生活保護を受給している、または受給を検討している方で、差し押さえについて不安を抱えている方は少なくありません。
この記事では、生活保護費が差し押さえられるのか、借金や税金の滞納がある場合の対処法、法的保護の仕組みまで、具体的な事例と法的根拠を交えて詳しく解説します。
生活保護費の差押禁止の原則

法律による保護の仕組み
生活保護費は、法律によって差し押さえが禁止されています。これは生活保護法第58条に明記されており、「被保護者は、既に給与を受けた保護金品又はこれを受ける権利を差し押さえられることがない」と定められています。
この規定の趣旨は、生活保護が「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するための制度であり、その保護費を差し押さえてしまうと、受給者の生活が成り立たなくなってしまうためです。
憲法第25条の生存権を具体化した制度として、生活保護費は最大限保護されています。

差押禁止財産の範囲
生活保護費以外にも、法律で差し押さえが禁止されている財産があります。
民事執行法第131条により、生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用品、畳、建具などの差し押さえは禁止されています。
具体的な保護対象として、冷蔵庫、洗濯機、テレビ(1台)、エアコン、ベッド、調理器具、食器類、日常的な衣類などが該当します。
差し押さえ可能な財産では、貴金属、宝飾品、高価な美術品、複数台ある家電の余剰分、生活に不要な高額品などは差し押さえの対象となる可能性があります。
生活の基盤となる財産は、手厚く保護されています。
銀行口座に振り込まれた保護費の扱い
生活保護費が銀行口座に振り込まれた後の扱いについて、注意が必要です。
原則として、生活保護費は口座に振り込まれた時点でも差押禁止財産としての性質を持ちます。
実務上の問題では、銀行口座が差し押さえられた場合、口座内の預金が生活保護費であることを証明する必要があります。生活保護費とそれ以外の金銭が混在していると、区別が困難になります。
対策として、生活保護費専用の口座を作る、振込後はできるだけ早く現金化する、保護費の振込記録を保管しておくことが重要です。
差押解除の手続きにより、万が一差し押さえられた場合、福祉事務所に相談し、差押禁止財産であることを主張して解除を求めることができます。
借金がある場合の生活保護受給

借金があっても生活保護は受けられる
借金があっても、生活保護を受給することは可能です。生活保護の受給要件に、「借金がないこと」という条件はありません。


生活保護の要件は、資産や能力を活用しても、なお最低生活費を下回る収入しか得られない場合です。借金の有無は直接の要件ではありません。

ただし、生活保護費で借金を返済することは認められていません。生活保護費は「最低限度の生活」のための費用であり、借金返済に充てることは制度の趣旨に反するからです。
借金の返済はどうなるのか
生活保護を受給すると、借金の返済は基本的に停止することになります。
返済能力がない状態として、生活保護受給者は「最低限度の生活」しか送れない状態であり、返済能力がないと判断されます。
債権者への対応では、債権者からの督促があっても、生活保護を受給していることを伝え、返済能力がないことを説明します。
法的措置により、債権者が訴訟を起こしても、生活保護費は差し押さえできないため、実質的に回収は困難です。
時効の進行として、借金は返済しなくても時効(通常5年から10年)が進行します。時効が成立すれば、返済義務が消滅します。
債務整理の選択肢
借金問題を根本的に解決するには、債務整理を検討することが有効です。
自己破産は、生活保護受給者が最も利用しやすい債務整理方法です。裁判所に申し立てることで、借金がすべて免除されます(免責)。破産費用は法テラス(日本司法支援センター)の立替制度を利用でき、生活保護受給者は費用が免除されます。
個人再生は、借金を大幅に減額し、3年から5年で返済する手続きですが、生活保護受給中は返済能力がないため、利用は困難です。
任意整理も、債権者と交渉して返済条件を変更する手続きですが、返済が前提なので、生活保護受給中は適しません。
生活保護受給中の場合、自己破産が最も現実的な選択肢となります。

法テラスの活用
債務整理には弁護士費用がかかりますが、生活保護受給者は無料で利用できます。
法テラスの民事法律扶助により、生活保護受給者は、弁護士費用の立替制度を無料で利用できます。通常は立替金の返済が必要ですが、生活保護受給中は返済が猶予され、受給が終了しても資力がない場合は償還免除されます。
利用方法として、最寄りの法テラス事務所に相談する、弁護士会の法律相談を利用する、福祉事務所のケースワーカーに相談するなどの方法があります。
必要書類では、生活保護受給証明書、収入・資産に関する書類、借金の内容がわかる書類(契約書、督促状など)を準備します。
一人で抱え込まず、専門家に相談することが重要です。
税金・公共料金の滞納と差し押さえ

税金滞納の場合
生活保護受給前に税金を滞納していた場合の扱いについて説明します。
住民税の滞納では、生活保護を受給すると、その時点から住民税は非課税となります。ただし、受給前の滞納分は残ります。

国民健康保険税の滞納について、生活保護受給者は医療扶助の対象となるため、国民健康保険には加入しません。受給前の滞納分は残りますが、実務上は徴収が困難です。

固定資産税の滞納として、不動産を所有したまま生活保護を受ける場合(居住用不動産の保有が認められた場合)、固定資産税の支払い義務は継続します。減免制度を利用できる場合があります。

差し押さえの可能性では、税金は強制力が強く、理論上は差し押さえの対象となりますが、生活保護費自体は差押禁止財産です。実務上、生活保護受給者への税金の差し押さえは困難です。
公共料金の滞納
電気・ガス・水道などの公共料金を滞納している場合の対応について説明します。
滞納分の扱いとして、公共料金の滞納は債務の一種ですが、生活保護費で過去の滞納分を支払うことは原則として認められていません。
供給停止のリスクにより、滞納が続くと、電気・ガス・水道が停止される可能性があります。これは生活の維持に直結するため、優先的に対応が必要です。
支払いの優先順位では、生活保護開始後の料金は、生活保護費から支払います。滞納分については、供給事業者と相談し、分割払いや支払い猶予を交渉します。

税金・公共料金の減免制度
生活保護受給者が利用できる減免制度があります。
住民税は、生活保護受給中は非課税です。受給開始後に課税されることはありません。
固定資産税について、多くの自治体で生活保護受給者向けの減免制度があります。全額または一部が免除される場合があるので、市区町村の税務課に相談しましょう。
NHK受信料は、生活保護受給者は全額免除されます。福祉事務所で証明書を発行してもらい、NHKに申請します。

水道料金では、一部の自治体で減免制度があります。自治体の水道局に問い合わせてください。
利用できる制度は積極的に活用しましょう。
差し押さえを受けた場合の対処法

差押通知が届いた場合の初動
裁判所や債権者から差押通知が届いた場合、慌てずに対応することが重要です。
通知の内容を確認し、差し押さえる財産(預金、給与、不動産など)、差し押さえの理由(判決、税金滞納など)、債権者の情報、問い合わせ先を確認します。
すぐに福祉事務所に相談して、ケースワーカーに通知を見せて相談します。生活保護費が差し押さえの対象となっている場合、福祉事務所からの支援が必要です。

弁護士に相談し、法テラスや弁護士会の無料相談を利用して、専門家の意見を聞きます。
放置しないことが重要で、通知を無視すると、差し押さえが実行されてしまいます。早急に対応しましょう。
差押禁止債権の範囲変更の申立て
給与や預金が差し押さえられた場合、差押禁止債権の範囲変更を裁判所に申し立てることができます。
民事執行法第153条により、債務者の生活状況などを考慮して、差し押さえの範囲を変更できる制度です。
生活保護受給者の場合、最低限度の生活を保障する必要があるため、範囲変更が認められやすい傾向があります。
申立ての方法として、差し押さえを実行した裁判所に申立書を提出する、生活保護受給証明書、家計の状況を示す資料などを添付する、弁護士に依頼すると手続きがスムーズです。
申立てが認められれば、差し押さえが取り消されたり、範囲が縮小されたりします。
第三者からの情報提供命令への対応
債権者が銀行口座などを調べるために、裁判所に「第三者からの情報提供命令」を申し立てることがあります。
制度の概要として、平成15年の民事執行法改正で導入された制度で、債権者が債務者の財産を調査できるようになりました。
生活保護受給者の場合、銀行口座に生活保護費しか入金されていなければ、実質的に差し押さえられる財産はありません。
対応方法では、口座内の金銭が生活保護費であることを証明できるよう、振込記録を保管しておく、生活保護費専用の口座を使うことが有効です。
過度に心配する必要はありませんが、記録の保管は重要です。
生活保護受給前の財産処分

資産の売却と借金返済
生活保護を申請する前に、資産を売却して借金を返済すべきかという問題があります。
原則として、生活保護は資産を活用してもなお生活に困窮する場合に適用されます。預貯金、不動産、自動車などの資産がある場合、まずそれを活用(売却)することが求められます。
借金返済の優先順位では、資産を売却した場合、その代金を借金返済に充てるべきか、生活費に充てるべきかは状況によります。福祉事務所と相談して判断しましょう。
注意点として、生活保護申請直前に資産を不当に処分すると、保護の開始が認められない可能性があります。必ず福祉事務所に相談してから処分してください。
保有が認められる資産
すべての資産を処分する必要はなく、一定の資産は保有が認められます。
居住用不動産では、現在住んでいる自宅(持ち家)は、処分価値が著しく高くない限り、保有が認められます。ただし、固定資産税の支払い義務は継続します。

自動車について、原則として処分が必要ですが、通勤や通院に必要不可欠で、公共交通機関が利用できない地域の場合などは保有が認められることがあります。

生活用品として、家具、家電、衣類など、日常生活に必要な物品は保有できます。
預貯金は、最低生活費の半月分程度(概ね10万円程度)までは保有が認められます。

保有できる資産の範囲は、福祉事務所に確認しましょう。
生命保険の解約
生命保険に加入している場合、原則として解約が必要です。
解約返戻金の扱いとして、解約返戻金が生活保護基準額を超える場合は、まずその資金で生活し、なくなってから保護を申請することになります。
保有が認められる場合では、解約返戻金が少額(概ね30万円以下)の場合、保険料が少額(月額5,000円程度以下)で、貯蓄性が低い場合、障害や疾病を理由に新たな保険加入が困難な場合などは、保有が認められることがあります。
就労が見込まれる場合、間もなく就労して生活保護から脱却できる見込みがある場合も、保有が認められやすくなります。
個別の事情により判断が異なるため、ケースワーカーに相談してください。

差し押さえに関する誤解と真実

誤解1:生活保護を受けると借金がチャラになる
誤解:生活保護を受給すると、借金が自動的に消滅する。
真実:生活保護受給と借金の消滅は別の問題です。借金を消滅させるには、自己破産などの債務整理手続きが必要です。生活保護を受けても、法的には借金は残り続けます。ただし、実質的に返済能力がないため、返済は事実上停止します。
誤解2:生活保護費から借金を返済しなければならない
誤解:生活保護を受給しても、借金は返済しなければならない。
真実:生活保護費で借金を返済することは認められていません。生活保護費は「最低限度の生活」のための費用であり、借金返済に充てることは制度の趣旨に反します。返済を強要されたら、福祉事務所に相談してください。
誤解3:家財道具がすべて差し押さえられる
誤解:借金があると、家具や家電がすべて差し押さえられる。
真実:生活に必要な家財道具(冷蔵庫、洗濯機、ベッド、テレビ1台など)は差押禁止財産であり、差し押さえられません。差し押さえの対象となるのは、生活に不要な高額品や貴金属などです。生活保護受給者の場合、差し押さえられる財産はほとんどありません。
誤解4:差し押さえられたら生活保護も打ち切られる
誤解:差し押さえを受けると、生活保護も停止される。
真実:差し押さえを受けたことを理由に、生活保護が停止されることはありません。むしろ、生活保護費は差押禁止財産として保護されます。差し押さえの事実は速やかにケースワーカーに報告し、対応を相談しましょう。

債権者からの督促への対応

電話・訪問による督促
債権者からの督促に対して、適切に対応することが重要です。
電話の場合、生活保護を受給していることを伝える、返済能力がないことを説明する、しつこい督促は録音しておく(証拠として)、脅迫的な言動があれば、警察や消費者センターに相談することが大切です。
訪問の場合では、ドアを開ける義務はない、生活保護受給証を見せて返済能力がないことを示す、家に上がらせない、長時間の居座りは不退去罪になると伝えることが重要です。
注意点として、債権者に対して「払えない」と明言してしまうと、時効の中断事由となる可能性があります。「今は払えない」という表現にとどめましょう。
書面による督促
督促状や催告書が届いた場合の対応について説明します。
内容確認により、債権者名、債権額、督促の理由、対応期限などを確認します。
保管して、すべての書面を捨てずに保管してください。後日、弁護士に相談する際に必要です。
返信の必要性として、基本的に返信する必要はありませんが、生活保護受給中で返済能力がないことを書面で伝えることも一つの方法です。
裁判所からの書類に注意し、裁判所からの「訴状」「支払督促」などが届いた場合は、無視せず、すぐに弁護士に相談してください。
訴訟を起こされた場合
債権者が訴訟を起こしてきた場合の対応について説明します。
訴状が届いたら、絶対に無視しないこと、すぐに弁護士に相談すること、法テラスの利用を検討することが重要です。
答弁書の提出により、期限内に裁判所に答弁書を提出する必要があります。弁護士に依頼すれば、適切な答弁書を作成してくれます。
判決が出ても、判決で支払いを命じられても、生活保護費は差し押さえできないため、実質的な影響は限定的です。
自己破産の検討として、訴訟を機に、自己破産を検討するのも一つの選択肢です。
訴訟は専門的な手続きなので、必ず弁護士に相談してください。
よくある質問と回答

生活保護を受けながら借金返済はできる?
結論から言うと、生活保護費で借金を返済することはできません。
生活保護費は「最低限度の生活」を維持するための費用であり、借金返済に充てることは制度の趣旨に反します。もし返済を続けると、ケースワーカーから指導を受け、場合によっては生活保護が停止される可能性もあります。
借金問題は、自己破産などの債務整理で解決することが推奨されます。
生活保護受給前の借金は時効になる?
借金には時効があります。
時効期間として、金融機関やクレジットカード会社からの借金は5年、個人間の借金は原則10年(商行為の場合は5年)です。
時効の進行により、最後の返済日または借金を認めた日から起算して、上記期間が経過すると時効が成立します。
時効の援用が必要で、時効期間が経過しても、自動的に借金が消滅するわけではありません。債権者に対して「時効を援用する」と通知する必要があります。
中断事由として、訴訟、差し押さえ、債務の承認などがあると、時効が中断(リセット)されます。
時効の判断は専門的なので、弁護士に相談することをお勧めします。
家族が生活保護を受けている場合、自分の財産も差し押さえられる?
生活保護は世帯単位で受給しますが、家族といえども、法的には別の人格です。
原則として、あなた個人の借金で、家族の財産が差し押さえられることはありません。逆も同様です。
例外では、連帯保証人になっている場合、共同名義の財産がある場合などは、影響を受ける可能性があります。
世帯分離により、世帯員の一人だけが債務を抱えている場合、世帯分離を検討することも選択肢です。

個別の状況により異なるため、ケースワーカーや弁護士に相談してください。
まとめ:差し押さえから身を守るために

生活保護と差し押さえについて、重要なポイントをまとめます。
生活保護費は差押禁止であり、生活保護法第58条により、生活保護費の差し押さえは禁止されています。銀行口座に振り込まれた後も、保護費であることを証明できれば保護されます。生活に必要な家財道具も差押禁止財産です。
借金があっても生活保護は受けられることを理解しましょう。借金の有無は受給要件ではありません。ただし、生活保護費で借金を返済することはできません。自己破産などの債務整理で根本解決を図ることが推奨されます。
法テラスの活用により、生活保護受給者は弁護士費用が無料です。債務整理や差し押さえへの対応は、専門家に相談しましょう。一人で抱え込まず、早めの相談が重要です。
適切な対応として、差押通知が届いたら、すぐに福祉事務所と弁護士に相談すること、債権者からの督促には冷静に対応すること、訴訟を起こされたら無視せず対処すること、利用できる減免制度を積極的に活用することが大切です。
最後に
生活保護は、憲法で保障された生存権を具体化した制度です。経済的困窮に陥っても、最低限度の生活を送る権利は守られています。差し押さえの不安から、生活保護の利用をためらう必要はありません。
困ったときは、福祉事務所、法テラス、弁護士会、消費生活センターなど、相談できる窓口が多数あります。一人で悩まず、専門家の力を借りて、問題を解決していきましょう。
この記事が、あなたの不安を少しでも軽減し、適切な対処への一助となることを願っています。


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