「福祉事務所から転居を指導された」「転居費用は全額もらえる?」「敷金・礼金・引越代は出る?」生活保護受給者が転居指導を受けた際、費用について疑問や不安を抱く方は少なくありません。
結論から言えば、転居指導による引越しの場合、転居に必要な費用が支給されます。
生活保護法に基づき、敷金、礼金、仲介手数料、引越代などが「転居費用」として支給され、受給者の自己負担は原則としてゼロです。ただし、支給には一定の条件と上限があり、事前申請が必須です。
本記事では、転居指導とは何か、転居費用として支給される項目、支給額の上限、申請方法、さらには自己都合の転居との違いまで、生活保護法と実務に基づいて徹底解説します。
この記事でわかること
- 転居指導とは何か(理由と法的根拠)
- 転居費用として支給される7つの項目
- 支給額の上限と計算例
- 転居費用の申請手続き(5ステップ)
- 自己都合の転居との違い
- 転居費用が支給されないケース
転居指導とは?福祉事務所による引越しの指示

転居指導の定義
転居指導とは 福祉事務所が、生活保護受給者に対して、現在の住居から別の住居への転居を指導することです。
法的根拠 生活保護法第27条では、「保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる」と定められています。転居指導は、この条項に基づいて行われます。
転居指導が行われる主な5つの理由
理由1:家賃が住宅扶助の上限を超えている 現在の家賃が、住宅扶助の上限額を超えている場合、上限内の物件への転居を指導されます。
例
- 住宅扶助の上限:5万3,700円(東京都区部、単身)
- 現在の家賃:6万5,000円
- 超過分:1万1,300円
この超過分を生活扶助から支払う必要があり、生活が圧迫されるため、転居が指導されます。


理由2:病気や障害により、現在の住居が不適切 階段の上り下りが困難、バリアフリーでないなど、健康上の理由で現在の住居が適さない場合。
例
- 足腰が悪化し、3階の住居への階段昇降が困難
- 1階のバリアフリー物件への転居を指導
理由3:就職により、職場に近い場所への転居が必要 就職が決まり、通勤が困難な場合、職場に近い場所への転居が指導されることがあります。


理由4:DV等から避難する必要がある 配偶者からのDV被害で、緊急に別の場所へ転居する必要がある場合。
理由5:老朽化や取り壊しにより、物件の退去を求められた 大家から退去を求められた、建物の老朽化・取り壊しなど、やむを得ない理由で転居が必要な場合。
転居指導の手続き
ステップ1:福祉事務所から転居の提案 ケースワーカーから、「転居を検討してはどうか」と提案されます。
ステップ2:受給者の同意 受給者が転居に同意します。
ステップ3:転居指導の決定 福祉事務所が、正式に転居指導を決定します。
ステップ4:物件探し 受給者が、住宅扶助の範囲内の物件を探します。
ステップ5:転居費用の支給 転居に必要な費用が支給されます。
転居費用として支給される7つの項目

転居指導による転居の場合、以下の費用が支給されます。

1. 敷金
定義 賃貸契約時に、大家に預ける保証金。退去時に、原状回復費用を差し引いて返還されます。
支給額 新居の家賃の2か月分まで
例
- 新居の家賃:5万円
- 支給される敷金:10万円(2か月分)
注意点 実際の敷金が1か月分の場合、1か月分のみ支給されます。
2. 礼金
定義 賃貸契約時に、大家に支払う謝礼金。退去時に返還されません。
支給額 新居の家賃の1か月分まで(自治体により異なる)
自治体による違い
- 支給する自治体:東京都、大阪府など
- 支給しない自治体:一部の地方自治体
例
- 新居の家賃:5万円
- 支給される礼金:5万円(1か月分)
3. 仲介手数料
定義 不動産会社に支払う仲介手数料。
支給額 新居の家賃の1か月分+消費税まで
例
- 新居の家賃:5万円
- 支給される仲介手数料:5万5,000円(1か月分+消費税10%)
4. 引越代(運送費)
定義 引越業者に支払う運送費。
支給額 実費(見積もりに基づく)
上限 明確な上限はありませんが、合理的な範囲内。
例
- 単身、近距離(同一市内):3万円~5万円
- 単身、中距離(隣県):5万円~8万円
相見積もり 複数の引越業者から見積もりを取り、最も安価な業者を選ぶことが求められます。
自力引越し 自分で引越しする場合、トラックのレンタル代やガソリン代が支給されることがあります。
5. 火災保険料
定義 賃貸契約時に加入が義務付けられる火災保険の保険料。
支給額 実費(通常、2年分で1万5,000円~2万円程度)
6. 保証料
定義 連帯保証人の代わりに、保証会社を利用する場合の保証料。
支給額 初回保証料(通常、家賃の30%~50%程度)
例
- 新居の家賃:5万円
- 初回保証料:2万5,000円(家賃の50%)
更新料 年間の更新料(5,000円~1万円程度)も支給される場合があります。
7. 鍵交換費用
定義 新居の鍵を交換する費用。
支給額 実費(通常、1万円~2万円程度)
注意点 鍵交換が賃貸契約の条件でない場合、支給されないことがあります。
その他の費用
不用品処分費 大きな家具・家電の処分費用は、原則として支給されません。ただし、やむを得ない場合、相談により支給されることがあります。
退去費用 原状回復費用など、旧居の退去費用は、原則として自己負担です。ただし、転居指導による場合、相談により支給されることがあります。

支給額の上限と計算例

転居費用の総額は、どれくらいになるのでしょうか。
計算例1:東京都区部、単身世帯、家賃5万円
支給される費用
- 敷金:10万円(2か月分)
- 礼金:5万円(1か月分)
- 仲介手数料:5万5,000円(1か月分+消費税)
- 引越代:4万円(近距離、実費)
- 火災保険料:1万5,000円(2年分)
- 保証料:2万5,000円(家賃の50%)
- 鍵交換:1万5,000円
- 合計:30万円
計算例2:地方都市、単身世帯、家賃3万5,000円、礼金なし
支給される費用
- 敷金:7万円(2か月分)
- 礼金:0円(礼金なし物件、または自治体が支給しない)
- 仲介手数料:3万8,500円(1か月分+消費税)
- 引越代:3万円(近距離、実費)
- 火災保険料:1万5,000円(2年分)
- 保証料:1万7,500円(家賃の50%)
- 鍵交換:1万円
- 合計:18万1,000円
上限額
明確な総額上限はない 転居費用には、明確な総額上限は定められていません。ただし、各項目に上限があり(敷金2か月分、礼金1か月分など)、合理的な範囲内であることが求められます。
転居費用の申請手続き

転居費用を受け取るための手続きを説明します。
ステップ1:ケースワーカーへの相談
転居指導を受けた場合 まず、ケースワーカーに転居指導の理由を確認し、転居費用について相談します。

ステップ2:物件探し
住宅扶助の範囲内 住宅扶助の上限額以内の物件を探します。

不動産会社の選択 ケースワーカーから、生活保護受給者に理解のある不動産会社を紹介してもらえることがあります。

ステップ3:見積もりの取得
必要な見積もり
- 賃貸契約の初期費用(敷金、礼金、仲介手数料、火災保険料、保証料、鍵交換費用など)
- 引越業者の見積もり(複数業者から)
見積書の提出 福祉事務所に、見積書を提出します。
ステップ4:転居費用の承認
福祉事務所の審査 福祉事務所が、見積もり内容を審査し、転居費用の支給を承認します。
承認のポイント
- 住宅扶助の範囲内か
- 費用が合理的か
- 最も経済的な方法か
ステップ5:転居と支払い
支払い方法 転居費用の支払い方法は、以下のいずれかです。
方法1:代理納付 福祉事務所が、不動産会社や引越業者に直接支払います。

方法2:立替払いと精算 受給者が一旦立て替え、後日、福祉事務所で精算します。
ステップ6:領収書の提出 転居後、すべての領収書を福祉事務所に提出します。
自己都合の転居との違い

転居指導による転居と、自己都合の転居では、費用の扱いが大きく異なります。
転居指導による転居
転居費用 全額支給される(敷金、礼金、仲介手数料、引越代など)
条件
- 福祉事務所の転居指導がある
- 事前に承認を得る
自己都合の転居
転居費用 原則として自己負担
例外 やむを得ない事情がある場合、ケースワーカーに相談すれば、支給が認められることもあります。
やむを得ない事情の例
- 近隣トラブル
- 大家とのトラブル
- 健康上の理由
自己都合の例
- 「もっと良い部屋に住みたい」
- 「ペット可の物件に引っ越したい」
これらは原則として認められません。

転居費用が支給されないケース

以下のような場合、転居費用は支給されません。
ケース1:転居指導がない
自己都合の転居 福祉事務所の転居指導がない、自己都合の転居は、原則として費用が支給されません。
ケース2:事前承認を得ていない
事後申請 転居後に「転居費用を支給してほしい」と申請しても、原則として認められません。
必ず事前に相談 転居を検討する段階で、必ずケースワーカーに相談してください。
ケース3:住宅扶助の範囲を超える物件
上限超過 住宅扶助の上限を超える家賃の物件を選んだ場合、超過分は自己負担となり、転居費用も全額は支給されない可能性があります。
ケース4:不合理な費用
過剰な費用
- 不必要に高額な引越業者
- 不要なオプションサービス
これらは認められません。
よくある質問(Q&A)

Q1: 転居費用は全額もらえますか?
A: 転居指導による転居で、事前に承認を得た場合、敷金、礼金、仲介手数料、引越代などが全額支給されます。ただし、各項目に上限があり(敷金2か月分、礼金1か月分など)、合理的な範囲内である必要があります。
Q2: 自己都合で引っ越したいのですが、費用は出ませんか?
A: 原則として、自己都合の転居では費用は支給されません。ただし、やむを得ない事情(近隣トラブル、健康上の理由など)がある場合、ケースワーカーに相談すれば、支給が認められることもあります。
Q3: 引越代は、どの業者を選んでもいいですか?
A: 複数の引越業者から見積もりを取り、最も安価な業者を選ぶことが求められます。不必要に高額な業者を選ぶと、認められない可能性があります。
Q4: 礼金は必ず支給されますか?
A: 自治体により異なります。東京都や大阪府など、礼金を支給する自治体が多いですが、一部の地方自治体では支給されません。また、実際の礼金が1か月分未満の場合、その金額のみ支給されます。
Q5: 転居費用を立て替える必要がありますか?
A: 自治体により異なります。代理納付(福祉事務所が直接支払う)の場合、立て替えは不要です。立替払いの場合、一旦立て替えて後日精算します。立て替えが困難な場合、ケースワーカーに相談してください。
Q6: 退去費用(原状回復費用)は支給されますか?
A: 原則として、退去費用は自己負担です。ただし、転居指導による場合、相談により支給されることがあります。ケースワーカーに相談してください。

Q7: ペット可の物件に引っ越したいのですが、転居費用は出ますか?
A: 「ペット可の物件に住みたい」という理由だけでは、転居指導の対象にならず、費用は原則として支給されません。ただし、ペットが盲導犬、聴導犬など、生活に必要不可欠な場合は、相談してみてください。

Q8: 転居費用の支給を断られました。不服申立てはできますか?
A: はい、都道府県知事に対して審査請求ができます。決定を知った日から3か月以内に、審査請求書を提出します。法テラスで弁護士に相談することもできます。
まとめ:転居指導なら費用は支給されるが事前相談は必須

本記事の重要なポイントをまとめます。
転居指導とは
- 福祉事務所による引越しの指示
- 生活保護法第27条が根拠
- 家賃超過、健康上の理由、就職、DV、老朽化などが理由
支給される7つの費用
- 敷金(2か月分まで)
- 礼金(1か月分まで、自治体による)
- 仲介手数料(1か月分+消費税まで)
- 引越代(実費)
- 火災保険料(実費)
- 保証料(初回保証料)
- 鍵交換費用(実費)
支給額の目安
- 東京都区部、単身、家賃5万円:約30万円
- 地方都市、単身、家賃3万5,000円:約18万円
申請手続き
- ケースワーカーへの相談
- 物件探し
- 見積もりの取得
- 転居費用の承認
- 転居と支払い
- 領収書の提出
自己都合との違い
- 転居指導:費用全額支給
- 自己都合:原則自己負担
支給されないケース
- 転居指導がない
- 事前承認を得ていない
- 住宅扶助の範囲を超える
- 不合理な費用
最後に
生活保護の転居指導を受けた場合、転居に必要な費用は原則として全額支給されます。受給者の経済的負担はゼロです。
ただし、最も重要なのは、事前にケースワーカーに相談し、承認を得ることです。転居後に「費用を支給してほしい」と申請しても、原則として認められません。
転居を検討する段階で、必ずケースワーカーに相談してください。転居指導が出るか、費用が支給されるか、どのような物件が適切かなど、詳しいアドバイスを受けられます。
適切な手続きにより、転居費用の支給を受け、新しい生活をスムーズに始めましょう。

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