生活保護を受給している方、またはパートナーが受給している方の中で、「結婚はできるのか」「結婚したら保護費はどうなるのか」「どんな手続きが必要なのか」といった不安や疑問を抱えている方は少なくありません。
経済的な困難があっても、愛する人と結ばれ、幸せな家庭を築きたいという願いは、誰もが持つ正当な権利です。
本記事では、生活保護受給者の結婚について、ルール、手続き、保護費の変化、注意点、そして幸せな結婚生活を送るためのアドバイスまで、具体例を交えて詳しく解説します。

生活保護受給者は結婚できるのか

結論:結婚は可能であり、権利として保障されている
生活保護を受給していても、結婚することは認められています。
日本国憲法第24条は、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」と定めています。
生活保護を受給しているという理由で結婚を制限されることはなく、婚姻の自由は保障された基本的人権です。
生活保護法上の扱い
結婚は推奨される 生活保護法の趣旨は「自立の助長」です。結婚により精神的・経済的に安定し、自立に向かうのであれば、むしろ推奨されるべきことです。
ケースワーカーの対応 結婚を報告すると、ケースワーカーは以下の対応を行います。
- 世帯構成の変更手続き
- 保護費の再計算
- 新生活に必要な支援の検討
結婚を妨げるような対応は、法的に認められません。

結婚により自立する場合
保護廃止の可能性 結婚相手に安定した収入があり、世帯全体の収入が最低生活費を上回る場合、生活保護は廃止となります。


就労自立給付金 就労により保護廃止となる場合と同様、結婚により廃止となる場合も、一定の条件下で「就労自立給付金」が支給されることがあります(自治体により異なる)。

結婚時の手続き

1. 婚姻届の提出
通常の結婚と同じ 市区町村役場に婚姻届を提出します。生活保護受給者であっても、手続きは一般の方と全く同じです。
必要書類
- 婚姻届
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード等)
- 戸籍謄本(本籍地以外で提出する場合)
2. 福祉事務所への報告
速やかに報告が必要 婚姻届を提出したら、速やかに(遅くとも1週間以内に)福祉事務所のケースワーカーに報告します。
報告内容
- 結婚した事実
- 配偶者の氏名、生年月日
- 配偶者の収入状況
- 新しい住所(転居する場合)
- 配偶者の健康状態
提出書類
- 婚姻届の受理証明書または戸籍謄本
- 配偶者の収入証明書(給与明細、源泉徴収票等)
- 配偶者の資産申告書
- 新住所の賃貸契約書(転居する場合)
3. 世帯構成の変更手続き
単身世帯から夫婦世帯へ ケースワーカーが世帯構成を変更し、保護費を再計算します。
調査が行われる
- 配偶者の収入調査
- 配偶者の資産調査
- 扶養義務者(配偶者の親族)への照会
新しい保護決定通知 世帯変更後の保護費が記載された決定通知書が送付されます。

保護費の変化

夫婦2人世帯の保護費
基本的な計算式
保護費 = 生活扶助(1類×2人分 + 2類) + 住宅扶助 + 各種加算
単身世帯と夫婦世帯の比較(東京都区部・40代の例)
| 項目 | 単身世帯 | 夫婦世帯(2人とも無収入) |
|---|---|---|
| 生活扶助 | 約75,000円 | 約117,000円 |
| 住宅扶助 | 53,700円 | 64,000円 |
| 合計 | 約128,700円 | 約181,000円 |
増加額 夫婦2人になると、約5万円程度の増加となります。

配偶者に収入がある場合
収入認定 配偶者に収入がある場合、その収入が世帯収入として認定されます。
計算例(配偶者の月収10万円の場合)
- 世帯の最低生活費:約181,000円
- 配偶者の収入:100,000円
- 勤労控除:約15,000円(収入に応じて控除)
- 収入認定額:85,000円
- 保護費支給額:181,000円 – 85,000円 = 約96,000円
完全に廃止される場合 配偶者の収入が世帯の最低生活費を継続的に上回る場合、生活保護は廃止されます。


配偶者が生活保護を受給していない場合
世帯全体で審査 配偶者が生活保護を受給していない場合でも、結婚により世帯を合算して審査されます。
配偶者の収入・資産の調査
- 給与収入
- 預貯金
- 不動産等の資産
- 生命保険の解約返戻金
配偶者の収入が十分な場合 配偶者が世帯を支えるだけの収入があれば、保護は廃止されます。
結婚に伴う費用と支援

結婚式・披露宴
保護費から支出は困難 生活保護費は「最低限度の生活」を保障するものであり、結婚式や披露宴のような特別な支出を想定していません。
現実的な選択肢
- 入籍のみ(婚姻届の提出のみ)
- 親族のみの小規模な食事会
- フォトウェディング(写真のみ)
- 将来、自立してから改めて式を挙げる
親族等の援助 親族が結婚式の費用を援助してくれる場合、その援助は「一時的な収入」として扱われ、保護費から差し引かれる可能性があります。ケースワーカーに事前に相談しましょう。

新居の費用
転居を伴う場合 結婚により転居する場合、以下の費用が必要です。
敷金・礼金・引越し費用
- 一時扶助として支給される可能性がある
- 事前にケースワーカーに相談が必要
- 上限額は自治体により異なる

家具・家電
- 既存のものを使う
- 中古品を活用
- 保護費からの貯蓄(ただし限度あり)
- 社会福祉協議会の貸付制度

住居選び
- 住宅扶助の上限内の家賃
- 東京都区部夫婦2人:64,000円
- 大阪市夫婦2人:54,000円

結婚指輪
高額な指輪は困難 数十万円の結婚指輪を購入することは、生活保護の趣旨に反します。
現実的な選択肢
- シンプルな指輪(数千円~1万円程度)
- 将来、自立してから購入
- 指輪なしで結婚(形式にこだわらない)
結婚後の生活

共働きを目指す
自立への道 夫婦2人で働くことで、生活保護からの自立を目指すことができます。
就労支援の活用
- ハローワークとの連携
- 就労準備支援プログラム
- 職業訓練
勤労控除の活用 働き始めても、すぐに保護費が全額減額されるわけではなく、勤労控除により手元に残るお金が増えます。

子どもを持つ場合
出産費用
- 出産扶助により支給される
- 上限額の範囲内で実費支給

子育て世帯の保護費
- 児童養育加算:第1子約10,000円/月
- 母子(父子)加算:該当しない(夫婦世帯のため)
- 教育扶助:義務教育の費用
計画的な家族計画 経済的な自立の見通しを立てながら、家族計画を考えることが重要です。

家計管理
限られた予算でのやりくり 夫婦2人の生活扶助費は約117,000円(東京都区部)です。
支出の内訳例
- 食費:約50,000円
- 光熱費:約15,000円
- 通信費:約5,000円
- 日用品:約5,000円
- 衣服費:約3,000円
- 交際費・娯楽:約5,000円
- 予備費:約34,000円
計画的な家計管理が、円満な結婚生活の鍵です。

注意点とトラブル防止

1. 事実婚・同棲の扱い
事実婚も「世帯」として扱われる 婚姻届を出していなくても、同居して生計を共にしている場合、「事実上の夫婦」として世帯合算されます。
隠すと不正受給 同棲していることを隠して単身世帯として保護費を受け取ると、不正受給となります。
罰則
- 保護費の返還請求
- 保護の停止・廃止
- 刑事告発の可能性
必ず報告 同棲を始める場合も、必ずケースワーカーに報告してください。


2. 偽装結婚の禁止
絶対にしてはいけない 保護費を増やす目的や、在留資格取得のための偽装結婚は、犯罪です。
罰則
- 公正証書原本不実記載罪
- 詐欺罪
- 生活保護法違反
3. 配偶者の収入の申告
正直な申告が必須 配偶者の収入は、すべて正直に申告する必要があります。
隠すと不正受給 収入を隠したり、少なく申告したりすると、不正受給となります。
調査で発覚
- 税務署への照会
- 勤務先への調査
- 銀行口座の調査

4. DV・モラハラへの対応
結婚後にDVが発覚した場合 配偶者からDVやモラハラを受けた場合、速やかに以下に相談してください。
- 福祉事務所のケースワーカー
- 配偶者暴力相談支援センター(DV相談ナビ:#8008)
- 警察
- 弁護士、法テラス
保護の継続 DV被害を理由に別居・離婚する場合、生活保護は継続または再開されます。
幸せな結婚生活を送るために

1. お互いの理解と支え合い
経済的困難を共に乗り越える 生活保護を受けているという状況を、二人で前向きに捉え、支え合いましょう。
目標を共有する 「〇年後には自立する」など、具体的な目標を共有することで、絆が深まります。
2. 計画的な生活設計
家計簿をつける 収入と支出を記録し、無駄を省きましょう。
将来の計画を立てる
- 就労計画
- 貯蓄計画
- 住居の計画
- 子どもの計画
3. 周囲のサポートを活用
ケースワーカーとの良好な関係 困ったことがあれば、遠慮なく相談しましょう。
支援団体の活用
- 社会福祉協議会
- NPO法人
- 地域のコミュニティ
4. 前向きな姿勢
生活保護は一時的な支援 多くの人が生活保護から自立しています。前向きに努力し続けることが大切です。
幸せは自分たちで作る 経済的に豊かでなくても、愛情と工夫で幸せな家庭を築くことができます。
よくある質問

Q: 結婚相手が生活保護に反対している場合は?
A: パートナーと十分に話し合い、理解を得ることが大切です。生活保護は一時的な支援であり、自立を目指すことを説明しましょう。どうしても理解が得られない場合、結婚のタイミングを見直すことも選択肢です。
Q: 相手の親族に反対されています
A: 相手の親族の理解を得ることは大切ですが、最終的には二人の意思が尊重されます。誠実に状況を説明し、自立に向けた計画を示すことで、理解を得られる可能性があります。


Q: 結婚したことを隠し続けることはできますか?
A: できません。隠し続けると不正受給となり、発覚した場合、返還請求や刑事告発の対象となります。必ず報告してください。
Q: 籍を入れずに事実婚ではダメですか?
A: 事実婚も法律上の婚姻と同様に世帯合算されます。生活保護の観点からは、法律婚も事実婚も同じ扱いです。
Q: 結婚を理由に保護を打ち切られることはありますか?
A: 配偶者の収入が十分にあり、世帯の最低生活費を上回る場合は保護廃止となりますが、これは正当な理由です。結婚したという理由だけで、無条件に打ち切られることはありません。

Q: 結婚後、働けるようになったら保護はどうなりますか?
A: 世帯収入が最低生活費を継続的に上回れば、保護は廃止されます。これは望ましい「自立」です。
Q: 相手が借金を抱えている場合は?
A: 配偶者の借金は、原則として個人の債務であり、結婚しても自動的に共有されるわけではありません。ただし、生活保護では借金の返済は認められていないため、配偶者が保護費から返済することはできません。債務整理を検討する必要があります。


まとめ

生活保護受給者の結婚について、重要なポイントをまとめます。
結婚の可否
- 生活保護受給者でも結婚は認められている
- 婚姻の自由は憲法で保障された基本的人権
- 結婚を制限されることはない
手続き
- 婚姻届を市区町村役場に提出
- 速やかに福祉事務所に報告
- 世帯構成の変更手続き
- 保護費の再計算
保護費の変化
- 単身→夫婦:約5万円増(東京都区部)
- 配偶者の収入は世帯収入として認定
- 配偶者の収入が十分なら保護廃止
結婚費用
- 結婚式は現実的に困難
- 転居費用は一時扶助の可能性あり
- 家具・家電は中古品活用
注意点
- 事実婚・同棲も世帯合算
- 偽装結婚は犯罪
- 配偶者の収入は正直に申告
- DV被害は速やかに相談
幸せな結婚生活のために
- お互いの理解と支え合い
- 計画的な生活設計
- 周囲のサポート活用
- 前向きな姿勢
生活保護を受けていても、愛する人と結婚し、幸せな家庭を築くことは可能です。適切な手続きを踏み、計画的に生活することで、やがて自立し、より豊かな人生を送ることができるでしょう。

