医療扶助とは生活保護制度で定められている8種類の扶助の1つです。
医療扶助の項目は広義的には下記のとおり全部で6項目です。
・薬剤又は治療材料
・医学的処置、手術及びその他の治療並びに施術
・居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
・病院又は診療所への入院及びそのその療養に伴う世話その他の看護
・移送
医療扶助の趣旨
医療扶助とは生活保護受給者が病院で診療を受ける場合の医療費に充てるための扶助です。
医療扶助の内容は基本的に国民健康保険の保険給付の対象となるサービスと同じ内容です。
風邪やケガなどの簡易な治療の他、ガン等の大病を患った場合の手術費など、治療に必要なあらゆる医療費は全て医療扶助で賄うことができます。
医療扶助の支給方法
医療扶助の支給方法は現金支給ではなく現物支給(サービスの提供)です。
例えば住宅扶助の場合は、生活保護受給者が住宅扶助を現金で受け取るため、生活保護受給者が大家さんにお金を支払いに行く必要があります。
しかし、医療扶助の場合は、医療費にかかった費用を福祉事務所が直接病院に全額支払うため、生活保護受給者はお金を支払う必要がありません。
つまりタダで医療を受けることができます。
もちろん、診察料だけでなく、施術費もお薬代も全て医療扶助から出るため、全てタダです。
ただし収入が最低生活費を超えている場合は注意が必要です。
給与収入や年金収入があり、その収入が最低生活費を超えた場合は、その超えている額を限度に医療費の自己負担が発生します。
例えば収入15万円、最低生活費12万円、医療費2万円の場合
収入15万円-最低生活費12万円=自己負担額3万円>医療費2万円
となるため、医療費としてかかった2万円については医療扶助が支給されず、全額を生活保護受給者が病院に支払わなければいけません。
掛かった医療費が自己負担額を超える場合は、自己負担分は現金で支払う必要がありますが、残りの分については医療扶助で支払われます。
例えば収入15万円、最低生活費12万円、医療費7万円の場合
収入15万円-最低生活費12万円=自己負担額3万円
医療費7万円-自己負担額3万円=医療扶助から支給される医療費4万円
となるため、医療費にかかった費用のうち、3万円は手出しする必要がありますが、残りの4万円については医療扶助が支給されます。
上記の例の場合、医療費が仮に100万円を超えても自己負担額は3万円のままで、残りの97万円については医療扶助が支給されます。
特に入院期間が1ヶ月を超えた場合に、最低生活費が変わり、自己負担が発生するケースが多いため、長期に入院する場合は注意しておきましょう。
その他の注意点として、医療扶助は基本的に国民健康保険と同様のサービスを受けることができますが、医療扶助には下記の4つの制限があります。
医療扶助の制限1:同時に複数の病院で同じ科を受診できない
国民健康保険の場合、同時に複数の病院で同じ科を受診することは可能です。
しかし、医療扶助の場合、同時に複数の病院で同じ科を受診することはできません。
例えばA病院の耳鼻科とB病院の耳鼻科に同時期に通うことはできません。
つまりセカンドオピニオンをすることはできません。
ただし病院を変えることは可能です。
例えばA病院の耳鼻科に通っていたが、B病院の耳鼻科に通うように受診する病院を変えることは可能です。
また同じ科でなければ、複数の病院を受診することも可能です。
例えば、A病院の耳鼻科、B病院の泌尿器科に通うことは問題ありません。
医療扶助の制限2:指定医療機関で受診する必要がある
指定医療機関とは、福祉事務所が指定した病院のことです。
大抵の病院は指定医療機関の認定を受けていますが、中には指定医療機関じゃない病院もあります。
生活保護受給者が指定医療機関ではない病院を受診することも可能ですが、受診してしまった場合は、医療扶助は一切支払われません。
そのため、指定医療機関に誤って受診してしまった場合は、医療費を自己負担しなければいけません。
しかも、その場合に支払わなければいけない医療費はかなり高額になります。
その理由は、通常、国民健康保険や健康保険に加入している場合、医療費は3割負担で良いですが、生活保護受給者の場合、保険に加入していないため、医療費の10割を負担しなければいけません。
例えば診察料等で10,000円かかった場合、国民健康保険や健康保険に加入している人は3割の3,333円支払えば良いですが、生活保護受給者の場合は10,000円全額支払わなければいけません。
そのため、病院に行く前に、その病院が指定医療機関かどうかを担当ケースワーカーに必ず確認しておきましょう。
医療扶助の制限3:病院受診する前に医療券が必要
原則として、初めて受診する場合や最後に受診してから数ヶ月経過した場合は、受診する前に福祉事務所の窓口で医療券を発行してもらう必要があります。
例外として、福祉事務所が休みの場合や救急の場合は、後日医療券を発行してもらうことも可能です。
ただ、後日発行の場合、生活保護受給者である証明をしなければいけないため、生活保護決定通知書等の証明できるものを持参する必要があります。
もしも生活保護を受給していることを証明できない場合、病院から医療費を請求されることがあります。
その場合は、後日、福祉事務所に連絡すれば、返金してもらえるので安心してください。
ただし、福祉事務所ではなく、病院に行って返金してもらう必要があります。
医療扶助の制限4:整骨院・整体は原則受けられません
医療扶助は「治療」を目的とした施術に支給されます。
柔道整復、あん摩、マッサージ、はり、灸は「緩和」であり、「治療」ではありません。
そのため、原則として医療扶助を利用して整骨院・整体に通うことは出来ません。
ただし、例外として医師から「整骨院・整体に通う必要がある」と意見書をもらった場合は、整骨院・整体にかかる費用は医療扶助から支給されます。
整骨院や整体に通いたい場合は、整形外科の先生に相談してみましょう。
まとめ
生活保護制度で定められている8種類の扶助のうち、医療扶助について、ご紹介させていただきました。
入院した場合など、自己負担額が発生することもあるため、注意が必要ですが、基本的に生活保護を受給中は医療費全額が医療扶助から支給されます。
病気等で仕事ができずに生活保護を受給する人が多いですが、医療扶助を活用することで、まずは治療に専念して体調を整え、その後、自立に向けた第一歩を踏み出すことが可能です。