生活保護制度は最後のセーフティネットと呼ばれており、収入や資産がなく生活に困ってしまった場合に、国から健康で文化的な最低限度の生活を送れるだけのお金を支援してもらえる制度です。
病気や事故等により、いつ誰がどういう理由で生活できない状況になるのか、わからないため、生活保護制度は社会保障制度として必要不可欠な制度です。
しかし、この生活保護制度を悪用して、生活保護を不正に受給する方が少なからずいます。
一生懸命生活している人からすると、生活保護制度を悪用して生活をしている不正受給者は絶対に許せませんよね。
では、もしも不正受給をしている生活保護受給者を見つけたらどうした場合、どこに通報したら良いのでしょうか?そして、通報したらどのような処分が下されるのでしょうか?気になるところだと思います。
そこで、このページでは、不正受給者を見つけた場合の対処法と通報したらどうなるのか?について詳しくご説明します。
生活保護の不正受給とは
生活保護の不正受給とは、本当は何かしらの収入があったり、資産を持っているのにも関わらずケースワーカーに申告しないで生活保護を受給することです。
働けるのに働かない、生活保護費でパチンコ等のギャンブルをするなどは不正受給と思われがちですが、実は不正受給に該当しません。
詳しい理由は後述しますが、世間の一般常識と照らし合わせると「それは生活保護の不正受給だろう!」と思われるものでも、制度上、実は不正受給ではないこともあるので、その点だけはご注意ください。
「これが不正受給じゃないなんて、そんなのおかしい!」と思う方は市役所に言っても意味がありません。
生活保護制度は国の制度なので、制度を変えたい方は、国の方に陳情・要望・請願を出しましょう。
不正受給の通報は市役所・福祉事務所にする
生活保護の不正受給を見つけた場合、どこに連絡をすれば良いのか?
もしも不正受給者を見つけた場合は、市役所又は福祉事務所に通報しましょう。
市に住んでいる場合は、市役所=福祉事務所のため、市役所の生活保護担当課に通報すれば大丈夫です。
町村に住んでいる場合は、町村役場ではなく、お住まいの地域を担当する福祉事務所に通報する必要があります。
福祉事務所の連絡先がわからない場合は、町村役場の生活保護担当課に聞けば連絡先を教えてもらえますので、兎にも角にも生活保護の不正受給を見つけた場合は、役所に通報すれば良いと思って頂いて大丈夫です。
通報する際の注意点として、通報先は、通報者の住んでいる役所ではなく、不正受給の疑いのある生活保護受給者の住んでいる役所に通報する必要があります。
例えば通報者がA市、不正受給者がB市に住んでいる場合、B市に通報する必要があります。
そして、不正受給者の通報をする際は不正受給者の氏名等、個人を特定できる情報、及び不正受給の詳細情報、この2点は必ず伝えてください。
不正受給者の氏名や住所等がわからなければ、どなたが不正受給をしているのか特定することができず、行政も対処しようがないため、必ず誰か特定できる情報を伝えましょう。
同様に、どのような不正受給をしているのかわからなければ、調査しようがないため、不正受給の具体的な内容についても必ず伝えましょう。
実は生活保護受給者ではない可能性もある
通報する際のもう一つの注意点として、市役所に通報したは良いけれど、生活保護の不正受給者だと思っていた相手方が実はそもそも生活保護受給者ではない場合があります。
生活保護を受給中かどうかは個人情報のため、市役所に問い合わせても絶対に教えてくれません。
本人自らが「生活保護を受給している」と言わない限り、生活保護受給者であることを周りが知ることは、まずありませんし、仮に本人が言っていたとしても嘘や冗談の場合もあります。
そのため、通報する場合は熱くならず、実は生活保護受給者ではない可能性もあると思って通報しましょう。
逆に言えば、生活保護受給者かどうかを知る術はなく、間違っていても全然問題はないため、気負いせずに通報しましょう。
不正受給が発覚したら徴収金として処理される
生活保護の不正受給が発覚した場合、どのような処分を受けるのか?と言いますと、不正受給した分の金額を徴収金として福祉事務所に返納しなければいけません。
例えば30万円のタンス貯金があるのに、報告せずに生活保護を不正に受給した場合は、その30万円は満額徴収金として返納しなければいけません。
仮に本人が返納を拒否した場合は、自己負担金が30万円に到達するまでの間、生活保護費の支給をストップします。
また、不正受給の内容が生活保護受給者による積極的な作為または不作為によって発生したと判断された場合、徴収額に4割を加算した金額が徴収されることもあります。
先ほどの例だと、返納しなければいけない徴収金は30万円ではなく、4割(12万円)加算された42万円返納しなければいけません。
さらに、不正受給の内容が非常に悪質だと判断された場合は、起訴され、生活保護法違反として3年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
場合によっては、詐欺罪が成立し、詐欺罪が適用された場合の罰則は、10年以下の懲役に処せられる可能性があります。
不正受給でも生活保護は廃止にならない
不正受給が発覚した場合、生活保護はどうなるのか?と疑問に思う方が多いと思いますが、不正受給の罰則は徴収金のみで、原則的には廃止にならず、生活保護を継続して受給することが可能です。
例外的に、生活保護法違反または詐欺罪が成立して懲役刑となった場合は、刑務所に入ることになるため、生活保護は職権廃止となります。
逮捕によって生活保護が廃止になった場合でも、あくまで逮捕・勾留されている間は食事が出る(最低生活は保障されている)ため廃止になるだけなので、不正受給による逮捕であっても、出所後、申請すれば、すぐに生活保護を受給することが可能です。
「不正受給をしたのに、ペナルティなく生活保護を受給・継続できるのはおかしい!」と思う方もいると思いますが、現在の制度上、生活保護の受給条件に不正受給の経歴の有無はありません。
そのため、生活保護を不正に受給したからと言って、生活保護が受けられない、生活保護を受けにくいと言ったことは絶対にありません。
通報者に報告・連絡はない
「市役所に不正受給者の情報を通報したのに、その後の対応等の経過報告・連絡が市役所からない!」と憤る方が、ごくたまにいらっしゃいますが、市役所から通報者に経過報告・連絡することは絶対にありません。
なぜなら、生活保護を受給しているかどうかは個人情報だからです。
個人情報のため、扶養義務調査を除いて本人以外に生活保護を受給している、受給していないをケースワーカーが言うことは絶対にありません。
「生活保護を受給していない」と言うこともお答えすることができないため、通報した際にケースワーカーから「その方が、もしも生活保護受給者であれば調査を行い、不正受給が発覚した場合は適切に対処いたします。」と言ったどっちつかずの不明瞭な回答をされると思います。
「せっかく通報したのに、なんて態度だ!」と思うかもしれませんが、ケースワーカーが生活保護を受給している、していないを第三者に伝えてしまったら、そのケースワーカーは個人情報を漏洩したとして、懲戒処分されてしまうため、通報者に対して経過報告・連絡はできません。
そこはご了承ください。
不正受給に該当しないもの
繰り返しになりますが、不正受給とは何らかの収入や資産があるのにケースワーカーに申告せずに生活保護を受給することです。
それ以外に関しては、不正受給とはなりません。
そのため、一般的・常識的に考えて「それは生活保護の不正受給だろう!」と思われることであっても、実は不正受給ではないものが多数あります。
実際、一般市民の方から受ける不正受給の通報は、生活保護法上は不正受給に該当しないものが多いので、不正受給と勘違いされやすいものを5つご紹介します。
なお、どうしても「これが生活保護の不正受給じゃないなんておかしい!」と思う方、いらっしゃると思います。
しかし、市役所に言っても意味がありません。
生活保護は国の制度のため、国に対して「おかしい!」と声をあげましょう。
生活保護費でパチンコ等のギャンブルをする
「生活保護受給者がパチンコ店にいた!生活保護をもらっているのに、パチンコ等のギャンブルをするのはおかしい!」と、よく市民の方から問い合わせがありますが、実は生活保護受給者はパチンコ等のギャンブルをすることが認められています。
日本国憲法第25条1項で「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」
と定められています。
そして、生活保護法は、この憲法第25条に基づいて作られています。
この「健康で文化的な最低限度の生活」と言うキーワードが非常に重要で、「文化的」には娯楽も含まれてることから、映画やゲーム、漫画等はもちろん、パチンコ、競馬、競艇等のギャンブルに生活保護費をつぎ込んでも特に問題はありません。
市民感情としては「パチンコ等のギャンブルに使うなんて許せない!!」と思いますが、生活保護費をパチンコ等に使ってはいけないなんて決まりはないので、不正受給になりえません。
生活保護を受給しながら仕事をする
「働いているのに生活保護を受けている!不正受給じゃないのか!」との通報がたまにありますが、働きながら生活保護を受給することは不正受給ではありません。
むしろ、働いて収入を得て、その収入で足りない部分を生活保護費で補う形こそ、生活保護受給者のあるべき姿です。
生活保護の受給が開始されると、自動的に決まった金額が支給されるわけではありません。
世帯ごとに最低生活費が算出され、その最低生活費に足りない部分が毎月の生活保護費として支給されます。
仮に働いて得た収入があれば、収入認定を行い、給料分を差し引いた金額が生活保護費として支給されます。
年金等の給料以外の収入がある場合も控除はありませんが、基本的に同様の取り扱いになります。
もちろん、収入があるのに黙っていた場合や少なく申告していた場合は不正受給となりますが、キチンと収入申告をしているのであれば、働きながら生活保護を受給することは不正受給ではありません。
働けるのに働かない
「健康なのにわざと働かないで生活保護を受給している!」「うつ病と偽って生活保護を受給している!」等の通報がありますが、本当は働けるのに働かないで生活保護を受給しても不正受給にはなりません。
それがたとえ健康であろうと、嘘の病気であろうと、一切関係ありません。
なぜなら、生活保護の条件は「世帯の収入が最低生活費以下であること」だけだからです。
一昔前までは、働ける健康状態であれば、生活保護を受給することができなかったんですが、バブル崩壊後、不景気となり、働けないのは個人の責任ではなく、社会にも責任があると言う考えから、病気等がなく、いたって健康であっても世帯の収入が最低生活費以下であれば、生活保護を受給できるようになりました。
そのため、働けるのに働かなくても生活保護の不正受給にはなりません。
「健康で働ける以上は、ケースワーカーが働くように指導するべきで、指導に従わなければ不正受給になるのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、日本国憲法第22条で、全ての国民は職業選択の自由が認められています。
もちろん、生活保護受給者にも職業選択の自由があることから、ケースワーカーが働くことを強制することはできません。
家・土地等の不動産を所有している
「今住んでいる家は生活保護受給者が所有している家だぞ!」「土地を持っているのに生活保護を受給しているのはおかしい!」等の通報がありますが、家・土地等の不動産を所有したまま生活保護を受給することは、不正受給ではありません。
はじめに、マイホームに関しては、生活保護受給者が住み続ける限り、そのまま所有・利用して問題はなく、マイホームを売却する必要もありません。
なぜならマイホームを所有している場合、住宅扶助を支給しなくて良くなるからです。
地域によって異なりますが、賃貸住宅に住んでいる場合、家賃として大体3万円~6万円の住宅扶助を毎月支給しています。
マイホームがあれば、その住宅扶助分、生活保護費の支給金額を減額することができるので、マイホームを所有することは生活保護を受給するうえで、特に問題はありません。
ただし、住宅ローンが残っている場合は、該当する家・土地を売却しない限り生活保護を受給することはできませんので、ご注意ください。
次に、自らが居住していない家・土地等の不動産に関しても所有したまま、生活保護を受給することが可能です。
なぜなら、家・土地等の不動産は価格が高く、売却するのに時間が掛かるからです。
仮に100億円もの価値がある不動産を持っていたとしても、売却できなければ現金化できず、現金がなければ生活をすることができません。
そのため、資産をもっていても現金を持っていない方が生活保護を受給する場合、家・土地に関しては不動産屋を通して売却手続きを行い、売却できた場合に、それまでの期間に受給した生活保護費を返還してもらうことになります。
生活保護を受給中の方が遺産相続によって、急遽、家・土地等の不動産を相続した場合も同様の手続きになります。
飲酒・喫煙をする
「生活保護を受給しているのにタバコを吸っている!」「生活保護費で飲みまわっている!」等の通報がありますが、生活保護受給者が飲酒・喫煙をすることは不正受給ではありません。
生活保護受給者がパチンコ等のギャンブルをして良いのと同じ理由で、生活保護受給者は憲法で「健康で文化的な最低限度の生活」を送ることが認められています。
タバコを吸うことも、お酒を飲むことも娯楽であり、文化的な最低限度の生活に該当するため、生活保護を受給していることを理由に飲酒・喫煙を禁止することはできません。
仮に生活保護受給者がアルコール依存症になっていて、近所の人や病院に迷惑をかけるようになったとしても、タバコにばかりお金を掛けすぎて生活できないような状況になったとしても、ケースワーカーが飲酒・喫煙を止めることはできません。
なぜなら、生活保護費の使い道は生活保護受給者の自由だからです。
もちろん、ケースワーカーも生活指導を行いますが、強制することはできません。
強制した場合、権利侵害となるため、逆にケースワーカー側が罰せられてしまいます。
このように、生活保護受給者の権利は最大限守られているため、一般常識的に不正受給と思われることでも、不正受給ではないことが多々あります。
まとめ
生活保護の不正受給を見つけた場合、どこに通報したら良いのか?通報したらどうなるのか?について詳しく説明させていただきました。
上記をまとめると
- 生活保護の不正受給とは収入や資産があるのに申告をしないで生活保護を受給すること
- 生活保護の不正受給を見つけた場合は、生活保護受給者が住んでいる所の市役所に連絡し、氏名等の個人が特定できる情報と不正受給の詳細情報について伝える
- 不正受給が発覚した場合は、徴収金として不正受給した金額、もしくはそれ以上の金額を福祉事務所に返還しなければならない
- 不正受給が発覚しても生活保護は廃止にならない
- 不正受給を通報しても、個人情報のため、経過報告等の連絡はない
- パチンコ等のギャンブルをしている、働けるのに働かない等、一般常識的には不正受給と思われる件でも生活保護制度上は不正受給ではない件が多数ある。
となります。
その他、生活保護の不正受給に関する様々な疑問については、下記にまとめてありますので、ぜひ参考にしていただけたらと思います。
https://seikathuhogomanabou.com/category/fuseijukyu/
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