生活保護を受給している方の中には、「将来のために少しでも貯金をしたい」と考える方も多いでしょう。
しかし、「生活保護で貯金は認められるの?」「いくらまで貯めていいの?」といった疑問や不安を抱えている方も少なくありません。
本記事では、生活保護受給中の貯金に関するルールから、認められる範囲や上限額、注意すべきポイントまで、詳しく解説します。
生活保護と貯金の基本ルール

「生活保護を受けながら貯金はできるのか」という疑問は、多くの受給者や申請を検討している方が抱く重要な問題です。
結論から言えば、一定の条件下で貯金は認められていますが、その範囲や目的には明確なルールがあります。
生活保護における資産の考え方
生活保護制度では、「資産の活用」が保護を受けるための要件の一つとされています。
これは、保護を受ける前に、まず自分の持っている資産を生活費に充てる必要があるという原則です。
しかし、これは「一切の貯蓄を持ってはいけない」という意味ではありません。
むしろ、厚生労働省の通知では、自立助長に資する貯蓄については認められるという考え方が示されています。
資産活用の原則
- 生活保護申請時に一定額以上の預貯金がある場合は、まずそれを使う
- 保護受給中も、過度な貯蓄は認められない
- ただし、合理的な目的と範囲内での貯蓄は容認される
つまり、貯金の「目的」と「金額」が重要なポイントとなります。
なぜ貯金に制限があるのか
生活保護制度は、税金を財源として運営されています。
困窮している方に対して、健康で文化的な最低限度の生活を保障するための制度であり、将来のための資産形成を支援する制度ではありません。
そのため、以下のような考え方が基本となります。
制限がある理由
- 生活保護費は現在の生活費として支給されるもの
- 高額な貯蓄ができるなら、保護の必要性が低いと判断される
- 他の納税者との公平性を保つ必要がある
- 限られた財源を真に困窮している人に届ける必要がある
ただし、将来の自立や緊急時のための最低限の備えまで否定するものではありません。
生活保護申請時の預貯金の扱い

生活保護を新たに申請する際、既に持っている預貯金はどのように扱われるのでしょうか。
申請時に認められる預貯金額
生活保護の申請時点で、ある程度の預貯金を持っていても申請は可能です。
ただし、一定額を超える場合は、まずその預貯金を生活費に充てることが求められます。
一般的な基準
- 生活扶助基準額の概ね半月分(約5万円〜7万円程度)まで:保有したまま申請可能
- 生活扶助基準額の1ヶ月分程度まで:状況により認められる
- それを超える額:まず預貯金を使い切ってから申請
ただし、この基準は絶対的なものではなく、以下のような事情も考慮されます。
考慮される事情
- 申請者の年齢や健康状態
- 世帯の人数
- 地域の生活水準
- 緊急性の高さ
- 預貯金の使途(医療費の支払いが控えているなど)
例えば、病気で緊急に医療が必要な場合や、高齢で就労が困難な場合などは、より柔軟に対応されることがあります。
預貯金の申告義務
生活保護を申請する際は、すべての預貯金について正確に申告する必要があります。
申告が必要な預貯金
- 本人名義の普通預金・定期預金
- 配偶者や子どもなど世帯員名義の預貯金
- ゆうちょ銀行の貯金
- ネット銀行の預金
- 投資信託や株式などの金融資産
福祉事務所は、金融機関に照会して預貯金の有無を調査する権限を持っています。

虚偽の申告や隠蔽は、後に発覚すると保護費の返還請求や刑事告発の対象となる可能性があります。

高額な預貯金がある場合の対応
申請時に基準を超える預貯金がある場合、以下のような対応が取られます。
1. 預貯金を使い切ってから再申請
例えば、50万円の預貯金がある単身者の場合、月15万円程度で生活すれば3〜4ヶ月で使い切ることになります。その時点で改めて申請することになります。
2. 生活保護開始までの猶予期間
緊急性が低い場合、「預貯金があるうちは保護を受けられない」として、申請が却下または保留されることがあります。
3. 一部保護の開始
医療費など特定の扶助のみを先行して受給し、預貯金が減少した時点で全面的な保護に移行する場合もあります。
生活保護受給中に認められる貯金額

すでに生活保護を受給している方が、毎月の保護費から貯金をすることは可能なのでしょうか。
認められる貯金の上限額
生活保護受給中の貯金について、厚生労働省の通知では以下のような基準が示されています。
一般的な基準
- 生活扶助基準額の概ね6ヶ月分程度まで:自立助長のための貯蓄として認められる可能性がある
- 単身世帯:約50万円程度が目安
- 複数世帯:約80万円〜100万円程度が目安
ただし、この金額は絶対的な上限ではなく、貯蓄の目的や個別の事情によって変動します。
地域による違い
- 1級地(東京都区部など):上限額が若干高め
- 2級地(地方都市):標準的な基準
- 3級地(町村部):上限額が若干低め
重要なのは、「なぜ貯金をするのか」という目的が明確であることです。
認められる貯金の目的
生活保護受給中の貯蓄が認められるのは、主に以下のような目的の場合です。
1. 自立のための準備資金
就労による自立を目指している場合、以下のような費用のための貯蓄が認められます。
- 就職活動費用(スーツ、交通費など)
- 転居費用(敷金、礼金、引越し代)
- 就労開始時の生活準備金
- 資格取得のための費用
例えば、「1年後に就職して生活保護を脱却したい。そのために30万円貯めて、引越し費用とスーツ代に充てたい」という明確な計画があれば、認められる可能性が高まります。
2. 子どもの将来のための貯蓄
子どもの教育や進学のための貯蓄も、一定の範囲で認められます。
- 高校や大学の入学金
- 制服や学用品の購入費
- 修学旅行の積立
- 就職準備金
子どもの自立支援は、生活保護制度の重要な目的の一つです。「貧困の連鎖」を断ち切るため、子どもの教育に関する貯蓄は比較的認められやすい傾向にあります。

3. 緊急時の備え
病気や災害など、不測の事態に備えるための少額の貯蓄も認められることがあります。
- 急な医療費(保険適用外の部分)
- 家電製品の故障時の買い替え費用
- 葬儀費用の積立(少額の場合)
ただし、医療扶助により医療費の自己負担はほとんどないため、医療費名目での高額な貯蓄は認められにくいです。

4. 社会生活を営むための費用
社会的な関係を維持するために必要な少額の貯蓄も考慮されることがあります。
- 冠婚葬祭の費用
- 地域行事への参加費
- 最低限の交際費
これらは、人間らしい生活を送るために必要な費用として認められる場合があります。
認められない貯金の目的
以下のような目的での貯蓄は、原則として認められません。
認められない例
- 高額な旅行費用の積立
- 趣味や娯楽のための高額な貯蓄
- 投資や資産運用のための資金
- 高級品や贅沢品の購入資金
- 明確な目的のない漠然とした貯蓄
- 他人への贈与や援助のための貯蓄
生活保護費は最低限度の生活を維持するために支給されるものであり、それを超える用途には使えません。


貯金をする際の正しい手続き

生活保護受給中に貯金をする場合は、適切な手続きと報告が必要です。
ケースワーカーへの事前相談
貯金を始める前に、必ず担当のケースワーカーに相談してください。

相談時に伝えるべき内容
- 貯金の目的を具体的に説明
- 目標金額とその根拠
- 貯金の期間(いつまでに、いつ使うか)
- 毎月の貯金額
- 目的を達成した後の計画
例えば、「2年後に就職したいので、引越し費用と仕事用の服代として30万円を2年かけて貯めたい。月1万5千円ずつ貯金し、就職が決まったら使います」といった具体的な説明が望ましいです。
貯蓄計画書の作成
自治体によっては、貯蓄計画書の提出を求められることがあります。
計画書に記載する項目
- 貯蓄の目的
- 目標金額
- 月々の積立額
- 積立期間
- 使用予定時期
- 目的達成後の自立計画
この計画書は、貯蓄が自立助長に資するものであることを証明する重要な書類です。
定期的な報告義務
貯金を始めた後も、定期的に報告する義務があります。
報告が必要な事項
- 預貯金残高の変化
- 計画通りに貯金が進んでいるか
- 貯金の目的に変更がないか
- 目標金額に達した場合の使用計画
福祉事務所の訪問調査や定期面談の際に、通帳の提示を求められることがあります。


これに応じることで、透明性を保つことができます。
目的外使用の禁止
認められた目的以外に貯金を使用することは、原則として認められません。
例:違反となるケース
- 就職準備金として認められた貯金を旅行に使った
- 子どもの教育費として貯めたお金を親の趣味に使った
- 緊急時用と説明した貯金を高級品の購入に充てた
目的外使用が発覚した場合、不正受給と見なされ、保護費の返還や保護の停止・廃止といった処分を受ける可能性があります。

貯金がバレた場合のリスクと対応

無断で貯金をしていたことが発覚した場合、どのような問題が生じるのでしょうか。
発覚するケース
生活保護受給中の無断の貯金は、以下のような経緯で発覚することがあります。
発覚する主な経路
- 福祉事務所の定期的な通帳確認
- 金融機関への調査
- 家庭訪問時の現金の発見
- 第三者からの通報
- 本人の申告漏れ
福祉事務所には、生活保護法に基づく調査権限があります。
金融機関に照会すれば、預貯金の有無や残高を確認できます。
無断貯金のリスク
無断で貯金をしていた場合、以下のようなリスクがあります。
1. 収入認定と保護費の返還請求
貯金ができたということは、生活保護費に余剰があったと判断されます。その分の保護費が過払いとされ、返還を求められる可能性があります。
計算例
- 無断で50万円貯金していた場合
- この50万円は本来必要なかった保護費と見なされる
- 最大で50万円の返還請求を受ける可能性

2. 保護の停止または廃止
一定額以上の貯金が発覚した場合、「資産があるため保護の必要がない」と判断され、保護が停止または廃止されることがあります。
停止・廃止の基準
- 生活扶助基準額の3ヶ月分を超える貯金:停止の可能性
- 6ヶ月分を超える貯金:廃止の可能性

3. 不正受給としての処分
意図的に隠していた場合は、不正受給として以下の処分を受ける可能性があります。
- 保護費の返還請求(過去に遡って)
- 保護の廃止
- 悪質な場合は刑事告発(詐欺罪)
- 3年以下の懲役または100万円以下の罰金
発覚した場合の適切な対応
もし無断で貯金をしていたことが発覚した、または発覚する前に自ら申告する場合は、以下のように対応してください。
1. 速やかに申告する
発覚する前に自ら申告することで、処分が軽減される可能性があります。
2. 正直に説明する
なぜ貯金をしたのか、その目的を正直に説明してください。合理的な理由があれば、考慮されることがあります。
3. 今後の計画を示す
貯金をどのように使用するのか、または返還する意思があるのかを明確に伝えてください。
4. 再発防止の約束
今後は必ず事前に相談し、無断での貯金はしないことを約束してください。
悪意のない過失であれば、厳しい処分は避けられる可能性があります。
しかし、隠蔽しようとすると、さらに事態が悪化します。
就労収入がある場合の貯金

生活保護を受給しながら働いている場合、収入の一部を貯金に回すことはできるのでしょうか。

就労収入の取扱い
生活保護受給者が働いて得た収入は、基礎控除などを差し引いた後、収入として認定されます。
就労収入の控除
- 基礎控除:収入に応じて一定額が控除される
- 必要経費:交通費、制服代など実費が認められる
- 新規就労控除:就労開始時に特別な控除がある場合も
控除後の収入は生活保護費から差し引かれますが、控除額の分だけ手元に残るお金が増えます。
就労収入からの貯金
就労収入がある場合、その一部を貯金に回すことについて、より柔軟に認められる傾向があります。
認められやすい理由
- 自立への努力を評価する
- 就労意欲を維持・向上させる
- 将来の完全な自立に向けた準備
例えば、月5万円の就労収入があり、基礎控除後に月2万円が手元に残る場合、そのうち1万円を貯金することは認められやすいです。
就労自立給付金との関係
生活保護から脱却して就労により自立した場合、「就労自立給付金」が支給されることがあります。
就労自立給付金の概要
- 就労により保護廃止となった場合に支給
- 貯蓄額や就労期間に応じて算定
- 最大で約10万円程度(単身世帯の場合)
受給中に計画的に貯金をしていたことは、就労自立給付金の算定にもプラスに働く場合があります。

よくある質問と回答

生活保護と貯金について、多くの方から寄せられる質問とその回答をまとめました。
Q1. へそくりとして少額を現金で持っているのですが、これも申告が必要ですか?
A. はい、現金も資産の一部として申告が必要です。タンス預金や手元現金も、一定額以上あれば申告しなければなりません。目安として、月の生活費を超える現金を保有している場合は、必ず申告してください。少額(数万円程度)の現金は生活費の範囲として認められますが、高額な現金を無断で保有していると、発覚時に問題となります。
Q2. 子ども名義で貯金をすれば問題ないですか?
A. いいえ、世帯員名義の預貯金も申告が必要です。子ども名義であっても、同一世帯である限り、その預貯金は世帯の資産として扱われます。「子ども名義なら隠せる」という考えは誤りで、金融機関調査で発覚します。ただし、子どもの将来のための貯金であることを正直に申告し、承認を得れば、一定額まで認められる可能性があります。
Q3. 定期預金にした方が認められやすいですか?
A. 普通預金でも定期預金でも、取扱いに大きな違いはありません。重要なのは、預金の形態ではなく、貯金の目的と金額です。ただし、定期預金にすることで「計画的な貯蓄」という印象を与えられる場合もあります。いずれにしても、事前にケースワーカーに相談し、承認を得ることが最も重要です。
Q4. 香典や祝い金をもらった場合、貯金してもいいですか?
A. 香典や祝い金は一時的な収入として扱われます。少額であれば問題になりませんが、高額な場合は収入認定される可能性があります。一般的に、5万円を超えるような金額は申告が必要です。香典返しなどの費用を差し引いた残額が収入認定されます。受け取ったら速やかにケースワーカーに報告し、どのように使うか相談してください。


Q5. 生活保護を受ける前に貯めた退職金がまだ残っています。どうなりますか?
A. 生活保護申請時に残っている退職金は、資産として取り扱われます。金額によっては、まずその退職金を生活費に充ててから申請する必要があります。ただし、以下のような事情がある場合は考慮されることがあります。
- 年齢が高く、再就職が困難
- 病気や障害があり、将来の医療費が見込まれる
- 子どもの教育費など、使途が明確
退職金の額と使途について、福祉事務所に正直に申告し、相談してください。
Q6. 通帳を複数持っていますが、すべて申告が必要ですか?
A. はい、すべての金融機関の口座を申告する必要があります。使っていない口座、残高がゼロの口座も含めて、すべて申告してください。福祉事務所は金融機関に一斉照会をかけることができ、申告していない口座が発覚すると、「隠していた」と見なされる可能性があります。残高がない口座でも、申告することで透明性を保てます。
まとめ:賢く貯金して自立を目指す

生活保護を受給しながらの貯金は、適切なルールを守れば可能です。
重要なのは、透明性と計画性です。
貯金に関する重要ポイント
- 一定額までの貯金は認められている(概ね6ヶ月分程度)
- 自立のための明確な目的が必要
- 事前にケースワーカーに相談し、承認を得る
- 定期的に報告し、透明性を保つ
- 無断での貯金は不正受給と見なされるリスクがある
貯金を始める前にすべきこと
- 貯金の目的を明確にする
- 目標金額を具体的に設定する
- ケースワーカーに相談する
- 承認を得てから貯金を始める
- 定期的に進捗を報告する
認められやすい貯金の目的
- 就職のための準備資金
- 転居費用
- 子どもの教育費
- 資格取得費用
- 緊急時の備え
生活保護は、一時的な困窮を支え、再び自立した生活を送れるようにするための制度です。
計画的な貯金は、その自立への重要なステップとなります。
「貯金をしたら保護が打ち切られる」という誤解から、目的のある貯蓄まで諦める必要はありません。
正直にケースワーカーに相談し、承認を得れば、将来に向けた準備ができます。
ただし、制度を悪用して高額な貯金をしたり、目的を偽ったりすることは、他の受給者や納税者に対する背信行為となります。
必要最低限の範囲で、自立のための合理的な貯金を心がけてください。
生活保護から脱却し、経済的に自立できることが最終的な目標です。
そのための準備として、適切に貯金を活用していきましょう。
わからないことや不安なことがあれば、一人で判断せず、必ずケースワーカーに相談してください。

