生活保護を受給している、または申請を考えている方にとって、生命保険の取り扱いは気になるポイントです。
「生活保護を受けると保険は解約しなければならないの?」「すでに加入している保険はどうなる?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
本記事では、生活保護と生命保険の関係について、加入の可否から解約の条件、保険金を受け取った場合の扱いまで、わかりやすく解説します。
生活保護と生命保険の基本ルール

生活保護を受給している方、またはこれから申請を検討している方にとって、「生命保険はどうなるのか」という疑問は非常に重要です。
結論から言えば、生活保護と生命保険の関係は複雑で、ケースバイケースの判断が必要となります。
生活保護における資産の考え方
生活保護法では、「資産の活用」が保護の要件の一つとされています。
これは、保護を受ける前に、まず自分の持っている資産を生活費に充てる必要があるという原則です。
生命保険は金銭的価値のある資産として扱われるため、原則として以下のような考え方が適用されます。
基本原則
- 解約返戻金がある保険は資産とみなされる
- 一定額以上の解約返戻金がある場合は解約が求められる
- ただし、例外的に保有が認められるケースもある
厚生労働省の通知「生活保護法による保護の実施要領」において、保険の取扱いについて詳細な基準が定められています。
この基準に基づいて、各福祉事務所が個別に判断を行います。
なぜ生命保険の解約が求められるのか
生活保護制度の目的は、真に困窮している方に対して必要最低限の生活を保障することです。
そのため、他に活用できる資産がある場合は、まずそれを使うことが求められます。
生命保険の解約返戻金は、すぐに現金化できる資産です。
貯蓄性のある保険に加入している場合、その解約返戻金で当面の生活費を賄えるのであれば、税金を財源とする生活保護を受ける前に、まず自分の資産を活用すべきという考え方です。
ただし、すべての保険を解約しなければならないわけではありません。
保険の種類や契約内容、金額によって、保有が認められる場合もあります。
生活保護申請前に加入している生命保険の扱い

すでに生命保険に加入している状態で生活保護を申請する場合、どのような取扱いになるのでしょうか。
解約が必要な保険
以下のような保険は、原則として解約が求められます。
1. 貯蓄型の生命保険
養老保険、終身保険、個人年金保険など、貯蓄性が高く解約返戻金が一定額以上ある保険は、解約の対象となります。
解約基準の目安
- 解約返戻金が生活扶助基準の3ヶ月分を超える場合
- 単身世帯であれば概ね30万円程度が目安
- 世帯人数により基準額は変動
例えば、解約返戻金が50万円ある終身保険を持っている場合、この50万円で数ヶ月間の生活費を賄えると判断され、その間は生活保護を受給できません。
解約返戻金を使い切ってから、改めて申請することになります。

2. 高額な掛け金の保険
解約返戻金が少額でも、月々の保険料が高額な場合は解約が求められることがあります。
判断基準
- 月額保険料が生活保護基準の生活費を圧迫する場合
- 保険料の支払いが家計の負担になっている場合
- おおむね月5,000円を超える保険料は見直しの対象
最低生活費は限られているため、高額な保険料を支払い続けることは困難です。

保護費から保険料を支払うことは、本来の生活費を削ることになるため、認められません。
保有が認められる可能性のある保険
すべての保険が解約対象となるわけではありません。
以下のような保険は、保有が認められる可能性があります。
1. 解約返戻金がない、または少額の保険
掛け捨て型の定期保険や医療保険など、解約返戻金がほとんどない保険は保有が認められることがあります。
保有が認められる基準
- 解約返戻金が生活扶助基準の概ね1ヶ月分以下
- 月額保険料が3,000円程度以下
- 保険金の受取人が被保護者自身または同一世帯員
具体的には、月額2,000円程度の掛け捨て型医療保険で、解約返戻金が5万円以下といったケースでは、保有が認められる可能性があります。
2. 少額短期保険(ミニ保険)
葬儀費用を目的とした少額短期保険は、社会的に必要性が認められる場合があります。
認められる条件
- 保険金額が300万円以下
- 月額保険料が概ね3,000円以下
- 主な目的が葬儀費用の確保
高齢者の方が「自分の葬式代くらいは自分で用意したい」という気持ちから加入している少額の保険については、配慮される場合があります。
ただし、葬儀費用については、葬祭扶助の支給があるため、自治体によっては、葬儀費用としての貯蓄は一切認められない可能性もあります。

3. 子どもの学資保険
子どもの教育を目的とした学資保険については、一定の条件下で保有が認められることがあります。

保有が認められる可能性がある条件
- 子どもの高校、大学進学を目的としている
- 解約返戻金が合理的な範囲内
- 保険金の受取人が子ども本人
- 月額保険料が生活を圧迫しない範囲
ただし、解約返戻金が高額な場合や、進学まで長期間ある場合は、解約を求められることもあります。
個別の状況によって判断が異なるため、必ずケースワーカーに相談してください。
保険の契約内容の見直し
解約を避けたい場合、契約内容の見直しという選択肢もあります。
可能な見直し方法
- 払済保険への変更(保険料の支払いを停止し、解約返戻金の範囲内で保障を継続)
- 減額(保険金額と保険料を減らす)
- 特約の解約(主契約は残し、特約のみ解約)
これらの方法により、保険料負担を軽減しながら、最低限の保障を維持できる場合があります。
保険会社に相談するとともに、ケースワーカーにも確認してください。
生活保護受給中の生命保険加入

生活保護を受給している間に、新たに生命保険に加入することはできるのでしょうか。
原則として新規加入は困難
生活保護受給中に新たに生命保険に加入することは、原則として認められていません。
認められない理由
- 生活保護費は最低生活費を賄うためのもので、保険料に充てる余裕はない
- 保険料の支払いは生活保護の趣旨に反する
- 将来の保障より現在の生活が優先される
生活保護費から保険料を支払うことは、限られた保護費を本来の目的である日常生活費以外に使用することになり、認められません。
例外的に認められるケース
非常に限定的ですが、以下のような場合には新規加入が認められることがあります。
1. 就労による収入がある場合
生活保護を受給しながらも働いている場合、その就労収入の範囲内であれば、保険加入が認められる可能性があります。

条件
- 就労収入が安定している
- 基礎控除後の収入から保険料を支払える
- 保険料が少額である(月1,000〜2,000円程度)
- 保険の必要性が合理的に説明できる
ただし、この場合でも事前にケースワーカーに相談し、承認を得る必要があります。

2. 資産形成を目的としない掛け捨て型保険
極めて少額の掛け捨て型保険で、社会的必要性が認められる場合には、例外的に加入が認められることがあります。
例
- 少額の葬儀保険(月額1,000円程度)
- 最低限の医療保険(月額1,500円程度)
ただし、これらも自治体や担当者によって判断が異なるため、必ず事前に相談が必要です。
無断で加入した場合のリスク
ケースワーカーに相談せず、無断で生命保険に加入した場合、以下のようなリスクがあります。
考えられる不利益
- 不正受給と見なされる可能性
- 保護費の返還請求
- 保護の停止または廃止
- 悪質な場合は刑事告発の対象となる可能性
生活保護受給中は、収入・支出・資産の変化について報告義務があります。
保険加入も重要な変化に該当するため、必ず事前に相談してください。

生命保険の保険金を受け取った場合

生活保護受給中に、生命保険の保険金や給付金を受け取った場合、どのように扱われるのでしょうか。
死亡保険金を受け取った場合
家族が亡くなり、死亡保険金を受け取った場合、この保険金は収入として認定されます。
収入認定の仕組み
- 受け取った保険金額を福祉事務所に報告
- 葬儀費用など必要経費を差し引く
- 残額が収入として認定される
- その金額分、生活保護費が減額または停止される
具体例:死亡保険金300万円を受け取った場合
- 保険金額:300万円
- 葬儀費用:100万円(実費)
- 差引:200万円
この200万円は資産として認定され、この資産で生活できる期間は生活保護が停止されます。

月の生活費が15万円とすれば、約13ヶ月間は保護が停止され、その後資産がなくなれば再び保護が開始されます。
葬儀費用の取扱い
被保護者の葬儀については、生活保護の葬祭扶助で対応できます。

葬祭扶助の内容
- 支給基準額:大人で概ね20万円程度(自治体により異なる)
- 対象:火葬費用、棺、骨壺など最低限の葬儀に必要な費用
- 条件:葬儀を行う者に資力がない場合
死亡保険金を受け取った場合は、その保険金から葬儀費用を支出し、残額が収入認定されます。

保険金がない場合に、葬祭扶助が適用されます。
入院給付金・手術給付金を受け取った場合
医療保険から入院給付金や手術給付金を受け取った場合も、基本的には収入として認定されます。
収入認定の対応
- 給付金額を福祉事務所に報告
- 医療関連の自己負担分があれば差し引かれる
- 残額が収入として認定され、その分保護費が減額
ただし、生活保護受給者は医療扶助により医療費の自己負担がないため、医療関連の控除はほとんどないのが実情です。

結果として、給付金の大部分が収入認定されることになります。
満期保険金を受け取った場合
養老保険などの満期保険金を受け取った場合も、収入として認定されます。
取扱い
- 満期保険金全額が収入認定の対象
- 控除できる費用はほとんどない
- 受取額に応じて保護費が減額または停止
満期保険金が高額な場合、その資産で生活できる期間は生活保護が停止されます。
資産がなくなれば、再度保護を申請することができます。
生命保険に関する手続きと報告義務

生活保護と生命保険に関しては、様々な場面で適切な手続きと報告が必要です。
生活保護申請時の手続き
生活保護を申請する際は、加入している保険についてすべて申告する必要があります。
申告が必要な情報
- 保険会社名と保険商品名
- 契約者、被保険者、保険金受取人
- 保険金額
- 月額保険料
- 解約返戻金の額(保険会社に確認)
- 保険証券のコピー
解約返戻金の額は、保険会社に問い合わせれば教えてもらえます。
正確な金額を把握しておくことが重要です。
保険を解約する場合の手続き
福祉事務所から解約を求められた場合の手続きの流れは以下の通りです。
解約手続きの流れ
- ケースワーカーから解約の指示を受ける
- 保険会社に解約の連絡をする
- 必要書類を保険会社に提出
- 解約返戻金が振り込まれる
- 振込通知書等をケースワーカーに提出
- 解約返戻金を生活費に充当
解約返戻金は、生活保護申請前に使い切る必要がある場合と、保護開始後に収入認定される場合があります。
タイミングについてはケースワーカーの指示に従ってください。
保険金受取時の報告
生活保護受給中に保険金や給付金を受け取った場合は、速やかに報告する義務があります。
報告の手順
- 保険金受取後、すぐにケースワーカーに連絡
- 保険金額と受取日を報告
- 保険会社からの支払通知書のコピーを提出
- 葬儀費用等の領収書があれば提出
- 収入認定の説明を受ける
報告を怠ると、不正受給と見なされる可能性があります。
たとえ少額でも、必ず報告してください。
保険契約の変更時の報告
保険の契約内容を変更した場合も、報告が必要です。
報告が必要な変更
- 保険金額の増額・減額
- 特約の付加・解約
- 払済保険への変更
- 保険料の変更
- 受取人の変更
これらの変更は、資産状況や家計の変化につながるため、事前または事後速やかに報告してください。
生命保険に関するよくある質問

生活保護と生命保険について、多くの方から寄せられる質問とその回答をまとめました。
Q1. 親が私を被保険者にしている保険がある場合はどうなりますか?
A. あなた自身が契約者でない場合(親が契約者で、あなたが被保険者の場合)、その保険はあなたの資産には該当しません。したがって、生活保護申請の際に解約を求められることはありません。ただし、保険金の受取人があなたになっている場合、将来保険金を受け取れば、その時点で収入認定されます。契約者、被保険者、受取人の関係を正確に把握し、申告してください。
Q2. 解約返戻金が30万円の保険があります。どうしても残したいのですが…
A. 原則として、解約返戻金が生活扶助基準の3ヶ月分を超える保険は解約が求められます。ただし、以下のような事情がある場合は、ケースワーカーに相談する価値があります。
- 子どもの進学のための学資保険である
- 高齢で葬儀費用の準備として最低限必要
- 持病があり、再加入が困難
自治体や担当者によって判断が異なる場合もあるため、まずは誠実に事情を説明してください。代替案として、払済保険への変更や減額も検討しましょう。
Q3. 生活保護を受けながら、掛け捨ての医療保険に入っていますが問題ありますか?
A. 生活保護受給前から加入していた掛け捨て型の医療保険で、月額保険料が少額(概ね3,000円以下)であれば、保有が認められる可能性があります。ただし、以下の点に注意が必要です。
- 必ずケースワーカーに申告し、承認を得る
- 給付金を受け取った場合は収入認定される
- 保険料が生活を圧迫する場合は解約を求められる可能性
医療扶助により医療費の自己負担はないため、医療保険の実益は限られます。継続の必要性について、ケースワーカーと相談してください。
Q4. 保険の契約者貸付を利用していますが、返済はどうなりますか?
A. 保険の契約者貸付(保険会社からの借入)がある場合、生活保護費から返済することは原則として認められません。保険を解約する際は、契約者貸付の残高が解約返戻金から差し引かれます。
例:解約返戻金50万円、契約者貸付残高20万円の場合 → 実際に受け取れるのは30万円
この30万円が資産として認定され、生活費に充当することになります。契約者貸付を利用している場合は、必ず申告してください。
Q5. 就労を始めました。生命保険に加入できますか?
A. 就労により収入を得るようになった場合でも、生活保護を受給している間は、保険加入について慎重な判断が必要です。以下の条件を満たせば、認められる可能性があります。
- 就労収入が安定している
- 基礎控除後の収入から保険料を支払える
- 保険料が少額である(月1,000〜2,000円程度)
- 掛け捨て型など貯蓄性がない保険である
いずれにしても、加入前に必ずケースワーカーに相談し、承認を得てください。無断で加入すると、不正受給と見なされるリスクがあります。
Q6. 共済(県民共済、こくみん共済など)も生命保険と同じ扱いですか?
A. はい、共済も生命保険と同様の取扱いを受けます。掛金、保障内容、解約返戻金(割戻金)などを総合的に判断し、保有の可否が決定されます。一般的に共済は掛金が安く、貯蓄性も低いため、保有が認められやすい傾向にありますが、必ず申告が必要です。
月額2,000円程度の県民共済などは、解約返戻金がほとんどない場合が多く、保有が認められる可能性があります。ただし、最終的な判断は福祉事務所が行います。

まとめ:生活保護と生命保険の適切な対応

生活保護と生命保険の関係は複雑ですが、基本的なルールを理解し、適切に対応することが重要です。
生命保険に関する重要ポイント
- 生活保護申請時、加入中の保険はすべて申告が必要
- 解約返戻金が一定額以上の保険は解約が求められる
- 掛け捨て型など一部の保険は保有が認められる場合がある
- 受給中の新規加入は原則として認められない
- 保険金を受け取った場合は速やかに報告が必要
状況別の対応方法
- これから生活保護を申請する方
- 現在加入している保険を整理する
- 保険会社に解約返戻金の額を確認する
- 福祉事務所に正直に申告する
- すでに生活保護を受給中の方
- 無断で保険に加入しない
- 保険金を受け取ったら速やかに報告する
- 契約内容の変更も報告する
- 保険を残したい方
- ケースワーカーに事情を説明する
- 払済保険への変更や減額を検討する
- 少額短期保険への切り替えを相談する
生命保険は、将来のリスクに備えるための重要な制度ですが、生活保護は現在の生活を守るための制度です。
生活保護を受給する際は、「現在の生活が最優先」という原則を理解し、保険については適切に対応する必要があります。
保険の取扱いについて不明な点や不安なことがあれば、一人で判断せず、必ずケースワーカーに相談してください。
正直に相談することで、あなたの状況に応じた最適な解決策が見つかるはずです。
また、生活保護から脱却して経済的に自立できるようになれば、将来に備えて生命保険に加入することも可能になります。
まずは現在の生活を安定させることを最優先に考え、段階的に将来の備えを検討していくことをおすすめします。

