生活保護を受給している方、またはこれから申請を検討している方にとって、「医療費はどうなるのか」は重要な関心事です。
「医療費は本当に無料なのか」「自己負担は発生するのか」「どんな医療が受けられるのか」といった疑問を持つ方は多いでしょう。
本記事では、生活保護における医療費の扱い、医療扶助の仕組み、自己負担の有無、受診方法、注意点まで、知っておくべき情報を法律に基づいて詳しく解説します。

生活保護における医療費の基本

医療扶助とは
生活保護制度における医療費の支援は「医療扶助」と呼ばれます。医療扶助は、生活保護の8つの扶助の一つで、生活保護費全体の約半分を占める重要な制度です。
生活保護の8つの扶助
- 生活扶助(日常生活費)
- 住宅扶助(家賃)
- 教育扶助(子どもの教育費)
- 医療扶助(医療費)
- 介護扶助(介護サービス費)
- 出産扶助(出産費用)
- 生業扶助(就労支援費)
- 葬祭扶助(葬儀費用)


医療費の自己負担は原則ゼロ
結論:生活保護受給者の医療費自己負担は原則として発生しません
生活保護法第15条により、医療扶助は「現物給付」として提供されます。これは、受給者が医療機関を受診した際、窓口で支払いを行う必要がないということです。

具体的にカバーされる費用
- 診察料
- 検査費用
- 薬代(処方薬)
- 入院費用
- 手術費用
- リハビリテーション費用
- 歯科治療費
- 訪問看護費用
これらすべてが医療扶助の対象となり、受給者の自己負担はありません。

医療扶助の法的根拠
生活保護法第15条(医療扶助の方法)では、以下のように定められています。
「医療扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、左に掲げる事項の範囲内において行われる。 一 診察 二 薬剤又は治療材料 三 医学的処置、手術及びその他の治療並びに施術 四 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護 五 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護 六 移送」
医療扶助の対象範囲

対象となる医療サービス
医療扶助でカバーされる医療サービスは、基本的に健康保険と同等の範囲です。
外来診療
- 内科、外科、小児科などの一般診療
- 専門科(耳鼻咽喉科、眼科、皮膚科など)
- 精神科・心療内科
- 歯科(虫歯治療、歯周病治療、抜歯など)
入院治療
- 一般病棟への入院
- 精神科病棟への入院
- 療養病棟への入院
- 食事療養費(入院中の食事)
検査・処置
- 血液検査、尿検査、画像検査(X線、CT、MRIなど)
- 内視鏡検査
- 心電図検査
- 各種医学的処置
薬剤
- 処方箋による医薬品
- 院内処方の薬剤
- ジェネリック医薬品(後発医薬品)が基本
その他
- 訪問診療
- 訪問看護
- リハビリテーション
- 在宅酸素療法
- 人工透析
対象外となる医療・費用
一方、以下のような医療や費用は医療扶助の対象外となります。
美容目的の医療
- 美容整形
- 審美歯科(ホワイトニング、セラミック治療など)
- 脱毛
- 美容目的のレーザー治療
予防医療の一部
- 健康診断(人間ドック)※自治体の実施する検診は別途対応
- 予防接種(一部を除く)
- がん検診(自治体実施のものを除く)
保険適用外の治療
- 先進医療
- 自由診療
- 差額ベッド代(個室料金)※医師の指示による場合を除く
- 選定療養費(紹介状なしで大病院を受診した場合など)
その他
- 市販薬(OTC医薬品)
- 健康食品・サプリメント
- 交通費(通院のための交通費は別途移送費として申請可能な場合あり)
- 診断書作成料
- 文書料
重要な注意点 ただし、これらも医学的必要性が認められる場合は、例外的に認められることがあります。必要性があると考える場合は、ケースワーカーに相談しましょう。


医療機関の受診方法

医療券(医療扶助券)の仕組み
生活保護受給者が医療機関を受診する際は、「医療券」(正式には医療扶助券)が必要です。
医療券とは福祉事務所が発行する、医療扶助を受けるための証明書です。これにより、医療機関は受給者の医療費を福祉事務所に請求できます。

医療券の取得方法
急病以外の場合
- 福祉事務所またはケースワーカーに連絡
- 受診したい医療機関名
- 診療科
- 受診理由 を伝える
- 医療券の発行
- 福祉事務所が医療券を発行
- 郵送または窓口受取
- 医療機関での提示
- 受診時に医療券を提示
- 保険証は不要
急病・緊急時の場合
急病や緊急の場合は、以下の対応が認められています。
- まず受診
- 医療券がなくても受診可能
- 受付で「生活保護受給者」であることを伝える
- 事後報告
- 受診後速やかに福祉事務所に連絡
- 医療券の発行を依頼
- 医療機関との調整
- 福祉事務所と医療機関が直接調整
- 後日医療券が届く
重要 緊急時でも、可能な限り早く福祉事務所に連絡することが重要です。連絡が遅れると、自己負担を求められる可能性があります。

指定医療機関での受診
医療扶助による受診は、原則として「指定医療機関」で行う必要があります。
指定医療機関とは 生活保護法第49条に基づき、都道府県知事が指定した医療機関です。
確認方法
- 福祉事務所に問い合わせる
- 医療機関の窓口で確認する
- 多くの病院・診療所は指定を受けている
指定外医療機関を受診した場合 原則として医療扶助の対象外となり、全額自己負担となる可能性があります。ただし、以下の場合は例外的に認められることがあります。
- 緊急時
- 近隣に指定医療機関がない
- 特定の専門治療が必要

かかりつけ医の制度
医療扶助では、基本的に「かかりつけ医」を決めることが推奨されています。
メリット
- 継続的な健康管理
- 医療券の取得がスムーズ
- 必要に応じた専門医への紹介
かかりつけ医を変更する場合は、ケースワーカーに相談し、正当な理由を説明する必要があります。
自己負担が発生するケース

原則として自己負担はありませんが、以下のような場合は例外的に負担が発生することがあります。
1. 医療券なしでの受診
医療券を取得せずに受診した場合(緊急時を除く)、自己負担を求められる可能性があります。
対処法
- 必ず事前に医療券を取得する
- やむを得ない場合は、受診後すぐに福祉事務所に連絡
2. 指定外医療機関での受診
指定を受けていない医療機関を、正当な理由なく受診した場合。
対処法
- 事前に指定医療機関かどうか確認
- 不明な場合は福祉事務所に問い合わせ
3. 医療扶助対象外の医療
前述の美容目的の治療など、医療扶助の対象外となる医療を受けた場合。
対処法
- 治療を受ける前にケースワーカーに相談
- 医学的必要性を説明できるよう準備
4. 不正受診
医療扶助制度を不正に利用した場合(転売目的での薬の受取など)。
結果
- 医療扶助の停止
- 返還請求
- 刑事告発の可能性
5. 差額ベッド代(特別療養環境室料)
個室や少人数部屋を希望した場合の差額ベッド代は、原則自己負担です。
例外 以下の場合は医療扶助で認められることがあります。
- 医師が医学的必要性を認めた場合
- 感染症隔離が必要な場合
- 他に空きベッドがない場合
金額の目安
- 個室:1日5,000円~20,000円程度
- 2人部屋:1日2,000円~10,000円程度

6. 市販薬の購入
ドラッグストアで購入する市販薬(OTC医薬品)は自己負担です。
対処法
- 軽い症状でも医療機関を受診
- 処方薬として受け取る
7. 文書料・診断書作成料
診断書や証明書の作成費用は、原則自己負担です。
金額の目安
- 診断書:3,000円~10,000円
- 各種証明書:1,000円~5,000円
例外 生活保護の申請や継続に必要な診断書は、別途支給される場合があります。ケースワーカーに相談しましょう。
歯科治療の特例

歯科治療の基本
虫歯治療や歯周病治療など、保険適用の歯科治療は医療扶助の対象です。
対象となる治療
- 虫歯の治療
- 歯周病治療
- 抜歯
- 根管治療
- 保険適用の詰め物・被せ物
- 入れ歯(義歯)
- 歯石除去
審美歯科の扱い
美容目的の歯科治療は対象外です。
対象外の例
- ホワイトニング
- セラミックの被せ物(保険適用外のもの)
- 矯正治療(美容目的)
- インプラント
例外 咬合機能の回復に必要と医師が判断した場合、一部認められることがあります。
入れ歯の制作
入れ歯(義歯)は医療扶助の対象ですが、材質は保険適用の範囲内となります。
保険適用の義歯
- プラスチック(レジン)床
- 部分入れ歯(金属床は一部のみ)
保険適用外の義歯
- 金属床総義歯(チタン、コバルトクロムなど)
- ノンクラスプデンチャー
- マグネット義歯
薬の処方と受け取り

ジェネリック医薬品の使用
医療扶助では、ジェネリック医薬品(後発医薬品)の使用が原則となっています。
ジェネリック医薬品とは先発医薬品の特許が切れた後に製造される、同等の効果を持つ安価な医薬品です。
先発医薬品との違い
- 有効成分は同じ
- 効果・安全性は同等
- 価格は約3~7割程度
先発医薬品の処方が認められる場合
- ジェネリック医薬品が存在しない
- 医師が医学的必要性を認めた場合
- アレルギーなど個別の事情がある場合
院外処方と院内処方
院外処方
- 処方箋を薬局に持参
- 指定薬局で調剤を受ける
- 医療券とは別に「調剤券」が必要な場合も
院内処方
- 医療機関で直接薬を受け取る
- 医療券のみで対応
薬の転売は犯罪
医療扶助で処方された薬を転売する行為は、以下の罪に問われる可能性があります。
- 詐欺罪
- 生活保護法違反
- 医薬品医療機器等法違反
結果
- 生活保護の停止・廃止
- 刑事告発
- 返還請求

入院時の取り扱い

入院費用
入院に関する以下の費用はすべて医療扶助でカバーされます。
- 入院基本料
- 治療費
- 検査費
- 手術費
- リハビリ費
- 食事療養費(入院中の食事)
- 投薬費
入院中の日用品
入院中に必要な日用品の扱いは以下の通りです。
医療扶助の対象
- 病衣(入院着)※病院が提供する場合
- 基本的な医療用品
生活扶助から支出
- 私物の衣類
- 洗面用具
- タオル類
- テレビカード
自己負担
- 個室の希望による差額ベッド代
- 新聞代
- 個人的な嗜好品
入院と生活扶助の関係
入院期間が長期にわたる場合、生活扶助の支給額が減額されることがあります。

理由 入院中は食費や光熱費が不要となるため、在宅時と同額を支給する必要がないという考え方です。
特に単身世帯の場合、入院期間が1ヶ月を超えると、大幅に減額されてしまうため、注意が必要です。

医療扶助を適切に利用するための注意点

1. 重複受診を避ける
同じ症状で複数の医療機関を受診する「重複受診」は避けましょう。
理由
- 医療費の無駄
- 薬の重複処方による健康リスク
- 医療扶助の適正化の観点から問題視される
2. 頻回受診に注意
必要以上に頻繁な受診も問題となることがあります。
適正な受診
- 医師の指示に従った受診間隔
- 症状に応じた適切な受診頻度
3. ケースワーカーとの情報共有
受診状況はケースワーカーと共有しましょう。
報告すべき事項
- 新たな医療機関への受診
- 長期入院
- 高額な治療の必要性
4. 健康管理の意識
医療費が無料だからといって、健康管理を怠らないようにしましょう。
予防の重要性
- 規則正しい生活
- 適度な運動
- バランスの良い食事
- 定期的な健診(自治体実施のもの)
よくある質問

Q: 病院に行くたびに医療券が必要ですか?
A: 基本的に必要です。ただし、継続的な通院の場合、一定期間有効な医療券が発行されることもあります。

Q: 複数の病院にかかる場合はどうなりますか?
A: それぞれの医療機関ごとに医療券が必要です。ケースワーカーにすべての受診先を報告しましょう。
Q: セカンドオピニオンを受けたい場合は?
A: 原則セカンドオピニオンはできません。ただし、ケースワーカーに相談し、理由を説明すれば、セカンドオピニオンのための医療券も発行されます。
Q: 救急車で運ばれた場合はどうなりますか?
A: まず治療を受け、後日福祉事務所に連絡してください。事後的に医療券が発行されます。
Q: 通院のための交通費は出ますか?
A: 公共交通機関を利用した場合の交通費は、「移送費」として別途申請できる場合があります。ケースワーカーに相談してください。
Q: 整骨院・接骨院の治療は受けられますか?
A: 整骨院・接骨院の目的は治療ではなく、痛みの緩和のため、原則受けることはできません。ただし、医師の同意がある場合、指定を受けた整骨院・接骨院への通院は医療扶助の対象となります。
Q: コンタクトレンズや眼鏡は無料ですか?
A: 治療用眼鏡(弱視矯正など)は認められることがありますが、一般的な視力矯正用眼鏡・コンタクトレンズは対象外です。ただし、自治体により一部助成がある場合もあります。


まとめ

生活保護における医療費の自己負担について、重要なポイントをまとめます。
医療費自己負担の原則
- 生活保護受給者の医療費自己負担は原則ゼロ
- 診察、検査、薬代、入院費用などすべてカバー
- 医療券を提示すれば窓口での支払い不要
自己負担が発生する可能性があるケース
- 医療券なしでの受診(緊急時を除く)
- 指定外医療機関での受診
- 美容目的などの対象外医療
- 差額ベッド代の希望
- 市販薬の購入
- 診断書作成料
適切な利用のために
- 必ず医療券を取得する
- 指定医療機関を受診する
- ケースワーカーと情報共有する
- 不明点は遠慮なく相談する
- 健康管理に努める
最後に
医療扶助は、生活保護受給者の健康を守る重要な制度です。制度を正しく理解し、適切に利用することで、安心して医療を受けることができます。

