生活保護の不正受給は、本当に困窮している方への支援を妨げ、納税者の信頼を損なう重大な問題です。
不正受給を発見した場合、適切に通報することが社会全体の利益につながります。
この記事では、不正受給の定義、通報方法、通報後の流れ、そして注意すべき点について詳しく解説します。
生活保護の不正受給と通報について

不正受給とは何か
不正受給とは、虚偽の申告や事実の隠蔽により、本来受給できない生活保護費を受け取ることを指します。
不正受給の定義(生活保護法第78条)
生活保護法第78条では、「偽りその他不正の手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者」に対して、費用の返還を求めることができると定められています。
悪質な場合は、詐欺罪として刑事告発の対象となり、3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることもあります。

不正受給の実態
厚生労働省の統計によると、生活保護の不正受給は毎年一定数発見されています。
不正受給の件数と金額(直近データ)
- 不正受給の発覚件数:年間約3万件〜4万件
- 不正受給額:年間約150億円〜200億円
- 1件あたりの平均額:約40万円〜50万円
ただし、これは発覚したケースのみであり、実際にはより多くの不正が潜在している可能性があります。
不正受給の主な発覚経緯
- 福祉事務所による調査:約60%
- 関係機関からの情報提供:約20%
- 一般市民からの通報:約15%
- その他:約5%
市民からの通報も、不正受給発覚の重要な端緒となっています。
不正受給の具体的な例

どのような行為が不正受給に該当するのか、具体的に見ていきましょう。
収入の無申告・過少申告
最も多い不正受給のパターンは、収入を隠したり少なく申告したりすることです。
具体例
- 就労収入の無申告
- 働いているのに無職と申告
- パート・アルバイト収入を申告しない
- 日雇い労働の収入を隠す
- 内職や在宅ワークの収入を申告しない
- 年金・手当の無申告
- 障害年金を受給しているのに申告しない
- 遺族年金を隠す
- 児童扶養手当を申告しない
- 雇用保険の失業給付を隠す
- 仕送りの無申告
- 家族や親族からの定期的な仕送りを隠す
- 別居家族からの生活費援助を申告しない
ケーススタディ:発覚した事例
40代男性が、生活保護を受給しながら建設現場で日雇い労働を続け、3年間で約300万円の収入を隠していたケースでは、全額返還と保護の廃止、さらに詐欺罪で起訴されました。
資産の無申告・隠蔽
預貯金や不動産などの資産を隠すことも、重大な不正受給です。
具体例
- 預貯金の隠蔽
- 複数の口座を持ち、一部を申告しない
- タンス預金を隠す
- 家族名義の口座に資金を移動
- ネット銀行の口座を申告しない
- 不動産の隠蔽
- 所有する土地や建物を申告しない
- 別荘やセカンドハウスの存在を隠す
- 生命保険の無申告
- 解約返戻金がある保険を申告しない
- 満期保険金を受け取ったのに申告しない
- 高価な動産
- 高級自動車の所有
- 貴金属、ブランド品の保有
- 骨董品、美術品の所有
世帯構成の偽装
同居人や世帯員の存在を隠すことも不正受給です。
具体例
- 同居人の隠蔽
- 事実婚の相手と同居しているのに単身世帯と申告
- 成人した子どもと同居しているのに別居と申告
- 親族と同居しているのに隠す
- 偽装離婚
- 形式的に離婚して母子世帯として受給
- 実際は夫婦として同居・生計を共にしている
- 住民票と実態の相違
- 住民票上は別世帯だが、実際は同居
- 住民票の住所と実際の居住地が異なる
転居・入院の無届け
生活状況の変化を届け出ない行為も問題です。
具体例
- 転居したのに届け出ない
- 長期入院しているのに報告しない
- 施設に入所したのに在宅として受給
- 刑務所に収監されているのに受給継続
指示違反・虚偽報告
福祉事務所の指示に従わなかったり、虚偽の報告をしたりする行為です。
具体例
- 就労活動をしていないのに、活動報告書に虚偽記載
- ケースワーカーの質問に虚偽の回答
- 提出書類の偽造(給与明細、診断書など)
不正受給の通報方法

不正受給を発見した場合、以下の方法で通報することができます。
通報先一覧
1. 管轄の福祉事務所
最も直接的な通報先は、対象者の居住地を管轄する福祉事務所です。
連絡方法
- 電話:福祉事務所の代表番号から「生活保護担当」へ
- 窓口:直接訪問して相談
- 郵送:封書で情報提供
- メール:自治体によっては電子メールでの受付も

2. 自治体の不正受給通報窓口
多くの自治体が、専用の通報窓口を設けています。
- 不正受給110番(自治体により名称は異なる)
- 専用ホットライン
- オンライン通報フォーム
3. 厚生労働省
広域的な不正や、自治体の対応に問題がある場合は、厚生労働省に情報提供することもできます。
- 厚生労働省の相談窓口
- 政府の意見・要望受付
4. 警察(悪質なケース)
組織的な不正や、明らかな犯罪行為の場合は、警察への通報も検討できます。
- 最寄りの警察署
- 警察相談専用電話:#9110
匿名での通報は可能か
結論:匿名での通報は可能です
通報者の氏名や連絡先を明かさずに情報提供することができます。
匿名通報のメリット
- 報復を恐れず通報できる
- 心理的ハードルが低い
- プライバシーが守られる
匿名通報のデメリット
- 詳細な聞き取りができない
- 追加情報の提供が困難
- 調査の優先度が下がる可能性
匿名性を保ちつつ効果的な通報をするコツ
- 具体的な事実を記載する
- 証拠となる情報を提供する
- 連絡可能な時間帯だけでも伝える
- 一方通行の通報でも詳細に記載する
通報に必要な情報
効果的な通報のために、以下の情報をできるだけ詳しく伝えてください。
基本情報
- 対象者の氏名(わかる範囲で)
- 住所(番地まで)
- 年齢・性別
- 家族構成
- 生活保護受給の事実
不正の内容
- どのような不正をしているか(具体的に)
- いつから不正をしているか
- 不正の頻度や金額(わかれば)
証拠となる情報
- 目撃した日時・場所
- 勤務先や職場の情報
- 自動車のナンバー
- 不正を裏付ける具体的な事実
重要なポイント 曖昧な情報や推測だけでなく、具体的な事実を伝えることが重要です。ただし、確証がない場合は「〜と思われる」「〜の可能性がある」と伝えても構いません。
通報の際の注意点
してはいけないこと
- 虚偽の通報
- 事実でない情報を通報すること
- 個人的な恨みによる嫌がらせ目的の通報
- 根拠のない憶測だけでの通報
- 過度な調査行為
- 対象者を尾行する
- 勝手に撮影する
- 不法侵入して証拠を集める
- 対象者に直接詰め寄る
- 情報の拡散
- SNSで拡散する
- 近所に言いふらす
- 第三者に個人情報を伝える
適切な通報の心構え
- 公益のために行う
- 客観的な事実のみを伝える
- 感情的にならない
- プライバシーに配慮する
通報後の流れと調査

通報後、福祉事務所はどのように対応するのでしょうか。
通報受理後の初期対応
1. 通報内容の確認
福祉事務所は、通報内容の信憑性と調査の必要性を判断します。
2. 情報の精査
- 過去の記録との照合
- 同様の通報がないか確認
- 調査の優先順位を決定
3. 調査計画の策定
具体的な調査方法と時期を決定します。
調査の方法
生活保護法に基づき、福祉事務所には様々な調査権限があります。
実施される主な調査
- 家庭訪問
- 予告なしの訪問(抜き打ち)
- 生活実態の確認
- 同居人の有無の確認
- 金融機関への照会
- 預貯金の残高照会
- 口座の入出金履歴確認
- 複数口座の有無確認
- 関係機関への照会
- 年金事務所(年金受給の有無)
- ハローワーク(雇用保険の受給状況)
- 税務署(確定申告の内容)
- 勤務先(就労の事実確認)
- 近隣調査
- 近隣住民への聞き取り
- 管理人への確認
- 周辺の状況確認
- 現地確認
- 自動車の保有確認
- 不動産の所有確認
- 生活水準の確認
不正が確認された場合の対応
調査の結果、不正受給が確認された場合、以下の措置が取られます。
1. 本人への確認
不正の事実について、受給者に弁明の機会が与えられます。
2. 保護費の返還請求(生活保護法第78条)
不正受給額の全額返還を請求されます。
返還額の計算
- 不正受給した期間の保護費
- 最大で過去3年分まで遡及
- 悪質な場合は全期間
3. 保護の停止または廃止
不正の内容により、保護が停止または廃止されます。

4. 加算金(自治体により)
不正受給額に加えて、最大40%の加算金が請求されることがあります。
5. 刑事告発(悪質なケース)
組織的な不正や、金額が大きい場合は、警察に告発されることがあります。
刑事告発の基準
- 不正受給額が高額(概ね100万円以上)
- 計画的・組織的な不正
- 常習性がある
- 返還に応じない
- 社会的影響が大きい
通報者へのフィードバック
原則として個別の調査結果は通知されません。
プライバシー保護の観点から、調査結果や処分内容は通報者に通知されないのが原則です。
例外的に連絡がある場合
- 追加情報が必要な場合
- 通報者が連絡先を明示し、結果を希望した場合(一部の自治体)
- 感謝状が贈呈される場合(まれ)
誤解されやすいケースと注意点

すべてが不正受給とは限りません。誤解されやすいケースについて理解しておきましょう。
不正ではないケース
1. 基礎控除内の就労収入
働いて収入を得ていても、基礎控除があるため、手元にお金が残ります。「生活保護を受けながら働いている」だけでは不正ではありません。

2. 一時的な収入の控除
- 就労自立給付金
- 一時金(見舞金など少額のもの)
- 控除が認められる収入

3. 認められた資産保有
- 生活に必要な家財道具
- 少額の預貯金(概ね50万円以内)
- 古い自動車(障害者の通院などで認められる場合)
- 生命保険(少額の掛け捨て型など)



4. 見た目による誤解
- 以前の持ち物を使っている
- 親族からの贈与(少額の場合)
- 適切に報告している収入内での生活
冤罪を生まないために
不確かな情報や偏見に基づく通報は、無実の受給者を傷つける可能性があります。
確認すべきこと
- 本当に不正なのか、それとも適切な範囲内なのか
- 確実な事実に基づいているか
- 感情的な判断になっていないか
- プライバシーの侵害になっていないか
通報する前の心構え 生活保護受給者に対する偏見や差別意識からの通報ではなく、本当に社会正義のための通報なのかを自問してください。
よくある質問と回答

生活保護の不正受給通報について、多くの方から寄せられる質問にお答えします。
Q1. 近所の人が生活保護を受けながら高級車に乗っています。不正ですか?
A. 必ずしも不正とは限りません。以下のような可能性があります。
- 生活保護受給前から所有していた車
- 障害があり、通院に必要と認められている
- 家族名義の車を借りている
- たまたま知人の車に乗っていただけ
ただし、明らかに贅沢な生活をしていたり、保有が認められていない高級車の場合は、通報を検討してください。確実な事実(ナンバー、頻繁に運転している様子など)を伝えることが重要です。

Q2. SNSで贅沢している様子を投稿しています。これは証拠になりますか?
A. SNSの投稿は調査の端緒にはなりますが、それだけでは不正の確実な証拠にはなりません。
注意点
- 投稿は過去のものかもしれない
- 親族や友人の費用負担かもしれない
- 少額の範囲での支出かもしれない
ただし、常習的に高額な飲食や旅行、買い物などを投稿している場合は、通報する価値があります。スクリーンショットなどの記録を残しておくと良いでしょう。

Q3. 匿名で通報した場合、バレる可能性はありますか?
A. 福祉事務所は守秘義務があり、通報者の情報を漏らすことはありません。
ただし、以下の場合は推測される可能性があります。
- ごく限られた人しか知らない情報を通報した
- 通報直後に調査が始まった
- 対象者との関係性から推測される
完全な匿名性を保ちたい場合は、一般的に観察できる範囲の情報のみを提供してください。
Q4. 虚偽の通報をした場合、罰則はありますか?
A. 悪意のある虚偽通報は、以下の罪に問われる可能性があります。
- 名誉毀損罪:3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金
- 偽計業務妨害罪:3年以下の懲役または50万円以下の罰金
- 軽犯罪法違反:拘留または科料
故意の虚偽通報は犯罪です。事実に基づいた通報を心がけてください。
Q5. 家族の不正受給を通報できますか?
A. はい、可能です。家族であっても、不正は不正です。
ただし、家族関係への影響を考慮し、まず本人に直接話すことも検討してください。それでも改善されない場合や、悪質な不正の場合は、通報も選択肢の一つです。
Q6. 通報したことで報奨金はもらえますか?
A. 一般的に、生活保護の不正受給通報に対する報奨金制度はありません。
ただし、非常にまれなケースとして、重大な不正の発覚に貢献した場合に感謝状が贈られることがあります。
まとめ:適切な通報で制度を守る

生活保護の不正受給は、本当に困っている方への支援を妨げ、制度への信頼を損なう行為です。
不正受給通報のポイント
- 確実な事実に基づいて通報する
- 匿名でも通報は可能
- 管轄の福祉事務所が主な通報先
- 具体的な情報を提供する
- 虚偽の通報は犯罪になる
不正受給の主なパターン
- 収入の無申告・過少申告
- 資産の隠蔽
- 世帯構成の偽装
- 転居・入院の無届け
- 虚偽の報告
通報後の流れ
- 福祉事務所が調査を実施
- 不正が確認されれば返還請求
- 保護の停止または廃止
- 悪質な場合は刑事告発
注意すべきこと
- すべてが不正とは限らない
- 適切な範囲内の生活かもしれない
- 偏見や憶測だけでの通報は避ける
- プライバシーに配慮する
生活保護制度は、本当に困窮している方を支えるための重要なセーフティネットです。
不正受給を許さない一方で、真に支援が必要な方への理解と配慮も忘れてはいけません。
確実な不正を発見した場合は、躊躇せず適切に通報してください。
それが制度を守り、本当に困っている方を助けることにつながります。


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