自動車を所有している方が生活保護を申請しようとする場合、自動車の取り扱いはどうなるのか?
所有・利用できるのか?処分しなければいけないのか?
また、生活保護受給中の方が買い物や通院のために自動車を購入することは可能なのか?
気になるところだと思います。
そこで、このページでは生活保護の自動車の取り扱いについて、詳しくご説明します。
生活保護受給中は自動車を処分しなければいけない
生活保護受給中は原則自動車を使用することも所有することも認められていません。
そのため、生活保護を申請する段階で自動車は処分しなければいけませんし、生活保護の受給開始後に新たに自動車を購入することも認められていません。
とは言え、自動車を持っているから生活保護を受給できない、もしくはすぐに生活保護が停止・廃止になるわけではありません。
ただし、自動車を持っていても生活保護を受給することはできますが、ケースワーカーから指導指示を受けることになります。
そして、その指導指示に従わない場合は停止・廃止の処分を受けることになります。
では、なぜ生活保護受給者は自動車を所有・使用することができないのでしょうか?
下記で生活保護受給者が自動車を所有・使用することができない3つの理由についてご説明します。
理由1:バイクの売却代を生活費に充てられる
生活保護受給者は活用できるあらゆる資産を活用しなければいけません。
そして、資産を活用しても足りない部分についてのみ生活保護を受給することができます。
そのため、自動車は、車種や年式によりますが資産価値があれば、自動車の売却代金を生活費に充てなければいけません。
なお、売却する時期や期間についてですが、その他の資産で、例えば家・土地等の不動産を所有している場合は、すぐに現金化することが困難なため、売却手続きをしていれば、その後も不動産を所有することができます。
もちろん、売却後は今まで受給した生活保護費は返還しなければいけませんが、売れるまでは何年間であろうと所有し続けることができます。
しかし、自動車の場合は、売却手続きさえすれば、すぐに現金化できるため、一切待ってくれません。
自動車の場合は待ってくれたとしても、せいぜい1ヶ月程度です。
理由2:自動車の維持費が掛かる
自動車は所有しているだけで維持費が掛かります。
・駐車場代
・車検費用
・税金(自動車税、自動車重量税)
・保険料
・消耗品代(オイル交換等のメンテナンス費用)
比較的諸経費の安い軽自動車でも年間30万円以上、普通車になると年間40万円を超えます。
「生活保護費を節約して維持費を捻出するから良いじゃないか!」と言う意見もあると思いますが、生活保護費だけで賄えるような金額でもないですし、そもそも生活保護費で支給されているお金は生活するうえで必要な最低生活費です。
その最低生活費の中に自動車の維持費は当然含まれていません。
また、生活保護受給者が自動車の維持費にお金を掛けた分、食事等がおろそかになり、不健康になってしまうと、その分、医療費がかさむようになります。
医療扶助は現物給付(無料でサービスを受ける)のため、生活保護受給者が意識することはないと思いますが、実際は生活保護費の大半を占めています。
そのため、福祉事務所としては、生活保護費は、その扶助項目ごとに決められた用途に応じて
使ってもらう必要があり、ほとんど制限なく自由に使える生活扶助であっても自動車の維持費に使われると困るわけです。
理由3:交通事故発生時の補償がない
生活保護受給者が自動車を所有する場合、大半の方は保険料をケチって任意保険に加入しません。
その結果、交通事故を起こしてしまった場合、自賠責保険しかおりません。
当然、自賠責保険だけでは治療費や慰謝料等を到底賄うことはできません。
人身事故の場合は尚更です。
「慰謝料等を請求されても、生活保護受給中だから支払えないし、差し押さえもない。相手方は困るかもしれないけど、自分には全く関係ない」と開きなおる方もいますが、本当にそうでしょうか?
実際は治療費の支払いに困ります。
生活保護を受給中の場合、通院費は医療扶助から出ますが、ケンカや交通事故等の第三者行為と言われるものについては、医療扶助が適用されません。
100%相手が悪い交通事故等の場合は、相手方の任意保険から治療費が支払われますが、負担割合がある場合は負担割合に応じて、その全額の治療費を自己負担して支払わなければいけません。
しかも、この場合の全額の治療費とは、国民健康保険等を利用した場合の3割負担分ではなく、実際に治療費に掛かった額、つまり全額になるため、かなりの高額になります。
実際、交通事故の治療費や慰謝料等については福祉事務所は一切関知しないため、支払い等の顛末は不明ですが、病院はキッチリ治療費全額を回収するようなので、自分自身を守るためにも生活保護受給中は自動車に乗るべきではありません。
生活保護受給中でも自動車の所有・使用が認められる方法
生活保護受給中は原則自動車の所有が認められていませんが、例外規定により、生活保護受給中でも自動車の所有が認められる方法があります。
また、自動車に乗ることが認められる場合があります。
審査基準は、その地域の環境に依る所が大きいため福祉事務所ごとで多少異なりますが、下記では、生活保護受給中でも自動車の所有・利用が認められる条件について、わかりやすくご説明します。
生活保護申請後6ヵ月以内に生活保護脱却が見込まれる場合
生活保護の早期脱却が見込まれる場合は、自動車を所有することが認められます。
これを「処分留保」と言います。
・保護廃止が難しくても自動車があれば一定額以上の就労収入が見込まれる
ちなみに、生活保護の早期脱却の目安は6ヵ月以内です。
自動車の処分留保の手続きは処分留保申請書に必要事項を記入して申請し、福祉事務所から生活保護の早期脱却が見込まれると判断されれば自動車の所有が認められます。
ただし、「処分留保」のため、認められるのは、あくまで自動車を所有することのみです。
自動車の利用が認められているわけではありません。
しかも、自動車の所有を認められるだけなので、簡単に許可がおりそうですが、確実に生活保護の早期脱却が見込めなければ処分留保の許可はおりません。
また、一度自動車の処分留保の許可がおりても、本人の就職活動状況によって、生活保護の早期脱却が見込めないと判断されれば6ヵ月以内であっても、自動車を処分するように指導指示を受けるようになるため、注意が必要です。
通勤に自動車が必要な場合
生活保護を受給中でも、働いている場合は自動車の利用が許可されることがあります。
自動車の利用許可が出る条件は2つあり、
・自動車の維持費以上の給料収入があること
・自動車を使わなければ通勤が困難であること
上記2つの条件をどちらも満たす場合に用途が通勤に限られますが自動車の利用が認められます。
上記の条件を満たすのであれば、正社員、派遣社員、パート・アルバイト等、就労形態は問われません。
手続き方法についてですが、自動車の利用申請書に必要事項を記入して提出することで、自動車の利用が認められます。
処分留保と比べて、働いている実績がある分、自動車の利用許可の方が認められやすいです。
また、自動車の利用が認められれば給料収入の収入申告をすることで、基礎控除等の他、ガソリン代等、維持費についても必要経費として控除してもらうことが可能です。
ただし、自動車の購入に掛かる費用については、控除が認められないため、生活保護費等を貯金して購入するしかありません。
なお、仕事を辞めた場合は、原則通り、自動車は処分しなければいけませんので、気をつけましょう。
お店が遠く生活物資を購入するのに必要な場合
お店までの距離があまりにも遠く、またバスや電車等の公共交通機関も通っていないような限界集落等に住んでいる買物難民の方の場合は、生活物資を購入するために自動車が必要なため、自動車の所有・利用が認められる場合があります。
ただし、買物に数時間掛かる程の田舎でもない限りは自動車の所有・利用は認められません。
また、最近ではネットショッピングの発展により、どこに住んでいても荷物を配達をしてくれるため、買い物ができないことを理由に自動車の所有・利用が認められることは、ほとんどありません。
自身又は家族が身体障害者1級等で通院に必要な場合
自身又は同居している家族が身体障害者1級等で通院に自動車が必要な場合は自動車の所有・利用が認められる場合があります。
こちらも条件は非常に厳しく、障害者加算が付いている、障害年金を受給している、障害者手帳を所有している、と言うだけでは自動車の所有・使用が認められません。
寝たきり状態であったり、自分では動くことができないような状態でなければ認められませんし、基本的に、そのような障害がある方は施設に入所している方が多いため、通院に必要と言う理由で自動車の所有・利用が認められることは、ほとんどありません。
旅行先でレンタカーを借りる場合
上記と違い、生活保護法上、認められている方法ではありませんが、生活保護受給者でも旅行先でレンタカーを借りることは可能です。
なぜなら、レンタカーを借りるのに必要なのは運転免許証だけで、生活保護を受給中かどうかは一切関係がないからです。
もちろん、自動車の利用は認められていないので、ケースワーカーに「レンタカーを借りても良いのか?」と尋ねたら「レンタカーでも自動車の運転をしたらダメですよ」と言われます。
しかし、生活保護受給者がレンタカーを借りたかどうかをケースワーカーが知る術を持っていません。
そのため、公に生活保護受給者がレンタカーを借りることは認められてはいませんが、レンタカー会社もケースワーカーも確認する手段がないため、生活保護受給者はレンタカーを借りることは可能です。
ただし、レンタカーで交通事故を起こした場合の賠償金等については、生活保護受給者が自己負担しなければいけません。
レンタカー会社の方で各種保険に入っているため、事故を起こした場合の損害金等も比較的少額では済むんでしょうが、それでも少ない生活保護費から自己負担をするとなると、月々の生活が苦しくなります。
他人名義の自動車は処分の対象にならない
もうひとつ、福祉事務所に認められる正当な方法ではありませんが、自動車を所有・利用できる方法があります。
それは他人名義の自動車を所有・利用する方法です。
生活保護受給者が自動車やバイクを所有している場合、29条調査によってバレてしまいます。
しかし、他人名義の自動車を所有・利用している場合、所有者が違うため、調査を実施しても調査の網から漏れてしまいます。
また、同様に自動車を所有していないわけですから、ケースワーカーが処分するように指導指示することもできません。
ケースワーカーにできることは自宅の駐車場に自動車が置いてある場合や自動車を運転しているところを目撃した場合にのみ自動車を運転しないように指導指示ができるだけです。
そのため、生活保護を受給していない親族や友人等の名義の自動車であれば生活保護受給中でも
違法行為ではありますが所有・利用することができます。
まとめ
生活保護を受給した場合の自動車の取り扱いについて、ご説明させていただきました。
上記をまとめると
- 生活保護受給中は原則自動車の所有・利用は認められておらず売却しなければならない
- 自動車を所有・利用していても、すぐには生活保護の廃止にはならないが、ケースワーカーの指導指示に従わない場合は生活保護は廃止となる
- 生活保護の早期脱却が見込まれる場合は処分留保の手続きをすることで自動車を利用することはできないが所有は認められる
- 自動車の維持費以上の給料収入があり、且つ、通気に自動車が必要と認められる場合は自動車の所有・利用が認められる
- お店までが遠すぎて買い物に行けない場合や自信又は同居する家族が身体障害者1級等で通院に必要な場合も自動車の所有・利用が認められる場合があるが、事例としては非常に少ない
- 旅行先でのレンタカー利用は可能
- 違法行為ではあるが、他人名義の自動車であれば所有・利用してもケースワーカーは口出しできない
となります。
その他、生活保護の収入・資産に関する様々な疑問については、下記にまとめてありますので、ぜひ参考にしていただけたらと思います。
https://seikathuhogomanabou.com/category/syunyu/