近年の猛暑により、エアコンは生活に欠かせないものとなりました。
特に熱中症のリスクが高い生活保護受給者にとって、エアコンは命を守るための重要な設備です。
「生活保護でエアコンは支給されるの?」「故障した場合はどうすればいい?」そんな疑問をお持ちの方に向けて、生活保護におけるエアコン支給の条件や申請方法、注意点を詳しく解説します。
生活保護でエアコンが支給されるようになった背景

熱中症リスクの増加
2024年5月から9月の熱中症による救急搬送者数は全国で97,578人に達し、調査開始以降最多を記録しました。
このうち65歳以上の高齢者が57.4%を占め、生活保護受給者の多くが該当する年齢層で深刻な状況となっています。
さらに発生場所別では住居が最も多く、約4割を占めているという統計があります。
在宅時間が長い生活保護受給者にとって、エアコンは熱中症予防に不可欠な設備といえるでしょう。
制度改正の経緯
以前はエアコンは生活必需品とみなされず、費用支給の対象外でした。
しかし近年の気温上昇の状況を考慮して、2018年から新たに「家具什器費」にエアコンの購入費も含まれるようになりました。

この制度改正により、一定の条件を満たす生活保護受給者はエアコン購入費用の支給を受けられるようになりました。
エアコン購入費が支給される5つの条件

基本的な支給要件
エアコン購入費が支給されるには、以下のいずれかに該当する必要があります。
支給対象となる5つのケース
- 保護開始時にエアコンを持っていない場合
- 生活保護の申請・受給開始時点でエアコンを所有していないとき
- 長期入院・入所後の退院時
- 単身世帯で長期入院や施設入所を経て、退院・退所後に新たに一人暮らしを始める際、エアコンがない場合
- 災害による喪失
- 災害に遭い、災害救助法では補償されない場合
- 転居による設備の相違
- 転居した際、旧住居にはエアコンが備え付けられていたが、新居にはない場合
- 犯罪被害やDVによる転居
- 犯罪やDV被害により安全確保のため転居する際、エアコンがない場合
熱中症予防が必要な者の存在
上記の条件に該当し、当該被保護世帯に「熱中症予防が特に必要とされている人物」がいる場合に支給されます。
熱中症予防が特に必要とされる方
- 高齢者(65歳以上)
- 障害者
- 子ども(乳幼児を含む)
- その他、福祉事務所が認めた方
エアコン購入費の支給上限と設置費用

購入費の上限金額
生活保護からエアコン代が支給される場合、上限金額は67,000円です(2024年時点)。
物価上昇の影響により、この上限額は年々増加傾向にあります。
自治体によって上限金額が異なる場合もあるため、お住まいの地域の福祉事務所に確認することをおすすめします。
設置費用について
設置費用も条件によっては別途支給されることがあります。
やむを得ないと認められた場合に限り、設置費用の支給を受けられます。
購入可能なエアコンの目安
67,000円の予算内であれば、以下のようなエアコンの購入が可能です。
- 6〜8畳用の中古エアコン:2万円台から
- 新品の低価格エアコン:工事費込みで5〜6万円程度
- 設置費用:通常1万円〜2万円程度
節約を心がければ、購入費と設置費用を合わせて上限内に収めることも十分可能です。
エアコン購入費が支給されないケース

注意すべき3つのケース
以下のような場合、エアコン購入費は支給されません。
1. 既にエアコンを所有している場合
元から自宅にエアコンが設置されていた場合は対象外です。賃貸物件で大家さんが所有しているエアコンがある場合も該当します。
2. エアコンが故障した場合
2024年4月1日から適用の「生活保護問答集」には、保護受給中にエアコンが故障した場合の修理代や購入費用は、通常の保護費のやり繰りにより行われるべきもので、費用支給はすべきでないと読み取れる回答が示されています。
3. 既に住居内に1台以上エアコンがある場合
1台でもエアコンが稼働している場合、2台目の購入費用は支給対象外となります。
故障時の対応方法
エアコンが故障した場合の対応は限られていますが、以下の選択肢があります。
- 賃貸物件の場合:大家さんや管理会社に修理・交換を依頼
- 自治体の独自支援制度を確認(後述)
- 生活福祉資金貸付制度の利用(後述)
- 毎月の保護費から計画的に積み立て
エアコン購入費の申請手続き

申請の流れ
エアコン購入費の支給を受けるには、必ず申請が必要です。
自動的に支給されることはありません。
申請手順
- ケースワーカーへの相談
担当のケースワーカーに、エアコン購入の必要性と自身が支給条件に該当することを相談します。 - 必要書類の準備
- 本人確認書類
- 生活保護受給証明書
- 購入予定のエアコンの見積書
- その他、ケースワーカーから指示された書類
- 申請書類の提出
福祉事務所に必要書類を提出します。 - 審査
福祉事務所による審査が行われます。 - 支給決定後の購入
審査が通れば、指定された上限金額内でエアコンを購入・設置できます。
支給方法
エアコン購入費は原則として現物支給です。
ただし、現物支給が適切でないと認められた場合は現金で支給されることもあります。
エアコン購入費が支給されない場合の対処法

生活福祉資金貸付制度の活用
生活福祉資金貸付制度とは、全国社会福祉協議会が運営する低所得者世帯、障害者世帯、高齢者世帯を対象に、資金を貸し付ける制度のことをいいます。
通常、生活保護世帯はこの制度を利用できませんが、エアコンの購入に関しては利用が認められています。
生活福祉資金貸付制度のメリット
- 無利子または低利子での貸付
- 借りたお金は収入認定されない
- 返済計画に応じた柔軟な対応
申し込み方法はお住まいの市区町村の社会福祉協議会またはケースワーカーに相談してください。

自治体独自の支援制度
一部の自治体では、独自のエアコン購入支援制度を設けています。
例:墨田区の取り組み
墨田区では、生活保護受給世帯に対してエアコンの購入費用を支援するための特別な取り組みが行われています。区では特に、エアコンを1台も持っていないか、既存のエアコンが故障している世帯を対象にしており、2023年度にはその上限が100,000円に設定されました。
お住まいの自治体の福祉事務所に、独自の支援制度がないか確認してみることをおすすめします。
エアコン付き賃貸物件への転居
エアコン購入費の支給を受けられない場合、エアコン付き賃貸物件への転居も選択肢の一つです。
エアコン付き物件のメリット
- 入居後すぐにエアコンを使用できる
- 購入費用が不要
- 故障時は大家さんや管理会社が対応
- 設置費用もかからない
生活保護の住宅扶助の範囲内でエアコン付き物件を探すことも可能です。
エアコン使用時の注意点

電気代について
エアコンは便利な家電ですが、使用には電気代がかかります。

扇風機と比較すると、月々の電気代は10倍以上になることもあります。
電気代節約のポイント
- 設定温度を28度程度に保つ
- フィルターを定期的に清掃する
- 扇風機やサーキュレーターと併用する
- 直射日光を遮るカーテンやすだれを活用
- こまめなオン・オフは避け、つけっぱなしの方が省エネになる場合も
冬季加算はあるが夏季加算はない
生活保護では、最大で10月〜4月の7ヶ月の間は暖房費用として「冬季加算」が生活保護費に加算されます。

しかし、夏季加算は設立されていないため、暖房費は支給されるが冷房費は支給されないというのが現状です。
夏場のエアコン使用による電気代は、通常の生活扶助費から支払う必要があるため、計画的な使用が求められます。

熱中症予防の重要性
電気代を気にしすぎてエアコンの使用を控えると、熱中症のリスクが高まります。
特に高齢者は暑さを感じにくく、気づかないうちに熱中症になることがあります。
適切にエアコンを使用し、命を守ることが最優先です。
制度に関する課題と今後の展望

故障時の支給が認められない問題
熱中症の危険性と予防の注意喚起をする一方で、生活保護世帯のエアコンが故障した際のエアコン購入費用を別に支給することには否定的、という厚生労働省の通達があり、現場では対応に苦慮しているケースが報告されています。
故障時の買い替え費用は自己負担が原則となっているため、生活保護費から計画的に積み立てることが推奨されています。

しかし、最低限の生活費の中から高額なエアコン代を貯蓄することは現実的に困難な場合も多く、制度の見直しを求める声もあります。

自治体による柔軟な対応
一方で、大阪や東京など、自治体によっては生活保護世帯のエアコンの経年劣化による故障の場合も個別の事情に配慮した対応が多くなされてきましたという実態もあります。
お住まいの自治体がどのような運用をしているか、ケースワーカーに確認することが重要です。
まとめ:エアコンで命を守る

生活保護でエアコン購入費が支給されるかどうかは、以下の要点を押さえておきましょう。
支給される条件
- 保護開始時・転居時・災害時・犯罪被害時などにエアコンがない
- 世帯に熱中症予防が必要な方(高齢者・障害者・子ども等)がいる
- 上限は67,000円(自治体により異なる場合あり)
- 必ず申請が必要
支給されないケース
- 既にエアコンを所有している
- エアコンが故障した場合
- 住居内に既に1台以上エアコンがある
支給されない場合の対処法
- 生活福祉資金貸付制度の利用(無利子または低利子)
- 自治体独自の支援制度を確認
- エアコン付き賃貸物件への転居を検討
- ケースワーカーに個別事情を相談
近年の猛暑により、エアコンは贅沢品ではなく生命を守るための必需品となっています。
条件に該当する方は必ず申請し、該当しない場合も諦めずにケースワーカーや社会福祉協議会に相談してください。
何よりも大切なのは、あなたの健康と命です。適切にエアコンを活用し、暑い夏を安全に過ごしましょう。


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