生活保護を受給している中で、突然「支給額が減額されます」という通知を受け取り、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
生活保護の減額にはさまざまな理由があり、中には正当な理由もあれば、誤解や手続き上の問題による場合もあります。
本記事では、生活保護が減額される具体的な理由、減額通知を受けた際の対処法、不当な減額への異議申し立て方法まで、実践的な情報を分かりやすく解説します。
生活保護が減額される主な理由

生活保護の支給額が減る原因は多岐にわたります。まずは、どのような場合に減額が発生するのかを理解しましょう。
収入が増加した場合
生活保護は「最低生活費」と「収入」の差額を支給する制度です。したがって、何らかの収入が発生すると、その分だけ保護費が減額されます。

就労収入が発生した場合
パートやアルバイトを始めて収入を得た場合、その収入額に応じて生活保護費が減額されます。ただし、働いた収入の全額が差し引かれるわけではなく、「勤労控除」という仕組みがあります。

勤労控除の計算例(月収5万円の場合)
- 基礎控除:15,000円
- その他の控除を適用
- 実際に収入認定される額:約35,000円
- 結果として、働いた分の一部は手元に残る

年金や手当の受給開始
老齢年金、障害年金、遺族年金、児童扶養手当などの受給が始まった場合、その金額が収入として認定され、生活保護費が減額されます。
例えば、障害基礎年金2級(月額約65,000円)の受給が決定した場合、この金額がそのまま収入として差し引かれ、生活保護費が月額約65,000円減少します。

臨時収入があった場合
親族からの仕送り、保険金の受け取り、税金の還付金、競馬やパチンコでの収入なども、収入として申告が必要です。申告しないと、後から発覚した際に不正受給として扱われる可能性があります。

世帯構成の変更による減額
生活保護は世帯単位で計算されるため、世帯の人数が変わると支給額も変動します。

世帯員の減少
- 子どもが就職して独立した
- 同居していた家族が転出した
- 配偶者と離婚した
これらの場合、世帯人数が減ることで最低生活費の基準額が下がり、結果として保護費が減額されます。
具体例:3人世帯から2人世帯への変化(東京都の場合)
- 3人世帯の生活扶助基準額:約17万円
- 2人世帯の生活扶助基準額:約13万円
- 減額幅:約4万円
世帯分離による影響 高齢者や障害者が施設に入所すると、世帯が分離されます。これにより、残された世帯の保護費が変更されることがあります。

生活保護基準の改定
厚生労働省は数年ごとに生活保護基準を見直します。この改定により、全国的に支給額が増減することがあります。
近年の改定例
- 2013年~2015年:生活扶助基準が平均6.5%引き下げ
- 2018年~2020年:生活扶助基準が最大5%の引き下げ(一部世帯は増額)
- 2023年以降:物価上昇を反映した改定が実施
これらの改定は個人の事情とは関係なく、全受給者に影響を与えます。改定による減額については、福祉事務所からの通知で確認できます。

転居や住居状況の変化
住宅扶助は実際の家賃に基づいて支給されるため、住居の変更で金額が変わります。

家賃が下がった場合
より安い物件に転居した場合、その分住宅扶助が減額されます。これは正当な理由による減額です。
家賃の上限を超えた場合
地域ごとに定められた住宅扶助の上限額を超える物件に住んでいる場合、転居指導を受けることがあります。転居後は上限額までしか支給されなくなります。


持ち家の場合
持ち家があっても生活保護を受給できる場合がありますが、住宅ローンの支払いは保護費から認められません。ローン完済後は住宅扶助が支給されなくなるため、全体の保護費が減額されます。


医療費や介護費用の変化
医療扶助の減少
定期的な通院が不要になった場合や、入院から退院した場合など、医療費が減少すると医療扶助の支給額も減ります。ただし、生活扶助には影響しないため、日常生活費は変わりません。

介護扶助の変化
要介護度が下がった場合や、介護サービスの利用を減らした場合、介護扶助が減額されます。

一時扶助の終了
引越し費用、家具什器費、出産扶助など、一時的に支給される扶助が終了すると、その分が減額されます。これは期間限定の支給なので、減額というより「通常の支給額に戻る」と表現した方が正確です。

減額通知を受け取った時の確認ポイント

生活保護費の減額通知を受け取ったら、慌てずに以下の点を確認しましょう。
減額理由の確認
福祉事務所からの通知書には、減額の理由が記載されています。通知書を注意深く読み、以下の点を確認してください。
確認すべき項目
- 減額される扶助の種類(生活扶助、住宅扶助、医療扶助など)
- 減額の具体的な理由
- 減額される金額
- 減額が適用される時期
- 担当ケースワーカーの連絡先
通知書の内容が理解できない場合や、記載されている理由に心当たりがない場合は、すぐにケースワーカーに連絡して説明を求めましょう。

収入申告の確認
減額の理由が「収入の発生」である場合、以下を確認します。
自分が申告した収入か
アルバイトや年金など、自分で申告した収入であれば、それに基づいた正当な減額です。

申告漏れがあったか
申告を忘れていた収入がある場合、福祉事務所の調査で発覚した可能性があります。悪意がなくても、申告漏れは問題となります。
収入認定の計算が正しいか
勤労控除などの計算が正しく適用されているか確認しましょう。計算ミスがある場合もあります。

世帯構成の変更確認
世帯員の増減について、届出を行っていたかを確認します。
届出済みの変更か
子どもの独立や家族の転出など、既に届け出ていた変更であれば、それに基づく正当な減額です。
把握していない変更がないか
稀に、住民票の異動などから福祉事務所が世帯構成の変化を把握し、減額に至ることがあります。

基準改定による減額か
全国一律の基準改定による減額の場合、個人では対応が難しいですが、制度自体への意見は可能です。
改定時期の確認
生活保護基準の改定は通常、10月に実施されることが多いです。この時期の減額であれば、基準改定が理由の可能性があります。

不当な減額だと感じた場合の対処法

減額理由に納得できない場合や、明らかな誤りがある場合は、適切な手続きを踏んで対応しましょう。
まずはケースワーカーに相談
異議申し立てなどの正式な手続きの前に、まずはケースワーカーと話し合うことが重要です。

相談時のポイント
- 冷静に、具体的に疑問点を伝える
- 減額通知書を手元に用意する
- 自分の収入や世帯状況を正確に説明できるよう準備する
- 可能であれば、メモを取りながら話を聞く
多くの場合、誤解や計算ミス、情報の行き違いなどが原因で、話し合いで解決することがあります。
審査請求(不服申し立て)の手続き
ケースワーカーとの話し合いで解決しない場合、正式な異議申し立てである「審査請求」を行うことができます。
審査請求とは
都道府県知事に対して、福祉事務所の決定が不当であることを申し立てる制度です。生活保護法第64条に基づく権利として認められています。
審査請求の期限
処分があったことを知った日の翌日から起算して3ヶ月以内に行う必要があります。この期限を過ぎると、原則として請求ができなくなるため注意が必要です。
審査請求の手順
- 審査請求書を作成する(書式は福祉事務所や都道府県庁で入手可能)
- 必要事項を記入する
- 請求人の氏名、住所
- 処分をした福祉事務所
- 処分の内容
- 処分があったことを知った年月日
- 不服の理由(具体的に記載)
- 都道府県の担当部署に提出する
審査請求書の記載例
「令和○年○月○日付で生活保護費が月額○○円減額されましたが、この減額は以下の理由により不当であると考えます。第一に、収入として認定された○○円については、既に△△として使用しており、実際の可処分所得とはなっていません。第二に…」
再審査請求
審査請求の結果に納得できない場合は、さらに「再審査請求」を厚生労働大臣に対して行うことができます。
再審査請求の期限
審査請求の裁決があったことを知った日の翌日から起算して1ヶ月以内です。
支援団体への相談
一人で対応するのが難しい場合は、専門的な支援を受けることをおすすめします。
相談できる機関
- 法テラス:無料の法律相談が受けられる
- 弁護士会の法律相談:生活保護に詳しい弁護士を紹介してもらえる
- 生活保護支援団体:当事者や支援者が運営するNPOなど
- 労働組合:地域の労働組合が生活保護受給者の支援を行っている場合がある
- 社会福祉協議会:地域の福祉相談窓口
これらの機関では、審査請求書の書き方のアドバイスや、場合によっては同行支援なども受けられます。
減額を防ぐために普段から気をつけること

不必要な減額や、誤解による減額を防ぐため、日常的に以下のことに注意しましょう。
収入の正確な申告
生活保護受給中に得た収入は、全て申告する義務があります。
申告が必要な収入
- 給与収入(アルバイト、パート、日雇いを含む)
- 年金(老齢、障害、遺族)
- 各種手当(児童扶養手当、特別障害者手当など)
- 親族からの仕送り
- 保険金
- 売却収入
- ギャンブルでの収入
- 拾得物の報奨金
- その他あらゆる臨時収入
申告方法
収入があった月の翌月初めまでに、収入申告書と給与明細などの証拠書類を福祉事務所に提出します。

申告漏れのリスク 申告を怠ると、後から発覚した際に以下のようなリスクがあります。
- 不正受給として扱われる
- 過去に遡って保護費の返還を求められる
- 悪質な場合は保護の停止・廃止
- 最悪の場合、詐欺罪で刑事告発される可能性
わずかな金額でも必ず申告することが重要です。
世帯状況の変化の届出
世帯構成に変化があった場合は、速やかに届け出ましょう。
届出が必要な変化
- 家族の転入・転出
- 結婚・離婚
- 出産・死亡
- 子どもの就職や進学
- 同居人の変更
届出を怠ると、実態と異なる保護費が支給され、後から返還を求められる可能性があります。
資産状況の変化の報告
預貯金や資産についても、変化があれば報告が必要です。
報告すべき資産の変化
- まとまった額の預金ができた
- 相続で財産を受け取った
- 車や貴金属を購入した
- 保険に加入した
生活保護では、最低生活費の半月分程度までの預貯金は認められますが、それを超える場合は保護費の減額や、保護廃止の対象となる可能性があります。


定期的なケースワーカーとのコミュニケーション
ケースワーカーとの良好な関係を保つことも重要です。
訪問調査への協力
ケースワーカーによる家庭訪問(年に数回)には、できる限り協力しましょう。生活状況を正確に伝えることで、誤解による減額を防げます。

困ったことは早めに相談
就職活動、病気、家族の問題など、生活に変化がある時は早めに相談することで、適切なアドバイスや支援を受けられます。
書類や通知の保管
福祉事務所からの通知書や、自分が提出した書類のコピーは必ず保管しましょう。
保管すべき書類
- 保護決定通知書
- 支給額変更通知書
- 収入申告書の控え
- 給与明細
- 医療券・介護券
- ケースワーカーとのやり取りの記録
後から確認が必要になった際に、これらの書類が役立ちます。
減額後の生活設計の見直し方

減額が避けられない場合、生活を維持するための工夫が必要です。
家計の見直しポイント
固定費の削減
- 携帯電話料金の見直し(格安SIMへの変更)
- 不要な保険の解約
- 新聞や定期購読の見直し
- サブスクリプションサービスの整理


変動費の節約
- 食費の工夫(特売品の活用、自炊の徹底)
- 光熱費の節約(節電、節水)
- 日用品の購入方法の見直し(まとめ買い、安い店舗の利用)

利用できる他の制度の確認
生活保護以外にも、活用できる支援制度があります。
自治体の独自施策
- 水道料金の減免
- 粗大ごみ手数料の免除
- 交通費の助成
- 子どもの学習支援
民間の支援
- フードバンクの利用
- 子ども食堂の活用
- 無料または低額の法律相談
- 衣類や日用品の提供を受けられる団体
これらの情報は、社会福祉協議会や地域包括支援センターで入手できます。
就労による収入増加の検討
健康状態が許せば、就労によって収入を増やすことも選択肢の一つです。
就労支援プログラムの活用
福祉事務所には就労支援員が配置されており、以下のような支援を受けられます。
- 求人情報の提供
- 履歴書の書き方指導
- ハローワークへの同行
- 職業訓練の案内

勤労控除のメリット
働いた収入の全額が差し引かれるわけではなく、一定額は手元に残る仕組みになっています。月収が増えれば、実質的な可処分所得も増加します。
自立支援プログラム
将来的に生活保護から自立することを目指す場合、様々な支援メニューが用意されています。

生活保護の減額に関するよくある質問

Q1: 突然、何の説明もなく保護費が減額されました。違法ではないですか?
A: 生活保護法では、保護の変更(減額を含む)を行う際には、必ず書面で通知することが義務付けられています。口頭での通知のみや、通知なしでの減額は手続き上の問題があります。まずは福祉事務所に連絡し、正式な通知書の発行を求めてください。通知書には減額理由が記載されているはずです。もし適切な通知がなされていない場合は、審査請求の対象となる可能性があります。
Q2: 子どもが高校を卒業してアルバイトを始めましたが、その収入で保護費全体が減額されました。子どもの収入も世帯の収入になるのですか?
A: はい、生活保護は世帯単位で計算されるため、同一世帯の子どもの収入も世帯全体の収入として認定されます。ただし、高校生の場合は収入の一部が本人の学費や就職準備のために認められる「収入認定除外」があります。また、就職して独立する意思がある場合は「世帯分離」の手続きを取ることで、子どもの収入が世帯の保護費に影響しなくなります。ケースワーカーに相談し、最適な方法を検討してください。

Q3: 基準改定による減額は受け入れるしかないのですか?
A: 国の政策による全国一律の基準改定は、個別の審査請求では覆すことが困難です。ただし、基準改定自体の妥当性について、集団で訴訟を起こすケースもあります。実際に、2013年からの引き下げに対して、全国で「生活保護基準引き下げ違憲訴訟」が提起され、一部の地方裁判所では原告勝訴の判決も出ています。個人でできることは限られますが、支援団体を通じて意見を表明することは可能です。

Q4: 収入申告を忘れていて、後から減額されました。罰則はありますか?
A: 申告漏れが悪意のないものであれば、直ちに刑事罰の対象となることは少ないですが、以下の対応が取られます。
- 過去に遡って収入認定が行われ、その分の保護費の返還を求められる
- 今後の保護費から少しずつ差し引かれる形で返還する
- 悪質と判断された場合は、保護の停止や廃止の可能性
申告を忘れていたことに気づいた時点で、すぐに自己申告することで、悪質性がないことを示すことができます。
Q5: 減額されて生活できなくなりました。追加の支援は受けられませんか?
A: 生活保護の基準額は「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するために設定されています。減額後の金額でも生活が困難な場合、以下の可能性を検討できます。
- 特別な事情による一時扶助(冬季加算、医療費など)
- 他の福祉制度の活用(障害者手帳の取得による各種減免など)
- 減額理由が不当である場合の審査請求
- 生活費の見直しと、福祉事務所の家計相談の活用
また、自治体の独自の支援制度がある場合もあるため、社会福祉協議会などに相談してみることをおすすめします。
Q6: 親族からの仕送りがあると生活保護が減額されるため、援助を断っています。これで良いのでしょうか?
A: 生活保護法では、扶養義務者からの援助が受けられる場合は、それを優先することが原則です。ただし、扶養は強制ではなく「可能な範囲での援助」とされています。親族からの仕送りがある場合、その金額が収入として認定され、保護費が減額されるのは事実です。しかし、以下の点を考慮してください。
- 仕送り額と減額額は同額なので、トータルの手取りは変わらない
- 親族との関係性を維持できる
- 将来的な支援の可能性が残る
援助を断ることで親族関係が悪化するリスクと、援助を受けることのメリットを天秤にかけて判断することをおすすめします。
まとめ:減額通知を受けても冷静に対応しよう

生活保護の減額にはさまざまな理由があり、正当なものから誤りによるものまで存在します。
重要ポイントの再確認
減額の主な理由は、収入の増加、世帯構成の変更、基準改定、住居状況の変化などです。減額通知を受け取ったら、まずは冷静に理由を確認し、分からない点はケースワーカーに説明を求めましょう。
減額理由に納得できない場合や、明らかな誤りがある場合は、審査請求という正式な手続きで異議を申し立てることができます。期限は3ヶ月以内なので、早めの対応が重要です。
日頃から収入の正確な申告、世帯状況の変化の届出、ケースワーカーとのコミュニケーションを心がけることで、不必要な減額や誤解を防ぐことができます。
最後に
減額通知を受け取った方は、以下の順序で対応してください。
- 通知書を熟読し、減額理由と金額を確認する
- 自分の収入申告や世帯状況に変化がなかったか振り返る
- 分からない点や納得できない点をメモにまとめる
- ケースワーカーに連絡し、説明を求める
- 説明に納得できない場合は、支援団体や法テラスに相談する
- 必要であれば、期限内に審査請求を行う
生活保護は憲法第25条で保障された「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を実現するための制度です。
不当な減額には毅然と対応する権利がある一方、制度を適切に利用する責任もあります。
困った時は一人で抱え込まず、専門家や支援団体に相談しながら、最善の対応を見つけていきましょう。

コメント