生活保護を申請するとき、または受給中に「銀行口座を調べられるのでは?」と不安に感じる方は少なくありません。
実際には、福祉事務所には生活保護法第29条に基づいて金融機関の口座を調査する権限があります。
この調査は、申請者の経済状況を正確に把握するために行われるものであり、預貯金や収入の有無を確認する目的で実施されます。
この記事では、生活保護の金融機関調査について、根拠・目的・調査内容・注意点をわかりやすく解説します。
生活保護法第29条が根拠 ― 金融機関への調査権限

生活保護の審査において、福祉事務所(ケースワーカー)は生活保護法第29条を根拠として、金融機関や勤務先などに対して必要な調査を行うことができます。
生活保護法第29条:
福祉事務所長は、保護の決定または実施に必要な場合、関係行政機関、公共団体、学校、病院、金融機関などに対して報告または資料の提出を求めることができる。
このため、申請者本人やその世帯員はについても同様に調査が可能です。

調査は、生活保護開始時に一度だけでなく、受給中であっても必要に応じて随時実施されます。
調査の目的 ― 預貯金や収入を正確に把握するため

金融機関調査の目的は、申請者および世帯の資産状況を正確に確認することです。
特に預貯金の有無や金額は、生活保護の可否を左右する重要なポイントになります。
生活保護は「最低限度の生活を保障する制度」であり、一定以上の資産を保有している場合は原則として保護の対象外です。

預貯金が多い場合は生活保護を受けられない
たとえば、最低生活費が月10万円の世帯で、預貯金が50万円ある場合を考えてみましょう。
- 最低生活費:10万円
- 預貯金:50万円
この場合、預貯金が最低生活費を上回るため、生活保護の申請は却下されます。
「もしもの時のために」「自分の葬式代に」と考える人も多いですが、生活保護制度上では今がまさに“もしもの時”です。
葬祭費については、別途葬祭扶助があるため、その理由で預貯金を残したまま保護を受けることはできません。

預貯金が少ない場合の減額措置
預貯金が最低生活費の半分以上ある場合は、申請が認められても初回支給額が減額されることがあります。
例として、最低生活費が10万円、預貯金が8万円の場合を見てみましょう。
- 最低生活費の半分=5万円
- 預貯金=8万円
- 差額=3万円(初回支給額から減額)
このように、一定の貯金があると、その分を生活費に充てる形で支給額が調整されます。
調査内容 ― 通帳の残高だけでなくお金の流れも確認

金融機関への調査では、単に「現在の残高」を見るだけではなく、過去の入出金履歴や資金の流れも確認されます。
申請直前にお金を引き出しても、その履歴からすぐに把握されます。
福祉事務所は「なぜ引き出したのか」「何に使ったのか」を確認し、必要に応じて領収書や明細の提出を求めます。
不自然な出金は追及される
「借金の返済に使った」「知人に返した」などの説明をする人もいますが、領収書や振込明細などの証拠を提示できなければ認められません。
証明できない出金は、「手持ち資金を意図的に隠した」と見なされる可能性があり、以下のような不利益を受けるおそれがあります。
- 初回支給額の減額
- 支給決定の却下
- 申請取り下げの勧告
生活保護は「正直な申告」が大前提です。虚偽の申告や不自然な資金移動は絶対に避けましょう。
生活保護受給中の口座調査 ― 継続的な確認もある

金融機関調査は、申請時だけでなく受給中にも定期的または必要に応じて行われます。
これは、不正受給の防止や収入の変化を確認するためのものです。

例えば、次のような場合に調査が入ることがあります。
- 収入申告と実際の口座入金額に差がある
- 定期的に不明な入金がある
- 高額な送金や引き出しが繰り返されている
こうした場合、福祉事務所から呼び出しを受け、資金の出どころや使途の説明を求められることがあります。
生活保護受給後に貯金してもいいの?

生活保護を受給してから、少しずつお金を貯めることは制度上認められています。
これは、将来的な自立を目指すうえで大切な行動とされています。
ただし、貯金が一定額を超えた場合には、生活保護費の減額や停止などの見直しが行われる可能性があります。

詳しくは預貯金に関するページをご覧ください。

まとめ ― 調査は「不正防止」ではなく「公平な支給」のため

- 生活保護法第29条により、福祉事務所は金融機関に調査を行う権限を持つ
- 申請時だけでなく、受給中も必要に応じて調査される
- 預貯金が多いと申請が却下、または支給額が減額される
- 不自然な出金や説明できない取引は追及される
- 受給後に貯金することは認められるが、一定額を超えると調整対象になる
生活保護の金融機関調査というと、「疑われている」「監視されている」と感じる方もいますが、実際の目的はすべての申請者を公平に扱うことにあります。
正確な資産状況を把握することで、本当に生活に困っている方を支援することが可能になります。

