「生活保護を受けているとパスポートは取れない?」「受給中にパスポートを持っていたら問題になる?」「海外に行ったら生活保護は打ち切られる?」「身分証明としてパスポートを申請に使えるの?」
生活保護とパスポートの関係については、さまざまな疑問や誤解が入り混じっています。
この記事では、法令・制度の観点からすべての疑問に正確に答え、受給者が知っておくべき判断基準を丁寧に解説します。

生活保護受給者はパスポートを取得・保有できるのか?法的な整理

まず最初に、最も重要な結論をお伝えします。
生活保護法には「パスポートを取得・保有してはならない」という規定は一切存在しません。
旅券法(パスポートの根拠法)においても、生活保護受給者の申請を拒否する条項はありません。日本国民である生活保護受給者は、他の日本国民と同じ権利として旅券(パスポート)を申請・取得・保有することができます。
「生活保護を受けているからパスポートは持てない」という言説は、法的根拠のない誤解です。
ただし、「取得できる・保有できる」ことと、「自由に使うことに制度上の制約がまったくない」かは別の話です。特に海外渡航の際の生活保護への影響については、正しい理解が必要です。以下の章で詳しく解説します。
パスポートは「資産」として問題になるのか

パスポート自体に資産価値はない
生活保護における資産審査では、換金できる財産(預貯金・不動産・自動車・高額ブランド品など)が対象になります。

パスポートは渡航のための公的な身分証明書であり、それ自体を売買したり換金したりすることはできません。したがって、パスポートの保有が「資産として問題になる」ことはありません。
パスポートの申請手数料
パスポートの申請に必要な手数料は、10年用(一般旅券)が16,000円、5年用(一般旅券)が11,000円(12歳以上)です。
この手数料については、生活保護費(生活扶助)から支払うことは制度の趣旨に反するとみなされる可能性があります。


ただし、法律上の明示的な禁止規定があるわけではなく、実務上はケースワーカーへの相談が推奨されます。

就労・帰国・葬儀出席など明確な目的がある場合は、申請の必要性についてケースワーカーと事前に相談することが重要です。


受給中にパスポートを新規取得する際の注意点

ケースワーカーへの事前相談が重要
パスポートを新規取得する場合、取得目的・渡航先・渡航期間をケースワーカーに事前に相談することを強く推奨します。
その理由は2つあります。
①海外渡航に伴う生活保護への影響を事前に把握するため 後述しますが、海外に一定期間以上滞在すると保護が停止・廃止になるリスクがあります。事前に確認しておくことでトラブルを防げます。


②手数料の扱いについて確認するため 保護費からの支払いが制度の趣旨に合致するかどうかを、ケースワーカーに確認しておくことが安心です。
パスポート申請に必要な書類と費用
パスポートを新規申請する際に必要な書類は以下のとおりです(日本国民の場合)。
| 書類 | 入手方法 |
|---|---|
| 一般旅券発給申請書 | 都道府県のパスポートセンター・市区町村窓口で入手 |
| 戸籍謄本(または戸籍抄本) | 本籍地の市区町村に請求 |
| 住民票の写し(同一戸籍者で確認できる場合は不要) | 住民登録地の市区町村で取得 |
| 顔写真(縦4.5cm×横3.5cm) | 写真館・証明写真機で撮影 |
| 本人確認書類(マイナンバーカード・運転免許証など) | 手持ちの証明書を使用 |
| 申請手数料 | 10年用16,000円・5年用11,000円 |
生活保護受給者は一般にマイナンバーカードを取得していることが多く、本人確認書類として活用できます。マイナンバーカードがない場合は、健康保険証(受給中は保険証なしの場合が多い)の代わりに、生活保護受給証明書+住民票の組み合わせで対応できる場合があります。


申請場所
パスポートの申請は、住民票がある都道府県のパスポートセンター・申請窓口で行います。市区町村によっては市役所・区役所でも受け付けているケースがあります。
生活保護受給中の海外渡航は可能か?制度上のルール

原則:長期渡航は保護の停止・廃止要因になる
生活保護は「日本国内での生活を最低限度保障する制度」です。
海外に渡航・滞在している間は、日本国内での「最低生活費を下回る生活状況」が発生しないため、渡航期間中は保護の停止・廃止になるのが原則です。

厚生労働省の通達・実施要領では、「居住地を離れて長期間不在になる場合は速やかに届け出ること」が求められています(生活保護法第61条の届出義務)。
「長期」とは具体的にどのくらいか
明確な日数が法律で定められているわけではありませんが、実務上は1か月以上の海外滞在は「保護の停止・廃止」の対象になる可能性が高いとされています。数日〜1週間程度の短期渡航であっても、事前にケースワーカーへの届出が必要です。
自治体・担当ケースワーカーによって判断が異なるため、渡航前に必ず確認を取ることが絶対条件です。
短期渡航と長期滞在の扱いの違い
| 渡航の種類 | 保護への影響の目安 |
|---|---|
| 数日〜1週間程度の短期渡航 | 届出のうえ、一時的な不在として処理される場合がある |
| 1か月以上の中長期滞在 | 保護の停止・廃止が検討される可能性が高い |
| 帰国が不明確な渡航(移住・長期療養など) | 保護廃止の対象になる可能性が非常に高い |
海外渡航が発覚した場合に保護費はどうなるか

無申告で渡航した場合のリスク
ケースワーカーへの事前届出なしに海外渡航をした場合、以下のリスクが発生します。
①渡航中の保護費の返還請求 海外滞在中は保護が適用されない期間とみなされ、その間に支給された保護費(生活扶助・住宅扶助など)の返還を求められる場合があります。

②不正受給として認定されるリスク 「日本国内での生活に支障がある状態でない」にもかかわらず保護費を受け取っていた場合、不正受給とみなされるケースがあります。この場合は最大40%の加算付きで返還請求されます。


③保護の廃止 渡航の事実が発覚した場合、渡航期間・目的・届出の有無をもとに保護の廃止処分が下される可能性があります。


どのように発覚するか
「黙って行けばバレない」と考える方もいますが、以下の経路から発覚することがあります。
- ケースワーカーの定期訪問で不在が続く→居場所の確認が行われる
- 近隣住民・管理組合からの情報提供
- 出入国記録(出入国管理庁のデータ)との照合(行政が照会権限を持つ)
- SNSへの投稿(海外旅行写真・位置情報の公開)
特に長期渡航の場合、定期訪問での不在が続くことで自然に発覚するリスクが高くなります。

渡航費用・旅行費用は生活保護費から出せるのか

観光・レジャー目的の渡航費は出ない
観光・リゾート・旅行を目的とした海外渡航の費用は、生活保護費(生活扶助)から支出することは制度の趣旨に反するとみなされます。
生活保護費は「最低限度の生活を維持するための費用」であり、娯楽・観光目的の渡航費はこの範囲に含まれません。
緊急性のある渡航(冠婚葬祭・帰国・医療)の場合
以下のような緊急性・必要性が認められる渡航については、個別のケースとしてケースワーカーに相談することが重要です。
| 渡航の目的 | 考え方 |
|---|---|
| 近親者の訃報・葬儀出席(海外在住の親族) | 人道的な事情として一時的に認められる可能性あり |
| 日本への帰国(外国籍の方が一時的に帰国) | 帰国先での生活扶助は受けられないが短期なら相談の余地あり |
| 海外での医療(国内で治療困難な疾患) | 医療扶助の対象は国内指定医療機関のみのため、基本的に対象外 |
| 海外に住む子どもの緊急事態 | 個別ケースとして相談が必要 |
いずれの場合も、「必要性が認められるかどうか」をケースワーカーに事前相談したうえで行動することが必須です。

パスポートを身分証明書として生活保護申請に使う場合

パスポートは有効な本人確認書類
生活保護申請の際に必要な本人確認書類として、有効期限内のパスポートは認められます。
特に、以下のような状況でパスポートが身分証明として役立つことがあります。
- マイナンバーカード・運転免許証を持っていない場合
- 住民票の住所と実態の住所が一致していて、他の証明書がない場合
- 外国籍の方が在留資格証明書と合わせてパスポートを提示する場合
外国籍の方の注意点
外国籍の方が生活保護(準用)を申請する際、パスポートと在留資格証明書(在留カード)を合わせて提示することが求められます。在留資格によっては保護対象外となる場合もあるため、在留資格の種類をあわせて確認することが重要です。

外国籍の方の生活保護とパスポートの特別な関係

外国籍の方の生活保護の基本
外国籍の方への生活保護は、法律上の受給権(権利)ではなく、人道的配慮に基づく行政措置として行われています(旧厚生省通知に基づく)。適用される在留資格は以下のとおりです。
- 永住者
- 定住者
- 日本人の配偶者等
- 永住者の配偶者等
- 特別永住者
- 難民認定者 など
外国籍受給者がパスポートを使う場面
外国籍の受給者にとって、パスポートは以下の場面で特別な意味を持ちます。
①母国への一時帰国 長期的な一時帰国は保護停止・廃止の対象になる可能性があります。短期の一時帰国についても、ケースワーカーへの届出と事前相談が必須です。
②在留資格の更新とパスポートの有効期限の関係 在留資格の更新にパスポートが必要になるため、パスポートの有効期限切れには注意が必要です。在留資格を失うと保護の適用資格も喪失する可能性があります。
③難民認定者のパスポート取得問題 一部の難民認定者は、母国のパスポートを取得・更新すると難民認定が取り消されるリスクがあります。この場合は「難民旅行証明書」の取得が必要になることがあります。難民支援団体・弁護士への相談を強く推奨します。
受給者が海外渡航を考える現実的なケース:帰国・冠婚葬祭・医療

ケース①:外国籍受給者の母国への一時帰国(冠婚葬祭)
両親の葬儀・重篤な家族の見舞いなど、人道的に避けられない一時帰国が必要な場合は、ケースワーカーに「緊急帰国の必要性」を正直に説明し、渡航前に相談することが最善です。
短期間(1〜2週間程度)の一時帰国であれば、帰国中の保護停止・帰国後の再開が認められるケースがあります。ただし、費用は保護費から出ることはなく、自己負担となります。
ケース②:日本国籍受給者が海外在住の親族の葬儀に出席したい
近親者が海外在住で訃報があった場合も、基本的な考え方は同様です。葬儀出席のための短期渡航については、ケースワーカーへの事前相談が必須です。
渡航費用は保護費から出ることはなく、渡航中の生活費(現地での食費など)についても保護の対象外です。
ケース③:医療目的の渡航(国内未承認の治療を受けたい)
日本国内で受けられない治療を海外で受けたい場合、医療扶助は国内の指定医療機関が対象のため、海外医療費は保護の対象外です。渡航費・治療費はすべて自己負担となります。
また、長期の海外療養は保護の廃止事由になる可能性があります。医療目的の海外渡航を検討する場合は、必ず事前にケースワーカーと医療ソーシャルワーカー(MSW)に相談してください。
相談窓口一覧

| 機関名 | 内容 | 連絡先 |
|---|---|---|
| 担当ケースワーカー・福祉事務所 | パスポート取得・渡航の事前相談 | 各自治体へ |
| 都道府県のパスポートセンター | パスポート申請・更新の手続き | 各都道府県旅券事務所 |
| 法テラス | 不正受給疑い・保護廃止への法的対応 | 0570-078374 |
| 難民支援協会(JAR) | 難民認定者のパスポート・旅行証明書問題 | ウェブサイトで検索 |
| 外国人生活支援団体 | 外国籍受給者の帰国・在留資格問題 | 各地域の支援団体へ |
| よりそいホットライン | 24時間無料電話相談 | 0120-279-338 |
よくある疑問Q&A

Q1:パスポートを持っているだけで不正受給になる?
A:いいえ。保有するだけでは問題になりません。 パスポートの保有は法律上まったく問題ありません。ただし、実際に海外渡航する際に届出を怠ると不正受給のリスクが生じます。
Q2:パスポートを申請するためのお金は保護費から出る?
A:明確な禁止規定はありませんが、制度の趣旨上問題になりうるため、ケースワーカーへの事前相談が必要です。 明確な必要性(就労・帰国・冠婚葬祭など)がある場合は、個別に相談してください。
Q3:受給中に観光で海外に行ってはいけない?
A:制度の趣旨上、保護費を使った観光目的の海外渡航は適切ではありません。 渡航自体が法律で禁止されているわけではありませんが、渡航中の保護費支給は原則対象外となり、長期渡航は保護の停止・廃止につながります。渡航したい場合は必ず事前にケースワーカーに相談してください。
Q4:海外に数日旅行したいが、ケースワーカーに言わなければいけない?
A:はい。数日であっても居所の変更として届出義務があります。 生活保護法第61条により、居所の変化は速やかに届け出る義務があります。数日の短期渡航でも、事前にケースワーカーに報告・相談することが原則です。
Q5:パスポートを申請したら、ケースワーカーに自動的に通知が行く?
A:パスポートの申請情報がケースワーカーに自動通知されることはありません。 旅券法上、申請情報は外務省・都道府県が管理しており、福祉事務所への自動通知は行われません。ただし、行政が必要と判断した場合に情報照会が行われる可能性はあります。
Q6:パスポートの更新(切り替え申請)も同じルールが適用される?
A:はい。新規取得と同様の考え方が適用されます。 既存のパスポートの更新についても、取得目的・渡航予定をケースワーカーに相談することを推奨します。
まとめ:「取得・保有は自由」だが「渡航には必ず届出と相談を」

この記事のポイントを整理します。
パスポートの取得・保有について
- 生活保護法に「パスポート保有禁止」の規定は一切ない
- パスポートは換金できない身分証明書のため資産問題にはならない
- 取得手数料の支払いについてはケースワーカーへの事前相談が推奨
海外渡航について
- 生活保護は日本国内での生活保障制度のため、海外渡航中は保護費が原則対象外
- 短期渡航でも必ず事前にケースワーカーへ届出・相談が必要
- 無申告での渡航は不正受給・返還請求・保護廃止のリスクがある
- 観光目的の渡航費は保護費から出ない
- 冠婚葬祭・緊急帰国などの人道的理由の場合は個別に相談
外国籍の方の注意点
- 在留資格とパスポートの有効期限の管理が特に重要
- 難民認定者は難民旅行証明書の取得が必要な場合がある
- 母国への長期帰国は保護停止・廃止の対象になりうる
「隠して渡航する」ことがもたらすリスクは、開示して相談することで得られるメリットより遥かに大きいです。渡航を検討する場合は、必ず担当ケースワーカーへの早めの相談から始めてください。

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