助の金額は全国一律ですか?
A: いいえ、級地制度により地域によって異なります。生活扶助の基準は、級地毎に、年齢、世帯人員別に定められています。全国を1級地-1から3級地-2までの6段階に分けています。

Q4: 医療扶助で歯科治療や眼鏡も対象ですか?
A: はい、歯科診療や治療に必要な眼鏡の費用も医療扶助の対象です。ただし、事前にケースワーカーに相談し、医療券の発行を受ける必要があります。


Q5: 高校卒業後の大学進学は認められますか?
A: 一定の条件下で認められます。ただし、進学する学生は保護対象の世帯員から外れるため、奨学金やアルバイトなどで生活費を賄う必要があります。進学準備給付金の制度もあります。
申請方法と相談窓口

申請の流れ
- 福祉事務所で相談 生活保護制度の利用を希望される方は、お住まいの地域を所管する福祉事務所の生活保護担当までお越しください。
- 申請書の提出 氏名や住所、保護を受けようとする理由、資産及び収入の状況などを記載した申請書を提出します。
- 調査・審査 生活状況等を把握するための実地調査(家庭訪問等)が実施されます。
- 決定通知 原則14日以内(最長30日以内)に決定され、書面で通知されます。
- 保護費の支給 厚生労働大臣が定める基準に基づく最低生活費から収入を引いた額を保護費として毎月支給します。


必要な書類
申請時には資産・収入等の状況がわかる資料(通帳の写しや給与明細等)を提出していただくことがありますが、書類が揃っていなくても申請は可能です。
まとめ:生活保護法の扶助を正しく理解する

生活保護法に定められた8種類の扶助は、日本国憲法第25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を実現するための具体的な制度です。
8種類の扶助のポイント
- 生活扶助:日常生活費の基本となる扶助
- 教育扶助:子どもの教育を受ける権利を保障
- 住宅扶助:安定した住居の確保を支援
- 医療扶助:医療費の心配なく治療を受けられる
- 介護扶助:高齢者の介護サービスを保障
- 出産扶助:安心して出産できる環境を提供
- 生業扶助:自立に向けた支援を実施
- 葬祭扶助:最期の尊厳を守る
これらの扶助は、必要に応じて単給または併給として支給され、生活困窮者の多様なニーズに対応しています。
最後に
生活保護は国民の権利であり、生活に困窮した場合はためらわずに福祉事務所に相談することが大切です。
制度を正しく理解し、必要な支援を適切に受けることで、再び自立した生活を送ることができます。


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