生活保護は最後のセーフティネットと呼ばれているように、様々な制度を活用したり、検討した結果、それでも生活が苦しい人を救うための制度のため、取りこぼしがないように、対象者を幅広く設定しています。
しかし、生活保護の対象者を幅広く設けた結果、救われる人も大勢いる一方、中には生活保護を悪用する人もいます。
そこで、このページでは、生活保護の悪用例には一体どんなものがあるのか?悪用した場合のペナルティはどうなるのか?等について、詳しくご説明します。
収入があるのに申告しない
生活保護の悪用例の1つ目は収入があるのに、福祉事務所に申告をしないことです。
生活保護の受給開始後、収入が発生した場合は、必ずケースワーカーに収入申告をしなければいけません。
これは、就労収入に限らず、年金収入や扶養義務者からの仕送り、生命保険・不動産等の資産売却益など、どんな種類のものであっても、何らかの収入が発生したら福祉事務所に届けなければいけません。
もしも、収入を申告しなかった場合は、不正受給となるため、ペナルティとして、不正受給した分を徴収金として、徴収されてしまいます。
この場合、悪意を持ってわざと収入申告をしなかったのか、それとも本当に知らなくて収入申告をしなかったどうかは、一切関係ありません。
善意にせよ、悪意にせよ、ペナルティは全く一緒です。
なお、収入未申告として、よくある例は、高校生のバイト代です。
高校生は未成年のため、収入申告をしなくて良いと勘違いしている受給者が多いですが、生活保護受給者であることに変わりはないため、高校生のバイト代であっても収入申告しなければいけません。
ただし、高校生の場合は基礎控除に加えて、未成年者控除も付くため、キチンと収入申告をすれば、生活保護から引かれる金額は、かなり少額に抑えることが可能です。
ちなみに、「バレなきゃ良いのでは?」と考える方もいらっしゃると思いますが、収入関係については、毎年税務調査等を行っていることから、まず100%バレるため、必ず申請するようにしましょう。
タンス預金や証券等の資産を隠し持っている
生活保護の悪用例の2つ目は資産があるのに、福祉事務所に申告をしないことです。
生活保護を受給する際には、現在持っている資産等をすべて活用しなければいけません。
これは義務のため、本来は自己申告によって、行われなければいけません。
しかし、中には資産があることを隠して生活保護を受給しようと企む方もいるため、生活保護の申請・受給を開始すると、銀行口座や証券口座、生命保険の加入状況等、様々な資産状況について調査が行われます。
そして、その調査の結果、預金があったり、貯蓄型の生命保険等に加入していることが判明すると、ケースワーカーから解約等をして、生活費に充てるように指導指示を受けることになります。
しかし、中には調査漏れが生じる場合があります。
その代表例がタンス預金です。
タンス預金は訪問調査によって調査するしか方法がないんですが、訪問調査においても、生活保護受給者の許可がなければ、タンス等を開けて調べることはできません。
そのため、調査権限の限界を悪用して、生活保護受給者の中にはタンス預金やカバンの中にお金を隠し持っている方がいます。
実際に私が見た悪用例では、カバンの中に100万円の束を隠し持っていたケースがありました。
なお、現金等の資産を隠し持っていたことが判明した場合は、不正受給となり、徴収金が発生します。
徴収金を引いた後も、3ヶ月以上の生活ができるだけの生活費が手元に残った場合は、生活保護が必要ないため、廃止となります。
世帯員数を誤魔化して申請している
生活保護の悪用例の3つ目は、福祉事務所に世帯数を誤魔化して申請することです。
生活保護の支給金額である最低生活費は世帯員の人数や年齢をもとに算出しています。
そのため、生活保護費の支給金額は世帯員が増えれば増えるほど、支給金額が増えることになります。
そう聞くと「なるほど、本当は、一緒に住んでいない人を一緒に住んでいることにして生活保護を申請している悪い人がいるんだな」と思う方が多いと思いますが、意外とそういう方は少なくて、実際の例としては、本当は一緒に住んでいるのに、一緒に住んでいないと申告するケースが多いです。
「あれ?実際に住んでいる人より少ない人数で申請すると、生活保護費が少なくなってしまい、生活保護受給者にとってはマイナスしかないから悪用例とは言えないのでは?」と思った方が多いのではないでしょうか。
確かに、申告する世帯員が減れば生活保護費の支給金額が減るため、生活保護受給者にとってマイナスでしかないように見えます。
しかし、その生活保護の申請から外れた方が働いている場合は、話が変わります。
例えば3人世帯の場合、月30万円の収入があれば、本来であれば生活保護費を受給する必要がありません。
しかし、その月30万円稼ぐ人を申請者から外せば、無収入の2人世帯となり、その2人は生活保護を受給することができます。
結果、その3人世帯は月30万円の収入に加えて、2人分の生活保護費を受給することができます。
もちろん、不正受給に該当するため、一緒に住んでいることが発覚すれば、ペナルティとして、今まで払ってきた生活保護費が徴収されることになります。
しかし、まず発覚することがありません。
なぜなら、一緒に住んでいるかどうかを証明することがケースワーカーにはできないからです。
ケースワーカーは訪問調査によって、生活実態を把握します。
しかし、訪問調査ができる時間には制限があり、午後5時以降は生活保護受給者の承諾なしには訪問調査をすることができません。
そのため、毎回訪問時に一緒にいたとしても、「たまたま来ているだけ」「夜は家に帰っている」等と言われると、ケースワーカーは何も言えませんし、どうすることもできません。
このように世帯員数を誤魔化すことは非常に悪質な悪用例ですが、まずバレないため、最も悪用例として多く、生活保護や児童扶養手当等を得るために、本当は一緒に住んでいるのに、わざわざ離婚届を出して、偽装離婚する方もいるくらいです。
これに関しては、法律を改正するか、厚生労働省の考え方を変えるかしかなく、現場のケースワーカーでは、どうすることもできません。
生活保護の悪用例は不正受給だけではない
上記で紹介した3つの悪用例は、収入や資産があるのに黙っていたことに該当するため、もしも発覚した場合は不正受給となり、今まで支払った生活保護費は徴収金として徴収されてしまいます。
しかし、生活保護の悪用例は不正受給に限りません。
つまり、一般的な感覚としては明らかに不正受給と思われるものであっても、生活保護制度上、全く問題はなく、何ら罰則もない悪用例があります。
下記では、生活保護制度上では不正受給に該当しない生活保護の悪用例について、ご紹介します。
健康で働けるのに、わざと働かない
不正受給とならない生活保護の悪用例の1つ目は健康で働けるのに、わざと働かずに生活保護を受給することです。
一昔前は、健康で働ける人は生活保護を受給することができませんでした。
しかし、現在は、働けないのは、本人の責任だけでなく、不景気と言う社会的な責任もあることから、生活保護の条件が緩和され、世帯の収入があるかないかだけで判断されるようになりました。
そのため、本当は働くことができるのに、わざと働かずに生活保護を受給する人が最近は増えています。
もちろん、ケースワーカーは生活保護受給者に対して就労指導を行いますが、職業選択の自由で守られているため、本人が嫌がる仕事を強制することができません。
確かに、強制労働させることは問題があると思いますが、生活保護受給者は職業選択の自由を盾に「そもそも働きたくない」とあらゆる仕事を拒否することが出来てしまいます。
そして、現在、若者で生活保護を受給している方の多くが、この職業選択の自由を悪用して、働けるのに働かずに生活保護を受給し続けているのが現状です。
特に田舎の地域は、就職先がなく、あっても工場勤務やスーパー等の接客業等、敬遠されがちな仕事しかないことから、生活保護を悪用する方が増えつつあります。
自動車やバイクを他人名義にして利用する
不正受給とならない生活保護の悪用例の2つ目は自動車やバイクが禁止されているのに、他人名義にして利用することです。
生活保護を受給すると、多少の制限が掛かります。
その制限の中には自動車やバイクの所有・利用の禁止が含まれています。
自動車やバイクの所有・利用が禁止されている理由は、駐車場代やガソリン代、保険代などの各種維持費が掛かるからです。
その中で特に問題なのは、保険代で、大抵の生活保護受給者は、この保険代を節約します。
つまり、自賠責保険にしか加入せず、任意保険には入りません。
すると、どうなるかと言うと、生活保護受給者が人身事故を起こしたとしても、自賠責保険分しか相手方には支払われず、しかも、仮に数億円の賠償を請求されたとしても、生活保護受給者には支払い能力がないことから、事故を起こされた方は泣き寝入りするしかありません。
これらの理由により、生活保護受給者は自動車・バイクの理由を禁止されているため、本人名義で所有・利用していた場合は、ケースワーカーが処分するように指導指示を行います。
しかし、中には「自動車やバイクがないと生活保護受給者が可愛そうだ」と名義を貸す方がいます。
名義が違えば、生活保護受給者の所有物ではないため、ケースワーカーは指導指示をすることはできません。
このように生活保護受給者自身にしか指導指示ができないことを悪用して、生活保護を受給しながら不正に自動車やバイクを乗り回す生活保護受給者が中にはいます。
生活保護の悪用例を通報した場合の取り扱い
一般の方が生活保護の悪用例を見つけて福祉事務所に通報しても、基本的には素っ気ない対応を受けると思います。
なぜなら、生活保護を受給しているかどうかは個人情報のため、福祉事務所は何も伝えることができないからです。
同じ理由で、もしもその通報内容が事実で対応する場合でも、その経過や結果どうなったかについて、通報者に対して一切の情報を提供することはできません。
しかし、通報があり、その情報が事実であり、不正受給等、然るべき対応が必要な場合は、必ず福祉事務所は対応するため、生活保護の悪用例を見つけた場合は「以前電話したときも素っ気なかった。」と腐らずに連絡をしていただけたらと思います。
ただし、上記でも紹介したように、不正受給には該当しない、生活保護法上問題のない悪用例も多々存在します。
それらの悪用例については、残念ながら通報されても福祉事務所の権限では、どうすることもできません。
まとめ
生活保護の悪用例には一体どんなものがあるのか?悪用した場合のペナルティはどうなるのか?等について、ご説明させていただきました。
上記をまとめると
- 収入があるのに申告しない場合は不正受給となり、発覚した場合はペナルティとして過去に支給した生活保護費を徴収される
- タンス預金や証券等のすぐに現金化できるものを隠し持っている場合も発覚した場合は不正受給となり、ペナルティとして過去に支給した生活保護費を徴収される
- 世帯員数を誤魔化していた場合も発覚すれば不正受給となるため、生活保護費を徴収されるが、現在の福祉事務所の権限では世帯員数を誤魔化されたどうかを調査することはできない
- 働けるのに、わざと働かないことは生活保護の悪用例ではあるが、不正受給ではなく、現状の生活保護上、問題はない
- 生活保護を受給すると自動車やバイクを所有・利用することができないが、他人名義であれば所有・利用することができ、ケースワーカーもどうすることもできない
- 生活保護の悪用例を通報しても素っ気ない態度を取られ、経過や結果報告を受けることもできないが、不正受給に関する情報であればキチンと指導等をしてくれる
となります。
その他、生活保護の不正受給に関する様々な疑問については、下記にまとめてありますので、ぜひ参考にしていただけたらと思います。
https://seikathuhogomanabou.com/category/fuseijukyu/
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