日本では国民皆保険制度と言うものがあり、すべての国民が公的医療保険に加入することになっており、会社勤めをしている方は健康保険に加入し、自営業の方や退職をして年金生活をしている方等は国民健康保険に加入しています。
この健康保険又は国民健康保険に加入することで、毎年収入に応じて保険料を支払わなければいけませんが、代わりに病気等により病院を受診する場合は、3割負担で医療行為を受けることができます。(後期高齢者の医療負担は1割~2割)
では、生活保護受給者の方はどうなるのでしょうか?病院に受診する場合の負担割合はいくらになるのでしょうか?また、保険料はどうなるのでしょうか?気になるところだと思います。
そこで、このページでは生活保護の受給を開始した場合に健康保険や国民健康保険はどうなるのか等について詳しくご説明します。
生活保護を受けると国民健康保険は脱退する
生活保護受給者は、国民健康保険の被保険者から除外されているため、国民健康保険に加入することができません。
そのため、生活保護の受給開始が決定したら、決定通知書をもらったその足で国民健康保険証の返納手続きをしなければいけません。
また、生活保護の受給開始日は申請日となるため、申請日に遡って国民健康保険の加入者ではなかったことになります。
生活保護受給者は医療扶助によりタダで病院を受診できる
「国民健康保険に加入できないのであれば生活保護受給者が病院を受診した場合の医療費はどうなるんだ!?」と心配される方もいると思いますが、安心してください。
生活保護受給者はタダで病院を受診することができます。
生活保護の受給を開始すると8つの扶助を受けることができます。
この8つの扶助の中に医療扶助と言うものがあり、この医療扶助により、あらゆる医療行為が無料になります。
具体的には、病院の受診料の他、おくすり代、入院費用も出ますし、手術が必要であれば出受費用も出ます。
私が担当したことのあるケースで言えば、癌の手術を受けた方もいますし、植物状態になって延命治療を受けた方もいます。
これらあらゆる医療行為に係る費用は全て医療扶助から出るため。国民健康保険に加入できないからと言って、何も心配することはありません。
健康保険は生活保護を受給しても脱退しなくて良い
健康保険とはサラリーマンなど、民間企業等に勤めている人とその家族が加入する医療保険制度です
「働いている人は生活保護を受給できないから関係ないのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、実は働いている人も生活保護は受給できます。
「でも、健康保険に加入できるほどの収入があったら生活保護の条件を満たさないのでは?」と思う方もいると思いますが、生活保護の条件は世帯収入が最低生活費以下であることのため、条件を満たせば普通に正社員として働いている人でも生活保護を受給することは可能です。
例えば子沢山の家庭やシングルマザー・シングルファザーの家庭の場合は、母子加算・児童養育加算の他、教育扶助・生業扶助等がつきます。
結果、最低生活費がかなり高くなるため、健康保険に加入できるほどの給料収入があっても生活保護を受給している人はいます。
そして、ここからが本題で、健康保険に加入している人が生活保護を受給した場合はどうなるのか?と言うと、健康保険は、国民健康保険と異なり、そのまま加入し続けることができます。
病院を受診した際の医療費については、健康保険に加入している場合も同様に生活保護費から医療扶助が出るため、あらゆる医療行為を無料で受けることができます。
後期高齢者医療保険も生活保護を受給すると脱退する
健康保険の加入者及び国民健康保険の加入者ともに75歳以上になると、それぞれの資格を喪失し、自動的に後期高齢者医療制度の被保険者になります。
しかし、国民健康保険と同様に生活保護受給者は、後期高齢者医療制度の被保険者から除外されているため、後期高齢者医療制度に加入することができません。
後期高齢者医療制度の代わりに生活保護から医療扶助が出るため、あらゆる医療行為を無料で受けることができます。
このように健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度と様々な公的医療保険制度がありますが、どの保険に加入していても生活保護の受給が開始すると、全ての医療費は医療扶助から出るため、無料であらゆる医療行為を受けることができます。
最低生活費以上の収入がある場合は医療費の自己負担がある
生活保護受給者は原則として医療扶助により無料(タダ)で病院に通院することができます。
しかし、ある特定の条件を満たしてしまうと、例外的に福祉事務所から医療扶助は支払われず、生活保護受給者が医療費を自己負担しなければならなくなる場合があります。
その特定の条件とは世帯の収入が最低生活費を越えることです。
生活保護の条件が最低生活費以下のため、世帯の収入が最低生活費を超えることは、ほぼありませんが、1ヶ月以上入院して入院基準になった場合やボーナス等の臨時収入が出た場合、生活保護脱却前等は最低生活費を越える場合があります。
最低生活費を越えた場合の治療費の取り扱いについては、その超えている金額を限度に自己負担が発生し、自己負担額を超える残りの医療費については、医療扶助から支払われます。
例えば収入15万円、生活保護費12万円の世帯の医療費が7万円掛かった場合
収入15万円-生活保護費12万円=自己負担額3万円
医療費7万円-自己負担額3万円=医療扶助から支給される医療費4万円
となり、この例では、3万円は生活保護受給者の自己負担となり、残りの4万円分の医療費ついては、医療扶助が支給されます。
その他、注意点として、入院費は無料ですが、個室を選択した場合の差額ベッド代は、医療扶助の対象外のため、全額自己負担となってしまいます。
入院する際には個室を選ばないよう十分に気を付けましょう。
民間の医療保険には加入できない
生活保護受給者は民間の医療保険、例えばアフラックやライフネット生命、ソニー生命、かんぽ生命、チューリッヒ生命、オリックス生命の他、非営利団体が運営している都道府県民共済にも加入することはできません。
なぜなら、医療費は全て医療扶助から支給されるため、医療保険に加入する必要がないからです。
加えて、生命保険には貯蓄性があり、貯金と同様に解約金を生活費に充てる必要があるからです。
そのため、生活保護申請時に医療保険に加入している場合は必ず解約する必要があります。
もしも解約せず生命保険に加入し続けた場合の取り扱いについてですが、隠れてコッソリ生命保険に加入していたことがバレたからと言って生活保護の廃止等にはなりません。
しかし、毎月の保険料を生活保護費から支払うと生活が苦しくなりますし、仮に病気等になって保険料が支払われた場合は、全額福祉事務所に返還しなければいけません。
そのため、保険料を支払う分だけ、生活保護受給者が損をすることになります。
「でも、保険金が入ったことがバレなかったら保険金分、得するのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、福祉事務所には29条調査権があり、定期的に金融機関や保険会社に対して調査を行っているため、100%バレてしまいます。
もしも保険金が支給されていて、ケースワーカーに収入申告をしなかった場合は不正受給となり、受領した保険金を福祉事務所に返還しなければいけないのはもちろんのこと、徴収金として処理されるため、追加で罰金が課せられる可能性もあります。
このように生活保護受給者が民間の医療保険に加入するデメリットはあってもメリットは一切ありません。
病院を受診する際の手続きと注意点
生活保護受給者が病院を受診する場合、病院に行く前に必ず福祉事務所で医療券を発行してもらう必要があります。
この手続きを飛ばして直接病院に行って受診することもできますが、生活保護受給者であることを証明することができないため、最悪の場合、一時的にではありますが、医療費を支払わなければいけない可能性があります。
福祉事務所によっては、生活保護受給者であることを証明できる「生活保護受給者証」を発行している自治体もあるため、生活保護受給者証があるのであれば事後連絡でも問題ありませんが、生活保護受給者証がない場合は医療券を発行してもらってから病院に行くようにしましょう。
なお、医療券の発行手続きが必要になるのは、新規に受診する場合、または長期間受診しなかった場合のため、継続的に通院している病院に対しては1度医療券を提出すれば、継続受診している限り、わざわざ福祉事務所を訪れて医療券を発行してもらう必要はありません。
生活保護を脱却した場合の取り扱い
次に、生活保護を脱却できた場合はどうなるのか?についてですが、健康保険に加入している方または健康保険に加入できる方は勤めている会社を通して健康保険に加入することになります。
健康保険に加入できない方の場合は、生活保護の脱却と同時にケースワーカーから国民健康保険の発行を所管する部署の窓口に案内されて国民健康保険に加入することになります。
後期高齢者医療制度に該当する方も国民健康保険と同様に、生活保護脱却後にその足で役所の窓口で加入手続きをすることになります。
このように、生活保護を抜けた後も無保険になる期間がないように、ケースワーカーが最後まで必要な手続きの案内をしてくれるため、何も心配する必要はありません。
まとめ
生活保護になると健康保険証や国民健康保険はどうなるのか?について詳しく説明させていただきました。
上記をまとめると
- 生活保護になると国民健康保険・後期高齢者医療制度の被保険者から除外されるため加入することができない
- 国民健康保険・後期高齢者医療制度に加入することはできないが生活保護には医療扶助があるため、無料で病院を受診することができる
- 健康保険に関しては生活保護受給中でも加入することができるが、加入しても結局は医療扶助により医療費が無料になる
- 入院期間が1ヶ月を超えて入院基準になった場合など、世帯の収入が最低生活費以上になった場合は、最低生活費を超えた分については医療費の自己負担が発生する
- 差額ベッド代については医療扶助の対象外のため、全額自己負担になる
- 生活保護には医療扶助があるため、民間の医療保険に加入する必要がなく、仮に保険料が支払われても全額返還しなければいけないためデメリットしかない
- 生活保護受給者が病院を受診する場合は、事前に医療券を発行してもらう必要がある
- 生活保護脱却後の保険については、無保険期間が発生しないようにケースワーカーが手続きをしてくれるため心配はいらない
となります。
その他、生活保護に関する様々な疑問については、下記にまとめてありますので、ぜひ参考にしていただけたらと思います。
https://seikathuhogomanabou.com/category/qa/
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