生活保護の「廃止」とは、受給していた生活保護が終了することを指します。
廃止には様々な理由があり、自ら希望する場合もあれば、福祉事務所の決定による場合もあります。
この記事では、生活保護の廃止に関するすべての情報を、わかりやすく解説します。
生活保護の廃止について知っておくべき基本

廃止と停止の違い
生活保護の終了には「廃止」と「停止」という2つの形態があります。
生活保護の廃止とは、生活保護の受給資格自体が完全に終了することです。
廃止後に再び保護が必要になった場合は、新規申請が必要になります。
生活保護の停止とは、一時的に保護費の支給が止まることです。
保護の受給資格は継続しているため、状況が変われば支給が再開されます。
主な違い
| 項目 | 廃止 | 停止 |
|---|---|---|
| 受給資格 | なくなる | 継続 |
| 再開方法 | 新規申請が必要 | 状況報告で再開可能 |
| 医療券 | 使えなくなる | 継続して使える場合も |
| ケースワーカー | 担当がいなくなる | 継続して担当 |

生活保護が終了する3つのパターン
生活保護が終了するパターンは、大きく分けて3つあります。
1. 自立による廃止(望ましい形)
就労により収入が増え、自立できる状態になった場合の廃止です。
2. 義務違反による廃止(処分)
不正受給や指示違反など、受給者に問題があった場合の廃止です。
3. 要件欠如による廃止(資格喪失)
転居、入院、死亡など、保護の要件を満たさなくなった場合の廃止です。
それぞれのパターンについて、詳しく見ていきましょう。
自立による廃止

最も望ましい形の廃止は、経済的に自立できるようになった場合です。
就労による自立
働いて収入を得られるようになり、生活保護がなくても生活できる状態になった場合です。
就労自立の基準
- 収入が最低生活費を上回る状態が継続する見込みがある
- 安定した雇用形態(正社員、契約社員など)
- 継続して働ける健康状態
具体例:就労による廃止のケース
35歳の単身者が、月収18万円の正社員として就職が決まった場合
- 最低生活費:約13万円(生活扶助+住宅扶助)
- 収入:18万円
- 収入 > 最低生活費 のため、生活保護は廃止
ただし、試用期間中や雇用が不安定な場合は、すぐに廃止せず停止扱いにして様子を見ることもあります。


就労自立給付金
就労により生活保護から自立した場合、「就労自立給付金」が支給されることがあります。
就労自立給付金とは、生活保護を脱却した際に、自立した生活を継続できるよう支援する一時金です。
支給要件
- 就労収入の増加により保護廃止となった
- 保護受給中に6ヶ月以上就労していた
- 保護廃止時に就労している
支給額
- 単身世帯:最大10万円程度
- 複数世帯:最大15万円程度
- 実際の金額は、就労期間や収入額によって変動
この給付金は、引越し費用、仕事用の衣服購入、資格取得など、自立した生活を始めるための準備資金として活用できます。


年金受給開始による廃止
高齢者の場合、年金の受給開始や年金額の増加により、生活保護が不要になることがあります。
具体例:年金受給による廃止
70歳の単身者が、年金の繰り下げ受給を開始した場合
- 最低生活費:約12万円
- 繰り下げ受給後の年金:月13万円
- 年金 > 最低生活費 のため、生活保護は廃止
年金の裁定請求手続きをケースワーカーがサポートしてくれることもあります。

扶養義務者からの援助
家族からの継続的な経済的援助が受けられるようになった場合も、廃止の対象となります。
廃止となる援助の基準
- 定期的に最低生活費以上の援助が見込める
- 援助者に安定した収入がある
- 援助の継続性が確認できる
ただし、一時的な援助や少額の援助では廃止にはなりません。

義務違反による廃止(処分としての廃止)

生活保護の受給には、様々な義務が伴います。

これらの義務に違反した場合、廃止処分を受けることがあります。
不正受給
収入や資産を隠したり、虚偽の申告をしたりした場合、不正受給として廃止の対象となります。
不正受給の例
- 就労収入を申告しない
- 預貯金を隠す
- 生命保険の解約返戻金を申告しない
- 年金や手当を受給しているのに申告しない
- 同居人の収入を申告しない
不正受給が発覚した場合の処分
- 保護の廃止
- 不正受給額の全額返還請求
- 最大1.4倍の加算金
- 悪質な場合は刑事告発(詐欺罪)
不正受給は、他の生活保護受給者や納税者への背信行為です。
絶対に避けなければなりません。

指導指示違反
福祉事務所からの指導や指示に従わない場合も、廃止の対象となります。
指導と指示の違い
- 指導:助言・勧告レベル。従わなくても直ちに処分はない
- 指示:従うべき命令。違反すると保護の停止・廃止の対象
指示違反の例
- 就労指導に従わない
- 求職活動をしない
- 健康診断や治療を拒否する
- 転居指導に従わない
- 家計の改善指導に従わない
- 報告義務を怠る
指示違反による廃止のプロセス
- 口頭指導
- 文書による指示
- 弁明の機会の付与
- それでも従わない場合に廃止
指示には正当な理由がある場合が多いため、まずはケースワーカーとよく話し合うことが重要です。

稼働能力の不活用
働く能力があるのに、正当な理由なく働こうとしない場合も、廃止の対象となることがあります。
稼働能力不活用の判断
- 健康状態(働ける身体か)
- 年齢(現役世代か)
- 技能・経験
- 地域の雇用情勢
- 家庭の事情(介護など)
これらを総合的に判断し、働けるのに働かない場合は、保護の要件を満たさないとされます。
注意点 「仕事を選んでいる」と判断されると、稼働能力の不活用とされる可能性があります。ただし、年齢や健康状態、地域の実情に応じた現実的な就労活動をしていれば問題ありません。

資産の保有
保護受給後に、保有が認められない資産を取得した場合も廃止の対象です。
廃止となる資産の例
- 高額な預貯金(生活扶助基準の6ヶ月分を大幅に超える)
- 不動産の取得
- 高級自動車の購入
- 生活に不必要な贅沢品
資産を取得した場合は、必ずケースワーカーに報告してください。
要件欠如による廃止

生活保護の受給要件を満たさなくなった場合の廃止です。
これは受給者の落ち度ではありません。
転居による廃止
他の市区町村に転居した場合、元の福祉事務所での保護は廃止となります。
転居時の手続き
- 事前にケースワーカーに転居の相談
- 転居先の福祉事務所に連絡
- 転居先で新規申請(継続的な保護が必要な場合)
- 元の福祉事務所で廃止手続き
適切に手続きすれば、転居先でスムーズに保護が再開されます。
無断で転居すると、保護費の返還を求められることがあります。

施設入所による廃止
特別養護老人ホームなどの施設に入所した場合、在宅での保護は廃止となります。
施設入所時の取扱い
- 在宅保護は廃止
- 施設保護として新たに開始
- 保護の主体が変わる(市町村から都道府県など)
医療機関への長期入院も、同様の取扱いとなる場合があります。
死亡による廃止
受給者が死亡した場合、当然ながら保護は廃止となります。
死亡時の手続き
- 遺族または関係者が福祉事務所に連絡
- 死亡診断書の提出
- 保護廃止の決定
- 葬祭扶助の申請(該当する場合)
死亡月の保護費は、日割り計算または月額支給されます。

失踪・行方不明
受給者が失踪し、所在が不明になった場合も廃止の対象となります。
失踪時の対応
- 一定期間連絡が取れない場合、調査が行われる
- 捜索の結果、所在不明の場合は廃止
- 後日発見された場合、再度申請が必要
無断で住所を変更したり、連絡を絶ったりすることは避けてください。
廃止の手続きと流れ

生活保護が廃止される際の手続きについて説明します。
廃止決定のプロセス
1. 事前相談・調査
廃止の理由が発生すると、ケースワーカーが状況を調査します。
2. 弁明の機会
処分としての廃止の場合、受給者に弁明の機会が与えられます。
3. 廃止決定
福祉事務所長が廃止を決定します。
4. 廃止決定通知書の交付
決定内容を記載した通知書が交付されます。
5. 廃止の実施
指定された日から保護が廃止されます。
廃止決定通知書の内容
廃止決定通知書には、以下の内容が記載されています。
記載事項
- 廃止の理由
- 廃止の年月日
- 不服申立ての方法(審査請求)
- 問い合わせ先
通知書は必ず保管してください。
後日必要になる場合があります。
廃止後の手続き
廃止が決定したら、以下の手続きが必要です。
返却するもの
- 医療券・介護券(使用中のもの)
- その他、貸与されていた書類
変更する必要があるもの
- 国民健康保険への加入(医療扶助を受けていた場合)
- 国民年金の種別変更(第3号から第1号へなど)
- 税金の申告(就労による自立の場合)
ケースワーカーが必要な手続きについて説明してくれます。
最終月の保護費
廃止月の保護費の取扱いは、廃止の理由によって異なります。
就労による自立の場合
- 月の途中で廃止の場合、日割り計算されることが多い
- または最終月は満額支給される場合もある
不正受給による廃止の場合
- 最終月は支給されないか、減額される
- 既に支給された分の返還を求められる
死亡による廃止の場合
- 死亡月は満額または日割りで支給
- 未支給分は相続人に支給される場合もある
廃止決定への不服申立て

廃止決定に納得できない場合、不服申立てをすることができます。
審査請求の方法
生活保護法に基づく不服申立て制度があります。
審査請求の手順
- 決定通知を受けた日から3ヶ月以内に申立て
- 都道府県知事に対して審査請求書を提出
- 福祉事務所を経由して提出することもできる
- 審査請求の理由を具体的に記載
審査請求書に記載すべき内容
- 申立人の氏名・住所
- 処分の内容(廃止決定)
- 処分を知った年月日
- 不服の理由(具体的に)
- 証拠となる資料(あれば)
審査請求中の保護
審査請求をしても、原則として廃止は執行されます。
執行停止の申立て
審査請求と同時に、決定の執行停止を申し立てることができます。認められれば、審査の結果が出るまで保護が継続されます。
執行停止が認められる要件
- 廃止により回復困難な損害が生じる恐れがある
- 処分に重大な違法がある可能性が高い
生活に困窮する場合は、執行停止を申し立てることを検討してください。
再審査請求
都道府県知事の裁決に不服がある場合、さらに国(厚生労働大臣)に対して再審査請求ができます。
なお、審査請求の期限は裁決書の送達を受けた日から1ヶ月以内です。
行政訴訟
審査請求・再審査請求でも認められない場合、最終的には裁判所に提訴することができます。
行政訴訟の特徴
- 審査請求の裁決後でないと提訴できない(審査請求前置主義)
- 弁護士に依頼することが一般的
- 法テラスの利用も可能
生活保護の再申請

一度廃止されても、再び困窮状態に陥った場合は、再申請が可能です。
再申請できるケース
就労による自立後の再申請
- 失業した
- 病気やケガで働けなくなった
- 収入が大幅に減少した
- 会社が倒産した
就労自立後の再困窮は、決して恥ずかしいことではありません。
必要な時は躊躇せず相談してください。

不正受給などで廃止された場合でも、再申請自体は可能です。
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 不正受給分の返還が完了していることが望ましい
- 同じ理由での廃止を繰り返さないこと
- 誠実な態度で申請すること
再申請の手続き
再申請の手続きは、初回申請と基本的に同じです。
再申請の流れ
- 福祉事務所に相談
- 申請書の提出
- 調査(家庭訪問、資産調査など)
- 決定(原則14日以内、最長30日)
以前と異なる点
- 過去の受給歴が記録に残っている
- 前回の廃止理由が確認される
- 状況の変化を説明する必要がある

再申請時の注意点
再申請をスムーズに進めるために、以下の点に注意してください。
前回の廃止理由を説明する
なぜ前回廃止されたのか、その後の状況がどう変わったのかを正直に説明してください。
現在の困窮状況を具体的に伝える
- 収入がない、または不足している
- 資産がない
- 生活に困っている具体的な状況
改善の意思を示す
前回の反省点を踏まえ、今回は制度を適切に利用する意思があることを伝えてください。
廃止から再申請までの期間
廃止から再申請までの期間に制限はありません。
短期間での再申請
廃止後すぐに(1週間〜1ヶ月程度)再申請することも可能です。ただし、廃止の理由と再申請の理由が矛盾しないよう注意が必要です。
長期間経過後の再申請
数年経過してからの再申請も問題ありません。過去の記録は残っていますが、新たな困窮状況があれば受給できます。
よくある質問と回答

生活保護の廃止について、多くの方から寄せられる質問にお答えします。
Q1. 廃止予告はありますか?
A. 廃止の理由によって異なります。
就労による自立の場合
ケースワーカーと相談しながら進めるため、突然ではありません。通常、数ヶ月前から自立に向けた話し合いがあります。
義務違反による廃止の場合
指導→指示→弁明の機会という段階を踏むため、ある程度の予告はあります。ただし、悪質な不正受給の場合は即座に廃止されることもあります。
要件欠如による廃止
転居や死亡など、事由が発生した時点で速やかに廃止されます。
Q2. 廃止後、国民健康保険に入れますか?
A. はい、入れます。生活保護廃止後は、国民健康保険に加入する必要があります。
手続き
- 廃止決定通知書を持参
- 市区町村の国民健康保険担当窓口で手続き
- 14日以内に手続きすること
保険料の支払いが困難な場合は、減免制度があることもあります。窓口で相談してください。

Q3. 就労自立給付金はいつもらえますか?
A. 保護廃止後、概ね1〜2ヶ月以内に支給されます。
支給の流れ
- 廃止決定
- 就労自立給付金の申請
- 審査
- 口座振込
申請を忘れないよう、ケースワーカーが案内してくれることが多いです。

Q4. 廃止後も医療費の支援はありますか?
A. 生活保護の医療扶助は廃止と同時に終了します。ただし、以下のような支援制度があります。
- 国民健康保険の医療費減免
- 自立支援医療(精神疾患や障害がある場合)
- 高額療養費制度
- 無料低額診療事業(医療機関による)
継続的な治療が必要な場合は、廃止前にケースワーカーに相談し、他の制度につなげてもらってください。

Q5. 家族が生活保護を受給していたことは、廃止後も記録に残りますか?
A. 福祉事務所の記録には残りますが、外部に漏れることはありません。
守秘義務により、生活保護の受給歴が第三者に知られることはありません。ただし、同じ福祉事務所に再申請する場合は、過去の記録が参照されます。

Q6. 廃止は取り消せますか?
A. 廃止決定後でも、以下の場合は取り消される可能性があります。
取消しの可能性があるケース
- 廃止の理由が事実と異なっていた
- 手続きに重大な瑕疵があった
- 審査請求が認められた
廃止に納得できない場合は、速やかに審査請求を行ってください。
まとめ:廃止後の生活も見据えて

生活保護の廃止は、終わりであると同時に新しい始まりでもあります。
廃止の主なパターン
- 就労による自立(最も望ましい)
- 義務違反による処分
- 要件欠如による資格喪失
廃止が決まったらすべきこと
- 廃止決定通知書を確認・保管
- 国民健康保険の加入手続き
- 年金の種別変更(必要に応じて)
- 就労自立給付金の申請(該当する場合)
- 継続的な医療が必要な場合は、他の制度を確認
再び困窮したら
- 遠慮せず再申請する
- 早めの相談が重要
- 過去の廃止理由を踏まえて誠実に対応
自立後の生活を安定させるために
- 計画的な家計管理
- 緊急時の備え(少額でも貯蓄)
- 地域の支援機関との関係維持
- 健康管理
生活保護は、一時的な困窮を乗り越え、自立した生活を取り戻すためのセーフティネットです。
就労により自立できることは素晴らしいことですが、再び困難に直面したときは、遠慮せず再度利用することができます。
廃止について不安や疑問がある場合は、一人で悩まず、ケースワーカーや支援機関に相談してください。
適切なサポートを受けながら、安定した生活を築いていきましょう。

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