生活保護法違反には、不正受給などの刑事罰を伴うものから、指導指示違反による保護の停止・廃止まで、複数の種類があります。
本記事では、生活保護法違反の全体像、罰則の内容、予防方法、違反してしまった場合の対処法まで、初心者の方にもわかりやすく解説します。
生活保護法違反とは

生活保護法違反の定義
生活保護法違反とは、生活保護法で定められた義務や禁止事項に違反する行為を指します。
違反の内容によって、刑事罰が科されるもの、保護費の返還・徴収が求められるもの、保護が停止・廃止されるものなど、さまざまな処分があります。
生活保護法違反の種類
生活保護法違反は大きく分けて以下の種類があります。
1. 不正受給(刑事罰の対象)
- 不実の申請その他不正な手段により保護を受けること
- 生活保護法第85条の罰則規定の対象

2. 届出義務違反
- 収入や世帯構成の変化を届け出ない
- 生活保護法第61条の義務違反

3. 指導指示違反
- 福祉事務所の指導・指示に従わない
- 生活保護法第27条・第62条に基づく処分の対象
4. 調査拒否
- 福祉事務所の立入調査や検診命令を拒否
- 生活保護法第28条に基づく処分の対象

不正受給と罰則(生活保護法第85条)

第85条の条文内容
生活保護法第85条では、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者は、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。ただし、刑法に正条があるときは、刑法による」と定められています。
不正受給に該当する行為
以下のような行為が不正受給に該当します。
収入の不申告・虚偽申告
- 就労収入を得ているにもかかわらず申告していない
- 年金収入を隠していた
- その他の収入(各種手当、保険金、仕送り等)を申告していない
- 実際の収入より少なく申告した
資産の不申告
- 土地、家屋、自動車などの資産を保有しているにもかかわらず申告していない
- 預貯金を隠していた
- 生命保険を解約せずに隠していた
世帯構成の虚偽
- 福祉事務所に届け出ている世帯員以外の者と同居している
- 収入のある家族と同居しているのに単身世帯として申請した
- 偽装離婚
その他
- 暴力団員であるにもかかわらず生活保護を受給している
- 偽造書類を提出して申請した
刑法の詐欺罪との関係
生活保護を受給する際に虚偽の申告書を作成して提出した、または、世帯や収入に変更があったにもかかわらず変更の届け出をしなかったことによって不正に生活保護の支給を受けたなどの場合、刑法上の詐欺罪が成立する可能性があります。
詐欺罪の罰則 詐欺罪が成立した場合の罰則は、10年以下の懲役と定められています(刑法246条1項)。生活保護法85条(3年以下の懲役又は100万円以下の罰金)より重い刑罰です。
生活保護法85条では、刑法の詐欺罪が成立する場合には、生活保護法違反ではなく、刑法の詐欺罪によって処罰されると規定されています。
告訴されるケース
85条違反で告訴されるのは、特に悪質な事案に限られます。
特に悪質な手段による不正受給の場合は、その社会的影響も考慮され地方自治体によって告発されるケースもあります。
告訴を検討する基準(例)
- 不正受給金額が100万円以上の事案
- 不正受給していた期間が1年以上の事案
- 実施機関に提出する書類等に虚偽記載などの行為を行った事案
- 不正受給により得た保護費の使途について、自らの借金返済や資産運用、ギャンブル等に使用していた事案
届出義務違反(生活保護法第61条)

第61条の条文内容
生活保護法第61条では、「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があったとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があったときは、すみやかに、保護の実施機関にその旨を届け出なければならない」と定められています。
届け出が必要な事項
生活保護受給中はすべての世帯員の収入や資産、世帯員の構成や状況等に変化があった時は、届け出る義務があります。
収入の変化
- 世帯員が働き出した、転職した、雇用形態が変わった
- 給与をもらった、年金・手当をもらい始めた
- アルバイトやパートを始めた
- 臨時収入があった


世帯構成の変化
- 世帯員が増えた・減った
- 同居人が変わった
- 出産、死亡


資産の変化
- 預貯金が増えた
- 不動産を取得した
- 相続が発生した


その他
- 引っ越しをした
- 入院・退院した
- 働いたことによらない収入を得た、または得ることになった場合
届出義務違反の処分
届出義務違反があった場合、悪質性によって処分が異なります。
悪意がない場合
- 生活保護法第63条による費用返還義務
- 資力の範囲内での返還

悪質な場合
- 生活保護法第78条による費用徴収
- 全額徴収+最大40%の加算金
- 悪質な場合は告訴の可能性

指導指示違反(生活保護法第27条・第62条)

指導指示制度とは
生活保護法第27条第1項では、「保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる」と定められています。
被保護者は、保護の実施機関が第27条の規定により、被保護者に対し、必要な指導又は指示をしたときは、これに従わなければなりません(第62条第1項)。
指導指示の具体例
福祉事務所が行う指導指示には以下のようなものがあります。
就労に関する指導
- 求職活動を行うこと
- ハローワークに登録すること
- 面接に行くこと
- 就労支援プログラムに参加すること

資産活用に関する指導
- 使用していない不動産を売却すること
- 生命保険を解約すること
- 自動車を処分すること


届出に関する指導
- 収入があった場合は速やかに届け出ること
- 定期的に収入申告書を提出すること

生活態度に関する指導
- 他法他施策の給付(年金生活者支援給付金など)を申請すること
- 健康管理に努めること
- 借金をしないこと(年金担保貸付を含む)

指導指示違反の処分
被保護者に対する保護の変更、停止又は廃止は、法第27条に基づく指導指示を行ったものの被保護者が当該指導指示に従わなかった場合であり、さらに法第62条第4項に基づく弁明の機会を与えた上でなければなりません。
処分の流れ
- 口頭または文書による指導
- 文書による指示(書面交付)
- 弁明の機会の付与
- 保護の停止または廃止
指示違反が最近1年以内において複数回なされた場合、または指示違反に併せて立入調査を拒否した場合には、保護の廃止が決定されます。


違法な指導指示
指導又指示の内容が客観的に実現不可能又は著しく実現困難である場合には、当該指導指示に従わなかったことを理由とした保護の廃止などをすることは違法となります。
違法な指導指示の例
- 自営業者に対して「収入を月額11万円まで増収して下さい」という実現が著しく困難な指示
- 病気で働けない人に対する就労指示
- 法の要件とは無関係の私生活への過度な介入
このような違法な指導指示に従わなかったことを理由とした保護廃止は、取り消される可能性があります。
調査拒否(生活保護法第28条)

第28条の調査権限
生活保護法第28条では、保護の実施機関に以下の権限が認められています。
報告徴収・立入調査
- 被保護者に対する生活状況等の報告徴収
- 被保護者の居住する住宅への立入調査
- 被保護者に対する検診命令
関係先調査
- 銀行への預金照会
- 雇用主への収入照会
- 年金事務所への照会
- 不動産登記の調査
調査拒否の処分
被保護者が法第28条第1項の規定による検診命令に従わない場合は、保護の停止が決定されます。
停止後も従わない場合は、保護の廃止が決定されます。
立入調査を拒否した場合も同様に、保護の停止・廃止の対象となります。
生活保護法違反の防止策

受給者側の予防方法
1. 届出義務を正しく理解する 福祉事務所では、保護開始時及び継続して保護を受給する方には、書面及び口頭により、生活上の変化があったときの届出の義務について説明しています。

不明な点があれば、担当ケースワーカーに確認しましょう。

2. 収入は必ず申告する 就労収入を得ながら生活保護を受給されている方もいます。得た収入を福祉事務所に適正に申告していれば、不正受給とはなりません。
働いて収入を得ることは悪いことではありません。申告さえすれば問題ありません。

3. 判断に迷ったら相談する 「これは届け出が必要?」と迷ったら、必ず担当ケースワーカーに相談しましょう。事前の相談は違反になりません。
4. 指導指示には誠実に対応する 実現困難な指示の場合は、その理由を説明し、代替案を提案するなど、誠実に対応しましょう。
福祉事務所側の適正実施策
福祉事務所では以下の不正受給防止策を実施しています。
課税調査 毎年、市区町村の課税データとの照合を実施し、未申告の就労収入を発見します。

年金調査 年金事務所への照会により、未申告の年金収入を確認します。

家庭訪問 被保護世帯の自宅を定期的に訪問し、生活、就労、求職状況を聴取することにより、被保護者の生活上の変化について確認を行っています。
警察官OBの配置 生活保護適正実施推進員として、警察官OBを職員として福祉事務所に配置し、元警察官としての専門的な見地から、不正受給事案に対する調査及び検討、並びに悪質な事案に対する告訴手続きに係る調整を行っています。
違反してしまった場合の対処法

1. 速やかに福祉事務所に相談
悪意がなかったことが根本にあるため、不正受給の心当たりがある方は指摘される前に福祉事務所に確認しておくと良いでしょう。
なお、年間で発覚している不正受給の多くは悪意のないものですので、誠実に対応していれば基本的には返還金(63条)の扱いになる可能性が高いです。
自発的な申し出により、78条ではなく63条が適用される可能性があります。
2. 弁護士に相談
生活保護の不正受給に関与してしまった場合には、早めに弁護士に相談をするようにしましょう。
特に以下の場合は専門家への相談が必要です。
- 告訴される可能性がある
- 徴収決定に納得できない
- 刑事事件に発展しそうな場合
- 保護廃止処分に不服がある
3. 返還・徴収への対応
63条返還金の場合
- 資力の範囲内での返還
- 分割返還が認められる
- 自立更生費の控除が可能
78条徴収金の場合
- 原則全額徴収
- 最大40%の加算金
- 分割納付の相談が可能
- 保護費からの天引き(本人申出による)
4. 不服申立て
処分に不服がある場合は、以下の手続きが可能です。
審査請求 都道府県知事に対して審査請求を行うことができます(処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内)。
行政訴訟 裁判所に処分の取消しを求めて訴訟を提起できます。
違法な指導指示に基づく保護廃止など、明らかに違法な処分については、審査請求や訴訟で取り消される可能性があります。
よくある質問

Q1: 申告を忘れていた場合も違反ですか?
A: 悪意がなく、やむを得ない理由があった場合は、63条の返還金として扱われる可能性があります。ただし、返還義務自体は発生します。
Q2: 指導指示に従わないと必ず保護が廃止されますか?
A: いいえ。弁明の機会が与えられ、正当な理由があれば廃止されない場合もあります。また、まず保護の停止が行われ、それでも従わない場合に廃止となるのが一般的です。
Q3: 家族の収入も申告が必要ですか?
A: はい。生活保護受給中は、未成年者・世帯分離の人を含めたすべての収入について世帯員全員の収入申告を行う義務があります。
Q4: 違反すると必ず告訴されますか?
A: いいえ。告訴は特に悪質な事案に限られます。多くの場合は返還・徴収で終わります。
Q5: 借金をしたら違反ですか?
A: 生活保護受給中の借金(年金担保貸付を含む)は認められていません。仮に借金された場合は原則収入としてみなされ、保護費が減額(金額によっては保護停止または廃止)となります。ただし、奨学金や他法、他施策等による貸付金については、認められる場合があります。
Q6: 違反で保護が廃止された後、再申請できますか?
A: はい。廃止後も生活に困窮している場合は、再度申請することができます。ただし、違反の内容によっては審査が厳しくなる可能性があります。

まとめ:生活保護法違反を正しく理解する

生活保護法違反には、刑事罰を伴う不正受給から、届出義務違反、指導指示違反まで、さまざまな種類があります。
生活保護法違反の重要ポイント
- 不正受給は刑事罰の対象(3年以下の懲役または100万円以下の罰金)
- 悪質な場合は詐欺罪(10年以下の懲役)が適用される
- 届出義務違反は返還・徴収の対象
- 指導指示違反は保護の停止・廃止の対象
- 自発的な申し出により処分が軽減される可能性
違反を防ぐために
- 収入や世帯構成の変化は必ず届け出る
- 就労収入は隠さず申告する(申告すれば問題なし)
- 不明な点は担当ケースワーカーに相談
- 指導指示には誠実に対応する
困ったときの相談先
- 担当ケースワーカー
- 福祉事務所の上司
- 法テラス
- 弁護士会の法律相談
- 生活保護支援団体
最後に
生活保護は国民の権利ですが、同時に税金から支払われる制度です。
制度を適正に利用するため、義務をしっかり守ることが大切です。
収入や世帯状況に変化があった場合は、速やかに福祉事務所に届け出ましょう。
もし届出を忘れていたり、違反の心当たりがある場合は、指摘される前に自発的に申し出ることで、処分が軽減される可能性があります。
一人で悩まず、まずは担当ケースワーカーに相談してください。


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