生活保護を受給している方、またはこれから申請を検討している方の中で、「海外旅行はできるのか」「海外に住みながら生活保護は受けられるのか」「海外から帰国したら生活保護を受けられるのか」といった疑問を持つ方は少なくありません。
本記事では、生活保護と海外渡航の関係について、法的根拠、実際の運用、手続き方法、注意点まで、具体例を交えて詳しく解説します。

生活保護受給者の海外渡航の可否

結論:原則として認められない
生活保護を受給しながらの海外渡航は、原則として認められていません。
生活保護法の趣旨は、日本国内で生活に困窮する人を支援することです。海外渡航ができる経済的・身体的余裕がある場合、「最低限度の生活」という要件を満たしていないと判断されるためです。

法的根拠と解釈
生活保護法の原則 生活保護法第1条では、「最低限度の生活を保障する」と定められています。海外渡航費用を捻出できる経済状況であれば、最低限度の生活水準を超えていると解釈されます。
厚生労働省の見解 厚生労働省の通知では、海外渡航について以下のような取り扱いが示されています。
- 原則として認めない
- やむを得ない事情がある場合のみ、個別に判断
- 渡航期間中の保護費支給は停止
例外的に認められるケース
以下のような場合、例外的に海外渡航が認められることがあります。
1. 親族の危篤・葬儀
- 近親者(親、子、兄弟姉妹など)が海外で危篤または死亡した場合
- 渡航費用を親族が負担する
- 滞在期間が短期(1~2週間程度)
2. 医療上の必要性
- 日本国内では受けられない特殊な治療が必要
- 医師の診断書がある
- 渡航・治療費用を他の制度や寄付で賄える
3. 業務上の必要性
- 就労のための出張(企業が渡航費用を負担)
- 短期間の研修
- 自立につながると認められる場合
4. 強制送還される場合
- 在留資格を失った外国人が、本国に送還される場合
重要な条件
- 事前にケースワーカーに相談し、許可を得る
- 渡航費用を保護費から支出しない
- 渡航期間中の保護費は停止される
- 帰国後、速やかに報告する
海外渡航の手続き

事前相談が必須
海外渡航を検討する場合、必ず事前にケースワーカーに相談する必要があります。

相談時に伝えるべき事項
- 渡航の目的
- 渡航先
- 渡航期間
- 渡航費用の出所
- 滞在先
提出が求められる可能性がある書類
- 渡航理由を証明する書類(危篤の診断書、葬儀の案内など)
- 渡航費用の負担者を証明する書類
- 航空券の予約証明
- 滞在先の情報
許可が出た場合の手続き
保護費の停止 渡航期間中は、生活保護費の支給が停止されます。

理由
- 海外では日本の生活保護法が適用されない
- 渡航期間中は日本国内で最低限度の生活を送る必要がない
- 医療扶助や住宅扶助も不要
停止期間 出国日から帰国日までの期間
再開手続き 帰国後、速やかにケースワーカーに連絡し、保護の再開手続きを行います。
無断渡航のリスク
ケースワーカーに相談せず、無断で海外渡航した場合
発覚する経路
- 定期訪問時の不在
- 郵便物の不達
- 医療機関受診がない
- 近隣住民からの情報
ペナルティ
- 生活保護の停止または廃止
- 渡航期間中の保護費の返還請求
- 不正受給として刑事告発の可能性
- 再申請が困難になる
海外在住者の生活保護受給

海外在住中の受給は不可
結論:海外に住んでいる間は、日本の生活保護を受けることはできません。
生活保護法は、日本国内の居住者を対象とした制度です。海外に居住している場合、日本の福祉事務所の管轄外となります。
法的根拠
生活保護法第1条 「この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し」と定めており、「国内」での保護を前提としています。
住所要件 生活保護の申請には、日本国内に住所(または居所)があることが必要です。
海外移住と生活保護の打ち切り
生活保護を受給している方が海外に移住する場合
手続き
- ケースワーカーに報告
- 保護の廃止手続き
- 海外転出届を市区町村に提出

保護費の扱い
- 出国日をもって保護廃止
- それ以降の保護費は支給されない
再申請 帰国後、改めて生活保護を申請することは可能です。
海外から帰国した場合の生活保護

帰国後の生活保護申請
海外から帰国し、生活に困窮した場合、生活保護を申請することは可能です。

申請要件
- 日本国籍を有すること(または定められた在留資格)
- 日本国内に住所または居所があること
- 生活保護の受給要件を満たすこと
帰国直後の申請 帰国したばかりで住所が定まっていない場合でも、現在いる場所を管轄する福祉事務所で申請できます。

長期海外滞在後の申請
審査のポイント
- なぜ帰国したのか
- 海外での生活状況
- 帰国にあたっての資産の処分状況
- 扶養義務者の有無
必要な説明
- 海外で生活が困難になった理由
- 帰国のための費用の出所
- 今後の生活の見通し
海外居住経験と生活保護
海外居住歴があっても申請可能 海外に住んでいた経験があるだけで、生活保護を受けられないということはありません。帰国後、要件を満たせば申請できます。

注意点
- 海外の銀行口座に預金がある場合、資産として申告が必要
- 海外の不動産を所有している場合、処分を求められる可能性
- 海外からの年金収入がある場合、収入として申告
外国人の生活保護

外国人への生活保護の適用
法的位置づけ 外国人への生活保護は、法律上の権利ではなく、「人道上の観点」から行政措置として実施されています。
対象となる外国人 以下の在留資格を持つ外国人は、生活保護の対象となる可能性があります。
- 永住者
- 定住者
- 永住者の配偶者等
- 日本人の配偶者等
- 特別永住者
対象外となる在留資格
- 留学
- 短期滞在
- 技能実習
- 特定技能(原則として)

外国人の海外渡航
外国人が生活保護を受けながら海外渡航する場合も、日本人と同様の扱いです。
母国への帰国
- 一時帰国:原則として認められない(例外的に親族の葬儀などは可能性あり)
- 永久帰国:保護廃止
再入国と生活保護 一時帰国後、再び日本に戻ってきた場合、生活保護は停止されていた期間について、改めて申請することになります。
海外療養と生活保護

海外での医療行為
原則 生活保護の医療扶助は、日本国内の指定医療機関での治療のみが対象です。海外での治療費は原則として対象外です。

例外的なケース
- 海外渡航中に急病になった場合、帰国後に一部が認められる可能性(非常に限定的)
- 日本国内で治療できない特殊な疾患の場合、事前申請により認められることもある
海外旅行保険
生活保護受給者が例外的に海外渡航を認められた場合
海外旅行保険への加入
- 保険料は保護費からの支出は認められない
- 渡航費用を負担する親族などが加入することが推奨される
医療トラブル時
- 保険がない場合、全額自己負担
- 帰国後に医療扶助で対応することも困難

具体的なケーススタディ

ケース1:親族の葬儀で短期帰国(許可される例)
状況
- 生活保護受給中の60代女性
- 母国(韓国)に住む母親が死去
- 姉が渡航費用と滞在費を負担
対応
- 死亡証明書と姉からの費用負担確約書を準備
- ケースワーカーに事前相談
- 1週間の渡航が許可される
- 渡航期間中の保護費は停止
- 帰国後、速やかに報告し保護再開
ケース2:観光目的の海外旅行(認められない例)
状況
- 生活保護受給中の40代男性
- 友人から旅行の誘いを受ける
- 友人が旅費を全額負担すると申し出
判断
- ケースワーカーに相談
- 観光目的の渡航は認められないと説明される
- 旅費を出せる友人がいるなら、その友人からの援助を受けるべきと指導される
- 渡航は断念
理由
- 観光は最低限度の生活に必要ない
- 友人からの経済的援助が可能であれば、それを活用すべき
ケース3:海外留学中の子どもの面会(認められない例)
状況
- 生活保護受給中の50代女性
- 子どもが海外留学中
- 子どもに会いたいと希望
判断
- 面会目的の海外渡航は認められない
- 子どもの一時帰国または、子どもとのオンライン通話を提案される
ケース4:海外赴任からの帰国(申請可能な例)
状況
- 海外赴任中に失業
- 貯金を使い果たし帰国
- 住む場所も仕事もない状態
対応
- 空港から福祉事務所に相談
- 一時的な宿泊施設を紹介される
- 生活保護の申請
- 審査の上、保護開始決定
注意点とアドバイス

1. 事前相談の徹底
海外渡航に関することは、どんな小さなことでもケースワーカーに事前相談しましょう。
相談すべき事例
- 海外旅行の誘いを受けた
- 親族から海外に来るよう言われている
- 海外に住む家族に会いたい
- 海外での仕事の話がある
2. 無断渡航は絶対に避ける
「数日だけだから」「バレないだろう」という考えは危険です。
リスク
- 保護の停止・廃止
- 返還請求
- 刑事告発
- 海外でのトラブル時に支援が受けられない
3. 海外の資産・収入の正直な申告
海外の銀行口座、不動産、年金などは、必ず申告してください。
発覚の可能性
- 国際的な税務情報交換制度(CRS)
- 福祉事務所による調査
- 周囲からの情報
4. 帰国後の速やかな報告
例外的に海外渡航が認められた場合、帰国後は速やかに報告しましょう。
報告内容
- 帰国日
- 渡航中の状況
- 保護再開の希望
5. 外国人受給者の注意点
外国人の生活保護受給者は、在留資格の更新にも注意が必要です。
在留資格と生活保護
- 在留資格の更新時に生活保護受給が考慮される場合がある
- 更新が認められない可能性も
- 不安がある場合は、入管や支援団体に相談
よくある質問

Q: パスポートを持っていると生活保護を受けられませんか?
A: パスポートを所有しているだけでは、生活保護の受給に影響しません。ただし、実際に海外渡航する場合は事前相談が必要です。
Q: 海外の親族からの仕送りは収入になりますか?
A: はい、海外からの仕送りも収入として申告が必要です。定期的な仕送りがある場合、その金額分だけ保護費が減額されます。


Q: 一時帰国で数日だけなら黙っていてもバレませんか?
A: 無断渡航は不正受給とみなされます。万が一の事故や病気の際に大きな問題となるため、必ず事前相談してください。

Q: 海外の銀行口座にあるお金は申告しなくてもいいですか?
A: いいえ、海外の資産も申告が必要です。隠すと不正受給となります。
Q: 将来的に海外移住したいのですが、生活保護を受けながら準備できますか?
A: 海外移住の準備(語学学習など)は可能ですが、移住資金を貯めることはできません。移住する場合は保護を廃止してから行うことになります。

Q: 帰国後、すぐに生活保護を申請できますか?
A: はい、要件を満たせば申請できます。ただし、海外での生活状況や帰国の経緯について詳しく説明を求められます。
Q: 技能実習生として来日しましたが、生活保護を受けられますか?
A: 技能実習の在留資格では、原則として生活保護の対象外です。まずは技能実習生相談窓口や労働基準監督署に相談してください。
まとめ

生活保護と海外渡航の関係について、重要なポイントをまとめます。
海外渡航について
- 原則として認められない
- 例外:親族の危篤・葬儀、医療上の必要性など
- 必ず事前にケースワーカーに相談
- 渡航期間中の保護費は停止
- 無断渡航は不正受給となる
海外在住について
- 海外在住中は生活保護を受けられない
- 海外移住する場合は保護廃止
- 帰国後、改めて申請は可能
外国人の場合
- 一定の在留資格があれば生活保護の対象
- 日本人と同様、海外渡航は原則不可
- 在留資格の更新に注意
重要な心構え
- 事前相談を徹底する
- 無断渡航は絶対にしない
- 海外の資産・収入は正直に申告
- やむを得ない事情は丁寧に説明する
- 不明点は必ず確認する
生活保護は、日本国内で最低限度の生活を保障する制度です。海外渡航については厳格な運用がなされていますが、やむを得ない事情がある場合は、ケースワーカーに誠実に相談することで、適切な対応が得られる可能性があります。

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