高齢になり介護が必要になった際、経済的な不安から老人ホームへの入居を諦めていませんか。
生活保護を受給している方、またはこれから受給を検討している方でも、条件を満たせば老人ホームへの入居は可能です。
本記事では、生活保護受給者が老人ホームに入居する際の費用負担、入居可能な施設の種類、申請手続きの流れまで、実践的な情報を詳しく解説します。
生活保護受給者でも老人ホームに入居できるのか?

結論から申し上げますと、生活保護を受給していても老人ホームへの入居は可能です。
ただし、入居できる施設の種類や条件には一定の制約があります。
生活保護と介護施設の基本的な関係
生活保護制度には「介護扶助」という仕組みがあり、介護が必要な受給者に対して介護サービスの費用を支給します。

この介護扶助を活用することで、老人ホームなどの介護施設への入居が実現できるのです。
介護扶助は、介護保険制度と連動しており、要介護認定を受けた方が対象となります。
介護保険の自己負担分(通常1~3割)を生活保護の介護扶助でカバーする仕組みです。
入居可能な施設と入居が難しい施設
生活保護受給者が入居しやすい施設と、現実的に入居が難しい施設があります。
この違いを理解することが、スムーズな施設選びの第一歩となります。
入居可能性が高い施設として、特別養護老人ホーム(特養)、介護老人保健施設(老健)、認知症対応型グループホーム、養護老人ホームなどがあります。
これらの施設は比較的費用が抑えられており、生活保護の範囲内で入居できる可能性が高いです。
入居が難しい施設としては、有料老人ホーム(特に高級な施設)、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の一部などが挙げられます。
これらは入居一時金や月額費用が高額で、生活保護の支給額では賄えないケースが多いです。
生活保護で入居できる老人ホームの種類と特徴

生活保護受給者が現実的に入居を検討できる施設について、それぞれの特徴と入居条件を詳しく見ていきましょう。
特別養護老人ホーム(特養)
特養は、要介護3以上の高齢者を対象とした公的な介護施設です。
生活保護受給者にとって最も現実的な選択肢の一つと言えます。
入居条件
- 原則として要介護3以上の認定を受けていること
- 65歳以上(特定疾病の場合は40歳以上)
- 在宅介護が困難な状態であること
費用の目安
月額費用は、多床室(相部屋)の場合で約5万円~9万円程度、個室の場合は約10万円~15万円程度です。生活保護受給者の場合、介護扶助と生活扶助を合わせて費用をカバーできることが多いです。

メリット
- 終身利用が可能で、看取りまで対応
- 医療的ケアが充実している
- 費用が比較的低額で安定している
デメリット
- 待機者が多く、入居まで数ヶ月~数年かかることがある
- 個室は費用が高くなる傾向がある
介護老人保健施設(老健)
老健は、病院と自宅の中間的な役割を果たす施設で、リハビリテーションに重点を置いています。
入居条件
- 要介護1以上の認定を受けていること
- 医学的管理下でのリハビリが必要な状態
- 在宅復帰を目指している方
費用の目安
月額費用は約8万円~13万円程度で、特養とほぼ同水準です。生活保護の範囲内で入居できる可能性が高いです。
注意点 老健は「在宅復帰を目指す施設」という位置づけのため、原則として3ヶ月~6ヶ月程度での退所が前提となります。終身利用はできないため、その後の受け入れ先を考える必要があります。
養護老人ホーム
養護老人ホームは、経済的な理由や環境上の理由で在宅生活が困難な高齢者を受け入れる施設です。
入居条件
- 原則として65歳以上
- 身体的・精神的に著しい障害がないこと
- 経済的に困窮していること
- 環境上の理由で在宅生活が困難なこと
費用の特徴
所得に応じた費用負担となり、生活保護受給者の場合は本人の負担がほとんどない、または非常に少額となります。
重要なポイント
養護老人ホームは「措置施設」であり、本人が自由に選んで入居できるわけではありません。市区町村が必要性を判断し、入所措置を決定します。
認知症対応型グループホーム
認知症の診断を受けた方が少人数で共同生活を送る施設です。
入居条件
- 要支援2または要介護1以上の認定
- 認知症の診断を受けていること
- 共同生活が可能な状態であること
- 施設と同じ市区町村に住民票があること
費用の目安
月額費用は約10万円~15万円程度です。地域や施設によっては、生活保護の支給額内で入居できる場合もありますが、超過するケースもあるため注意が必要です。


生活保護受給者の老人ホーム入居費用の内訳

老人ホームに入居する際、どのような費用が発生し、生活保護でどこまでカバーされるのかを理解することが重要です。
入居時に必要な初期費用
入居一時金
高級な有料老人ホームでは数百万円~数千万円の入居一時金が必要なケースもありますが、特養や老健などの公的施設では基本的に不要です。
敷金・保証金
施設によっては家賃の2~3ヶ月分程度の敷金が必要な場合があります。生活保護受給者の場合、この費用も福祉事務所に相談することで、一時扶助として支給される可能性があります。

毎月発生する費用
老人ホームの月額費用は、主に以下の項目で構成されています。
介護サービス費
介護保険の自己負担分(1~3割)に相当する部分です。生活保護受給者の場合、この費用は介護扶助から全額支給されます。
居住費(家賃相当額)
施設で生活するための部屋代です。多床室か個室かによって金額が大きく変わります。
食費
1日3食の食事代です。施設によって異なりますが、月額4万円~5万円程度が一般的です。
日常生活費
理美容代、娯楽費、嗜好品代などです。月額1万円~2万円程度が目安となります。
生活保護での費用カバー範囲
生活保護受給者の場合、以下のように費用がカバーされます。
介護扶助から支給される項目
- 介護サービス費の自己負担分(全額)
- 施設サービス費
生活扶助から支給される項目
- 居住費の一部(基準額内)
- 食費の一部(基準額内)
- 日常生活費
重要な注意点
生活保護の支給額には上限があるため、高額な施設は選択できません。地域によって異なりますが、月額の総費用が約13万円~15万円程度までの施設が現実的な選択肢となります。
生活保護受給者が老人ホームに入居するまでの手順

実際に老人ホームへの入居を進める際の具体的な流れを説明します。
ステップ1:ケースワーカーへの相談
最初に必ず行うべきことは、担当のケースワーカーへの相談です。

相談時に伝えるべき内容
- 現在の健康状態と介護の必要性
- 在宅生活が困難な具体的な理由
- 希望する施設のタイプ
- 家族構成と支援の可能性
ケースワーカーは、入居の必要性を判断し、適切な施設のアドバイスや手続きのサポートを行います。
ステップ2:要介護認定の取得
老人ホームに入居するには、要介護認定が必要です。
まだ認定を受けていない場合は、この段階で申請を行います。
申請手順
- 市区町村の介護保険窓口で申請書を提出
- 認定調査員による訪問調査を受ける
- 主治医意見書の提出
- 介護認定審査会での審査
- 認定結果の通知(申請から約30日)
要介護度によって入居できる施設が変わるため、この認定結果は非常に重要です。
ステップ3:施設の選定と見学
ケースワーカーと相談しながら、入居可能な施設をリストアップします。
施設選びのポイント
- 月額費用が生活保護の支給額内に収まるか
- 立地や交通の便は良いか
- 医療体制は充実しているか
- スタッフの対応や施設の雰囲気はどうか
可能であれば、実際に施設を見学することを強くおすすめします。
パンフレットだけでは分からない雰囲気やスタッフの対応を確認できます。
ステップ4:入居申込みと審査
希望する施設が決まったら、入居申込みを行います。
申込みに必要な書類(一般的なケース)
- 入居申込書
- 健康診断書
- 介護保険証のコピー
- 医師の診断書
- 生活保護受給証明書
- 本人確認書類
特養の場合は申込み順ではなく、介護の必要性が高い方から優先的に入居が決まります。
待機期間が発生する可能性があることを理解しておきましょう。
ステップ5:入居契約と費用の確認
入居が決まったら、施設と契約を結びます。
契約時の重要確認事項
- 月額費用の明細と支払方法
- 生活保護の代理納付が可能か
- 退去条件や解約時の手続き
- 医療体制と緊急時の対応
- サービス内容の詳細
生活保護受給者の場合、施設費用を福祉事務所から直接施設に支払う「代理納付」制度が利用できることが多いです。
この制度を利用すれば、本人が費用を管理する負担が軽減されます。
生活保護受給者が老人ホーム入居で注意すべきポイント

スムーズに入居し、安心して生活を続けるために知っておくべき重要事項をまとめます。
生活保護の支給額が変更される可能性
老人ホームに入居すると、生活保護の支給額が変わる場合があります。
変更される理由
在宅で生活保護を受給している場合と、施設入所後では生活費の計算方法が異なるためです。施設入所後は、居住費や食費が施設から提供されるため、在宅時よりも支給額が減額されることが一般的です。
具体例
在宅時に月額13万円程度の生活保護を受給していた単身者が、特養に入所した場合、施設への支払い分を除いた日常生活費として月額2万円~3万円程度の支給に変更されることがあります。
医療費の扱い
生活保護受給者の医療費は、医療扶助によって全額カバーされます。

これは老人ホーム入居後も変わりません。
注意が必要なケース 施設によっては、提携医療機関が限定されている場合があります。かかりつけ医を継続して受診したい場合は、事前に施設側と相談しておくことが大切です。
家族との面会と外出
生活保護受給者だからといって、面会や外出に特別な制限があるわけではありません。

各施設の規則に従って、自由に面会や外出が可能です。
コロナ禍以降の面会制限 感染症対策として面会制限を設けている施設もありますが、これは生活保護受給の有無に関わらず全入居者に適用される措置です。
施設内でのお小遣い管理
老人ホーム入居後も、個人的な買い物や娯楽のための費用は必要です。
お小遣いの金額
生活保護から支給される日常生活費の範囲内で、月額2万円~3万円程度が使えることが一般的です。理美容代、嗜好品、娯楽費などに充てられます。
金銭管理が難しい場合
認知症などで金銭管理が困難な場合は、施設のスタッフや成年後見人に管理を依頼することも可能です。
生活保護受給者向けの老人ホームに関するよくある質問

Q1: 生活保護を受けていることを施設に知られたくないのですが?
A: 施設側は入居者の支払能力を確認する必要があるため、生活保護受給の事実は伝える必要があります。ただし、施設スタッフには守秘義務があり、他の入居者に漏らされることはありません。また、生活保護受給者の受け入れ実績が豊富な施設では、特別視されることなく普通に生活できます。
Q2: 年金を受給していても生活保護で老人ホームに入れますか?
A: はい、可能です。年金収入がある場合、その金額を差し引いた不足分が生活保護として支給されます。例えば、老齢年金が月額5万円で、施設費用が月額12万円必要な場合、差額の7万円が生活保護から支給される仕組みです。

Q3: 持ち家がある場合はどうなりますか?
A: 原則として、生活保護を受給するには資産を活用することが求められます。持ち家がある場合、その売却を求められることが一般的です。ただし、以下のケースでは保有が認められることがあります。
- 将来的に在宅復帰の可能性がある場合
- 資産価値が著しく低い場合
- 家族が居住している場合
具体的な判断は福祉事務所が行いますので、必ず相談してください。

Q4: 生活保護を受けながら有料老人ホームに入居することは不可能ですか?
A: 完全に不可能ではありませんが、現実的には非常に難しいです。一部の低価格帯の有料老人ホームであれば、生活保護の支給額内で入居できる可能性があります。地域によっては「生活保護対応」を明示している有料老人ホームも存在します。
Q5: 入居後に健康状態が悪化したら退去しなければならないのですか?
A: 施設の種類によって異なります。特別養護老人ホームは終身利用が可能で、医療的ケアが必要になっても最期まで対応してもらえます。一方、介護老人保健施設は在宅復帰を目指す施設のため、状態によっては転所が必要になる場合があります。
まとめ:生活保護でも安心して老人ホームへの入居を検討しよう

生活保護を受給していても、適切な施設を選び、正しい手続きを踏めば老人ホームへの入居は十分に可能です。
重要ポイントの再確認
生活保護の介護扶助と生活扶助を活用することで、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、養護老人ホームなどへの入居が現実的な選択肢となります。
入居費用は施設によって異なりますが、月額10万円~15万円程度の施設であれば、生活保護の範囲内で対応できることが多いです。
手続きの第一歩は、必ず担当のケースワーカーへの相談から始めてください。要介護認定の取得、施設選び、入居申込みと、段階を踏んで進めていきます。
老人ホームへの入居を検討している方は、まず以下の行動を起こしましょう。
- 担当のケースワーカーに相談する
- 要介護認定を受けていない場合は申請する
- 地域の福祉事務所や地域包括支援センターで情報収集する
- 可能であれば施設見学に参加する
経済的な理由で老後の生活に不安を感じている方も、生活保護制度と介護保険制度を適切に活用すれば、尊厳ある生活を送ることができます。
一人で悩まず、専門家に相談しながら、最適な選択肢を見つけていきましょう。

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