生活保護行政の現場では、ケースワーカー1人が担当する件数は本来「約80件」が適正とされています。
しかし、近年は自治体の人員削減や生活保護申請の増加によって、この数字を大きく超えるケースが当たり前になりつつあります。
実際には、100件以上を抱えるケースワーカーも少なくありません。
担当件数が増えるほど、相談支援・就労支援・医療や福祉機関との連携・死亡や事故の対応など、多岐にわたる業務に追われ、十分な支援が困難になっていきます。
「ケースワーカーは激務」「メンタルを壊す人が多い」といった声が聞かれるのも、決して大げさではありません。
この記事では、
・ケースワーカーの適正な持ち件数とは何か
・なぜ現場は100件以上を抱えるようになったのか
・業務量の実態や必要な専門知識
・今後起こりうる制度崩壊のリスク
について、元ケースワーカーの視点から詳しく解説していきます。
生活保護制度を正しく理解したい方から、ケースワーカーの実態を知りたい方まで、ぜひ参考にしてください。
ケースワーカーの持ち件数は「80件」が理想と言われる理由

生活保護行政の現場では、ケースワーカー1人が担当する件数は本来は約80件(80世帯・人数にすると140人前後)が望ましいと言われています。
これがケースワーカーが利用者一人ひとりに適切な支援を行うための、現実的で安全なラインと考えられているからです。
しかし現実は大きく異なります。
近年、自治体では公務員の人員削減が進む一方、生活保護申請者は増加傾向にあり、ケースワーカー1人あたりの持ち件数は年々増え続けています。
100件を超えるとベテランでも困難。理由は「業務量の多さ」

現場では、担当件数が100件を超えるとベテランのケースワーカーでも対応が非常に厳しいと言われます。
その理由は単純で、ケースワークの仕事量が膨大かつ高度だからです。
生活保護のケースワーカーは、単なる事務職ではありません。福祉・医療・法律・心理・労働支援といった幅広い分野の専門性を求められる「総合職」であり、業務の多さは想像以上です。
以下では、日常的に発生する業務を分解してみます。
毎月の支給額の決定
生活保護費は自動的に決まるわけではなく、収入や状態に応じてその都度、適切な支給額を判断します。

全世帯分を月ごとにチェックするだけでも相当な負担です。
■新規申請の調査
新規申請は年々増加しており、各種調査を行い生活状況・収入・資産などを確認する必要があります。
既存ケースの業務に加えて発生するため、常に過密状態になります。
■就労支援という「職業カウンセラー」の役割
生活保護受給者の多くは就労支援が必要です。

ケースワーカーはその相談に乗り、職業カウンセラーのように就労の方向性を一緒に考え、ハローワークや支援機関と連携して働く準備を整えていきます。
■死亡・事故・事件への対応
受給者が亡くなった場合の事務手続き、事件・事故が起きた際の事情聴取など、突発的な対応も日常的に発生します。
■心理的支援(心理カウンセラーのような役割)
生活困窮による孤独や精神疾患を抱える方も多く、相談の内容は多岐にわたります。
ケースワーカーは、時に心理カウンセラーのような立場で向き合う必要があります。
■DV・虐待などの緊急案件
DV、育児放棄、家族トラブルなど、命に関わるケースも少なくありません。
関係機関と密に連携し、安全確保を最優先に動く必要があります。
■市民・医療機関からのクレーム対応
生活保護に対する誤解や偏見は根強く、窓口には市民からの意見・苦情が入り、医療機関からの問い合わせも多く、これもケースワーカーが対応します。
これらは決して「特別な業務」ではなく、日常的に発生している業務です。
さらに特殊な事案や緊急対応も存在し、業務の幅と量は想像を超えています。
必要な知識は法律・社会保障・医療など多岐にわたる

ケースワーカーが扱う制度は生活保護法だけではありません。
生活保護は「他法他施策優先」であるため、関連制度を正しく理解しておかないと、支援が適切に行えないのです。
必要となる知識の例
- 生活保護法
- 年金制度(老齢・障害・遺族)
- 介護保険制度
- 障害福祉サービス
- 社会保険・国民健康保険
- 雇用保険や労働関連制度
これらの制度を理解し、ケースに応じて適切に使い分ける必要があります。
さらに加えると、医療、心理、福祉、法律、労働といった幅広い領域の基礎知識も求められます。
まさに「スーパー公務員」といっても過言ではありません。
精神を病むケースワーカーも増加…現場は限界に近い

このような過密な業務量により、ケースワーカーの負担は限界を迎えています。
うつ病などの精神疾患を発症して休職・退職するケースは非常に多いのが現状です。
人員が減ってさらに業務が圧迫され、残った職員にしわ寄せが集中する悪循環に陥っています。
1人120件を担当する未来も?不正受給が増えるリスクも

今後、さらに人員削減が進み、生活保護受給者が増加すれば、ケースワーカー1人あたり120件を担当する時代が来るかもしれません。
しかし、そのような状態では、1件1件を十分に確認することは不可能です。
- きめ細かな支援ができない
- 生活改善のための相談に十分時間が取れない
- 不正受給を見抜けなくなる
- 緊急案件に即応できない
このような問題が確実に増えていきます。
不正受給が増えれば、市民からの生活保護制度への信頼も揺らぎます。
制度を維持するためにも、ケースワーカーの業務体制の見直しは急務です。

まとめ:ケースワーカーの負担軽減は生活保護制度の維持に不可欠

生活保護制度は社会を支える重要なセーフティネットです。
しかし、その最前線で働くケースワーカーの負担は年々増加しており、現場は限界に近づいています。
- 持ち件数の増加
- 業務の高度化
- 精神的負担の増大
- 制度維持への影響
これらの問題を放置すれば、生活保護制度自体の信頼が揺らぎます。
制度を守るためには、まず現場で働くケースワーカーを守ることが必要です。
そのためにも、適切な人員配置と業務改善が強く求められています。

