生活に困窮している方にとって、生活保護は憲法で保障された国民の権利です。
しかし、実際にどのように申請すればいいのか、どんな条件が必要なのか、わからない方も多いのではないでしょうか。
2024年8月時点で約200万人が生活保護を受給しており、決して特別なことではありません。
この記事では、生活保護を受けるための条件から、福祉事務所での申請方法、必要書類、審査の流れ、支給額の目安まで、初心者の方にもわかりやすく徹底解説します。
生活保護とは?制度の基本を理解しよう

憲法で保障された国民の権利
生活保護は、日本国憲法第25条で保障された「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を実現するための制度です。
日本国憲法第25条
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
つまり、生活保護は「恥ずかしいこと」でも「特別なこと」でもなく、困ったときに誰でも利用できる国民の権利なのです。
生活保護の目的
生活保護法第1条では、以下の2つを目的として定めています。
- 最低限度の生活の保障
- 生活に困窮する方に、困窮の程度に応じて必要な保護を行う
- 自立の助長
- 受給者が自力で生活できるよう支援する
現在の受給状況(2024年8月時点)
全国の受給者数
- 受給者数: 約201万人
- 受給世帯数: 約165万世帯
- 保護率: 約1.62%(人口100人あたり1.62人)
世帯別の内訳
- 高齢者世帯: 約55%
- 傷病・障害者世帯: 約25%
- 母子世帯: 約5%
- その他世帯: 約15%
つまり、200万人以上が利用している、決して特別ではない制度です。
生活保護を受ける4つの条件

生活保護を受けるには、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。
条件1: 資産の活用【最重要】
まず、利用できる資産をすべて活用してください。
生活保護は「最後のセーフティネット」です。
そのため、生活に使える資産がある場合は、まずそれを活用することが求められます。
売却・処分が必要な資産
- 預貯金: 一定額以上ある場合
- 土地・家屋: 売却価値が高い場合
- 自動車・バイク: 原則として処分が必要
- 生命保険: 解約返戻金がある場合
- 株式・債券: 有価証券
- 貴金属: 高価なアクセサリーなど
ただし例外があります
持ち家の保有が認められる場合
- 売却価値が低い
- 住宅ローンが完済している
- 売却しても生活費に充てるほどの金額にならない
- 売却すると住む場所がなくなる

自動車・バイクの保有が認められる場合
- 通院に必要不可欠(公共交通機関が利用困難)
- 障害があり移動手段として必要
- 自営業に必要
- 公共交通機関が少ない地域


条件2: 能力の活用
働ける能力がある場合は、その能力に応じて働いてください。

ただし、以下の場合は免除されます。
- 病気や怪我で働けない
- 高齢で体力的に働けない
- 障害があり就労が困難
- 介護で働けない
重要: 働きながらでも生活保護は受けられます。収入が最低生活費を下回っていれば、差額が支給されます。


条件3: 他の制度の活用
年金や手当など、他の制度で給付を受けることができる場合は、まずそれらを活用してください。
優先して利用すべき制度
- 各種年金(国民年金、厚生年金、遺族年金など)
- 雇用保険(失業給付)
- 児童扶養手当
- 障害年金
- 傷病手当金
- 生活福祉資金貸付制度
これらを利用しても最低生活費に満たない場合、その差額を生活保護で補います。
条件4: 扶養義務者の扶養
親族等から援助を受けることができる場合は、援助を受けてください。
ただし、扶養は義務ではなく、あくまで「可能な範囲で」です。


扶養照会について
生活保護を申請すると、三親等以内の親族に「扶養照会」という確認の書類が送られます。

2021年3月の運用改善: 以下の場合、扶養照会を省略できるようになりました。
- 親族との関係が疎遠(10年以上音信不通など)
- DVや虐待の履歴がある
- 親族が生活保護を受給している
- 親族が70歳以上の高齢者
- 親族が重度の障害や疾病を抱えている
重要: 扶養照会を恐れて申請をためらう必要はありません。事情を福祉事務所に相談すれば、照会を避けられる場合があります。
最終条件: 収入が最低生活費を下回ること
上記1〜4を活用してもなお、世帯の収入が最低生活費に満たない場合に、生活保護が適用されます。
最低生活費 – 収入 = 生活保護費

申請前に知っておくべき重要なポイント

申請は国民の権利
生活保護の申請は、憲法で保障された国民の権利です。
- 遠慮する必要はありません
- 福祉事務所は申請を拒否できません
- 「相談」ではなく「申請」と明確に伝えましょう
「水際作戦」に注意
一部の福祉事務所では、申請を受け付けない「水際作戦」と呼ばれる不適切な対応があると報告されています。

不適切な対応例
- 「まだ申請できません」と追い返される
- 「親族に相談してから」と言われる
- 申請書を渡してもらえない
対処法:
- 「申請します」とはっきり伝える
- 口頭でも申請は可能(書類がなくても)
- 支援団体に同行を依頼する
- 弁護士に相談する
住所がなくても申請可能
ホームレス状態、ネットカフェ生活、友人宅を転々としている場合でも、生活保護は申請できます。

現在いる場所の最寄りの福祉事務所で申請してください。

【完全ガイド】申請から受給までの流れ

全体スケジュール
申請から受給開始まで、原則14日以内(最長30日)です。
ステップ1: 事前相談(任意)
場所: お住まいの地域を管轄する福祉事務所
内容
- 生活保護制度の説明を受ける
- 生活状況を聞かれる
- 他の制度が利用できないか検討
持参すると良いもの:
- 身分証明書
- 通帳
- 給与明細
- 年金手帳
- 賃貸契約書
- 光熱費の請求書
- 印鑑
重要: 事前相談は「任意」です。直接申請することも可能です。
ステップ2: 申請書類の提出
必要書類
- 生活保護申請書
- 収入申告書
- 資産申告書
- 扶養義務者届
- 同意書(資産・収入調査への同意)
重要ポイント
- 書類の書き方は職員が教えてくれます
- 必要書類が揃っていなくても申請は可能
- 口頭でも申請できます(書類作成が困難な場合)
ステップ3: 調査(申請後)
申請後、以下の調査が行われます。
家庭訪問調査
- ケースワーカーが自宅を訪問
- 生活状況の確認
- 通常、申請から3〜7日後

資産調査
- 銀行への照会
- 生命保険の契約状況
- 不動産の所有状況

収入調査
- 給与収入の確認
- 年金の受給状況
- その他の収入源

扶養照会
- 三親等以内の親族へ照会
- ただし、事情により省略可能
ステップ4: 審査・決定
審査期間: 原則14日以内(特別な理由がある場合は30日以内)
審査結果は書面で通知されます。
承認された場合
- 保護決定通知書が届く
- 担当ケースワーカーが決定
- 生活保護費の支給開始
不承認の場合
- 理由が書面で通知される
- 不服がある場合は再審査請求が可能
ステップ5: 支給開始
支給方法
- 銀行口座への振込(原則)
- 福祉事務所窓口での現金受取(例外)
支給日
- 毎月1日〜5日頃(自治体により異なる)

ステップ6: 受給中の義務
月1回の収入申告
- 収入の状況を毎月報告
ケースワーカーの訪問
- 年数回の家庭訪問
- 生活状況の確認
生活変化の報告
- 収入の変化
- 住所の変更
- 家族構成の変化
福祉事務所での相談・申請方法

福祉事務所の探し方
検索方法: 「お住まいの市区町村名 + 福祉事務所」で検索
設置場所
- 市部: 各市が設置
- 町村部: 都道府県が設置
- 特別区(東京23区): 各区が設置
相談時に聞かれること
主な質問内容
- 現在の収入状況
- 貯金はどのくらいあるか
- 持ち家や車などの資産
- 親族から援助を受けられるか
- 働ける状態か、健康状態
- なぜ生活保護が必要か
正直に答えることが重要です。
虚偽の申告は不正受給となり、刑事罰の対象になります。

申請時のポイント
1. 「相談」ではなく「申請」と明確に伝える
「相談したい」ではなく、「生活保護を申請します」とはっきり伝えましょう。
2. 記録を残す
- 訪問日時
- 対応した職員の名前
- 言われたこと
これらをメモに残しておくと、トラブル時に役立ちます。
3. 一人で不安なら同行支援を利用
- NPO法人
- 生活困窮者支援団体
- 弁護士
これらの団体が同行支援をしてくれます。
いくらもらえる?支給額の計算方法

基本的な計算式
生活保護費 = 最低生活費 – 収入

最低生活費の構成
最低生活費 = 生活扶助 + 住宅扶助 + その他の扶助
生活扶助
日常生活に必要な費用(食費、光熱費、被服費など)

- 第1類: 個人単位の経費(年齢により異なる)
- 第2類: 世帯単位の経費(世帯人数により異なる)
住宅扶助
家賃に相当する費用(上限あり)

主要都市の上限額(単身世帯):
- 東京都23区: 53,700円
- 大阪市: 40,000円
- 名古屋市: 37,000円
- 札幌市: 36,000円
その他の扶助
- 教育扶助: 義務教育の学用品費
- 医療扶助: 医療費(全額)
- 介護扶助: 介護サービス費(全額)
- 出産扶助: 出産費用
- 生業扶助: 就労に必要な費用
- 葬祭扶助: 葬儀費用
具体的な支給額例
単身世帯(65歳・東京都23区)
- 生活扶助: 約84,000円
- 住宅扶助: 53,700円
- 合計: 約137,700円
母子家庭(母35歳・子10歳・東京都23区)
- 生活扶助: 約121,000円
- 母子加算: 23,260円
- 児童養育加算: 10,190円
- 住宅扶助: 64,000円
- 教育扶助: 約2,600円
- 合計: 約221,000円
高齢者夫婦(70歳・65歳・地方都市)
- 生活扶助: 約111,000円
- 住宅扶助: 50,000円
- 合計: 約161,000円
収入がある場合の計算
例: 単身世帯・年金月額6万円の場合
- 最低生活費: 137,700円
- 年金収入: 60,000円
- 生活保護費: 77,700円
- 実際の手取り: 137,700円(年金+生活保護)
生活保護を受けながらできること・できないこと

できること
1. 働くこと
- パート・アルバイト可能
- 収入は基礎控除後、認定される
- 働いた方が手取りが増える仕組み
2. 貯金(一部)
- 冠婚葬祭費用の少額積立
- 子どもの進学費用の積立(認められる場合)

3. 携帯電話・スマホ
- 所有・使用可能
- 生活に必要な範囲で

4. 結婚
- 結婚は可能
- 世帯が分かれる場合は再計算


できないこと・制限されること
1. 高額な資産の保有
- 車(原則)
- 高価な貴金属
- 投資用不動産
2. ギャンブル・浪費
- パチンコ、競馬などのギャンブル
- 過度な飲酒
- 高額な買い物

3. 海外旅行
- 原則不可
- 特別な理由がある場合は相談

4. 借金の返済
- 生活保護費からの借金返済は不可
- 借金がある場合は債務整理が必要

よくある誤解と正しい知識

誤解1: 「持ち家があると受けられない」
真実: 条件次第で持ち家を保有したまま受給可能。
売却価値が低い、住宅ローンが完済しているなどの条件を満たせば、持ち家に住みながら生活保護を受けられます。
誤解2: 「働いていると受けられない」
真実: 働きながらでも受給可能。
収入が最低生活費を下回っていれば、その差額が支給されます。働いた方が手取りが増える仕組みです。
誤解3: 「親族に必ず連絡される」
真実: 事情により扶養照会は省略可能。
10年以上音信不通、DVの履歴がある、親族が高齢・病気などの場合、扶養照会は行われません。
誤解4: 「若者は受けられない」
真実: 年齢制限なし。
病気、失業、障害など、若い方でも条件を満たせば受給できます。

誤解5: 「外国人は受けられない」
真実: 永住者などは受給可能
永住者、定住者、日本人の配偶者等、特別永住者などの在留資格があれば、人道上の観点から生活保護に準じた保護を受けられます。

よくある質問

Q1: 生活保護の申請は誰でもできますか?
A: はい、日本に住んでいる方なら誰でも申請できます。
生活保護は国民の権利であり、申請を拒否されることはありません。
Q2: 申請から受給まで どのくらいかかりますか?
A: 原則14日以内、特別な理由がある場合は30日以内です。
審査に時間がかかる場合もありますが、法律で期限が定められています。
Q3: 生活保護を受けると医療費は無料になりますか?
A: はい、原則として無料になります。
医療扶助により、診察料、薬代、入院費など医療費が全額免除されます。ただし、指定医療機関での受診が必要です。

Q4: 車を持っていますが、処分しないといけませんか?
A: 原則として処分が必要ですが、例外があります。
通院に必要、公共交通機関が少ない地域、障害があり移動手段として必要などの場合は、保有が認められることがあります。
Q5: 生活保護を受けると近所にバレますか?
A: いいえ、バレません。
生活保護受給者であることは個人情報として保護されており、本人の同意なしに他人に知られることはありません。
Q6: いつでも辞められますか?
A: はい、いつでも辞退できます。
収入が増えて自立できるようになれば、自動的に廃止になります。自分の意思で辞退することも可能です。

Q7: 生活保護を受けると選挙権はなくなりますか?
A: いいえ、なくなりません。
選挙権、被選挙権など、市民としての権利は一切制限されません。

Q8: 年金をもらっていても申請できますか?
A: はい、できます。
年金額が最低生活費を下回っていれば、その差額が生活保護費として支給されます。

まとめ:生活保護は国民の権利

生活保護を受けるには|重要ポイント
1. 生活保護は国民の権利
- 憲法で保障された権利
- 決して恥ずかしいことではない
- 約200万人が利用
2. 受給の4つの条件
- 資産の活用
- 能力の活用
- 他の制度の活用
- 扶養義務者の扶養 →これらを活用しても収入が最低生活費を下回る場合
3. 申請は福祉事務所へ
- お住まいの地域の福祉事務所
- 「申請します」とはっきり伝える
- 必要書類が揃っていなくても申請可能
4. 審査期間は原則14日以内
- 最長30日
- 家庭訪問、資産調査、収入調査が行われる
5. 支給額の目安
- 単身世帯: 月10万円〜13万円
- 母子家庭: 月19万円〜24万円
- 高齢者夫婦: 月15万円〜18万円
6. 働きながらでも受給可能
- 収入が最低生活費を下回れば差額支給
- 働いた方が手取りが増える
7. 医療費・介護費は全額免除
- 指定医療機関で受診
- 介護サービスも自己負担なし
申請をためらわないで
生活保護は、生活に困窮したすべての国民を支える重要なセーフティネットです。
「恥ずかしい」「親族に迷惑をかける」などと思わず、困ったときは遠慮なく申請してください。
相談窓口
- お住まいの地域の福祉事務所
- NPO法人
- 法テラス
- 各都道府県の生活困窮者支援窓口
最後に
生活保護の申請は国民の権利であり、生活に困窮している方が適切に利用すべき制度です。
この記事が、生活保護を検討されている方の参考になれば幸いです。
一人で悩まず、まずは福祉事務所に相談してみることをおすすめします。

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