生活保護の申請をすると、各種調査が実施されます。
その調査の中に扶養義務調査と言うものがあり、生活保護の申請者の親族に対して扶養照会が送られます。
扶養照会を送られる親族からすると、ある日突然行政から「扶養できませんか?」と書類が来るわけですから、驚くと同時に、どう回答したら良いのか困惑されると思います。
そこで、このページでは、生活保護の扶養照会とは何なのか?絶対に扶養しなければいけないのか?扶養照会の断り方や逆に仕送り等を送る場合の注意点等、扶養照会に関するあらゆる疑問にわかりやすくご説明します。
扶養照会・扶養義務とは
民法第877条に「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」と定められています。
また、生活保護法第4条第2項に「民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。」と定められています。
これらの法律を根拠にケースワーカーは生活保護申請者の親族等に対して扶養照会を行います。
同時に、これらの法律があるため、ケースワーカーは申請者が生活保護の条件に該当するかどうかの判断をする上で、必ず扶養照会をしなければいけません。
扶養照会の内容についてですが、様式は各自治体によって異なります。
大抵の様式では、はじめに「あなたの親族である○○さんが生活保護を申請しているため、扶養できませんか?」と言う説明文が書かれており、次に経済的援助や心理的援助ができるかどうかを記入する欄があります。
経済的援助とは、皆さんがイメージするとおり、仕送り等の金銭面での援助のことを言います。
心理的援助とは、生活保護の受給を開始すると、人間関係を断ち切り、孤立する方が増えるため、孤立しないように時々連絡をしたり、生活保護受給者及び親族にしか出来ない手続き等があるため、それらの手続き等をすることを言います。
例えば入院する場合の手続きや手術をする場合の同意等が、心理的援助に該当します。
心理的援助のみの場合、費用に関しては全額生活保護費から出ますので、親族は金銭的な負担を気にする必要はありません。
あくまで手続き面での援助が心理的援助になります。
生活保護の扶養照会では、上記2つの援助について、それぞれできるかどうかを親族に回答してもらいます。
収入や資産があったら絶対に扶養しなければいけない?
名称が「扶養義務」なので、非常に責任重大な印象を受けますが、親族は扶養義務を果たさなくても罰則等は何もありません。
あくまで扶養義務は「できるだけ家族・身内同士は助け合いましょう」と言う趣旨の内容に過ぎません。
そのため、収入や資産がなくて扶養する資力がない場合はもちろん、仮に収入や資産があったとしても扶養する必要はありません。
実際によくある例ですが、血縁関係ではあるものの幼い頃に両親が離婚してから一度も会ったことがない方の親であったり、小さい頃にひどい虐待を受けたため、二度と関わりたくない等、各家庭の事情があるため、扶養したくないのであれば、扶養する必要はありません。
扶養照会の断り方はどうすれば良い?
扶養照会の断り方についてですが、扶養照会への回答は正直に扶養できないなら「扶養できない」、扶養したくないなら「扶養したくない」と答えて大丈夫です。
扶養できない、もしくは扶養したくない場合の理由については、書いても書かなくても、どちらでもかまいません。
家族・身内の方が「扶養できない」もしくは「扶養したくない」と回答しても、生活保護の受給要件には何ら影響を及ぼさないため、どう回答しても問題ありません。
実際、扶養照会を行った結果、金銭的な援助につながった例は1.45%しかなく、福祉事務所も、そもそも経済的援助を受けられると思って扶養照会を行っているわけではないため、正直に書いて頂いて大丈夫です。
また、扶養照会に対して「扶養できない」もしくは「扶養したくない」と回答した親族の方が何らかの罰則やペナルティを科せられることはありませんし、回答内容が他人に知られることもありませんので、安心して扶養照会に回答して下さい。
扶養照会で資産や収入まで調査される?
扶養照会の様式によっては、収入や資産について記入する欄がありますが、収入や資産について報告するかどうかは任意です。
そのため収入や資産について知られたくない場合は、無記入で問題ありません。
ネット等では、「扶養照会に応じない場合は親族も収入や資産が調査される」と書かれていることがありますが、福祉事務所が親族の収入や資産を調査することは絶対にありません。
なぜなら、調査権限がないからです。
生活保護法第29条を根拠に、生活保護申請者・受給者の収入や資産を調査することはできます。
ただし、この29条を根拠とする調査権も生活保護申請者・受給者の同意がなければ銀行や保険会社等から回答をもらうことができません。
扶養義務者である親族は29条調査の対象者に含まれていませんし、同意書もないわけですから、親族の方が収入や資産を調査されることはありません。
扶養照会を無視したらどうなる?
扶養照会に答えたくない、もしくは忙しくて扶養照会の回答を忘れてしまった場合など、扶養照会を無視した場合はどうなるのでしょうか?
実は、扶養照会を無視しても何もありません。
福祉事務所としては、扶養照会を送った時点で、生活保護の要否を判断するうえで必要な作業は行っています。
そして、扶養照会に回答がない場合、福祉事務所は「扶養できない」と判断します。
扶養するつもりがある場合は、後日、回答を送るなり、実際に仕送りをすれば良いので、扶養照会を無視しても特に問題はありません。
ただし、扶養照会を無視した場合、福祉事務所によっては、「まだ返答がない以上、扶養してくれる可能性がある」と判断し、何度も何度も扶養照会を送ってくる可能性があります。
扶養照会を今後送ってこないようにしてもらう方法
扶養照会を無視した場合や、扶養照会に回答しても、数年経過すると、経済状況も変わってくることから、再度扶養照会が福祉事務所から送られてくることがあります。
上記のとおり、扶養照会そのものを無視しても特に何もないため、扶養照会が来ても無視をすれば良い話ではありますが、そもそも扶養照会を二度と送ってもらいたくない人もいると思います。
扶養照会を送ってもらいたくない場合は、扶養照会に対して「絶縁関係のため、扶養するつもりは一切なく、扶養照会を送られること自体、非常に迷惑なため、二度と扶養照会を送らないで欲しい」と書いて回答しましょう。
経済状況等に関係なく、扶養できる見込みが0%だと分かれば福祉事務所も扶養照会をすることはなくなります。
親族に生活保護を受けさせたくない場合は?
前もって相談する方もいますが、大抵の方は相談をせず、扶養照会が来て、はじめて親族が生活保護の申請をしていることを知る事が多いと思います。
そして、中には生活保護を受給することが恥だと思い、親族に生活保護を受けさせたくない方もいらっしゃると思います。
では、親族に生活保護を受けさせたくない場合は、どうすれば良いでしょうか?
残念ながら、親族に生活保護を受けさせたくないのであれば、その親族を扶養するしかありません。
生活保護を申請する権利は国民全員に与えられており、それを他人が制限することはできません。
そのため、親族に生活保護を受けさせたくない場合は、最低生活費以上の支援をする必要があります。
仕送りする場合の方法や注意点
生活保護受給者に仕送りをする方法についてですが、仕送りと言うと、現金を送ることをイメージすると思いますが、お米や野菜等の現物による仕送りも、もちろん可能です。
また、現金で仕送りをする場合、毎月決まった金額を仕送りしないといけないと思う方もいますが、毎月決まった金額を仕送りする必要もありません。
自身の生活の方が優先されるため、月によっては仕送り額が少なくなったり、仕送りが送れないこともあると思います。
そのため、仕送りの手段や金額、量などは特に気にする必要はなく、扶養できる範囲で仕送りをすれば大丈夫です。
次に仕送りをする際の注意点ですが、生活保護受給者が現金で仕送りを受け取った場合、生活保護受給者は収入申告をしなければいけません。
そして、仕送りした金額分、収入認定をされて、生活保護費が減額されます。
例えば毎月の生活保護費の支給額が10万円の生活保護受給者の方が親族から5万円の仕送りを受け取った場合、その月の生活保護費は5万円減額されることになります。
生活保護制度は、最低生活費に足りない分を支給する制度のため、仕送りがあれば、その分、生活保護費が減額されるのは仕方がありません。
しかし、それでもどうしても、生活保護費が減額されることに納得ができない方もいらっしゃると思います。
そういう方は食料等の現物による仕送りをする、もしくは現金で仕送りをする場合は銀行口座を使わず直接手渡しをするようにして下さい。
現物支給の場合や銀行口座を介さずに現金を直接手渡しした場合は、本人が申告をしない限り、福祉事務所は知ることができないため、収入認定をすることができませんし、不正受給と立証することもできません。
まとめ
生活保護の扶養照会とは何なのか?絶対に扶養しなければいけないのか?扶養照会の断り方や逆に仕送り等を送る場合の注意点等についてご説明させていただきました。
上記をまとめると
- 生活保護を申請すると民法の扶養義務を根拠に親族に扶養照会が送られる
- 収入や資産があっても扶養したくない場合は断って良い
- 扶養照会を断ったことによる罰則等はなく、また、回答内容が他人に知られることもない
- 扶養照会を受けた親族の収入や資産が調査されることはない
- 扶養照会を無視した場合は、福祉事務所から扶養できないと見なされる
- 生活保護の申請を制限する権利はないため、親族に生活保護を受給させたくない場合は、扶養するしか方法がない
- 自身の生活が最優先であり、また、仕送りの手段や金額、量は自由のため、毎月仕送りをする必要はない
- 仕送りを収入認定されたくない場合は、食料等の現物もしくは銀行口座を介さず直接現金を手渡せば良い
となります。
その他、生活保護に関する様々な疑問については、下記にまとめてありますので、ぜひ参考にしていただけたらと思います。
https://seikathuhogomanabou.com/category/qa/
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