生活保護を受給しながら働くことは可能なのか、収入があると保護費はどうなるのか、こうした疑問をお持ちの方は少なくありません。
本記事では、生活保護と収入の関係について、基礎控除の仕組みから収入申告の方法まで、初心者にもわかりやすく網羅的に解説します。
生活保護制度の基本的な仕組み

生活保護とは何か
生活保護は、日本国憲法第25条に基づき、すべての国民に健康で文化的な最低限度の生活を保障する制度です。
生活に困窮した方に対して、厚生労働省が定める最低生活費を基準に、不足分を支給することで生活を支えます。

生活保護には8種類の扶助があります。
日常生活に必要な生活扶助、家賃などの住宅扶助、義務教育に関する教育扶助、医療費の医療扶助、介護費用の介護扶助、出産扶助、自立のための生業扶助、葬祭扶助です。

最低生活費の計算方法
生活保護の支給額は、地域や世帯の状況によって異なります。
最低生活費は、個人ごとの費用である第1類と、世帯共通の費用である第2類を合算し、さらに住宅扶助や各種加算を加えて算出されます。

具体的な支給額の例
- 東京都区部の単身者(40代):月額約13万円
- 名古屋市の高齢夫婦:月額約15〜18万円
- 千葉市の母子世帯(母と小学生の子):月額約19万円
- 大阪府豊中市の4人家族:月額約25〜30万円
地域は1級地から3級地まで区分されており、都市部ほど支給額が高く設定されています。
生活保護受給中に収入がある場合の扱い

働きながら生活保護を受けることは可能
結論として、生活保護を受けながら働くことは可能です。

生活保護の受給条件は「世帯の収入が最低生活費以下であること」であり、働いているかどうかは関係ありません。

収入がまったくない場合は最低生活費の全額が支給され、収入がある場合は最低生活費から収入を差し引いた不足分が支給される仕組みです。
収入認定の基本ルール
生活保護費の計算式は以下の通りです。
生活保護費 = 最低生活費 − 収入認定額
収入として認定されるものには、就労収入、年金、仕送り、贈与、資産の売却益、保険給付金などがあります。
これらの収入があった場合、その分が生活保護費から差し引かれることになります。
ただし、就労収入については後述する基礎控除などの特別な控除が適用されるため、働いた収入がすべて差し引かれるわけではありません。
就労収入における基礎控除の仕組み

基礎控除とは
基礎控除は、生活保護受給者の就労意欲を高め、自立を促進するための制度です。

働くためには被服費、交通費、職場での人間関係維持のための経費など、さまざまな費用が必要になります。
このため、就労収入から一定額を控除し、働いた分だけ手元に残る金額が増える仕組みが設けられています。
基礎控除の具体的な金額
基礎控除額は収入額によって段階的に設定されています。
基礎控除の例(1級地の場合)
- 収入8,000円以下:全額控除
- 収入15,200円以下:全額控除
- 収入15,200円超:収入額に応じて段階的に控除額が決定
- 収入240,000円:基礎控除の上限額33,190円
例えば、生活保護費が13万円の世帯で月収3万5千円を得た場合を見てみましょう。
計算例
- 収入:35,000円
- 基礎控除:17,200円
- 収入認定額:35,000円 − 17,200円 = 17,800円
- 生活保護費:130,000円 − 17,800円 = 112,200円
- 実際の手取り:112,200円 + 35,000円 = 147,200円
働かない場合は13万円ですが、働くことで17,200円多く手元に残ることになります。
その他の控除制度
基礎控除以外にも、以下の控除が適用される場合があります。
主な控除の種類
- 必要経費控除:交通費、社会保険料、税金などの実費
- 特別控除:年間勤労収入の1割(上限年額150,900円/1級地)
- 新規就労控除:新たに就労を開始した場合の特別控除
- 未成年者控除:未成年者が働いた場合の追加控除
特に高校生などの未成年者には、基礎控除に加えて未成年者控除が適用され、進学費用が収入から除外される制度もあります。

収入申告の義務と方法

なぜ収入申告が必要なのか
生活保護法第61条により、受給者には収入や生計の状況に変動があった際に速やかに届け出る義務があります。
収入申告は、生活保護費の正確な算定と適切な支給のために不可欠です。

申告を正しく行うことで、基礎控除などの控除が適用され、手元に残る金額が増えるというメリットもあります。
申告が必要な収入の種類
申告が必要な収入
- 就労収入(給与、賞与、日雇い労働など)
- 年金収入(公的年金、企業年金、遺族年金など)
- 事業収入(自営業、農業、内職など)
- 臨時収入(親族からの仕送り、贈与、ギフトカード)
- 資産の売却益(不動産、自動車、貴金属など)
- インターネット収入(YouTubeの広告収入、フリマアプリの売上など)
- その他(保険給付金、宝くじの当選金など)
少額であっても、収入として認定されるものはすべて申告する必要があります。
不明な点があれば、担当のケースワーカーに相談しましょう。
収入申告の手続き方法
申告の流れ
- 収入が発生した際、速やかにケースワーカーに連絡
- 収入申告書を作成(自治体によって書式が異なる)
- 収入を証明する書類を添付(給与明細、年金通知書、通帳のコピーなど)
- 福祉事務所に提出(窓口持参、郵送、オンライン申請など)
多くの自治体では、スマート申請などのオンラインシステムが導入されており、便利に申告できるようになっています。
生活保護はいくら稼いだら廃止になるのか

明確な上限額は存在しない
「生活保護はいくらまで働けるのか」という質問に対して、明確な上限額は設定されていません。
働いて得た収入が最低生活費を上回る場合、生活保護費の支給は停止されますが、すぐに廃止されるわけではありません。
収入が一時的なものか、継続的なものかによって判断されます。

保護廃止の判断基準
福祉事務所は、定期収入の恒久的な増加により保護を再開する必要がないと認められるときに廃止を検討します。

機械的に廃止されるわけではありません。
例えば、正社員として安定した収入を得るようになった場合でも、約3ヶ月程度は仕事を継続できるか様子を見る期間として、生活保護を継続するケースもあります。
収入が最低生活費を超えた場合の医療費
収入から基礎控除を引いた金額が生活保護費を超えた場合、その超過分を限度額として、医療費の自己負担が発生します。

医療費負担の例
- 収入:150,000円
- 基礎控除:28,400円
- 生活保護費:100,000円
- 超過額:21,600円
この場合、医療費が300,000円かかった際、超過分の21,600円は自己負担となり、残りの278,400円が医療扶助として支給されます。
収入申告を怠った場合のリスク

不正受給とみなされる可能性
収入申告を怠ると、不正受給と判断される可能性があります。

福祉事務所は、税務署や金融機関への調査権限を持っており、収入の有無を確認できます。

後日の調査で未申告の収入が発覚した場合、以下のようなペナルティが科せられます。
不正受給のペナルティ
- 過去に遡って生活保護費の返還請求
- 基礎控除などの控除が適用されない
- 生活保護の停止または廃止
- 悪質な場合は刑事告発の可能性
正しい申告がもたらすメリット
逆に、正しく申告することで以下のメリットがあります。
- 基礎控除が適用され、手元に残る金額が増える
- 未成年者控除などの特別な控除を受けられる
- 福祉事務所との信頼関係が構築され、自立支援を受けやすくなる
- 就労意欲が評価され、保護脱却時のサポートが手厚くなる
2025年の生活保護制度の最新動向

基準額の改定
2025年度、生活保護の生活扶助基準額が改定されました。
物価高騰を受けて、政府は2025年度から2年間、生活扶助に月額1,500円の特例加算を行うことを決定しています。

都市部の高齢者世帯では基準額引き下げの可能性が指摘されていましたが、物価上昇を考慮して見送られた経緯があります。
受給者数の推移
2024年11月時点で、生活保護受給者数は約200万人となっています。特に高齢者世帯が多くを占めており、今後の高齢化社会において、生活保護制度の重要性が増しています。
よくある質問と回答

Q1: 生活保護を受けながらアルバイトはできますか?
A1: はい、可能です。収入が最低生活費以下であれば、アルバイトをしながら生活保護を受給できます。基礎控除が適用されるため、働いた方が手元に残る金額は増えます。

Q2: 年金収入がある場合も生活保護を受けられますか?
A2: 受けられます。年金収入が最低生活費に満たない場合、差額分が生活保護費として支給されます。ただし、年金収入には基礎控除は適用されません。

Q3: 副業の収入も申告する必要がありますか?
A3: はい、必要です。YouTubeの広告収入、フリマアプリの売上、ブログ収入など、すべての副業収入を申告する義務があります。
Q4: 収入申告はいつまでにすればいいですか?
A4: 収入が発生した際は速やかに申告する必要があります。多くの自治体では、収入があった月の翌月までに申告書を提出するよう求めています。
Q5: ギフトカードや電子マネーも収入に含まれますか?
A5: はい、含まれます。現金同様に使用できるポイントや電子マネーの還元も収入として認定されるため、申告が必要です。

生活保護と就労の両立を成功させるポイント

ケースワーカーとの良好な関係構築
生活保護受給中に就労する際は、最初にケースワーカーに相談することが重要です。

就労に関する制度の説明を受け、収入申告の方法を確認しましょう。
定期的な報告を行い、困ったことがあれば早めに相談する姿勢が、自立への近道となります。
計画的な自立に向けた準備
生活保護の目的は、単に生活を保障することではなく、受給者が経済的に自立できるよう支援することです。
以下のステップで計画的に自立を目指しましょう。
自立への5つのステップ
- 健康状態の改善と維持
- 短時間労働からのスタート
- 収入の段階的な増加
- 必要なスキルの習得(就労支援の活用)
- 安定した収入の確保
記録の保管と管理
給与明細、年金通知書、領収書などの書類は必ず保管しましょう。
後日の確認や申告に必要となるだけでなく、自分自身の収入状況を把握するためにも重要です。
家計簿やスマートフォンのアプリを活用し、収入と支出を記録する習慣をつけることをおすすめします。
まとめ

生活保護と収入の関係について、重要なポイントをまとめます。
この記事の要点
- 生活保護を受けながら働くことは可能で、働いた方が手元に残る金額は増える
- 就労収入には基礎控除が適用され、収入の一部が控除される
- 15,200円以下の収入は全額控除され、それ以上は段階的に控除額が変動する
- すべての収入を速やかに申告する義務があり、申告を怠ると不正受給とみなされる
- 明確な収入上限はなく、最低生活費を超えても即座に廃止されるわけではない
- 正しい申告により基礎控除などのメリットを受けられる
生活保護制度は、生活に困窮した方を支えるとともに、自立への道筋を示す制度です。
収入と保護費の仕組みを正しく理解し、適切に申告することで、着実に自立に向けた一歩を踏み出すことができます。
制度について不明な点があれば、遠慮せずに福祉事務所やケースワーカーに相談しましょう。
生活保護は国民の権利であり、適切に活用することで、健康で文化的な最低限度の生活を送りながら、次のステップへと進むことができます。

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