「生活保護を申請したい」と思って福祉事務所に行ったのに、職員から「まだ働けるでしょう」「家族に頼ってください」と言われて申請書を渡されなかった…。
こうしたケースを、いわゆる「水際作戦」と呼びます。
しかし、本当にすべてのケースが「違法な申請拒否」なのでしょうか?
この記事では、福祉事務所が生活保護の申請を受け付けない「水際作戦」の実態を、現行の生活保護制度と照らし合わせながら、正しい理解と対応方法を分かりやすく解説します。
水際作戦とは?その意味と背景
水際作戦とは、本来生活保護の申請を受け付けるべき福祉事務所が、さまざまな理由をつけて申請を思いとどまらせる、または拒否する行為を指します。
具体的には次のようなケースが見られます。
- 「まだ働ける年齢ですよ」などと就労を勧め、申請書を渡さない
- 「親族に援助を頼んでください」と言って追い返す
- 「住所がないと申請できません」と誤った説明をする
これらは申請権の侵害につながるおそれがあります。
どんな人でも「申請したい」と意思を示せば、福祉事務所は申請を受理しなければなりません。
なぜ水際作戦が行われるのか?福祉事務所側の事情

水際作戦が問題視される一方で、福祉事務所側にも一定の事情があります。
1. 明らかに生活保護の条件を満たしていないケース
生活保護を申請すると、福祉事務所は世帯全体の収入・資産・扶養関係などを徹底的に調査します。これには多くの時間と労力がかかります。
たとえば、貯金や不動産を所有している、または十分な収入があると判断される場合、最終的に却下になるのが明白です。
このようなケースで安易に申請を受け付けてしまうと、本当に支援が必要な人への対応が遅れる可能性もあります。
したがって、職員が「今はまだ申請ではなく、他の制度を活用してください」と助言するのは、制度上ある程度合理的とも言えます。
2. 申請者自身にもデメリットがある
一度申請すると、申請者やその家族・親族に対して各種調査が行われます。
具体的には、
- 銀行口座の調査(預金・入出金)
- 生命保険・車両・不動産などの資産調査
- 親族に対する扶養照会(「援助できませんか?」という通知)
- 生活実態を把握するための訪問調査
等の調査が実施されます。
特にトラブルの元になるのが、扶養義務調査です。

扶養義務調査により、「生活保護を申請した」ことが家族に知られることになるため、家族関係によっては、大きな心理的負担になる人もいます。
そのため、ケースワーカーは「今申請すると親族に通知がいきますが、それでも構いませんか?」と説明したうえで、他の支援策を紹介することもあります。
これは不当な拒否ではなく、本人にとってのリスクを考慮した対応の場合も多いのです。
違法な「水際作戦」と正当な説明の違い

ここで大切なのは、「すべての水際対応が違法とは限らない」という点です。
福祉事務所が「生活保護の条件を満たしていない」と明確に説明し、他の制度を案内している場合は、むしろ適正な対応です。

一方で、以下のようなケースは違法な水際作戦の可能性があります。
- 申請書の交付を拒否された
- 窓口で「うちでは受けられません」と追い返された
- 「住所がない人は申請できません」と誤った説明をされた
生活保護法第24条では、申請者本人が意思表示すれば、福祉事務所は申請を受理しなければならないと定められています。
つまり、申請書を渡さないこと自体が違法です。
生活保護の申請は「権利」拒否されたときの対処法

生活保護の申請は、誰にでも保障された法的な権利です。
もしも福祉事務所で申請を受け付けてもらえない場合は、次のように対応しましょう。
1. 「申請します」と明確に伝える
口頭で構いません。「生活保護を申請します」と意思を示すことで、申請が成立します。職員が書類を渡さない場合でも、口頭申請の記録を残す義務があります。
2. 申請書の交付を求める
「生活保護法第24条に基づき、申請書の交付をお願いします」と伝えると効果的です。
3. 記録を残す
担当者の名前・対応日時・発言内容などをメモに残しましょう。後に不服申立てを行う際に有効な証拠となります。
4. 第三者機関へ相談する
- 弁護士(法テラス):無料で生活保護の相談が可能
- 社会福祉協議会:緊急小口資金や一時支援の相談が可能
- 自治体の人権相談窓口:不当な対応があった場合の相談先
まとめ:水際作戦=悪ではない、しかし「申請拒否」は違法

「水際作戦」という言葉はネガティブに使われがちですが、実際には制度の限られた資源を守るための正当な助言である場合も少なくありません。
ただし、申請自体を拒否する行為は明確に違法です。生活保護は「国民の権利」であり、申請すること自体に制限はありません。
申請を迷っている方、拒否された方は、まずは冷静に制度を理解し、自分の状況を客観的に見直しましょう。そして、必要な場合は勇気を持って「申請します」と伝えてください。
困ったときに支援を受けるのは恥ではありません。生活保護制度は、誰もが安心して暮らせる社会を支える大切な仕組みです。

