「生活保護を受けることは恥ずかしい」「世間に知られたくない」「家族や友人に申し訳ない」困窮していても、こうした感情から申請をためらう方が数多くいます。
本記事では、なぜ「恥ずかしい」と感じるのか、その感情の正体(スティグマ)、生活保護が本来「権利」である法的根拠、実際の受給者の声、そして申請をためらわないでほしい理由を丁寧に解説します。
この記事でわかること
- 「恥ずかしい」と感じる心理の正体(スティグマ)
- 生活保護が憲法で保障された「権利」である法的根拠
- スティグマが生まれる社会的背景
- 実際の受給者が抱える葛藤と声
- 諸外国との比較(日本の特殊性)
- スティグマに負けず申請するべき理由
- 周囲にバレたくない人のための配慮
「恥ずかしい」と感じる心理の正体——スティグマとは

スティグマ(負の烙印)とは
スティグマとは、「その人を貶めるようなレッテル」を意味します。社会学者アーヴィング・ゴッフマンが1963年に提唱した概念で、「働かずにお金を受け取っているずるい人」というような否定的なイメージが、生活保護受給者に対して押し付けられることを指します。
重要なのは、「何がスティグマとなるかは社会的な状況によるもの」であり、生活保護そのものに恥ずべき要素があるわけではないという点です。
受給者自身が自分にスティグマを付与する
研究によれば、「彼・彼女たち自身が生活保護受給者に対してスティグマを付与する主体になっていることも示唆された。このことは、自らが自らに対してスティグマを付与することを意味しており、結果として常に周囲からの目を気にして暮らしていくことになる」と指摘されています。
つまり、社会の偏見を内面化してしまい、自分で自分を責めてしまうのです。
生活保護は憲法で保障された「権利」——恥ずべきものではない

日本国憲法第25条——すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する
日本国憲法の25条には、『健康で文化的な最低限度の生活を保護する』という内容の規定があります。この規定は生存権と言われていますが、基本的人権の視点から、どんな人であろうと無条件に人間らしく生きることを保障するものです。
1950年の生活保護法改正——無差別平等の原則
無差別平等の原則 生活保護法第2条では、「すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を、無差別平等に受けることができる」と明記されています。
権利として認められている
生活保護は、本来は年金や失業保険と同じように、必要な人は誰でも引け目などを感じずに権利として利用できます。
生活保護の利用は生存権の実現にほかなりません。
なぜ「恥ずかしい」と感じるのか——スティグマが生まれる社会的背景

①メディアのバッシング報道
生活保護に対する否定的な世論やメディアのバッシング報道の広がりにより、生活保護受給者のスティグマが増幅します。
一部の不正受給が大きく報道されることで、ごく一部の不正受給が騒がれ、困窮者の困難がかき消されてしまうという現象が起きています。
②福祉事務所の対応
福祉事務所の職員により恣意的な判断がされていたり、水際作戦で追い返されたりして、無差別平等には支給されていないことがあります。また、現場では窓口に相談に来る人を不正受給や犯罪の予備軍と見なすような対応、発言などがされ、スティグマ強化に一役買ってしまっているケースもあります。
水際作戦とは 申請を受け付けずに追い返す違法な対応。「あなたは働けるでしょう」と突き放したり、「親や親戚に扶養できるかを照会しなければならない」と脅したりする事例が報告されています。


③「生活保護に陥る」という表現
支援者の間でも、生活保護に『陥る』という表現がなされることがあります。
『陥る』とは「よくない状態にはいりこむ」ことのため、この表現がスティグマ強化につながります。
④日本特有の「お上の世話になる」という意識
イギリスやその他のヨーロッパ諸国では、低所得者を公的に支援する公的扶助制度は権利として社会全体に認められていますが、日本ではそうした認識が非常に低く、生活保護を利用するということが、恥と考える傾向にあります。

⑤「中流意識」の浸透
学術研究では、「低所得層にも浸透している『中流意識』などが生活保護の低い保護率を支えてきた」と指摘されています。「自分は中流だ」という意識が、本来受給すべき人の申請を妨げています。
諸外国との比較——日本の生活保護利用率の異常な低さ

捕捉率わずか13〜20%
厚生労働省は、「低収入で生保を利用できる可能性がある世帯のうち約7割が受給していない」との推計を示しています。
つまり、本来受給できる人のうち、実際に受給しているのは2〜3割に過ぎません。
諸外国との比較
| 国 | 利用率(推定) |
|---|---|
| ドイツ | 約60〜70% |
| イギリス | 約50〜60% |
| フランス | 約80〜90% |
| 日本 | 約13〜20% |
欧米諸国では半数以上が利用しているのに対し、日本は極端に低い水準です。
スティグマに負けず申請するべき5つの理由

理由①:あなたの命を守るため
生活に困窮したまま放置すれば、健康を害し、最悪の場合は命を失います。2000年代には、生活保護の申請を断られた方が餓死する事件が相次ぎました。
理由②:子どもの未来を守るため
「子どもに対しては、『待ったなし』で、すぐにサポートを開始することが必要です。
親が我慢することで、子どもの教育・健康・将来が犠牲になります。

理由③:自立への第一歩になるため
生活保護は「ゴール」ではなく「スタート」です。生活を安定させることで、就職活動や資格取得に集中でき、自立への道が開けます。
生活保護の最も望ましい廃止は、就労収入が増えて自立することです。


理由④:社会全体のために
あなたが申請をためらうことで、スティグマはさらに強化されます。逆に、堂々と権利を行使する人が増えれば、社会の意識は変わっていきます。
理由⑤:国際的な勧告
国連の社会権規約委員会は、日本政府に対し「スティグマが公的な福祉的給付(生活保護)の申請を思いとどまらせていることに懸念を表明し、公的な福祉的給付の申請手続きの簡素化と、申請者が尊厳を持って取り扱われること、及び公的な福祉的給付に付随したスティグマをなくす観点から国民を教育することを勧告する」という結論を出しています(2013年)。
国際社会も、日本のスティグマの強さを問題視しています。
周囲にバレたくない人のための配慮

プライバシーは守られる
福祉事務所の職員には守秘義務があり、あなたが生活保護を受給していることを無断で他人に漏らすことは法律で禁止されています(生活保護法第22条)。
扶養照会は省略できる場合がある
DV被害、虐待、長年音信不通などの事情がある場合、親族への扶養照会を省略できることが厚生労働省の運用改善(2021年)で明確化されました。


受給していることを言う義務はない
友人や近所の人に、受給していることを告げる義務はありません。「病気療養中」「求職中」などと説明することも可能です。
実際に申請した方の声

「申請してよかった」
時間の経過や同じ境遇の人との交流を通じて、スティグマは徐々に軽減されていきます。
申請当初は「恥ずかしい」と感じていても、生活が安定し、支援者や同じ境遇の人と交流する中で、徐々に「権利として利用している」と考えられるようになります。
「子どもを守れた」
母子家庭で生活保護を受給しているある母親は、「子どもに十分な食事を与えられるようになった」「塾に通わせられるようになった」と語っています。

よくある質問(Q&A)

Q1: 周囲にバレたくありません。秘密は守られますか?
A: はい、守られます。福祉事務所の職員には守秘義務があり(生活保護法第22条)、無断で他人に漏らすことは法律違反です。違反した職員は処罰されます。
Q2: 親戚に知られたくありません。扶養照会は必須ですか?
A: 必須ではありません。DV・虐待・長年音信不通などの事情がある場合、扶養照会を省略できます(厚生労働省2021年通知)。ケースワーカーに事情を説明してください。
Q3: 生活保護を受けると「負け組」だと思われませんか?
A: それはスティグマ(社会が作った偏見)であり、事実ではありません。憲法で保障された権利を行使しているだけです。失業保険や年金を受け取ることを「負け」と言わないのと同じです。

Q4: 一度受給したら一生抜け出せないのでは?
A: そんなことはありません。むしろ、生活保護で生活を立て直し、就労訓練や資格取得を経て自立することが制度の目標です。毎年多くの方が就労により自立しています。

Q5: 不正受給のニュースを見ると、自分も同じように見られそうで怖いです。
A: 不正受給は全体の0.4%程度(厚生労働省)に過ぎず、99.6%は適正に受給しています。メディアは例外的なケースを大きく報じるため、誤解が広がっています。

Q6: 「働けるのに受給するのは恥ずかしい」と思ってしまいます。
A: 生活保護を受けながら働くことは認められており、推奨されています。勤労控除により収入の一部が手元に残り、徐々に自立へと進めます。「働きながら受給」は恥ずべきことではなく、自立への正しいステップです。

Q7: 家族に申し訳ないと思ってしまいます。
A: あなたが健康で文化的な生活を送ることは、憲法で保障された権利です。家族のために我慢することで、あなた自身が倒れてしまえば、家族はさらに困難な状況に陥ります。まず自分を守ることが、家族を守ることにつながります。

Q8: 本当に申請していいのか自信がありません。
A: 少しでも生活に困窮しているなら、まず相談してください。「申請する権利」は誰にでもあり、要件を満たすかどうかは福祉事務所が判断します。自分で「受ける資格がない」と決めつける必要はありません。

まとめ:「恥ずかしい」は社会が作った幻想——あなたの命を最優先に

スティグマの正体
- 社会が作り出した「負の烙印」
- 受給者自身が内面化してしまう偏見
- メディアのバッシング報道や福祉事務所の対応が強化
生活保護は権利
- 日本国憲法第25条で保障された生存権
- 1950年の法改正で無差別平等の原則が確立
- 年金や失業保険と同じ社会保障制度
申請をためらわないでほしい理由
- 命を守るため
- 子どもの未来を守るため
- 自立への第一歩
- 社会全体のスティグマ軽減のため
- 国際的な勧告
プライバシーへの配慮
- 守秘義務により秘密は守られる
- 扶養照会は省略できる場合がある
- 周囲に告げる義務はない
最後に
「恥ずかしい」という感情は、あなたの価値を否定するものではありません。それは社会が作り出した幻想であり、スティグマです。
生活保護は、憲法で保障された権利であり、誰もが人間らしく生きるための制度です。困窮しているなら、ためらわず申請してください。
あなたが申請することで、あなた自身の命が守られるだけでなく、将来同じ立場になるかもしれない誰かのために、社会の雰囲気を変える一歩になります。
「生活保護を受けることは恥ずかしいこと」ではありません。「困っているのに助けを求めないこと」の方がはるかに危険です。
一人で抱え込まず、まずは最寄りの福祉事務所、または法テラスに相談してください。あなたには生きる権利があり、それを行使することは決して恥ではありません。

