生活保護を受給している方、またはこれから受給を検討している方にとって、「賃貸住宅を借りられるのか」という不安は非常に大きいものです。
結論から言えば、生活保護受給者でも賃貸住宅を借りることは可能です。
この記事では、生活保護受給者の賃貸住宅探しから契約、住み続けるためのポイントまで、すべてを詳しく解説します。
生活保護と賃貸住宅の基本

住宅扶助とは
生活保護には「住宅扶助」という制度があり、家賃や共益費、更新料などの住居費用が支給されます。
住宅扶助の対象となる費用
- 家賃(月額)
- 共益費・管理費
- 更新料(契約更新時)
- 火災保険料
- 敷金・礼金・仲介手数料(転居時)
住宅は「健康で文化的な最低限度の生活」を送るための基盤です。
そのため、生活保護制度では住居費用を別枠で保障しています。

生活保護受給者の賃貸事情
かつては「生活保護受給者お断り」という物件も多く存在しました。
しかし、現在は状況が変わりつつあります。
賃貸市場の変化
- 高齢化により空室が増加
- 生活保護受給者向けの賃貸物件が増加
- 家賃保証会社の普及
- 不動産業者の理解が進む
特に都市部では、生活保護受給者を積極的に受け入れる不動産会社も増えています。
住宅扶助の支給額と家賃上限

住宅扶助でどのくらいの家賃の物件に住めるのか、具体的に見ていきましょう。
地域別の家賃上限
住宅扶助の上限額は、地域や世帯人数によって異なります。
これは各地域の家賃相場を考慮して設定されています。
主要都市の住宅扶助上限額(2024年度基準、単身世帯)
東京都
- 東京23区:53,700円
- 多摩地域:46,000円〜53,700円(市により異なる)
大阪府
- 大阪市:40,000円
- 堺市:37,000円
- その他の市:30,000円〜37,000円
愛知県
- 名古屋市:37,000円
- その他の市:29,000円〜37,000円
福岡県
- 福岡市:34,000円
- 北九州市:29,000円
- その他の市:25,000円〜29,000円
北海道
- 札幌市:31,000円
- その他の市:19,000円〜31,000円
これらの金額は共益費・管理費を含んだ上限額です。

世帯人数別の上限額
世帯人数が増えると、住宅扶助の上限額も高くなります。
東京23区の例
- 単身世帯:53,700円
- 2人世帯:64,000円
- 3〜5人世帯:69,800円
- 6人世帯:75,000円
- 7人以上世帯:83,800円
世帯構成に応じた適切な広さの住宅に住めるよう配慮されています。

上限額を超える物件の場合
現在住んでいる物件の家賃が住宅扶助の上限額を超えている場合、どうなるのでしょうか。
上限額を超える場合の対応
- 差額は自己負担となる
- 転居指導を受ける可能性がある
- 猶予期間が設けられることもある
猶予期間が認められるケース
- 病気や障害で転居が困難
- 子どもの学校の関係で転居が不適切
- 高齢で転居が身体的に負担
- 転居先が見つからない
やむを得ない事情がある場合は、ケースワーカーに相談してください。

一定期間、上限を超える家賃での居住が認められることがあります。

家賃が上限より低い場合
逆に、家賃が住宅扶助の上限額より低い場合は、実際の家賃分のみが支給されます。
例:東京23区の単身者の場合
- 住宅扶助上限:53,700円
- 実際の家賃:45,000円
- 支給額:45,000円
差額の8,700円が生活費として上乗せされるわけではありません。
生活保護受給者の物件の探し方

生活保護受給者が賃貸物件を探す際のポイントと注意点を解説します。
生活保護対応の不動産会社を探す
すべての不動産会社が生活保護受給者を受け入れているわけではありません。
効率的に物件を探すために、対応可能な不動産会社を見つけることが重要です。
探し方
- インターネットで「○○市 生活保護 賃貸」と検索
- 福祉事務所のケースワーカーに紹介してもらう
- 社会福祉協議会に相談する
- 生活保護受給者向けの不動産ポータルサイトを利用
- NPO法人の住宅支援を活用
生活保護対応の不動産会社の特徴
- 「生活保護歓迎」と明記している
- 住宅扶助の上限額を理解している
- 福祉事務所とのやり取りに慣れている
- 家賃保証会社との連携がある
物件選びのポイント
住宅扶助の範囲内で快適に住める物件を見つけるためのポイントです。
優先すべき条件
- 家賃が住宅扶助の上限以内
- 共益費・管理費込みで上限以内に収める
- 初期費用が抑えられる物件
- 敷金・礼金なし、または少額
- 仲介手数料が安い
- 立地条件
- 病院へのアクセス(通院が必要な場合)
- スーパーや商店街へのアクセス
- 公共交通機関の利便性
- 設備
- エアコン付き(熱中症対策)
- バス・トイレ別(できれば)
- 収納スペースの確保
妥協できるポイント
- 築年数(古くても清潔であれば可)
- 駅からの距離(バス便でも可)
- 1階の物件(高齢者には逆にメリット)
避けるべき物件
以下のような物件は、トラブルの原因となる可能性があります。
注意が必要な物件
- 家賃が上限ギリギリで共益費が別途高額
- 更新料が異常に高い(家賃の2ヶ月分以上)
- 契約期間が極端に短い(1年未満)
- 保証人が必須で家賃保証会社が使えない
- 劣悪な環境(カビ、害虫、騒音など)
特に「生活保護者専門」を謳う一部の物件には、質の悪いものも混ざっています。
必ず内見をして、自分の目で確認してください。
福祉事務所との連携
物件探しは福祉事務所と連携しながら進めることが重要です。
福祉事務所に確認すべきこと
- 住宅扶助の正確な上限額
- 転居が認められる理由
- 転居に必要な書類
- 初期費用の支給範囲
- 物件の条件(広さ、設備など)
事前に相談しておくことで、スムーズに転居できます。

賃貸契約の手続きと必要書類
生活保護受給者が賃貸契約をする際の手続きについて説明します。
契約の流れ
ステップ1:物件を見つける
住宅扶助の上限内で、条件に合う物件を探します。
ステップ2:不動産会社に申し込む
気に入った物件が見つかったら、入居申込書を提出します。この時点で生活保護受給者であることを伝えます。
ステップ3:福祉事務所に相談
物件が決まったら、すぐにケースワーカーに報告し、転居の承認を得ます。
ステップ4:入居審査
大家さんや保証会社による入居審査が行われます。生活保護受給者の場合、家賃保証会社の利用が条件となることが多いです。
ステップ5:契約に必要な書類を準備
後述する必要書類を準備します。
ステップ6:契約締結
契約書に署名・押印し、初期費用を支払います。
ステップ7:住宅扶助の住所変更手続き
福祉事務所で住所変更の手続きを行い、新居の家賃支給を開始してもらいます。
必要書類
賃貸契約に必要な書類は以下の通りです。
基本的な書類
- 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
- 住民票
- 生活保護受給証明書
- 印鑑(実印と印鑑証明が必要な場合も)
福祉事務所発行の書類
- 生活保護受給証明書
- 住宅扶助額証明書
- 転居承認書(転居の場合)
収入証明に代わるもの
- 生活保護決定通知書
- 保護費支給明細
生活保護受給者の場合、通常の収入証明書の代わりに、これらの書類が使用されます。
初期費用の支払い方法
賃貸契約には、敷金、礼金、仲介手数料、火災保険料など、初期費用が必要です。
初期費用の支給
生活保護では、転居に伴う初期費用も住宅扶助から支給されます。
支給される初期費用の内訳
- 敷金:家賃の3ヶ月分まで
- 礼金:一定額まで(地域により異なる)
- 仲介手数料:家賃の1ヶ月分まで
- 火災保険料:実費
- 鍵交換費用:実費(一定額まで)
支給されない費用
- 家賃保証会社の保証料(自己負担または生活扶助から)
- 消毒料、クリーニング代(不要なものが多い)
- 24時間サポート料(任意のサービス)
支払いのタイミング
初期費用の支給方法は2パターンあります。
- 代理納付方式:福祉事務所から不動産会社に直接支払われる
- 本人支給方式:受給者が一旦受け取り、不動産会社に支払う
代理納付方式の方が、受給者の負担が少なくスムーズです。
家賃保証会社の利用
生活保護受給者の場合、連帯保証人の代わりに家賃保証会社の利用を求められることが一般的です。
家賃保証会社とは
家賃の滞納があった場合に、保証会社が代わりに支払いを行う仕組みです。
保証料
- 初回:家賃の50%〜100%程度
- 更新:年間1万円程度または家賃の10%程度
生活保護受給者の審査
生活保護受給者向けの保証会社もあり、比較的審査に通りやすい傾向があります。
家賃は確実に支給されるため、保証会社にとってもリスクが低いためです。
保証料の負担
保証料は原則として自己負担ですが、以下のような対応もあります。
- 生活扶助費から捻出
- 分割払いに対応してもらう
- 福祉事務所に相談して一時扶助として支給してもらう
入居後の注意点とトラブル対応

賃貸契約が成立し、入居した後も注意すべき点があります。
家賃の支払い方法
生活保護受給者の家賃支払いには、「代理納付」という制度があります。
代理納付とは
住宅扶助費を受給者本人ではなく、福祉事務所から直接大家さんに支払う方式です。
代理納付のメリット
- 家賃の払い忘れがない
- 生活費を家賃に使ってしまう心配がない
- 大家さんも安心できる
代理納付の手続き
入居時に、大家さん・不動産会社・福祉事務所の三者で代理納付の契約を結びます。
ケースワーカーが手続きをサポートしてくれます。
家賃滞納を防ぐために
万が一、家賃滞納が発生すると、退去を求められる可能性があります。
滞納を防ぐ方法
- 代理納付制度を利用する
- 保護費の支給日を確認し、支給後すぐに支払う
- 自動引き落としを設定する
- 支払いが遅れそうな場合は事前に大家さんに連絡
何らかの理由で保護費の支給が遅れる場合は、すぐにケースワーカーに相談してください。
更新料の支払い
賃貸契約は通常2年ごとに更新があり、更新料が必要です。
更新料の住宅扶助
更新料も住宅扶助の対象となります。
支給される更新料の上限
- 家賃の1ヶ月分程度(地域により異なる)
更新時期の数ヶ月前にケースワーカーに相談し、更新料の支給を申請してください。
設備の故障・修繕
住んでいる間に設備が故障した場合の対応です。
大家さん負担の修繕
- 設備の経年劣化による故障
- 建物の構造的な問題
- 給湯器、エアコンなどの設備の故障
自己負担となる修繕
- 入居者の故意・過失による破損
- 通常の使用範囲を超える損耗
修繕が必要な場合は、まず不動産会社や大家さんに連絡してください。
高額な修繕費が自己負担となる場合は、ケースワーカーに相談しましょう。
近隣トラブルへの対応
集合住宅では、騒音などの近隣トラブルが発生することがあります。
トラブルを避けるために
- 生活音に配慮する(深夜の音を控える)
- ゴミ出しのルールを守る
- 共用部分を清潔に保つ
- 挨拶などの最低限のコミュニケーション
トラブルが発生した場合は、まず不動産会社の管理担当者に相談してください。
よくある質問と回答

生活保護受給者の賃貸について、よくある質問とその回答をまとめました。
Q1. 生活保護を受けていることを大家さんに知られたくないのですが…
A. 賃貸契約では、収入証明として生活保護受給証明書を提出するため、大家さんには知られることになります。しかし、代理納付制度を利用すれば家賃の支払いは確実なので、むしろ大家さんにとってメリットがあります。近年は生活保護受給者を歓迎する大家さんも増えています。
Q2. ペット可の物件に住むことはできますか?
A. ペット可物件に住むこと自体は可能ですが、以下の点に注意が必要です。
- ペット飼育に伴う追加費用(敷金増額など)は自己負担
- ペット可物件は家賃が高めのことが多い
- ペットの医療費は原則自己負担
ケースワーカーによっては、ペット飼育を勧められない場合もあります。事前に相談してください。

Q3. UR賃貸住宅(公団)は借りられますか?
A. はい、UR賃貸住宅は生活保護受給者でも借りられます。
UR賃貸のメリット
- 礼金・仲介手数料・更新料が不要
- 保証人・保証会社が不要
- 家賃が比較的安定している
ただし、住宅扶助の上限を超える物件も多いため、上限内の物件を探す必要があります。
Q4. シェアハウスに住むことはできますか?
A. シェアハウスへの入居は、原則として認められていません。生活保護の住宅扶助は「独立した居住空間」を前提としているためです。ただし、地域や状況により判断が異なる場合があるため、ケースワーカーに相談してください。

Q5. 今住んでいる物件の家賃が高すぎると言われました。引っ越さないとダメですか?
A. 住宅扶助の上限を大幅に超える場合、転居を指導されることがあります。しかし、以下のような場合は猶予が認められることがあります。
- 病気や障害で転居が困難
- 子どもの学校の関係
- 高齢で転居が身体的に負担
- 適切な転居先が見つからない
まずはケースワーカーに事情を説明し、相談してください。差額を自己負担することで継続居住が認められる場合もあります。
Q6. 生活保護を受けながら、家族と一緒に住むことはできますか?
A. 同一世帯として生活保護を受給する場合は可能です。ただし、以下の点に注意が必要です。
- 家族全員が要保護状態であること
- 世帯人数に応じた広さの物件が必要
- 住宅扶助の上限額は世帯人数に応じて決まる
家族の誰かに収入がある場合は、世帯分離を検討する必要があるかもしれません。

まとめ:安心して住める住まいを見つけよう

生活保護受給者でも、適切な手続きと準備をすれば、安心して住める賃貸住宅を見つけることができます。
この記事の重要ポイント
- 生活保護受給者でも賃貸住宅は借りられる
- 住宅扶助で家賃や初期費用が支給される
- 地域・世帯人数により家賃上限が決まっている
- 生活保護対応の不動産会社を探すことが重要
- 代理納付制度で家賃の支払いも安心
物件探しのステップ
- 自分の地域の住宅扶助上限額を確認
- 生活保護対応の不動産会社を探す
- 上限内で条件に合う物件を内見
- ケースワーカーに相談・承認を得る
- 契約・転居
- 代理納付の手続き
住み続けるためのポイント
- 代理納付制度を活用する
- 近隣トラブルを避ける配慮
- 設備の故障は早めに報告
- 更新料は事前にケースワーカーに相談
- 困ったことがあればすぐに相談
生活保護は、住まいを失わず、安定した生活を送るための制度です。
住宅は生活の基盤であり、健康で文化的な生活を送るために不可欠です。
「生活保護だから良い物件は借りられない」と諦める必要はありません。
住宅扶助の上限内でも、清潔で住みやすい物件は数多く存在します。
時間をかけて、納得できる物件を探しましょう。
物件探しで困ったことがあれば、一人で悩まず、ケースワーカーや不動産会社、支援団体に相談してください。
あなたが安心して住める住まいを見つけるために、多くのサポートが用意されています。

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