「生活保護を受けているが逮捕されてしまった」「家族が逮捕されたら保護はどうなる?」「前科があると生活保護は受けられない?」逮捕と生活保護の関係について、こうした不安や疑問を抱く方は少なくありません。
実際、生活保護受給者の逮捕事例は年間数千件発生しており、その多くが窃盗や詐欺などの経済的困窮に起因する犯罪です。逮捕された場合、生活保護がどうなるかは、勾留期間、起訴の有無、判決内容などによって異なります。
本記事では、生活保護受給者が逮捕された場合の保護費の扱い、保護停止・廃止の基準、釈放後の再申請方法、さらには前科・前歴がある方の生活保護申請まで、法的根拠と福祉事務所の実務に基づいて徹底解説します。
この記事でわかること
- 逮捕されたら生活保護はすぐに打ち切られるのか
- 勾留・起訴・判決による保護費への影響
- 保護停止と保護廃止の違いと基準
- 釈放後の生活保護再開・再申請の方法
- 前科・前歴がある場合の生活保護申請
- 家族が逮捕された場合の世帯への影響
生活保護受給者が逮捕された場合の基本的な流れ

逮捕から判決までのプロセス
まず、刑事手続きの基本的な流れを理解しましょう。
ステップ1:逮捕(48時間以内)
- 警察による身柄拘束
- 48時間以内に検察に送致、または釈放
ステップ2:勾留(最大20日間)
- 検察官が勾留請求
- 裁判官が勾留を決定(10日間、延長で最大20日間)
- または在宅捜査で釈放
ステップ3:起訴・不起訴の決定
- 検察官が起訴または不起訴を判断
- 不起訴なら釈放
- 起訴されると公判へ
ステップ4:公判(裁判)
- 保釈される場合と、勾留が続く場合がある
- 判決まで数か月~数年
ステップ5:判決
- 無罪
- 執行猶予付き有罪
- 実刑(懲役・禁錮)
生活保護への影響は段階によって異なる
逮捕されたからといって、ただちに生活保護が打ち切られるわけではありません。

影響は以下のように段階的です。
逮捕直後(48時間以内) → 通常、保護費への影響なし
勾留決定(最大20日間) → 保護停止の可能性(自治体により対応が異なる)
起訴され勾留継続 → 保護停止の可能性が高い
実刑判決確定 → 保護廃止
執行猶予判決 → 保護継続の可能性

逮捕・勾留期間中の生活保護の扱い

短期間の勾留の場合(数日~20日程度)
保護停止となる場合 多くの福祉事務所では、勾留が決定すると生活保護を一時停止します。
理由
- 留置場・拘置所では、国が食事や住居を提供する
- 生活保護との二重給付を避けるため
停止期間 勾留されている期間のみ
住宅扶助の扱い
- 単身世帯:家賃も含めて停止される場合が多い
- 家族がいる世帯:家族の分は継続、本人分のみ停止

長期間の勾留の場合(数か月以上)
保護廃止となる可能性 勾留が長期化し、起訴されて裁判が始まると、保護廃止となる場合があります。
廃止の基準 明確な基準は自治体により異なりますが、一般的には
- 勾留が1か月以上継続
- 起訴されて公判が開始
- 保釈の見込みがない
住居の問題
賃貸住宅の場合 生活保護が停止・廃止されると、家賃が払えなくなります。
対処法
- 保護停止の場合
- 短期間なら、大家に事情を説明して待ってもらう
- 家族がいれば、家族の収入で家賃を払う
- 保護廃止の場合
- 家財を親族に預ける
- 退去せざるを得ない場合も
公営住宅の場合 家賃滞納により退去を求められる可能性があります。
家族がいる世帯の場合
世帯分離が行われる 逮捕された本人のみ保護停止・廃止され、残された家族の保護は継続されることが一般的です。

例:母子世帯で母親が逮捕された場合
- 母親:保護停止
- 子ども:児童相談所による一時保護、または親族による養育
- 子どもの保護費:継続(養育者に支給)
起訴・判決による生活保護への影響

不起訴で釈放された場合
保護の再開 不起訴となり釈放された場合、停止されていた生活保護は再開されます。
手続き 福祉事務所に連絡し、釈放されたことを報告すれば、保護が再開されます。
注意点 停止期間中の保護費は、原則として遡及支給されません(拘束期間中は国が食事等を提供していたため)。
執行猶予判決の場合
保護継続の可能性 執行猶予判決の場合、釈放後に生活保護が継続されることが一般的です。
執行猶予とは 一定期間(通常3~5年)、刑の執行を猶予する制度。猶予期間中に再犯しなければ、刑は消滅します。
生活保護への影響
- 釈放されれば、通常の生活に戻れる
- 保護は継続される
- ただし、ケースワーカーからの指導・監督が厳しくなる可能性
実刑判決の場合
保護廃止 実刑判決(懲役・禁錮)が確定し、刑務所に収監されると、生活保護は廃止されます。
理由 刑務所では、国が衣食住を提供するため、生活保護の必要がなくなります。
公職選挙法との関係 生活保護の受給資格と、公職選挙法による選挙権の制限は別の問題です。実刑中は選挙権を失いますが、出所後は選挙権も生活保護の受給資格も回復します。
釈放後の生活保護の再開・再申請

保護停止だった場合の再開
再開の手続き
- 福祉事務所に連絡
- 釈放されたことを報告
- 必要書類を提出
- 釈放証明書(警察・検察で発行)
- 本人確認書類
再開のタイミング 通常、報告から1週間程度で保護が再開されます。
住居を失った場合 勾留中に住居を失った場合でも、生活保護の再申請は可能です。一時的にシェルターや簡易宿泊施設に入り、そこから生活保護を申請できます。


保護廃止だった場合の再申請
再申請は可能 実刑判決で保護廃止となった場合でも、出所後に生活保護を再申請できます。
再申請の手続き 通常の生活保護申請と同じです。
- 福祉事務所で申請
- 必要書類の提出
- 本人確認書類
- 預貯金通帳
- 収入・資産に関する書類
- 刑務所からの出所証明書
審査 前科があることは、生活保護の受給要件とは無関係です。経済的困窮の状況が認められれば、保護が開始されます。

出所直後の支援
更生保護施設 出所後、住居や仕事がない場合、更生保護施設(保護観察所が委託)に一時的に入所できます。
施設での生活
- 食事、住居の提供
- 就労支援
- 生活保護申請の支援
地域生活定着支援センター 高齢または障害のある受刑者の出所後の生活を支援する機関です。福祉サービスや生活保護の申請を支援してくれます。
前科・前歴がある場合の生活保護申請

前科・前歴は受給要件に影響しない
重要な原則 生活保護の受給要件は、「経済的困窮」です。前科や前歴の有無は、受給要件とは関係ありません。

生活保護法の規定 生活保護法のどこを見ても、「前科がある者は保護を受けられない」という規定はありません。
申請時に前科を申告する必要はあるか
原則:申告不要 生活保護の申請書に、前科・前歴を記載する欄はありません。したがって、自ら申告する義務はありません。
例外:保護観察中の場合 保護観察中の場合、保護観察所との連携が必要なため、その旨を伝える方が良いでしょう。
実務上の扱い
前科があっても保護は受けられる 過去に犯罪歴があっても、現在経済的に困窮していれば、生活保護は受けられます。
ケースワーカーの態度 前科があることで、ケースワーカーの対応が厳しくなる可能性はゼロではありません。しかし、それは制度上認められることではなく、不当な差別です。
不当な扱いを受けた場合
- 福祉事務所の上司に相談
- 都道府県の監査指導課に相談
- 弁護士に相談(法テラス利用可)
生活保護受給中に逮捕される主な犯罪

統計的に、生活保護受給者が逮捕される犯罪には傾向があります。
1. 窃盗(万引き等)
最も多い犯罪 生活保護受給者の逮捕で最も多いのが窃盗、特に万引きです。
背景
- 保護費が足りず、食料品を万引き
- 依存症(窃盗症)
- 社会的孤立による規範意識の低下
対策
- フードバンク、子ども食堂の利用
- ケースワーカーに生活費不足を相談
- 精神科での治療(窃盗症の場合)

2. 生活保護の不正受給(詐欺)
典型的な事例
- 収入を隠して保護費を受給
- 資産を隠して保護費を受給
- 虚偽の申告で保護費を受給
罰則
- 刑法の詐欺罪:10年以下の懲役
- 生活保護法第85条:3年以下の懲役または100万円以下の罰金
対策
- 正直な申告
- 収入があった場合は速やかに報告
- 不明点はケースワーカーに相談

3. 傷害・暴行
発生状況
- 家庭内暴力(DV)
- 近隣トラブル
- 泥酔時の暴力
背景
- ストレス
- アルコール依存症
- 精神疾患
対策
- アルコール依存症の治療
- 精神科の受診
- DVは配偶者暴力相談支援センターへ相談
4. 薬物事犯
実態 薬物依存症の方が、生活保護を受けながら薬物を使用し、逮捕されるケースがあります。
対策
- 薬物依存症の治療プログラム
- ダルク(薬物依存症リハビリ施設)の利用
- 保健所の精神保健相談
生活保護受給中の逮捕を防ぐために

犯罪に手を染めないために、以下の点に注意しましょう。
1. 経済的困窮を一人で抱え込まない
保護費が足りない場合
- ケースワーカーに相談
- 一時扶助の利用
- フードバンク等の支援を活用

絶対にやってはいけないこと
- 万引き
- 詐欺
- 闇金からの借金
2. 正直な申告を心がける
収入があった場合 必ず報告しましょう。隠すと不正受給となり、逮捕のリスクがあります。

報告すべき収入
- 就労収入
- 年金
- 相続
- 香典・祝儀(高額の場合)
- 競馬・宝くじの払戻金(高額の場合)

3. 依存症の治療を受ける
アルコール依存症
- 精神科の受診
- 断酒会への参加
- アルコール依存症専門病院への入院
薬物依存症
- ダルクなどのリハビリ施設
- 精神科の治療
- 自助グループへの参加
ギャンブル依存症
- 精神科の受診
- ギャンブラーズ・アノニマス(GA)への参加
4. 孤立しない
社会とのつながりを持つ
- 地域のコミュニティに参加
- ボランティア活動
- 趣味のサークル
孤立は、規範意識の低下や精神的不調につながります。
5. ストレスを適切に発散する
健全なストレス発散方法
- 散歩、運動
- 趣味
- 友人との会話
- カウンセリング
避けるべき発散方法
- 過度な飲酒
- ギャンブル
- 暴力
家族が逮捕された場合の世帯への影響

世帯主が逮捕された場合
世帯分離 逮捕された本人のみ保護停止・廃止され、残された家族の保護は継続されます。
例:父親が逮捕された場合(妻と子2人)
- 父親:保護停止
- 妻と子:保護継続
- 世帯の保護費:父親の分が減額される
子どもが逮捕された場合
成人の子ども 成人の子どもが逮捕された場合、その子どもの分のみ保護停止・廃止。親の保護は継続。
未成年の子ども 少年法により扱いが異なりますが、基本的には保護は継続されます。

配偶者が逮捕された場合
配偶者の分のみ停止 配偶者が逮捕・勾留されても、本人と子どもの保護は継続されます。
DVの被害者の場合 配偶者のDVで逮捕された場合、これを機に別居・離婚を検討することもできます。福祉事務所やDV相談支援センターに相談してください。
よくある質問(Q&A)

Q1: 逮捕されたら、すぐに生活保護は打ち切られますか?
A: いいえ、逮捕されただけでは打ち切られません。勾留が決定すると保護停止となる場合が多いですが、不起訴で釈放されれば再開されます。実刑判決が確定すると保護廃止となります。
Q2: 勾留中の保護費は後からもらえますか?
A: いいえ、勾留中は国が食事等を提供するため、その期間の保護費は支給されません。釈放後の保護費は支給されますが、勾留期間分の遡及支給はありません。
Q3: 執行猶予がつきました。生活保護は続けられますか?
A: はい、執行猶予判決の場合、釈放後に生活保護は継続されることが一般的です。ただし、ケースワーカーからの指導が厳しくなる可能性はあります。
Q4: 刑務所から出所したばかりですが、生活保護を申請できますか?
A: はい、申請できます。前科があることは、生活保護の受給要件とは無関係です。出所後、住む場所や仕事がなく経済的に困窮していれば、保護を受けられます。
Q5: 生活保護の不正受給で逮捕されました。釈放後、再び生活保護を受けられますか?
A: 法律上は受けられます。ただし、不正受給で受け取った保護費の返還義務があります。また、福祉事務所からの信頼を失っているため、審査が厳しくなる可能性があります。正直に申告し、二度と不正をしないことが重要です。


Q6: 逮捕されたことを福祉事務所に報告する義務はありますか?
A: 法律上の明確な報告義務はありませんが、勾留されると住居を不在にするため、実質的には福祉事務所に連絡が必要です。また、隠していても福祉事務所は把握する可能性が高いため、正直に報告する方が良いでしょう。
Q7: 保護観察中ですが、生活保護を申請できますか?
A: はい、申請できます。保護観察中であることは、生活保護の受給要件に影響しません。むしろ、保護観察所と福祉事務所が連携することで、更生と自立を支援する体制が整います。
Q8: 家族が逮捕されました。私の生活保護も打ち切られますか?
A: いいえ、家族が逮捕されても、あなた自身の保護は継続されます。逮捕された家族の分のみ保護停止・廃止となります。

まとめ:逮捕されても生活保護の道は閉ざされない

本記事の重要なポイントをまとめます。
逮捕時の生活保護への影響
- 逮捕直後:影響なし
- 勾留中:保護停止の可能性
- 不起訴:保護再開
- 執行猶予:保護継続
- 実刑確定:保護廃止
釈放後の対応
- 保護停止だった場合:福祉事務所に連絡して再開
- 保護廃止だった場合:再申請が可能
- 前科があっても申請可能
重要な原則
- 前科・前歴は受給要件に影響しない
- 経済的困窮があれば保護を受けられる
- 正直な申告が最も重要
逮捕を防ぐために
- 経済的困窮を一人で抱え込まない
- ケースワーカーに相談
- 依存症の治療を受ける
- 社会とのつながりを持つ
家族が逮捕された場合
- 本人のみ保護停止・廃止
- 家族の保護は継続
最後に
生活保護受給者が逮捕されることは、本人にとっても社会にとっても不幸なことです。しかし、逮捕されたからといって、その後の人生の道が完全に閉ざされるわけではありません。
釈放後、または出所後に、生活を立て直すための支援制度として生活保護があります。前科があっても、経済的に困窮していれば保護を受けられます。
また、現在生活保護を受けている方は、犯罪に手を染めないよう、困ったときは必ずケースワーカーや支援機関に相談してください。
万引きや不正受給は、一時的に状況を改善するかもしれませんが、長期的には逮捕・起訴され、さらに困窮する結果となります。
正直に、誠実に生きることが、結局は最も確実な道です。困ったときは、一人で抱え込まず、必ず相談しましょう。

