生活保護を受給すると医療費はどうなるのか、不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、生活保護における医療費の仕組み「医療扶助」について、自己負担の有無、手続きの流れ、注意すべき点まで、わかりやすく解説します。
生活保護の医療費は原則無料|医療扶助制度とは

生活保護を受給すると、医療費は原則として自己負担ゼロになります。
これは「医療扶助」という制度により、診察料・入院費・手術費・薬代などが公費で負担されるためです。

医療扶助の基本的な仕組み
医療扶助は生活保護法に基づく8種類の扶助のひとつで、経済的理由で医療を受けられない事態を防ぐために設けられています。
医療機関で「医療券」を提示することで、窓口での支払いをせずに診療を受けられる仕組みです。

生活保護受給者は国民健康保険から除外されるため、保険適用の範囲内であれば医療扶助が医療費の全額をカバーします。
生活保護費全体の約5割を医療扶助が占めており、受給者の健康を支える重要な制度といえます。
なぜ医療費が無料なのか
生活保護法は「健康で文化的な最低限度の生活」を保障することを目的としています。
毎月支給される生活費(生活扶助)は最低限度の金額で算定されており、医療費まで含まれていません。

そのため、医療費を別途保障する医療扶助制度が必要なのです。
医療扶助の対象範囲|どこまで無料になる?

医療扶助でカバーされる費用
医療扶助の給付対象は以下の通りです。
- 診察・検査費用
- 薬剤・治療材料費
- 医学的処置・手術・施術費
- 居宅療養管理費
- 入院費用(入院時の食費を含む)
- 通院移送費(経済的・合理的な経路の交通費)
がん治療における摘出手術や抗がん剤治療なども医療扶助の対象です。

また、通院のための交通費も、必要最低限の通院回数で経済的に合理的な経路・交通手段を使った場合には移送費として支給されます。
医療扶助の対象外となるケース
すべての医療行為が無料になるわけではありません。
以下は医療扶助の対象外です。
- 自由診療:保険適用外の治療
- 美容整形:健康維持に直接関係しない施術
- 健康診断:予防的な検査
- 差額ベッド代:個室利用などの追加費用
- 歯科材料の制限:金位14カラット以上の金合金使用は認められない
指定医療機関以外での受診も原則として対象外となるため注意が必要です。

医療扶助の申請手続き|医療券の発行方法

申請から受診までの流れ
医療扶助を受けるには、事前の申請が必要です。
以下の手順で進めましょう。
- 福祉事務所への相談 受診を希望する旨をケースワーカーに伝えます。
- 医療券の発行 福祉事務所が申請内容を審査し、医療扶助が必要と認められると「医療券」が発行されます。
- 指定医療機関での受診 医療券を持参し、指定医療機関を受診します。窓口で医療券を提示すれば、自己負担なしで診療を受けられます。
緊急時の対応
夜間・休日など福祉事務所が閉庁している時間帯に急病になった場合は、あらかじめ交付されている「生活保護受給者証」を医療機関に提示して受診できます。

この場合、後日速やかにケースワーカーに連絡し、医療券の発行手続きを行う必要があります。

継続受診の場合
医療が2ヶ月以上継続して必要な場合は、福祉事務所から翌月の医療の必要性を確認して医療券が自動的に発行されるため、改めて医療券を発行してもらう必要はありません。
長期間(大体1~2ヶ月程度)通院しなかった場合は、医療券が切れるため、再度ケースワーカーに相談して医療券を発行してもらう必要があります。
指定医療機関制度について

指定医療機関とは
医療扶助を利用できるのは、生活保護法による指定を受けた医療機関に限られます。
ほとんどの医療機関は指定を受けていますが、わずかながら指定を受けていない施設もあるため、受診前に確認が必要です。
指定医療機関では、国民健康保険の診療方針と診療報酬の例に基づいて診療が行われます。
ただし、生活保護として適当でないとされる診療には制限があります。
指定外医療機関を受診した場合
指定外の医療機関を受診すると、医療扶助が適用されず全額自己負担となる可能性があります。
転院や紹介状が必要な場合は、自己判断で病院を変えず、必ずケースワーカーに相談しましょう。
他の制度との併用について

社会保険との関係
会社員などが加入している社会保険は併用可能です。
この場合、社会保険からの給付を優先的に受け、自己負担分のみが医療扶助の対象となります。

自立支援医療や障害者医療との併用
障害者総合支援法による自立支援医療など、他の公費負担医療制度が適用される場合は、その制度を優先的に利用します。
他制度適用後の自己負担額がある場合、その部分を医療扶助がカバーする仕組みです。
難病医療や自立支援医療の公費では、生活保護世帯の利用者は自己負担上限額が0円と定められているケースが多く、全額が他公費でカバーされる場合もあります。
高額療養費制度との関係
医療扶助は受給者が医療費を直接支払わない仕組みであるため、自己負担を前提とする高額療養費制度とは原則として併用されません。
ただし、特定の条件によっては自治体が両制度を調整する場合もあるため、詳細は福祉事務所に相談してください。
医療扶助利用時の注意点とルール

守るべき基本ルール
医療扶助を適切に利用するため、以下のルールを守りましょう。
- 医療券の有効期限確認:受診前に必ず福祉事務所で最新の医療券を取得する
- 事前申請の原則:緊急時を除き、受診前にケースワーカーへ相談する
- 指定医療機関の利用:指定外の医療機関では医療扶助が適用されない
- 予約の厳守:無断キャンセルや治療の中断が続くと制度利用の見直しにつながる
後発医薬品(ジェネリック)の使用
医療扶助では、後発医薬品の使用が促進されています。
ただし、一般の人に義務付けられていないものを生活保護受給者だけに義務付けることはできないとされており、強制ではありません。
医師の判断により、必要に応じて先発医薬品の処方も可能です。
頻回受診への対応
医療扶助は全額公費負担のため、必要以上の通院が発生しやすいとの指摘があります。
同一傷病について同一月内に同一診療科を15日以上受診する月が3ヶ月以上継続している場合などは、福祉事務所から受診状況の確認や指導が行われることがあります。
適切な医療を受けることは権利ですが、過度な受診は医療資源の適正利用の観点から控える必要があります。
医療扶助に関する統計データと現状

医療扶助費の規模
令和4年度の生活保護費負担金は約3.7兆円で、そのうち医療扶助費は生活保護費全体の約5割を占めています。
医療扶助費の約3分の2は65歳以上の高齢者に対する給付であり、受給者の高齢化とともに医療扶助費も増加傾向にあります。
制度の適正化に向けた取り組み
医療扶助費の増加に対応するため、以下のような適正化対策が進められています。
- 電子レセプトシステムを活用したレセプト点検の強化
- マイナンバーカードによるオンライン資格確認の導入(令和3年度から順次)
- 後発医薬品の使用促進
- 頻回受診者への指導・相談
これらの取り組みにより、近年では医療扶助費の伸びが医療費全体の伸びを下回る傾向がみられています。
医療扶助単給について

医療扶助単給とは
生活保護受給者の中には、「医療扶助単給」といって医療費のみを扶助される方もいます。
これは収入が最低生活費を上回っているものの、医療費が不足するケースに適用されます。
医療扶助単給の場合、生活費は足りているが医療費が負担できないという状況であるため、本来の医療費から生活費を超過する額を差し引いた分が生活保護から給付されます。
よくある質問と回答

Q1:生活保護を受けたら必ず医療費は無料になりますか?
A:原則として無料ですが、指定医療機関以外での受診や、美容整形などの保険適用外の医療行為は自己負担となります。事前に医療券を発行し、正しい手順で受診すれば自己負担は発生しません。
Q2:かかりつけ医が指定医療機関でない場合はどうすればいい?
A:生活保護受給後は、指定医療機関での受診が原則となります。ケースワーカーに相談し、近隣の指定医療機関を紹介してもらいましょう。ほとんどの医療機関は指定を受けているため、同等の医療を受けられる施設が見つかるはずです。
Q3:医療扶助費の一部自己負担導入の議論はどうなっていますか?
A:財務省から医療扶助の一部自己負担導入が論点として挙げられたことがありますが、厚生労働省は「受診抑制につながる可能性があり、より慎重な検討が必要」との見解を示しています。現時点では自己負担は導入されていません。
まとめ:医療扶助制度を正しく理解して活用しよう

生活保護における医療扶助制度は、経済的困窮状態にある方が必要な医療を受けられるよう保障する重要な仕組みです。
以下のポイントを押さえておきましょう。
- 医療扶助により医療費は原則として自己負担ゼロ
- 事前に福祉事務所で医療券を発行してもらう必要がある
- 指定医療機関でのみ医療扶助が適用される
- 保険適用外の医療や美容整形などは対象外
- 他の医療制度がある場合は優先適用される
医療費の心配なく治療に専念できる環境は、健康回復と生活再建の基盤となります。
制度を正しく理解し、ルールを守って適切に利用することで、安心して医療を受けることができます。
受診方法や手続きについて不明な点がある場合は、遠慮なく担当のケースワーカーに相談してください。
生活保護制度は最後のセーフティネットとして、あなたの健康と生活を支えるために存在しています。

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