よく生活保護制度の中で、「最低生活費」と言う単語を聞くと思います。
それもそのはず、生活保護の条件が「世帯の収入が最低生活費以下であること」なので、最低生活費が非常に重要な指標となります。
しかし、ケースワークの現場でも、実際によく使う言葉なんですが、「最低生活費」の本当の意味を理解している人って意外と少ないのではないでしょうか?
そこで、このページでは、
・最低生活費とは、どういうものなのか?
・最低生活費の計算方法
・最低生活費はいくらなのか?(具体例含む)
等について説明します。
最低生活費とは最低生活費ではない
最低生活費と聞くと、皆さんは、どのようなイメージを持つでしょうか?
私が、初めて「最低生活費」と言う言葉を聞いたときは、
1日3食なんとかご飯を食べられる程度の食費=最低生活費
と、それこそ文字通り、生きていくうえで必要な本当に最低限度の生活費のことを指す言葉だと思っていました。
しかし、実際に生活保護制度で使われる「最低生活費」とは健康で文化的な最低限度の生活費=最低生活費のことを指します。
この「健康で文化的な」と言う言葉がポイントで、実は世間一般的にイメージする最低生活とは全然違います。
「健康で文化的な生活」と言うことで、本やCDの購入はもちろん、パソコンやスマートフォンの家電を購入することもできます。
また、「健康で文化的」なの中には「娯楽」も含まれているため、生活保護受給者は毎月の生活保護費の中からお酒、タバコ、パチンコ等のギャンブルをすることもできます。
さすがにブランド品や自動車など、売却できるような資産については、売却するように指導を受けるため、所持することはできませんが、それ以外のことについては、特段制限はないため、実際には、一般家庭の生活費=最低生活費と考えた方が、実態に即していると思います。
よくニュース等で言われているように、世帯の状況によっては、生活保護費の支給金額が高額になるため、「最低生活費」とは言っても、一般家庭よりも裕福な場合もあります。
最低生活費とは生活保護の条件
冒頭でも述べたので、繰り返しになりますが、生活保護の条件は「世帯の収入が最低生活費以下であること」です。
つまり、「最低生活費」とは生活保護の基準です。
貯金がなく、世帯の収入が最低生活費以下であれば、生活保護の条件を満たし、生活保護を受給することができます。
ただし、給料収入等がある場合、最低生活費との差額分のみが毎月の生活保護費として支給されます。
例えば年金収入が10万円あったとしても、その世帯の最低生活費が11万円であれば、世帯の収入が最低生活費以下のため生活保護を受給することができますが、この場合の支給金額は差額分の1万円のみと言うことになります。
なお、給料収入に関しては、各種控除があるため、上記の例のように同じ10万円の収入であっても、最低生活費から給料全額の10万円が引かれるわけではありません。
最低生活費の計算方法
では実際、最低生活費はいくらになるのか?
生活保護の扶助は全部で8種類あります。
そのうちの6種類
・生活扶助
・住宅扶助
・教育扶助
・介護扶助
・医療扶助
・生業扶助
に加算額を加えたものが最低生活費の計算方法です。
=最低生活費
※生活保護費の扶助には、他にも葬祭扶助、出産扶助がありますが、最低生活費を算出するときには使いません。
そして、重要なのがここから。
残念ながら、ネットでいくら検索しても最低生活費の正確な金額を算出することはできません。
なぜなら最低生活費は世帯員の人数や年齢など、世帯の状況によって全く異なるからです。
上記扶助は
・住んでいる地域
・世帯の人数
・世帯構成
等によって、金額がガラリと変わります。
そのため、「あなたの世帯の最低生活費は○○○円です。」と正確な金額を知りたいのであれば、福祉事務所に行って算出してもらうしかありません。
最低生活費はいくらもらえるのか?
上記のとおり、最低生活費がいくらなのか?の正確な数字はわかりませんが、大体の目安については、厚生労働省が毎年、「生活保護制度の概要」で紹介してくれています。
下記の表を見てください。
見方についてですが、まずは、自分の世帯状況の近い世帯の表を選んでください。
表の上部「1級地-1」から「3級地-2」まであります。
これは級地基準と言って、生活扶助の金額を決める時に使います。
この級地基準は物価の地域差を考慮するための基準で、東京都などの都心部が「1級地-1」で最も支給金額が高く、そこから田舎になるほど、級地基準の数字が増えるほど、支給金額が下がり、ほとんど人口のない町村だと「3級地-2」となります。
自分の住んでいる市町村の級地が何級地かについては、同じく厚生労働省「生活保護制度における地域差等について」を見たらわかります。少し古いデータですが、級地に変更はないので、そのまま使って大丈夫です。
仮にここでは、世帯状況が「3人世帯(夫婦子1人世帯)【33歳・29歳・4歳】」、級地が「2級地-2」だとすると、合計のところに記載されている195,130円が最低生活費になります。
あくまで目安なので、繰り返しになりますが、正確な最低生活費についてはお住まいの福祉事務所で確認してください。
最低生活費以下で暮らしている可能性もある
ここからは、少し怖い話です。
上記の「最低生活保障水準の具体的事例」の表のうち、「母子3人世帯【30歳・4歳・2歳】」の「1級地-1」の最低生活費は260,350円です。
母子家庭で、しかもまだ手の掛かる小さい子どもが2人もいる家庭の手取り給料で26万円も稼ぐことができる仕事があるでしょうか?
相当なエリートでも、さすがに子育てしながら、この金額を稼ぐのは難しいのではないでしょうか?
また、生活保護は世帯員が増えれば増えるほど、最低生活費は増えます。
そのため、極端な話ですが、子どもが5人も6人もいるような世帯の場合、たとえ正社員として働いていても生活保護の条件を満たす場合もあります。
このように、シングルファーザー、シングルマザーの家庭や、子だくさんの家庭の場合は、よほど良い企業の良い役職に就いていない限り、実は最低生活費以下で暮らしてる可能性も十分にあります。
まとめ
最低生活費について、詳しく説明させていただきました。
上記のとおり最低生活費=貧しい・ぎりぎりの生活ではありません。
最低生活費=健康で文化的な最低限度の生活費のため、ちょっとした贅沢をすることも可能です。
特に小さい子どもを抱えた母子・父子の家庭などは、最低生活費が多いことから、無理をして身体や精神を壊してしまうまえに、生活保護を検討してみても良いかもしれません。
生活保護を受給することは恥ずかしいことではありません。
子どもがある程度大きくなってから自立に向けて努力しても遅くはないと思います。
また、同様に就職活動がうまくいかず、生活に苦しんでいる20代の若者も自暴自棄になる前に、ぜひ生活保護を検討してみてください。
生活保護の条件は世帯の収入が最低生活費以下であることなので、若くて健康な20代であっても生活保護は受給できます。
生活保護で生活基盤を確保しつつ、資格取得費などの自立に向けた支援を受けることができます。
「生活が苦しい」「どうしたら良いかわからない」と思ったら、まずは気軽にお住まいの福祉事務所に相談に行ってみてください。