「生活保護を受けると選挙権を失うのでは?」「生活保護受給者は投票できないと聞いた」このような不安や誤解を持っている方がいらっしゃいます。
結論から申し上げると、生活保護受給者でも選挙権は完全に保障されており、何の制限もなく投票できます。
これは日本国憲法で保障された基本的人権であり、生活保護を受けているかどうかは一切関係ありません。
しかし、インターネット上には「生活保護を受けると選挙権がなくなる」といった誤った情報が散見されます。
また、実際に投票所での手続きや、住民票のない方の投票方法について不安を感じている受給者の方もいらっしゃるでしょう。
本記事では、生活保護受給者の選挙権について、法的根拠から実際の投票方法、よくある誤解まで、正確な情報を網羅的に解説します。
生活保護受給者の選挙権は完全に保障されている

憲法で保障された基本的人権
日本国憲法第15条第1項では、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と定められています。さらに同条第3項では「公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する」と明記されています。
この「普通選挙」とは、財産や収入の有無に関わらず、すべての成年者に選挙権を認めるという原則です。つまり、生活保護を受けているかどうかは、選挙権とは全く無関係なのです。
公職選挙法における選挙権の要件
公職選挙法第9条では、選挙権を持つ者の要件を以下のように定めています。
国政選挙(衆議院・参議院)の選挙権
- 日本国民であること
- 満18歳以上であること
地方選挙(都道府県・市区町村)の選挙権
- 日本国民であること
- 満18歳以上であること
- 引き続き3か月以上その市区町村に住所があること
ご覧の通り、生活保護受給の有無は一切要件に含まれていません。
生活保護法にも選挙権の制限規定はない
生活保護法のどの条文を見ても、受給者の選挙権を制限する規定は存在しません。生活保護は憲法第25条で保障された「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を具体化した制度であり、他の基本的人権を制限するものではないのです。
選挙権が制限される唯一のケース

それでは、なぜ「生活保護を受けると選挙権がなくなる」という誤解が生まれたのでしょうか。ここで、選挙権が制限される実際のケースについて正確に理解しておきましょう。
公職選挙法第11条による選挙権の喪失
公職選挙法第11条では、以下の者は選挙権および被選挙権を有しないと定められています。
- 禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者
- 禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く)
- 公職にある間に犯した一定の罪により刑に処せられた者
- 選挙に関する犯罪で禁錮以上の刑に処せられた者(一定期間)
つまり、選挙権を失うのは特定の犯罪で有罪判決を受けた場合のみです。生活保護の受給とは全く関係がありません。
成年被後見人の選挙権は回復
かつては成年被後見人(認知症などで判断能力が不十分として後見人がついた方)は選挙権を持たないとされていましたが、2013年の公職選挙法改正により、成年被後見人にも選挙権が認められるようになりました。
これは、障害の有無や判断能力に関わらず、すべての国民に選挙権を保障するという憲法の理念を実現したものです。
生活保護受給者が実際に投票する方法

選挙権があることと、実際に投票できることは別の問題です。ここでは、生活保護受給者が投票する際の具体的な手続きについて解説します。
通常の投票方法
生活保護受給者であっても、投票の手続きは一般の有権者と全く同じです。
投票当日の流れ
- 選挙の約1週間前に「投票所入場券」が郵送で届く
- 投票日に投票所入場券と身分証明書を持参
- 投票所で受付を済ませる
- 投票用紙を受け取り、記載台で候補者名等を記入
- 投票箱に投票用紙を投函
必要な持ち物
- 投票所入場券(なくても投票可能)
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード、健康保険証など)
生活保護受給者であることを証明する必要は一切ありません。
期日前投票の利用
投票日に都合が悪い場合、期日前投票を利用できます。
期日前投票の条件:選挙期日(投票日当日)に以下のいずれかの理由で投票できない見込みの方。
- 仕事や用務がある
- 旅行や滞在の予定がある
- 病気やケガ
- 冠婚葬祭への出席
- その他やむを得ない用務
手続き
- 市区町村の期日前投票所に行く(公示日・告示日の翌日から投票日前日まで)
- 「期日前投票宣誓書」に記入(投票所入場券裏面にある場合も)
- 本人確認の上、投票
生活保護受給者の方で通院日がある、ケースワーカーとの面談があるなどの理由でも期日前投票は利用できます。
不在者投票制度の活用
病院や施設に入院・入所している方、仕事や旅行などで選挙期間中に名簿登録地以外の市区町村に滞在している方は、不在者投票制度を利用できます。
指定施設での不在者投票:都道府県選挙管理委員会が指定した病院、老人ホーム、障害者支援施設などでは、施設内で不在者投票ができます。多くの生活保護受給者が入所する以下の施設が指定されています。
- 救護施設
- 更生施設
- 医療機関
- 特別養護老人ホーム
- 障害者支援施設
施設の職員に「不在者投票をしたい」と申し出れば、手続きを案内してもらえます。


滞在先での不在者投票 出張や旅行などで一時的に他の市区町村に滞在している場合
- 名簿登録地の選挙管理委員会に投票用紙等を請求
- 送られてきた投票用紙等を持って滞在先の選挙管理委員会へ
- 滞在先の選挙管理委員会で投票
郵便等による不在者投票
身体に重度の障害がある方は、自宅で投票用紙に記入し、郵便で投票できます。
対象となる方:以下の障害がある方で、所定の要件を満たす場合
- 身体障害者手帳の障害の程度が一定以上
- 戦傷病者手帳の障害の程度が一定以上
- 介護保険の要介護状態区分が要介護5
事前に「郵便等投票証明書」の交付を受ける必要があります。市区町村の選挙管理委員会に問い合わせてください。
住所不定者・ホームレス状態の方の選挙権

生活保護受給者の中には、住民票がない、または住所不定の状態にある方もいらっしゃいます。このような場合の選挙権について説明します。
住民票がなくても選挙権は失わない
選挙権そのものは憲法で保障された権利であり、住民票の有無で失われることはありません。ただし、実際に投票するには選挙人名簿に登録される必要があります。
選挙人名簿への登録要件
選挙人名簿に登録されるには、以下の要件を満たす必要があります:
- その市区町村に住民票があること
- 住民票が作成された日(転入届をした日)から引き続き3か月以上住民基本台帳に記録されていること
- 満18歳以上であること
住民票がない場合の対処法
路上生活などで住民票がない方が投票するには、まず住民票を作成する必要があります。
住所がなくても住民登録は可能:2012年の住民基本台帳法の改正により、一定の場所に起居していれば、その場所を住所として住民登録できるようになりました。
具体的には
- 公園や河川敷で寝泊まりしている場合:その場所の所在地
- ネットカフェ等を転々としている場合:日中の大半を過ごす場所
- 支援団体の施設を利用している場合:その施設の所在地
市区町村の窓口に相談すれば、住民登録の手続きについて案内してもらえます。
住所を定めて生活保護を受ければ投票可能
生活保護の申請をする際、多くの場合、福祉事務所が住居確保の支援を行います。アパート等に入居して住民票を移せば、3か月後には選挙権を行使できるようになります。

選挙権に関するよくある誤解と真実

インターネット上には、生活保護と選挙権に関する様々な誤った情報が流れています。ここで、代表的な誤解を解いておきましょう。
誤解1:「税金を払っていないから投票できない」
真実:納税の有無は選挙権と無関係
「納税者でないと選挙権がない」という考えは、かつての「制限選挙」の時代の名残です。しかし、現代の日本は「普通選挙」制度であり、収入や納税額に関わらず、すべての成年国民に選挙権があります。
また、生活保護受給者も消費税は支払っています。所得税や住民税が免除されていても、買い物をすれば消費税を負担しているのです。

誤解2:「生活保護を受けると公民権が停止される」
真実:公民権の停止は犯罪に対する刑罰のみ
公民権(選挙権や被選挙権)が停止されるのは、特定の犯罪で有罪判決を受けた場合のみです。生活保護の受給は犯罪ではなく、憲法で保障された権利の行使ですから、公民権とは全く関係ありません。

誤解3:「生活保護受給者が投票すると不正になる」
真実:受給者の投票は正当な権利行使
生活保護受給者が投票することは、憲法で保障された権利を行使しているだけであり、何の不正でもありません。むしろ、社会的に困難な状況にある方々の声を政治に反映させるために、投票は重要な手段です。
誤解4:「生活保護受給者は特定の政党に投票しなければならない」
真実:投票は完全に自由
どの政党や候補者に投票するかは、各個人の自由な判断です。生活保護受給者だからといって、特定の政党や候補者に投票する義務は一切ありません。ケースワーカーから投票を指示されることもありません。
投票内容は秘密投票の原則により完全に保護されており、誰に投票したかを他人に知られることはありません。
誤解5:「投票所で生活保護受給者だとバレる」
真実:受給状況は投票所では一切わからない
投票所では、選挙人名簿と本人確認書類を照合するだけです。生活保護を受けているかどうかの情報は、選挙管理委員会には一切伝わりません。
本人確認書類として健康保険証を提示しても、それが生活保護の医療券なのか一般の保険証なのかを、投票立会人や事務員が詳しくチェックすることはありません。
投票しない場合のペナルティはあるのか

選挙権があっても、投票するかどうかは個人の自由です。
日本では投票は義務ではない
日本の法律では、選挙権は「権利」であって「義務」ではありません。したがって、投票しなくても何のペナルティもありません。
一部の国(オーストラリア、ベルギー、ブラジルなど)では投票が法的義務とされ、正当な理由なく投票しないと罰金等の制裁がありますが、日本ではそのような制度はありません。
生活保護受給への影響はゼロ
生活保護受給者が選挙で投票しなかったからといって、以下のような不利益を受けることは絶対にありません。
- 生活保護費が減額される
- 保護が停止される
- ケースワーカーから叱責される
- 就労指導が厳しくなる
投票の有無は、生活保護の支給判定や処遇とは完全に独立した事柄です。
それでも投票を推奨する理由
法的義務ではありませんが、投票には以下のような意義があります。
1. 自分の生活に影響する政策を選べる 生活保護制度、医療制度、住宅政策など、受給者の生活に直接関わる政策を決めるのは政治家です。投票によって、自分の考えに近い政策を掲げる候補者を選ぶことができます。
2. 社会的弱者の声を届けられる 投票率が高い層の意見は政治に反映されやすく、投票率が低い層の意見は軽視されがちです。生活保護受給者が投票することで、困難な状況にある人々の声を政治に届けることができます。
3. 民主主義社会の一員としての参加 選挙は、すべての国民が平等に政治に参加できる貴重な機会です。経済状況に関わらず、一人一票の価値は同じです。
選挙公報や候補者情報の入手方法

十分な情報に基づいて投票先を決めるため、選挙公報や候補者情報の入手方法を知っておきましょう。
選挙公報の配布
選挙公報は、各候補者の政見や政策が掲載された公式文書で、選挙期間中に各世帯に配布されます。
配布方法
- 新聞折込(新聞を購読していない場合は届かないことも)
- ポスティング
- 公共施設での配置
生活保護受給者で選挙公報が届かない場合は、以下の場所で入手できます。
- 市区町村役場
- 図書館
- 公民館
- 選挙管理委員会の窓口
インターネットでの情報収集
近年は、インターネットで候補者情報を調べることも一般的です。
- 選挙管理委員会の公式サイト
- 候補者の公式サイトやSNS
- 新聞社等のメディアによる候補者比較
ただし、インターネット上の情報には偏りや誤情報が含まれる可能性もあるため、複数の情報源を参照することをお勧めします。
候補者演説会や公開討論会
候補者の考えを直接聞ける機会として、以下があります。
- 街頭演説
- 個人演説会
- 公開討論会(市民団体等が主催)
これらは基本的に無料で参加でき、生活保護受給者も含めすべての有権者に開かれています。
被選挙権(立候補する権利)について

選挙権(投票する権利)だけでなく、被選挙権(立候補する権利)についても触れておきます。
生活保護受給者も立候補できる
生活保護を受けているからといって、立候補する権利(被選挙権)が制限されることはありません。
被選挙権の要件
- 衆議院議員・市区町村長・市区町村議会議員:満25歳以上の日本国民
- 参議院議員・都道府県知事・都道府県議会議員:満30歳以上の日本国民
収入や資産、職業などは一切要件に含まれていません。
立候補時の供託金
ただし、立候補する際には「供託金」が必要です。
- 衆議院小選挙区:300万円
- 参議院選挙区:300万円
- 都道府県知事:300万円
- 市区町村長:50万円~100万円
- 都道府県議会議員:60万円
- 市区町村議会議員:30万円(一部地域では不要)
この供託金は、一定の得票率を獲得すれば返還されますが、生活保護受給中の方が用意するのは現実的に困難でしょう。ただし、法律上は立候補自体は可能です。

まとめ:生活保護受給者の選挙権は完全に保障されている

本記事の重要なポイントをまとめます。
選挙権について
- 生活保護受給者は選挙権を完全に保有している
- 投票の手続きは一般の有権者と全く同じ
- 住民票があり3か月以上経過すれば選挙人名簿に登録される
- 施設入所者や在宅の障害者も投票手段が用意されている
誤解を解く
- 納税の有無は選挙権と無関係
- 生活保護受給で公民権が停止されることはない
- 投票しなくてもペナルティはない
- 投票内容は完全に秘密で自由
投票の意義
- 自分の生活に影響する政策を選べる重要な機会
- 社会的弱者の声を政治に届ける手段
- 経済状況に関わらず、一人一票の価値は平等
最後に
生活保護を受けているからといって、政治参加の権利が制限されることは一切ありません。むしろ、生活に困難を抱えている方々こそ、自分たちの声を政治に反映させるために投票することが重要です。
次の選挙では、ぜひあなたの一票を投じてください。それは憲法で保障された、あなたの正当な権利なのですから。


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