生活保護を受給している方の中で、「確定申告は必要なのか」「副業やアルバイトをしたら申告しなければならないのか」と疑問に思う方は多いでしょう。
また、「確定申告と福祉事務所への収入報告は違うのか」と混同している方もいらっしゃいます。
本記事では、生活保護受給者の確定申告義務、福祉事務所への収入報告との違い、アルバイト収入がある場合の対応など、税務と生活保護の両面から詳しく解説します。

生活保護受給者の確定申告義務

結論:原則として確定申告は不要
生活保護費そのものは非課税のため、生活保護のみで生活している方は確定申告の必要はありません。
生活保護法第57条により、「被保護者は、保護金品を標準として租税その他の公課を課せられることがない」と定められています。
つまり、生活保護費には税金がかからず、確定申告の対象にもなりません。

確定申告が必要となるケース
ただし、以下の場合は確定申告が必要になることがあります。
1. 給与所得がある場合
- アルバイトやパートで年間103万円を超える収入がある
- 2ヶ所以上から給与を受け取っている(年末調整されていない給与がある)
- 年末調整がされていない

2. 事業所得がある場合
- 自営業やフリーランスで収入がある
- 所得が48万円(基礎控除額)を超える
3. その他の所得がある場合
- 不動産収入
- 原稿料や講演料などの雑所得
- 株式の配当や譲渡所得
4. 還付を受けたい場合
- 源泉徴収された税金の還付を受けたい
- 医療費控除を受けたい(生活保護受給者は医療費が無料なので通常該当しない)
確定申告が不要な理由
生活保護費は非課税所得 所得税法第9条第1項第15号により、生活保護法による保護金品は非課税所得と定められています。
課税最低限以下の生活 生活保護の基準額は、最低限度の生活を保障する水準であり、通常は課税最低限(年間103万円)を下回ります。そのため、生活保護費のみで生活している場合、そもそも課税所得が発生しません。

確定申告と収入報告の違い

生活保護受給者が混同しやすいのが、「確定申告」と「福祉事務所への収入申告」です。
この2つは全く別のものです。
確定申告とは
目的 国(税務署)に対して、1年間の所得と税金を計算し、申告・納税または還付を受ける手続き
提出先 税務署
期限 原則として毎年2月16日~3月15日
対象者 一定以上の所得がある方
福祉事務所への収入申告とは
目的 生活保護の適正な支給額を決定するため、収入の変化をケースワーカーに報告する義務
提出先 福祉事務所(担当ケースワーカー)
期限 収入が発生したら速やかに(通常は毎月)
対象者 生活保護受給者全員(収入の多寡に関わらず)

重要な違い
| 項目 | 確定申告 | 収入申告 |
|---|---|---|
| 提出先 | 税務署 | 福祉事務所 |
| 義務 | 一定所得以上の場合のみ | 全受給者が必須 |
| 目的 | 納税・還付 | 保護費の調整 |
| 金額 | 年間所得 | 毎月の収入 |
| 罰則 | 脱税(重加算税など) | 不正受給(返還請求、保護停止) |
最重要ポイント 確定申告が不要でも、福祉事務所への収入報告は必須です。これを怠ると不正受給とみなされる可能性があります。
アルバイト・パート収入がある場合

収入報告の義務
生活保護を受けながらアルバイトやパートをする場合、以下の報告義務があります。
報告すべき事項
- 就労を始めたこと(事前に相談が望ましい)
- 毎月の収入額
- 給与明細のコピー
報告のタイミング
- 就労開始時:事前または直後
- 毎月:給与を受け取ったらすぐ
- 定期報告:月に1回または福祉事務所の指定する頻度

勤労控除の仕組み
生活保護を受けながら働いた場合、収入の全額が保護費から差し引かれるわけではありません。「勤労控除」という制度があり、収入の一部が手元に残ります。

勤労控除の計算方法(令和6年度基準)
| 収入額 | 控除額 |
|---|---|
| 0~15,000円 | 収入の全額を控除(実質的に収入として認定されない) |
| 15,001円~ | 基礎控除(収入に応じて計算)+ 特別控除(該当者のみ) |
具体例 月収30,000円の場合
- 基礎控除:約15,000円
- 収入認定額:30,000円 – 15,000円 = 15,000円
- 保護費減額:15,000円
- 手元に残る金額:保護費(減額後)+ 30,000円
つまり、30,000円働いても、保護費は15,000円しか減らないため、実質15,000円が手元に多く残ります。
新規就労控除 新たに就労を始めた場合、さらに優遇措置があります。
- 就労開始から6ヶ月間、月額11,600円の特別控除(自治体により異なる)
- 就労自立給付金(保護廃止時に受け取れる一時金)の積立
確定申告が必要になる収入額
年間103万円以下の場合
- 確定申告は不要(給与所得控除55万円 + 基礎控除48万円 = 103万円)
- ただし年末調整がされていない場合、還付を受けるために確定申告することは可能
年間103万円を超える場合
- 確定申告が必要
- 所得税が発生する可能性
- 福祉事務所への報告も必須(収入が増えれば保護費が減額または廃止)
2ヶ所以上から給与を受けている場合
- 主たる給与以外の収入が年間20万円を超える場合、確定申告が必要
給与所得者の扶養控除等申告書
アルバイト・パートを始める際、勤務先から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出を求められます。
この書類の役割
- 源泉徴収税額を決定する
- 年末調整を受けるために必要
生活保護受給者の場合
- 通常通り提出して問題なし
- 扶養親族がいる場合はその情報を記入
- この提出により年末調整が行われ、確定申告が不要になることが多い
自営業・フリーランスの場合

事業所得の申告
自営業やフリーランスで収入を得ている場合、扱いが給与所得とは異なります。
確定申告の必要性
- 年間所得(収入 – 経費)が48万円を超える場合、確定申告が必要
- 所得が48万円以下でも、福祉事務所への報告は必須
必要経費の考え方 税務上は必要経費を差し引けますが、生活保護の収入認定では
- 認められる経費は限定的
- 税務署と福祉事務所で経費の扱いが異なる場合がある
- 事前にケースワーカーと相談が必要
青色申告と白色申告
青色申告
- 青色申告特別控除(最大65万円)が受けられる
- 事前に青色申告承認申請が必要
- 複式簿記での帳簿記帳が必要
白色申告
- 簡易な帳簿でよい
- 特別控除はなし
生活保護受給者の場合 どちらを選んでも構いませんが、所得が少ない場合は白色申告で十分なことが多いです。
帳簿と領収書の保管
自営業の場合
- 収入と経費の記録(帳簿)が必要
- 領収書やレシートの保管(7年間)
- 確定申告時に必要
- 福祉事務所への報告時にも活用
その他の所得と確定申告

年金収入
公的年金
- 老齢年金、障害年金、遺族年金など
- 確定申告が必要な場合:公的年金等の収入が400万円超(生活保護受給者では通常該当しない)
- 福祉事務所への報告:必須(年金額は収入認定される)

障害年金・遺族年金の特例
- 非課税所得のため確定申告不要
- ただし福祉事務所への報告は必須

一時所得
該当例
- 生命保険の満期金
- 懸賞や福引の賞金品
- 競馬や競輪の払戻金

確定申告の必要性
- 一時所得が年間50万円を超える場合(特別控除50万円)
- 他の所得と合算して判断
生活保護との関係
- 一時所得も福祉事務所への報告が必須
- 保護費から差し引かれるか、資産として扱われる可能性
相続・贈与
相続税
- 基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数)を超える場合に申告が必要
- 生活保護受給者が相続した場合、資産として扱われ、保護廃止の可能性

贈与税
- 年間110万円を超える贈与を受けた場合、申告が必要
- 生活保護受給者は、贈与も収入または資産として扱われる
確定申告の手続き方法

確定申告が必要な場合の手順
ステップ1:必要書類の準備
- 源泉徴収票(給与所得の場合)
- 支払調書(原稿料などの場合)
- 帳簿・領収書(事業所得の場合)
- マイナンバーカードまたは通知カード
- 本人確認書類
ステップ2:申告書の作成 以下の方法があります。
- 国税庁の「確定申告書等作成コーナー」(インターネット)
- 税務署で相談しながら作成
- 税理士に依頼(費用がかかる)
ステップ3:提出
- 税務署の窓口に持参
- 郵送
- e-Tax(電子申告)
期限 原則として2月16日~3月15日
確定申告書作成のポイント
生活保護受給者の場合
- 生活保護費は「非課税所得」として申告書に記載しない
- 給与所得や事業所得のみを記載
- 所得が少ない場合、所得税はゼロまたは還付になることが多い
無料相談の活用
税務署の確定申告相談
- 確定申告期間中、税務署で無料相談を実施
- 予約制の場合もあるので事前確認を
税理士会の無料相談
- 各地の税理士会が無料相談会を開催
- 確定申告期間中に実施されることが多い
福祉事務所への収入報告の重要性

報告義務違反のリスク
確定申告以上に重要なのが、福祉事務所への収入報告です。
報告を怠った場合
- 不正受給と判断される
- 過払い分の返還請求(徴収金決定)
- 生活保護の停止または廃止
- 悪質な場合は刑事告発(詐欺罪)
過去の事例 収入を隠して生活保護を受け続けた結果、数百万円の返還を命じられたケースや、刑事事件として起訴されたケースもあります。


正しい報告方法
報告の基本
- 収入が発生したらすぐにケースワーカーに連絡
- 給与明細や支払調書のコピーを提出
- 定期的な収入報告書の提出
報告すべき収入の例
- 給与・賞与
- 事業収入
- 年金
- 仕送り
- 一時的な収入(謝礼金、臨時収入など)
- 返金や還付金
少額でも収入があれば報告が必要です。「少しだから大丈夫」という考えは危険です。金額の大小に関わらず、すべての収入を報告しましょう。
確定申告書のコピーの提出
確定申告をした場合、確定申告書の控えのコピーを福祉事務所に提出することが求められる場合があります。
理由
- 収入の正確な把握
- 税務署への申告内容と福祉事務所への報告内容の照合
- 不正受給の防止
注意点とアドバイス

1. 二重の報告義務を忘れない
確定申告と福祉事務所への報告は別物です。
両方の義務があることを認識しましょう。
2. 事前相談が重要
就労や副業を始める前に、ケースワーカーに相談することをおすすめします。
- 勤労控除の説明を受けられる
- どの程度働けるか目安が分かる
- 報告方法を確認できる

3. 記録をつける習慣
- 収入の記録
- 報告した日時と内容
- 提出書類のコピー
これらを記録・保管しておくと、後で確認が必要になったときに役立ちます。
4. 不明点は専門家に相談
税務について
- 税務署の無料相談
- 税理士会の無料相談会
生活保護について
- ケースワーカー
- 生活保護問題対策全国会議
- 法テラス
5. 正直な申告が最も重要
収入を隠すことは
- 不正受給となり返還請求される
- 刑事罰の可能性
- 社会的信用の喪失
正直に報告し、制度を適切に利用することが、結果的に自分を守ることになります。
よくある質問

Q: 生活保護を受けていることを税務署に知られますか?
A: 確定申告では生活保護受給の有無を記載する欄はありません。税務署が生活保護受給者かどうかを把握することは通常ありません。
Q: 確定申告で還付金がある場合、福祉事務所に報告する必要がありますか?
A: はい、還付金も収入として報告が必要です。ただし、源泉徴収された税金の還付であるため、収入認定されないこともあります。ケースワーカーに確認しましょう。

Q: 確定申告をしないとどうなりますか?
A: 確定申告義務があるのに申告しなかった場合、税務署から無申告加算税や延滞税が課される可能性があります。ただし、所得が少なく税額がゼロの場合、実質的なペナルティはないことが多いです。
Q: 副業で月1万円程度の収入がありますが、確定申告は必要ですか?
A: 年間12万円(月1万円×12ヶ月)程度であれば、給与所得控除や基礎控除で所得はゼロとなり、確定申告は不要です。ただし、福祉事務所への報告は毎月必須です。
Q: 確定申告をすると生活保護が打ち切られますか?
A: 確定申告自体が打ち切りの理由にはなりません。重要なのは実際の収入額です。収入が最低生活費を継続的に上回る場合に、保護廃止が検討されます。


Q: アルバイトの収入が月によって変動します。どう報告すればいいですか?
A: 毎月、実際に受け取った金額を報告します。変動があっても問題ありません。給与明細を毎月提出しましょう。
Q: 確定申告の相談を税務署でしたいのですが、生活保護を受けていることを言わなければなりませんか?
A: 確定申告に関しては、生活保護受給の有無は関係ないため、言う必要はありません。ただし、所得が少ないことを説明するために触れることは問題ありません。
まとめ

生活保護受給者の確定申告と収入報告について、重要なポイントをまとめます。
確定申告について
- 生活保護費のみの場合:確定申告は不要
- アルバイト年収103万円以下:原則不要(年末調整されている場合)
- アルバイト年収103万円超:確定申告が必要
- 自営業で所得48万円超:確定申告が必要
福祉事務所への報告について
- すべての収入を速やかに報告(義務)
- 少額でも報告が必要
- 給与明細などの証拠書類を提出
- 報告を怠ると不正受給となる
勤労控除
- 働いても収入の一部は手元に残る
- 新規就労時は特別控除もある
- 働くインセンティブがある制度
重要な心構え
- 確定申告と収入報告は別物
- 不明点は事前に相談
- 正直な申告が最も重要
- 記録を残す習慣をつける
生活保護を受けながら就労することは可能であり、むしろ推奨されています。確定申告と収入報告の違いを理解し、適切に対応することで、自立に向けた一歩を踏み出すことができます。

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