「生活保護で通院の交通費はもらえる?」「移送費の申請方法がわからない」「タクシーは使える?」生活保護を受けている方が通院する際、移送費(交通費)について疑問や不安を抱くことは少なくありません。
移送費とは、生活保護の医療扶助の一環として、通院に必要な交通費を支給する制度です。生活保護法第15条第6項に基づき、「移送」が医療扶助の対象と定められています。ただし、すべての通院で自動的に支給されるわけではなく、一定の条件と手続きが必要です。
本記事では、通院移送費の基本的な仕組み、支給される条件、申請方法、交通手段別の注意点、さらには支給されないケースまで、法的根拠と実務に基づいて徹底解説します。
この記事でわかること
- 通院移送費の定義と法的根拠
- 移送費が支給される3つの条件
- 申請方法と必要な手続き
- 交通手段別の支給基準(徒歩・バス・電車・タクシー)
- 移送費が支給されないケース
- 立替払いと精算の方法
通院移送費とは?医療扶助の一環

移送費の定義
移送費(いそうひ)とは 生活保護受給者が、医療機関への通院に必要な交通費を、医療扶助として支給する制度です。
正式名称 「医療扶助における移送費」

法的根拠
生活保護法第15条第6項 「医療扶助は、次に掲げる事項について行われる。 (中略) 六 移送」
この規定により、通院に必要な交通費が医療扶助の対象となります。
移送費の目的
医療を受ける機会の確保 経済的理由で通院をためらうことがないよう、交通費を支給することで、必要な医療を受ける機会を確保します。
健康の維持・回復 定期的な通院を支援することで、受給者の健康の維持・回復を図ります。
移送費が支給される3つの条件

すべての通院で移送費が支給されるわけではありません。以下の条件を満たす必要があります。
条件1:医師の指示による通院
医師の診療上の必要性 医師が「通院が必要」と判断した場合に限ります。
対象となる通院
- 定期通院(慢性疾患の管理など)
- 検査のための通院
- リハビリテーションのための通院
- 処方箋をもらうための通院
対象外
- 自己判断での通院(医師の指示がない)
- 健康診断(医療扶助の対象外)
- 美容目的の通院
条件2:移送の必要性
「移送が必要」と認められる場合 以下のような状況で、移送の必要性が認められます。
病状による必要性
- 歩行が困難
- 重い病気や怪我
- 高齢や障害により、長距離の徒歩が困難
距離による必要性
- 医療機関が遠方にある
- 徒歩圏内(一般的に2km以内)でない
専門医療の必要性
- 近隣に専門医がいない
- 特殊な治療が必要
条件3:最も経済的かつ適切な方法
最も経済的 複数の交通手段がある場合、最も安価な方法が原則です。
例
- バスと電車がある場合 → 安い方
- タクシーとバスがある場合 → 原則バス
ただし病状により、タクシーが必要と認められる場合は、タクシー代が支給されます。

移送費の申請方法

移送費を受け取るには、申請が必要です。
申請のタイミング
原則:事前申請 通院前に、福祉事務所(ケースワーカー)に申請します。

緊急時の事後申請 急病など緊急の場合は、通院後に申請することも可能です。
申請の手順
ステップ1:ケースワーカーに連絡 通院が決まったら、ケースワーカーに連絡します。
伝える内容
- 通院する医療機関名
- 通院日
- 通院理由(病状)
- 利用する交通手段
ステップ2:移送費の承認 ケースワーカーが、移送の必要性を判断し、承認します。
ステップ3:通院 承認された交通手段で通院します。
ステップ4:領収書の保管 交通費の領収書(タクシーの領収書など)を保管します。
ステップ5:精算
- 現金支給の場合:後日、福祉事務所で精算
- 直接支払いの場合:福祉事務所がタクシー会社などに直接支払う

必要な書類
一般的に必要な書類
- 移送費支給申請書
- 領収書(タクシー、バス、電車など)
- 医師の診療情報提供書(必要に応じて)
自治体により異なる 具体的な必要書類は、自治体により異なります。ケースワーカーに確認してください。
交通手段別の支給基準

交通手段により、支給の基準が異なります。
1. 徒歩
距離の目安 一般的に、医療機関まで2km以内の場合、徒歩圏内とみなされ、移送費は支給されません。
例外
- 高齢や障害により、短距離でも歩行が困難
- 病状により、徒歩が不可能
これらの場合、2km以内でも移送費が認められることがあります。
2. 公共交通機関(バス・電車)
原則 バスや電車などの公共交通機関が利用可能な場合、その運賃が支給されます。
支給額 実費(実際にかかった運賃)
領収書
- バス:領収書が出ない場合、申告による
- 電車:切符の半券、またはICカードの利用履歴
往復分 往復の運賃が支給されます。
定期券 頻繁に通院する場合、定期券の購入が認められることがあります。
3. タクシー
原則 公共交通機関が利用できる場合、タクシー代は原則として認められません。
例外的に認められる場合 以下のような状況で、タクシーの利用が認められます。
病状による必要性
- 歩行が著しく困難
- 車椅子を使用
- 重症で、公共交通機関の利用が困難
交通手段の不在
- 公共交通機関がない地域
- 夜間・早朝で公共交通機関が運行していない
緊急性
- 救急搬送に準じる緊急性
支給額 実費(タクシー料金)
領収書 タクシーの領収書が必要です。
事前承認 タクシーを利用する場合、必ず事前にケースワーカーの承認を得てください。事前承認なしでタクシーを利用すると、支給されない可能性があります。

4. 自家用車
原則:認められない 生活保護では、原則として自動車の保有が認められていないため、自家用車での通院は想定されていません。
例外 障害者の通勤・通院のために自動車の保有が認められている場合、ガソリン代が支給されることがあります。
支給額 距離に応じて計算(例:1kmあたり○円)

5. 介護タクシー
対象 車椅子を使用するなど、一般のタクシーでは対応できない場合。
支給 介護タクシーの料金が支給されます。
事前承認 必ず事前にケースワーカーの承認を得てください。
6. 救急車
医療扶助の対象外 救急車は無料のため、移送費の支給対象ではありません。
移送費が支給されないケース

以下のような場合、移送費は支給されません。
ケース1:徒歩圏内の医療機関
距離の目安 医療機関まで2km以内の場合、原則として移送費は支給されません。
例外 高齢、障害、病状により徒歩が困難な場合は、支給されることがあります。
ケース2:医師の指示がない通院
自己判断での通院 医師の指示がない、自己判断での通院は、移送費の対象外です。
例
- 「なんとなく調子が悪いから病院に行く」
- 「セカンドオピニオンを聞きたい」(医師の指示がない場合)
ケース3:事前承認がない
事前申請の原則 原則として、事前にケースワーカーの承認を得ずに通院した場合、移送費は支給されません。
例外 急病など緊急の場合は、事後申請が認められることがあります。
ケース4:不必要に高額な交通手段
最も経済的な方法の原則 公共交通機関が利用できるのに、タクシーを利用した場合、原則として認められません。
例外 病状によりタクシーが必要な場合は、事前に承認を得れば認められます。
ケース5:通院以外の目的
通院以外の移送 通院以外の目的(買い物、娯楽など)での移動は、移送費の対象外です。
ただし、通院のついでに薬局に寄る、などは認められます。
立替払いと精算の方法

移送費は、通常、受給者が一旦立て替え、後日精算します。
立替払いの流れ
ステップ1:通院 承認された交通手段で通院します。
ステップ2:交通費の支払い 自分で交通費を支払います(立替)。
ステップ3:領収書の保管 領収書を保管します。
ステップ4:福祉事務所で精算 後日、福祉事務所で領収書を提出し、精算します。
ステップ5:現金受取 交通費が現金で支給されます。
立替が困難な場合
手持ちがない場合 通院当日に手持ちの現金がない場合、どうすればよいでしょうか。
対処法1:事前に相談 ケースワーカーに事前に相談し、前払いや直接支払いを依頼します。
対処法2:直接支払い タクシーの場合、福祉事務所がタクシー会社に直接支払う「直接支払い」の制度がある自治体もあります。
対処法3:一時扶助 緊急の場合、一時扶助として事前に現金を支給してもらえることがあります。
精算のタイミング
通常 通院後、数日~1週間以内に福祉事務所で精算します。
まとめて精算 定期通院の場合、月末にまとめて精算することもあります。
定期通院の場合の特例

定期的に通院する場合、手続きが簡素化されることがあります。
包括的な承認
継続的な承認 毎回申請するのではなく、「毎週○曜日に通院」という形で、継続的に承認されることがあります。
条件
- 慢性疾患の定期通院
- 通院頻度と交通手段が一定
定期券の支給
頻繁な通院 週2回以上など、頻繁に通院する場合、定期券の購入が認められることがあります。
支給額 1か月定期券、3か月定期券など、最も経済的な定期券の金額。
申請方法 ケースワーカーに相談し、定期券購入の承認を得ます。
よくある質問(Q&A)

Q1: 移送費は必ずもらえますか?
A: いいえ、移送費は、医師の指示による通院で、移送の必要性が認められる場合にのみ支給されます。徒歩圏内(2km以内)の医療機関への通院や、自己判断での通院は対象外です。
Q2: 事前に申請しないと、移送費はもらえませんか?
A: 原則として事前申請が必要です。ただし、急病など緊急の場合は、事後申請が認められることがあります。緊急の場合でも、できるだけ早く福祉事務所に連絡してください。
Q3: タクシーを使いたいのですが、認められますか?
A: 病状により歩行が著しく困難な場合や、公共交通機関がない場合など、タクシーが必要と認められる場合のみ、支給されます。必ず事前にケースワーカーの承認を得てください。事前承認なしでタクシーを利用すると、支給されない可能性があります。
Q4: 領収書がない場合、移送費はもらえませんか?
A: バスなど、領収書が出ない交通手段の場合、申告による支給が認められることがあります。ただし、タクシーなど領収書が出る場合は、領収書が必要です。
Q5: 通院のついでに買い物をしても大丈夫ですか?
A: 通院が主な目的であれば、帰りに薬局に寄る、など合理的な範囲は認められます。ただし、通院を口実に、主に買い物や娯楽が目的の場合は認められません。
Q6: 遠方の有名な病院に行きたいのですが、移送費は出ますか?
A: 近隣に同様の治療ができる医療機関がある場合、遠方の病院への移送費は原則として認められません。ただし、特殊な治療で、遠方の専門病院でしか受けられない場合は、事前にケースワーワーカーに相談してください。

Q7: 付き添いの家族の交通費も支給されますか?
A: 原則として、受給者本人の交通費のみが支給されます。ただし、未成年者や重度の障害者など、付き添いが必要と認められる場合は、付き添い者の交通費も支給されることがあります。
Q8: 移送費の精算を忘れていました。後からでももらえますか?
A: 期限内(通常、通院から数か月以内)であれば、後からでも精算できます。ただし、あまりに長期間経過すると、認められない可能性があります。気づいたら、すぐにケースワーカーに相談してください。
まとめ:移送費を適切に活用して、必要な医療を受けよう

本記事の重要なポイントをまとめます。
移送費の基本
- 生活保護の医療扶助の一環
- 通院に必要な交通費を支給
- 生活保護法第15条第6項が根拠
支給の条件
- 医師の指示による通院
- 移送の必要性がある
- 最も経済的かつ適切な方法
申請方法
- ケースワーカーに連絡
- 移送費の承認を得る
- 通院
- 領収書を保管
- 精算
交通手段別の基準
- 徒歩:2km以内は原則対象外
- バス・電車:実費支給
- タクシー:病状により必要な場合のみ(事前承認必須)
- 自家用車:原則認められない(例外あり)
支給されないケース
- 徒歩圏内の医療機関
- 医師の指示がない通院
- 事前承認がない
- 不必要に高額な交通手段
- 通院以外の目的
立替と精算
- 原則、立替払い
- 領収書を保管
- 福祉事務所で精算
- 立替が困難な場合は事前相談
定期通院の特例
- 包括的な承認
- 定期券の支給
最後に
移送費の制度は、経済的理由で通院をためらうことがないよう、受給者の医療を受ける機会を確保するためのものです。適切に活用することで、必要な医療を受け、健康を維持・回復できます。
ただし、すべての通院で自動的に支給されるわけではなく、一定の条件と手続きが必要です。特に重要なのは、事前にケースワーカーに相談・承認を得ることです。事後に「支給されると思っていた」と言っても、認められない可能性があります。
通院が決まったら、まずケースワーカーに連絡し、移送費が支給されるか確認してください。不明な点があれば、遠慮なく質問しましょう。
移送費を適切に活用し、必要な医療を受けて、健康な生活を送りましょう。

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