「年金をもらっていると生活保護は受けられないの?」「年金だけでは生活が苦しいけど、どうすればいい?」年金を受給している高齢者の中には、このような不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
結論から言うと、年金を受給していても生活保護は申請・受給できます。
2025年度の国民年金満額は月額約6.9万円ですが、東京都23区の単身世帯の最低生活費は約13万円です。

つまり、国民年金だけでは生活保護基準を大きく下回るため、不足分の約6万円を生活保護で補うことができます。
この記事では、生活保護と年金の併給について、受給条件、計算方法、申請手続き、よくある誤解まで、最新データとともに徹底解説します。
生活保護と年金は両方もらえる【結論】

答え: 両方受給できます
年金を受給していても、生活保護を受けることは可能です。
これは法律で認められており、決して不正受給ではありません。

併給の仕組み
生活保護は「収入が最低生活費を下回る場合に、その不足分を補う」制度です。
生活保護費 = 最低生活費 – 収入(年金を含む)
年金は「収入」として扱われますが、年金額が最低生活費に満たない場合、その差額が生活保護費として支給されます。

実際の受給状況
生活保護受給世帯の約55%は高齢者世帯です。
つまり、多くの高齢者が年金と生活保護を併給しています。
2024年8月時点
- 生活保護受給世帯: 約165万世帯
- うち高齢者世帯: 約90万世帯以上
これらの高齢者世帯の多くが、年金を受給しながら生活保護も受けています。
生活保護と年金の基本的な違い

制度の目的
年金
- 高齢になっても安定した生活を送るための仕組み
- 現役時代に納めた保険料に基づく社会保険
- 老後の生活資金を支える
生活保護
- 最低限の生活を保障し、自立を支援するための制度
- 税金を財源とする公的扶助
- 生活困窮者を支える最後のセーフティネット
受給条件の違い
| 項目 | 年金 | 生活保護 |
|---|---|---|
| 主な条件 | 保険料の納付実績 | 収入が最低生活費以下 |
| 収入制限 | なし | あり |
| 資産制限 | なし | あり(一定額以下) |
| 年齢制限 | 原則65歳以上 | なし |
| 納付期間 | 10年以上必要 | 不要 |
支給額の決まり方
年金
- 納付期間と納付額で決まる
- 国民年金: 最大約6.9万円/月
- 厚生年金: 平均約14万円/月
生活保護
- 地域や世帯構成で決まる
- 東京23区単身: 約13万円/月
- 地方都市単身: 約10万円/月
併給の条件|いくら以下なら受給できる?

唯一の条件
生活保護と年金を併給するための条件は、実はたった1つです。
条件: 年金を含む収入が最低生活費を下回っていること
これだけです。
年金額がいくらであっても、この条件を満たせば生活保護を受給できます。
最低生活費とは
厚生労働省が定める「健康で文化的な最低限度の生活」を送るために必要な費用です。
2025年4月時点の最低生活費(単身世帯)
| 地域 | 最低生活費 |
|---|---|
| 東京都23区 | 約138,000円 |
| 大阪市 | 約118,000円 |
| 札幌市 | 約113,000円 |
| 地方都市 | 約95,000円〜105,000円 |
内訳
- 生活扶助: 食費、光熱費など
- 住宅扶助: 家賃相当額
- 特例加算: 1,500円/人



年金額別の受給可否
国民年金満額(約6.9万円)の場合
最低生活費13.8万円 – 年金6.9万円 = 生活保護費6.9万円→ 受給可能
厚生年金平均(約14万円)の場合
最低生活費13.8万円 – 年金14万円 = 生活保護費0円→ 受給不可
厚生年金10万円の場合
最低生活費13.8万円 – 年金10万円 = 生活保護費3.8万円→ 受給可能
その他の条件
年金額以外にも、生活保護の一般的な受給条件を満たす必要があります。
- 資産の活用: 一定以上の預貯金、不動産がない
- 能力の活用: 65歳以上は原則として就労義務なし
- 他の制度の活用: 年金など他の制度を優先
- 扶養義務者の扶養: 親族からの援助が困難
【シミュレーション】実際にいくらもらえる?

ケース1: 国民年金のみ・単身世帯(東京都23区)
前提条件
- 65歳・単身
- 国民年金満額: 69,308円/月
- 東京都23区在住
計算
- 最低生活費: 138,000円
- 年金収入: 69,308円
- 生活保護費: 68,692円
実際の手取り: 年金69,308円 + 生活保護費68,692円 = 138,000円
ケース2: 国民年金のみ・夫婦世帯(地方都市)
前提条件
- 夫婦とも65歳以上
- 国民年金: 夫69,308円 + 妻69,308円 = 138,616円/月
- 地方都市在住
計算
- 最低生活費: 161,000円
- 年金収入: 138,616円
- 生活保護費: 22,384円
実際の手取り: 年金138,616円 + 生活保護費22,384円 = 161,000円
ケース3: 厚生年金あり・単身世帯(大阪市)
前提条件
- 65歳・単身
- 厚生年金: 90,000円/月
- 大阪市在住
計算
- 最低生活費: 118,000円
- 年金収入: 90,000円
- 生活保護費: 28,000円
実際の手取り: 年金90,000円 + 生活保護費28,000円 = 118,000円
ケース4: 厚生年金高額・単身世帯
前提条件
- 65歳・単身
- 厚生年金: 150,000円/月
- 東京都23区在住
計算
- 最低生活費: 138,000円
- 年金収入: 150,000円
- 生活保護費: 0円(受給不可)
実際の手取り: 年金150,000円のみ
比較表
| ケース | 年金額 | 生活保護費 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 国民年金・東京 | 69,308円 | 68,692円 | 138,000円 |
| 国民年金・夫婦 | 138,616円 | 22,384円 | 161,000円 |
| 厚生年金・大阪 | 90,000円 | 28,000円 | 118,000円 |
| 厚生年金・高額 | 150,000円 | 0円 | 150,000円 |
重要なポイント
生活保護と年金を併給しても結果的に受け取る金額は同じになる
年金が多い人も少ない人も、最終的に受け取る金額は「最低生活費」に調整されます。
ただし、年金が最低生活費を上回れば、生活保護は受給できません。
生活保護受給中の年金保険料はどうなる?

国民年金保険料は免除される
生活保護を受給している間、国民年金保険料の支払いは法定免除されます。
これは法律で定められており、申請すれば自動的に免除されます。

免除の影響
メリット
- 保険料の支払い負担がなくなる
- 免除期間も受給資格期間(10年)にカウントされる
デメリット
- 将来の年金額が減少する
具体的な減少額
- 全額免除の場合: 受給額が本来の2分の1になる
- 40年間全額免除: 満額約6.9万円→約3.5万円
追納制度
10年以内なら追納可能
生活保護から脱却した後、免除期間から10年以内であれば、保険料を後から納めることができます。
追納のメリット
- 将来の年金額を増やせる
- 老後の生活安定につながる
追納の方法
- 年金事務所に申し出る
- 納付書が送られてくる
- 納付(古い月から順に)
厚生年金の場合
生活保護を受給しながら働いている場合は厚生年金保険料は給与から天引きされるため、生活保護受給中でも支払いが続きます。

ただし、働いて得た収入は、生活保護費から差し引かれます(基礎控除あり)。

障害年金・遺族年金との併給

障害年金との併給
障害年金を受給していても、生活保護は受けられます。

障害年金も「収入」として扱われ、年金額が最低生活費を下回れば、差額が生活保護費として支給されます。
障害年金の額(2025年度)
- 障害基礎年金1級: 月額約86,000円
- 障害基礎年金2級: 月額約69,000円
例: 障害基礎年金2級・東京都23区単身
- 最低生活費: 138,000円
- 障害年金: 69,000円
- 生活保護費: 69,000円
遺族年金との併給
遺族年金も同様に、生活保護と併給可能です。
遺族年金の額が最低生活費を下回れば、差額が支給されます。
遺族年金の額
- 遺族基礎年金: 子の人数により異なる
- 遺族厚生年金: 夫の厚生年金の4分の3
年金生活者支援給付金との併給
年金生活者支援給付金も併給可能です。
これは、年金に上乗せして給付される制度で、生活保護との同時受給も認められています。
給付額
- 老齢年金生活者支援給付金: 月額約5,000円
申請方法と必要書類

申請の流れ
ステップ1: 福祉事務所に相談
お住まいの地域を管轄する福祉事務所に相談します。

ステップ2: 必要書類の準備
以下の書類を準備します。
- 生活保護申請書
- 年金証書
- 年金振込通知書
- 通帳(全ての口座)
- 賃貸契約書
- 光熱費の請求書
- その他収入がわかる書類
ステップ3: 申請書類の提出
福祉事務所で申請書を記入・提出します。
ステップ4: 調査
ケースワーカーによる家庭訪問や資産調査が行われます。



ステップ5: 審査・決定
原則14日以内(最長30日)に結果が通知されます。
ステップ6: 受給開始
承認されれば、翌月から支給が開始されます。

年金に関する特別な手続き
年金を受給していない場合
生活保護を申請すると、福祉事務所から年金の受給手続きをするよう求められます。
なぜなら生活保護では、「他の制度の活用」が優先されるため、受給資格がある年金はすべて申請する必要があるからです。
手続きの手順
- 年金事務所で年金請求書を提出
- 年金が受給開始されるまで、生活保護費は満額支給
- 年金受給開始後、生活保護費から年金額を差し引き
よくある誤解と正しい知識

誤解1: 「年金をもらうと生活保護は受けられない」
真実: 年金額が最低生活費を下回れば受給可能
年金を受給していても、その額が最低生活費に満たなければ、差額を生活保護で補うことができます。
誤解2: 「年金と生活保護を両方もらうのは不正受給だ」
真実: 法律で認められた正当な権利
生活保護は「最低生活費に満たない部分を補う」制度であり、年金との併給は法律で認められています。
誤解3: 「生活保護を受けると年金がもらえなくなる」
真実: 年金は継続して受給できる
生活保護を受けても、年金の受給権は失われません。年金は継続して受け取れます。
誤解4: 「年金が少ないから生活保護を受けると、年金保険料を払っていた意味がない」
真実: 年金があれば生活保護から脱却しやすい
年金があることで
- 働いて収入が増えたとき、生活保護から脱却しやすい
- 年金は生涯受け取れるが、生活保護は収入が増えれば停止
- 年金の方が社会的な偏見が少ない
誤解5: 「生活保護を受けると、年金を全額取られる」
真実: 年金は全額受け取れる
年金は本人の口座に振り込まれ、本人が使えます。ただし、生活保護費の計算時に「収入」として差し引かれるだけです。
年金と生活保護費の内訳例
- 年金7万円が本人の口座に振込
- 生活保護費6万円が別途振込
- 合計13万円を本人が使える
よくある質問

Q1: 年金が月4万円でも生活保護は受けられますか?
A: はい、受けられます。
年金4万円は最低生活費(東京23区で約13.8万円)を大きく下回るため、差額の約9.8万円が生活保護費として支給されます。
Q2: 年金と生活保護、どちらが得ですか?
A: 両方受け取るのが最も得です。
年金だけでは最低生活費に満たない場合、生活保護で差額を補うことで、最低生活費分の収入が保障されます。
Q3: 生活保護を受けると、将来の年金額は減りますか?
A: はい、減る可能性があります。
生活保護受給中は年金保険料が免除されるため、将来の年金額が減少します。ただし、追納制度で後から納めることも可能です。
Q4: 厚生年金を受給していても生活保護は受けられますか?
A: 年金額次第で受けられます。
厚生年金が最低生活費を下回っていれば、差額を生活保護で受け取れます。ただし、厚生年金の平均額(約14万円)は最低生活費を上回ることが多いため、受給できないケースも多いです。
Q5: 年金を担保にお金を借りることはできますか?
A: 2022年3月末で終了しました。
以前は「年金担保貸付制度」がありましたが、2022年3月末で新規受付が終了しています。
Q6: 生活保護を受けながら年金を増やす方法はありますか?
A: 追納制度を利用できます。
生活保護から脱却した後、免除期間の保険料を10年以内に納めることで、将来の年金額を増やせます。
Q7: 年金を受給開始する前に生活保護を受けています。年金が始まったらどうなりますか?
A: 年金額に応じて生活保護費が減額されます。
年金が受給開始されたら、福祉事務所に報告します。その後、年金額分が生活保護費から差し引かれます。
Q8: 夫婦で年金を受給していますが、生活保護は受けられますか?
A: 夫婦の年金合計が最低生活費を下回れば受けられます。
夫婦2人の最低生活費(東京23区で約18.7万円)に対し、年金合計額が下回っていれば、差額が支給されます。
まとめ

生活保護と年金の併給|重要ポイント
1. 両方もらえる
- 年金を受給していても生活保護は申請・受給可能
- 法律で認められた正当な権利
- 高齢者世帯の約55%が生活保護を受給
2. 唯一の条件
- 年金を含む収入が最低生活費を下回ること
- 年金額がいくらでも、この条件を満たせば受給可能
3. 計算方法
生活保護費 = 最低生活費 - 年金収入
4. 具体的な金額(東京23区・単身)
- 国民年金満額6.9万円 → 生活保護費6.9万円
- 厚生年金10万円 → 生活保護費3.8万円
- 厚生年金15万円 → 生活保護費0円(受給不可)
5. 年金保険料は免除
- 生活保護受給中は国民年金保険料が法定免除
- 将来の年金額は減少する
- 追納制度で後から納めることも可能
6. 障害年金・遺族年金も併給可能
- どの種類の年金でも、生活保護との併給は可能
- 計算方法は同じ
7. 申請は福祉事務所へ
- 年金証書、通帳などを持参
- 年金を受給していることを正直に申告
- 原則14日以内に結果通知
よくある誤解の訂正
誤解: 年金をもらうと生活保護は受けられない
真実: 年金額が少なければ差額を受け取れる
誤解: 両方もらうのは不正受給
真実: 法律で認められた正当な権利
誤解: 年金を払った意味がない
真実: 年金があれば自立しやすい
最後に
年金だけでは生活が苦しい高齢者にとって、生活保護は重要なセーフティネットです。
「年金をもらっているから生活保護は無理」「恥ずかしい」と思わず、困ったときは遠慮なく福祉事務所に相談してください。
生活保護は国民の権利であり、年金との併給は法律で認められた正当な受給方法です。
健康で文化的な最低限度の生活は、すべての国民に保障された権利です。

