お金を貸した人(債権者)は、お金を借りた人(債務者)がお金を返さない場合、債務者が持っている金銭債権を差し押さえることができます。
例えば債務者が銀行に預けている預金(預金債権)、債務者が取引先に請求できる売掛金(売掛金債権)、債務者が勤務先に請求できる給与(給与債権)など、債権者は債務者が所有するあらゆる金銭債権を差し押さえることができます。
では、その債務者が生活保護受給中の場合、最低生活費として支給される生活保護費を債権者は差し押さえることはできるのでしょうか?また、そもそも生活保護受給者に対して借金返済の督促をしたり、生活保護費から借金返済をさせることは可能なのか?気になるところだと思います。
そこで、このページでは、生活保護は差し押さえることはできるのか?等について、詳しくご説明したいと思います。
生活保護費は差し押さえできない
結論から言うといくら生活保護受給者に借金があっても、生活保護費は差し押さえることはできません。
なぜなら、生活保護費は差押禁止債権だからです。
差押禁止債権とは、その名のとおり、たとえ借金があっても、差し押さえることを禁止されている債権のことです。
生活保護費については、生活保護法第58条で差押禁止債権であることが明記されています。
(差押禁止)
第五十八条 被保護者は、既に給与を受けた保護金品及び進学準備給付金又はこれらを受ける権利を差し押さえられることがない
「生活保護費は差押えできなくても、生活保護受給者が働いて稼いだ給料や年金、児童手当は差押えができるのでは?」と思う債権者の方もいるかもしれませんが、残念ながら、それらも差押禁止債権のため、差し押さえることができません。
根拠法令は、給料、給与、賃金、俸給、退職年金、賞与(ボーナス)、退職金については、民事執行法152条で、国民年金については国民年金法24条で、厚生年金については厚生年金法41条で、児童手当受給権については児童手当法15条で、それぞれ差し押さえが禁止されています。
預金口座の差し押さえはできる
生活保護費は差押禁止債権のため、差し押さえることはできませんが、生活保護受給者の預金債権、つまり銀行口座に預けている預金を差し押さえることは可能です。
しかし、仮に生活保護受給者の預金口座を差し押さえたとしても、実際に借金を回収することは非常に困難です。
なぜなら、預金口座を差し押さえる場合は、差し押さえるべき預金口座の銀行名と支店名がは分かっていないと差し押さえをすることができないからです。
一度差し押さえができたとしても、メインで使う・貯める預金口座を変えられてしまえば、現在入金されている預金額以上のお金を回収することはできません。
また、民事執行法第131条に差押禁止動産と言う規定があり、一月間の生活に必要な食料及び燃料や標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭(66万円)は差し押さえができないようになっています。
生活保護費の生活扶助の中には家具・家電が壊れたときのための金額が含まれていることから、預貯金を持つこと自体は認められていますが、生活保護受給者が66万円以上もの貯金を持っていることは、まずないため、差し押さえはできないと考えた方が良いです。
債権者からの督促は生活保護になっても続く
差し押さえができないなら、債権者は何もできないのか?と言うと、そんなことはありません。
差し押さえと言う強制執行はすることはできませんが、督促状を出すことは自由なので、生活保護の受給を開始した後も借金の督促は続きます。
そのため、生活保護を受給開始したからと言って、督促状が届かなくなったり、取り立ての電話や訪問がなくなるわけではありません。
生活保護受給期間でも借金は免除されず利子は増え続ける
生活保護の受給を開始しても借金が免除されたり、利子がなくなるわけではありません。
通常の借金どおり、元本に対して利子は複利で付いていくため、借金総額もどんどん増えていきます。
そのため、借金をどうにかしたい場合は、生活保護受給者も一般世帯と同様に債務整理や自己破産をしなければいけません。
生活保護受給者は法テラスなどを活用することで、無料で弁護士相談をすることができるため、それらを利用することをオススメします。
ただし、借金の総額や借金の理由によっては、債務整理や自己破産ができない場合もあるため、その点は注意が必要です。
生活保護費を借金の返済に充てることは禁止されている
「無料相談なんか面倒くさい!」「闇金からお金を借りているから怖くて相談できない!」等の理由により、生活保護費から借金を返済しようとする方がいますが、生活保護費から借金を返済することは禁止されています。
なぜなら借金を返済する=自身の資産を増やす行為だからです。
生活保護で支給している生活保護費の趣旨はあくまで健康で文化的な最低限度の生活費のみです。
例えば借金100万円が借金90万円になったとしても、マイナスはマイナスではありますが、10万円借金が減った=資産が増えたことに変わりはないため、生活保護費を借金の返済に充てることは認められていません。
どの福祉事務所の、どのケースワーカーに尋ねても「生活保護費を借金の返済に充てては駄目です。」と言われてしまいます。
とは言え、生活保護費の使い道について、ケースワーカーは一切の口出しができません。
厳密に言うと、ケースワーカーは注意はできますが、強制させる力は一切ありません。
ケースワーカーの指示に従わず借金を返済し続けたからと言って、生活保護が停止・廃止になることもありません。
ケースワーカーにそれだけの権限が与えられてはいないため、実際には生活保護費から借金を返済している生活保護受給者は多数います。
滞納した税金は執行停止になり消滅する
生活保護を受給する前に滞納している各種税金については、借金とは異なり、執行停止となるため生活保護受給中は支払う必要がなくなります。
しかも執行停止期間が3年間継続すると租税債権は消滅します。
つまり、生活保護期間が3年間を超えると滞納分がなくなるため支払わなくて良くなります。
仮に、その後、生活保護を脱却しても過去の滞納分は消滅しているため、請求されることはありません。
ただし、執行停止期間が3年未満の場合は、滞納分は消滅しないため、生活保護を脱却した後に請求されることになります。
例えば税金の滞納が100万円ある場合、生活保護受給中は執行停止となるため請求されません。そして、そのまま3年間生活保護を受給し続ければ滞納分が消滅するため、その後、生活保護を脱却しても請求されません。しかし、3年未満で生活保護を脱却した場合は、滞納分は消滅していないため、脱却後に滞納分の100万円が請求されます。
まとめ
生活保護は差し押さえることはできるのか?等について、ご説明させていただきました。
上記をまとめると
- 生活保護費の差押禁止債権のため、差し押さえることができない
- 生活保護受給者の預金口座の差し押さえは可能だが、口座の特定が必要であること、66万円未満の場合は差し押さえができないことから、実質差し押さえは不可能
- 生活保護受給中も債権者からの督促はなくならない
- 生活保護受給中も借金は免除されず、利子も増え続けるため、借金をどうにかしたいなら法テラス等を活用して債務整理・自己破産の手続きをしなければいけない
- 生活保護費から借金を返済することは禁止されているが、法的拘束力はないため、実際は生活保護費から借金を返済している生活保護受給者は多い
- 滞納している各種税金等については、生活保護受給中は執行停止となり、さらに執行停止期間が3年間を超えたら債権が消滅し、生活保護脱却後も返済する必要がなくなる
となります。
その他、生活保護に関する様々な疑問については、下記にまとめてありますので、ぜひ参考にしていただけたらと思います。
https://seikathuhogomanabou.com/category/qa/
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