役所のミスで生活保護費が多く支給される場合や逆に少なく支給される場合もあります。
では、生活保護費が多く支給された場合は過払い分を全額役所に返還しなければいけないのでしょうか?
また、逆に生活保護費が少なく支給された場合は少ない分を遡って支給してもらえるのでしょうか?
気になるところだと思います。
そこで、このページでは、役所のミスで生活保護費が多かったり、少なかったりした場合の取り扱いについて、わかりやすくご説明します。
役所のミスの場合は全額返還しなくていい
以前は役所のミスで過払いが発生した場合でも、生活保護受給者は全額返還させられていました。
役所のミスであっても、生活保護費の原資は税金であるため、返還が必要と言う考えから、生活保護受給者には一切の責任がないにも関わらず、毎月支給される生活保護費から2千円から3千円ほど返還させられていました。
しかし、平成27年の裁判で「役所のミスで発生した過誤払い分については返還しなくて良い」と言う判決が出たため、現在は役所のミスで多く支払われた生活保護費については、全額返還しなくても良いことになっています。
ただし、役所のミスであっても、生活保護費を返還しなければいけないケースもあります。
以下でどういう場合に返還しなくて良いのか?どういう場合に返還しなければいけないのか?について、わかりやすく説明します。
長期にわたり過払いされていた分は返還しなくていい
役所のミスで長期にわたり誤って本来支給するべき金額以上の金額が支給されていた場合については、返還しなくて良いと判例が出ています。
例えば生活保護受給者が働いて得た給料収入について、毎月きちんと収入申告をしていたにも関わらず、ケースワーカーが収入認定を怠り、生活保護費が多く支給されていたような場合です。
本来であれば、給料収入については、基礎控除を差し引いた金額を差し引いて生活保護費を支給しなければいけません。
しかし、役所のミスで収入認定を怠り長期にわたり過払いをした場合、生活保護受給者は、その支給額が正当のものと思い、月々の生活費に既に消費しているため、返済するだけの資力が既にありません。
それをわざわざ最低生活費である生活保護費を削らせてまで遡って返還させるのは、役所のミスの責任を生活保護受給者に全て押し付けることになり、あまりにも酷なため、資力がない場合は返還しなくて良いことになりました。
この「資力がない」と言うのがキーワードで、過払いが発生した時点で資力があるかどうかが非常に重要になります。
直近の生活保護費の過払い金は返還しなければいけない
役所のミスで多く支給された場合でも、直近の支給分については、全額返還しなければいけません。
なぜなら、銀行口座への振込手続きに時間を要するからです。
給料収入や年金収入が発生したことがわかった時点で既に翌月分の支給金額については、システム上変更できないケースは多々あります。
この場合、生活保護費が誤って多く支給されることに対して、確かに生活保護受給者には一切責任がありません。
しかし、役所のミスとも言えませんし、何より、直近の生活保護費の過払いが発生した時点では返還するだけの資力があります。
例えば4月の生活保護費の金額変更できる締切日が3月15日の場合、3月16日以降に収入が発生したことが判明しても、4月支給分の金額は変更できません。しかし、4月分を支給した直後に返還請求すれば、返還請求した時点では生活保護費が振り込まれたばかりのため、返還するだけの資力があることから返還しなければいけません。
このように返還するだけの資力がある場合は、生活保護条63条返還金として返還しなければいけないと生活保護法にも規定されていることから、役所のミスであっても直近の生活保護費については、返還しなければいけません。
資力がある場合は過払い金を返還しなければいけない
直近の生活保護費の過払いだけでなく、役所のミスで長期にわたる過払い金が発生した場合でも発覚した時点で生活保護受給者に資力がある場合は返還しなければいけません。
毎月支給されている生活保護費の内訳に生活扶助と言うものがあり、この生活扶助の中には家具・家電等が壊れた時のための費用も含まれています。
そのため、生活保護受給者は家具・家電の購入費用として、生活保護費を貯金することが認めらています。
また、家具・家電の購入費用だけでなく、自立に向けた貯金の所有も認められているんですが、この貯金が役所のミスで過払いされた支給分をもとに蓄えられたものの場合、返還する資力ありと認められるため、資力が残っている分については返還しなければいけません。
生活保護受給者に落ち度があれば全額返還しなければいけない
生活保護受給者に少しでも落ち度がある場合は全額返還しなければいけません。
例えば給料収入や年金収入、扶養義務者からの援助等があったにも関わらずケースワーカーに報告していなかった場合は、生活保護受給者に落ち度があるため、全額返還しなければいけません。
「ケースワーカーには銀行口座等を調査する権限があるのに、調査しなかったから役所の怠慢であり、役所のミスでは?」と言う意見も確かにあると思います。
しかし、生活保護法第61条に生活保護受給者は収入に関することや生活に関することについて変動があった場合には、速やかに報告しなければいけないと言う「届出の義務」があることから、申告をしなかった生活保護受給者に責任があります。
なお、収入や生活実態に変更があったにも関わらず申告しなかった場合は不正受給となり、過払い分については返還金ではなく、徴収金として取り扱われてしまうため、何かしら変更があった場合は必ずケースワーカーに報告しましょう。
支給金額が少なかった場合の追加支給は3ヶ月前まで
役所のミスで生活保護費の支給金額が少ない場合については、少なかった分について追加支給されます。
ただし、原則として遡及されるのは3ヶ月(発見月からその前々月分まで)までです。
例外として、受給者に一切の責任がなく、また、明らかに役所のミスにより長期にわたり生活保護費の支給金額が少なく支給された場合は発見月から5年間を限度として追加支給して差し支えないと生活保護手帳別冊問答集に記載はありますが、それでも遡及されるのは3ヶ月前までです。
なぜなら、少なく支給していた期間も無事に生活ができているからです。
生活保護は、年金や児童手当、児童扶養手当等と違い、支給開始時点から決まった金額の受給権が発生しているものではありません。
あくまで生活保護は、健康で文化的な最低限度の生活を送るために足りない生活費について支給するものです。
そのため、役所のミスで支給金額が少なかったとしても、無事に生活できた以上、生活費は足りていたことになるため、支給する必要はなかったと見なされます。
また、5年間も遡って月々の生活保護費の数倍にあたる数十万円もの大金を一度に支給することは、生活保護の趣旨にもそぐわないため、実務上は例え役所のミスでも3ヶ月分しか遡及できません。
まとめ
生活保護費は役所のミスでも返還しなければいけないのか?また、逆に支給金額が少ない場合に追加支給されるのか?について、ご説明させていただきました。
上記をまとめると
- 役所のミスにより発生した過払い金については基本的には返還しなくてい良い
- 直近の過払いや過払いが発覚した時点で資力がある場合は返還しなければいけない
- 申告漏れなど、生活保護受給者に責任がある場合は全額返還しなければいけない
- 役所のミスで支給金額少ない場合は3ヶ月分までしか追加支給してもらえない
となります。
その他、生活保護に関する様々な疑問については、下記にまとめてありますので、ぜひ参考にしていただけたらと思います。
https://seikathuhogomanabou.com/category/qa/
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