生活保護を受給しながら働いている方、年金を受け取っている方、臨時収入があった方にとって、「収入申告」は避けて通れない重要な手続きです。
「どうやって申告すればいいの?」「申告を忘れたらどうなるの?」「少額でも申告が必要?」など、収入申告について不安や疑問を持っている方は少なくありません。
本記事では、生活保護の収入申告について、法的根拠から具体的な申告方法、期限、申告を忘れた場合の対処法まで、初心者でも理解できるよう徹底的に解説します。
収入申告とは

収入申告の法的根拠
収入申告とは、生活保護法第61条に明記されている、生活保護受給者に課されている義務です。
生活保護法第61条(届出の義務): 被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があったとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があったときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。
生活保護以外での収入がある場合、一部の例外を除いて、それら全ての収入を福祉事務所に報告する必要があります。

収入申告の目的
生活保護制度は、困窮した国民の健康と最低限度の文化的な生活の保障が目的です。
生活保護制度では、厚生労働省によって定められた「最低生活費」の基準額から収入を差し引いた金額を生活保護費として支給します。

生活保護費の計算式: 生活保護費 = 最低生活費 – 世帯の収入
生活保護費の最終的な支給金額は、世帯収入の正確な申告により算出されるため、収入申告は非常に重要な申告といえます。
なぜ厳格な申告が必要なのか
生活保護は、受給者にとってのセーフティネット的な制度であり、保護費以外で収入があれば、それを差し引く必要があります。
そして、それを差し引いたときに、最低限必要な生活費に足りない分だけを、支給して賄う制度なのです。
適正な生活保護費を支給するために、受給者は正確な収入申告を行う義務があります。
申告が必要な収入の種類

1. 就労収入
継続する勤務によって得た就労収入は、基本給に各種手当を含めた総額を収入認定します。

申告が必要な就労収入
- 給与(基本給+各種手当)
- 賞与・ボーナス
- アルバイト・パート収入
- 日雇い労働の収入
- 内職収入
- フリーランスの報酬
重要なポイント: 高校生などのアルバイト収入も必ず届け出てください。未成年者・世帯分離の人を含めたすべての収入について世帯員全員の収入申告を行う義務があります。

2. 年金・手当
申告が必要な年金・手当
- 公的年金(国民年金、厚生年金、障害年金など)
- 児童扶養手当
- 児童手当
- 特別児童扶養手当
- 障害者手当
- 失業保険(雇用保険の失業給付)
- 労災保険からの給付
年金額改定通知書など、金額が確認できる書類を添付して申告します。

3. 臨時収入
継続的でない一時的な収入も申告が必要です。
臨時収入の例
- 親族からの仕送り・援助
- 生命保険の給付金
- 交通事故の補償金・慰謝料
- 遺産相続
- 贈与
- 還付金(税金の還付など)
- 裁判の和解金
臨時収入も確定した日から数日以内を目安に申告することがおすすめです。

4. その他の収入
その他申告が必要な収入
- フリマアプリでの売上
- オークションでの収入
- 講演料・執筆料
- 宝くじの当選金(高額の場合)
- ギフトカードなどの現物給付
受け取ったものが収入とみなされるかどうか分からない場合は、担当ケースワーカーへご相談ください。

5. 収入として認定されないもの
一部ではありますが、収入申告の対象にならない例外もあります。
収入認定されない主なもの
- 交通費(通勤・通院などの実費)
- 所得税・住民税
- 社会保険料
- 必要経費とみなされるもの
- 自立更生に役に立つと認められた金品
- 学資保険の満期金(一定条件下)
- 奨学金(学費に充てられる場合)
必要経費とみなされるものや、その人の自立更生に役に立つ場合などは、収入として認められることがなければ、その分の保護費は減ることがありません。
収入申告の頻度と期限

申告の頻度
適正な生活保護費を支給するために、受給者は収入申告を毎月1回行う義務があります。
もともと、以前は3ヶ月に1回の申告でも問題なかったのですが、現在では月1回の申告が必要とされています。
申告頻度のパターン
- 働いている人:毎月申告
- 働いていない人・収入がない人:3ヶ月に1度
- 臨時収入があった場合:その都度報告
収入の有無にかかわらず、1か月または3か月に1度、収入申告書を提出しなければなりません。
申告期限
収入申告書の提出期限については、その受給者によって異なってきますので、それを含めた福祉事務所の指示に従って、収入申告をしてください。
一般的な期限
- 収入を得た月の翌月10日まで
- 給料日から数日の間
- 臨時収入は確定した日から数日以内
生活保護以外の収入に変化があった場合は、なるべく速やかに申告を行うように、福祉事務所からの細かい指示があります。
申告タイミングの例
給与の場合
- 月末締め、翌10日手渡しの給与 → 給与を受け取った翌月初旬に申告
- 月25日払いの給与 → 翌月初旬に申告
臨時収入の場合
- 親族から援助を受けた → 受け取った数日以内に申告
- 保険金が振り込まれた → 入金確認後すぐに申告
収入申告の方法

必要な書類
基本書類
- 収入申告書(福祉事務所指定の様式)
- 収入の内容が確認できる書類
- 通帳の写し(収入が通帳に入金されている場合)
収入を証明する書類の例
- 給与収入:給与明細書
- 年金収入:年金額改定通知書、年金振込通知書
- 手当:受給決定通知書
- その他:振込の記録、領収書、契約書など
申告書の記入方法
収入申告書には以下の内容を記入します。
記入項目
- 申告日
- 氏名・住所
- 収入の種類(給与、年金、手当など)
- 収入金額
- 収入を得た日
- 支払者の情報
- 添付書類の内容
記入方法については、特段の指定がなければ手書きにする必要はなく、パソコンでデータに入力・印刷し、提出して構いません。
提出方法
基本的には、役所の福祉事務所へ赴いて、生活保護担当のケースワーカーに、収入申告書を渡すようになっています。

3つの提出方法
1. 窓口持参
- 福祉事務所(生活支援課など)へ直接持参
- 平日の午前9時~午後5時が一般的
- 担当ケースワーカーに直接手渡し
2. 郵送
近くに役所がない場合は、ケースワーカーに相談した上で、書類を郵送する方法も可能です。
3. オンライン申請
自治体によっては、オンラインでの申告が可能です。
例えば船橋市では「船橋市スマート申請」というオンライン申請システムがあり、収入申告、資産申告、求職活動報告、勤務先報告などをオンラインで提出できます。
お住まいの自治体のウェブサイトで、オンライン申請に対応しているか確認してみましょう。
就労収入の控除制度

働くほど手取りが増える仕組み
生活保護制度では生活保護受給者の自立を促進するため、就労収入に4種類の控除があります。
基礎控除、特別控除、新規就労控除、未成年者控除に該当する場合、収入から一定の金額が控除されます。
さらに、働く際に必要になる交通費や所得税などは、必要経費として実費の控除が認められます。
基礎控除
収入額に応じて控除される金額が段階的に設定されています。
基礎控除の例
- 収入15,000円以下:15,000円(全額控除)
- 収入15,001円~20,000円:16,000円
- 収入23,000円:16,000円
- 収入35,000円:17,200円
収入が15,000円の場合、控除が収入と同額のため、生活保護費は減額されません。

必要経費の控除
実費控除が認められる経費
- 通勤交通費
- 所得税
- 住民税
- 社会保険料(健康保険、厚生年金、雇用保険)
- 労働組合費(一定の条件下)
これらは領収書や給与明細で確認できる実費が控除されます。
控除適用後の計算例
例:生活保護費13万円、就労収入35,000円の場合
- 収入:35,000円
- 基礎控除:17,200円
- 差引:35,000円 – 17,200円 = 17,800円
- 生活保護費:130,000円 – 17,800円 = 112,200円
- 手取り合計:147,200円
このように、働くほど手取りが増える仕組みになっています。
収入申告を忘れた・遅れた場合の対処法

申告を忘れた場合のリスク
これまでの説明の通り、生活保護受給者には定期的な収入申告が課され、それぞれの提出期限を守って行う必要があります。
しかし、生活保護費以外の収入があったにも関わらず、何らかの事情があってそれを申告しなかった場合は、余分な保護費が支給されてしまう場合があります。
申告を怠った場合の影響
- 不正受給とみなされる可能性
- 過支給分の返還請求
- 生活保護の支給停止または廃止
- 悪質な場合は刑事告訴(生活保護法第85条)
また、申告が遅れたことで支給されるはずの保護費が支給されなかった場合、状況によってはその分の支給を受けられない可能性があります。
申告を忘れた場合の対処法
申告を忘れたことに気づいたら、すぐに以下の対応を取りましょう。
ステップ1:即座に担当ケースワーカーに連絡
電話または直接訪問して、申告を忘れていたことを正直に伝えます。
ステップ2:収入の詳細を報告
- 収入を得た日
- 収入の種類と金額
- 申告が遅れた理由
ステップ3:証明書類を揃える
給与明細や振込記録など、収入を証明できる書類を準備します。
ステップ4:収入申告書を提出
遅れた分も含めて、正確に記入して提出します。
悪意がない場合の扱い
「知らなかった」「忘れていた」など、悪意がない場合でも返還義務は発生しますが、生活保護法第63条(返還金)として扱われます。

生活保護法第63条と78条の違い
第63条(返還金)
- 悪意がない場合の過支給
- 返還額は過支給分のみ
- 分割返還の相談可能
第78条(徴収金)
- 不正な手段による受給
- 返還額に最大40%を上乗せして徴収可能
- 悪質な場合は刑事告訴も
早めに正直に申告することで、63条での対応となる可能性が高まります。
不正受給とみなされるケース

不正受給の定義
収入を適切に申告しない場合、不正受給と見なされ、生活保護の支給停止や返還請求が発生する可能性があります。
不正受給の主なケース
1. 就労収入の無申告
アルバイト代や臨時収入を申告しなければ不正受給になります。少額や一度きりでも必ず申告が必要です。特に多いのは「少額だから大丈夫」と思ってしまうケース。
2. 虚偽の申告
実際の収入より少ない金額を申告した場合も不正受給です。
3. 資産の隠蔽
預貯金や不動産を隠すと不正受給になります。
4. 借金
生活保護受給中の借金(年金担保貸付を含む)は認められていません。仮に借金された場合は原則収入としてみなされ、保護費が減額(金額によっては保護停止または廃止)となります。
奨学金や他法、他施策等による貸付金については、認められる場合があるので、必ず事前に担当のケースワーカーに相談してください。

不正受給の発覚方法
福祉事務所は様々な方法で不正受給を調査します。
主な調査方法
- 銀行口座の照会
- 雇用保険の加入状況調査
- 税務署への所得照会
- 近隣住民からの通報
- ケースワーカーの家庭訪問
- 警察官OB職員による調査(自治体によって)
不正受給の罰則
生活保護法第78条(費用等の徴収): 不実の申請その他不正な手段により保護を受けた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。
生活保護法第85条(罰則): 不実の申請その他不正な手段により保護を受けた者は、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
その不正受給が意図的に行われたものであったり、返還に応じないなど、その行為が悪質と判断される場合は、告訴する場合があります。

なお、これらの罰則を受けた場合でも返還義務は免除されません。

よくある質問

Q1. フリマアプリで私物を売った場合も申告が必要ですか?
A1. はい、原則として申告が必要です。生活用品の処分程度であれば収入認定されないこともありますが、継続的な販売や高額な売上は収入とみなされます。迷ったらケースワーカーに相談しましょう。
Q2. 少額でも申告しなければいけませんか?
A2. はい、金額に関わらずすべての収入を申告する義務があります。「少額だから大丈夫」という判断は禁物です。親族からの援助やフリマアプリでの売上も収入として扱われます。
Q3. 収入がない月も申告が必要ですか?
A3. はい、収入がない場合でも定期的な申告が求められます。これにより、生活保護の適正な支給が維持されます。「収入なし」と記載して提出してください。
Q4. 申告を忘れていたことが後から発覚したらどうなりますか?
A4. 過支給分の返還を求められます。悪意がない場合は分割返還の相談も可能ですが、早めに自己申告することが重要です。発覚を待つのではなく、気づいた時点ですぐにケースワーカーに連絡しましょう。
Q5. 確定申告と収入申告は別ですか?
A5. はい、別の手続きです。生活保護の収入申告は福祉事務所に対して行うもので、確定申告は税務署に対して行うものです。生活保護受給者でも、年間103万円を超える収入がある場合などは確定申告が必要になります。
Q6. オンライン申請はどの自治体でもできますか?
A6. いいえ、自治体によって異なります。船橋市や一部の自治体ではオンライン申請システムを導入していますが、すべての自治体で利用できるわけではありません。お住まいの自治体のウェブサイトで確認するか、福祉事務所に問い合わせてください。
収入申告を正しく行うためのチェックリスト

日常的に心がけること
□ 収入があったらすぐにメモする 給与明細や振込通知書はすぐに保管し、金額をメモしておく
□ 申告期限を忘れないようにする カレンダーやスマホのリマインダーを活用
□ 不明な点はすぐに確認する 「これは収入?」と迷ったらケースワーカーに相談
□ 証明書類は必ず保管する 給与明細、通知書、振込記録などは捨てずに保管
申告時のチェックポイント
□ 収入申告書に漏れなく記入した
- 申告日
- 収入の種類
- 金額
- 受け取った日
□ 必要な書類を添付した
- 給与明細
- 年金通知書
- その他証明書類
- 通帳の写し(必要な場合)
□ 提出期限内に提出できる 余裕を持って準備し、期限前に提出
□ 控えを取っておく 提出した書類のコピーを保管
まとめ:正確な申告が自立への第一歩

生活保護の収入申告について、重要なポイントをまとめます。
収入申告の基本
- 法的義務:生活保護法第61条に基づく義務
- 目的:適正な生活保護費の算定のため
- 対象:すべての収入(就労、年金、手当、臨時収入など)
- 頻度:毎月または3か月に1度
- 期限:収入を得た月の翌月10日までが一般的
申告が必要な収入
- 就労収入(給与、ボーナス、アルバイト代)
- 年金・手当(公的年金、児童手当など)
- 臨時収入(仕送り、保険金、相続など)
- その他(フリマ売上、オークション収入など)
- 少額でも申告が必要
申告方法
- 収入申告書に必要事項を記入
- 証明書類を添付
- 窓口持参、郵送、またはオンライン申請
- 担当ケースワーカーに提出
就労収入の控除
- 基礎控除:収入額に応じて控除
- 必要経費:交通費、税金、社会保険料など
- 働くほど手取りが増える仕組み
申告を忘れた場合
- すぐにケースワーカーに連絡
- 正直に事情を説明
- 証明書類を揃えて提出
- 過支給分の返還が必要
- 悪意がない場合は分割返還も相談可能
不正受給の罰則
- 返還額に最大40%を上乗せして徴収
- 悪質な場合は3年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 返還義務は罰則を受けても免除されない
困ったときの相談先
- 担当ケースワーカー
- お住まいの地域の福祉事務所
- 生活保護に詳しい弁護士
- 生活保護支援団体
最後に
収入を得たら、申告が必要です。
収入は、働いて得たものだけではなく、仕送りや年金なども含まれます。
収入申告は面倒に感じるかもしれませんが、適正な保護費を受け取り、最終的に自立するための重要な手続きです。
不正受給は決して得になりません。
「知らなかった」では済まされないこともあります。
少しでも不明な点があれば、遠慮せずにケースワーカーに相談してください。
生活保護を受給しながら収入を得ることは、法律的に問題ありません。むしろ、収入を得ることによって自立への道を進むことが期待されています。
正確な収入申告を心がけ、一歩ずつ自立に向けて前進しましょう。

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