生活保護を受給している、または受給を検討している方の中には、周囲からの差別や偏見に不安を感じている方が少なくありません。
この記事では、生活保護に対する差別の実態、法的保護、具体的な対処法、そして偏見をなくすために必要なことを、データと事例を交えて詳しく解説します。
生活保護への差別の実態

差別・偏見の具体的な事例
生活保護受給者が経験する差別や偏見には、様々な形があります。
職場での差別として、生活保護を受けていることを理由に採用を拒否される、同僚から冷たい態度を取られる、「税金で生活している」と陰口を言われるなどの事例があります。
住居探しでは、大家や不動産業者が「生活保護の人はお断り」と入居を拒否する、保証人を立てることが困難、家賃の高い物件しか選べないなどの問題があります。

地域社会での孤立により、近所の人に受給していることが知られ、避けられる、子どもが学校でいじめに遭う、地域の行事に参加しづらくなるなどの状況が生じます。
インターネット上の誹謗中傷として、SNSやネット掲示板で「怠け者」「税金泥棒」などの心ない言葉を浴びせられることもあります。
差別が生まれる背景
なぜ生活保護に対する差別や偏見が存在するのでしょうか。
誤った情報・イメージにより、メディアで一部の不正受給が大きく報道され、「生活保護=不正」というイメージが広がっています。実際には、不正受給率は全体の約0.4%程度(厚生労働省データ)と非常に低いにもかかわらず、誤解が根強く残っています。
「自己責任論」の影響として、日本社会には「困窮は本人の努力不足」という自己責任論が強く、「働けるのに働いていない」という偏見が生まれやすい土壌があります。
制度への無理解があり、生活保護が憲法で保障された権利であること、誰でも困窮する可能性があることが十分に理解されていません。
スティグマ(恥の烙印)により、生活保護を受けること自体が「恥ずかしいこと」という社会的な雰囲気があり、受給者も後ろめたさを感じやすくなります。
データで見る差別の現状
生活保護に対する差別の実態を、データから見てみましょう。
受給をためらう理由として、内閣府の調査によると、生活に困窮していても生活保護を申請しない理由として「世間体が悪い」「恥ずかしい」という回答が上位を占めています。
捕捉率の低さでは、生活保護の捕捉率(受給資格がある人のうち実際に受給している人の割合)は、約2割から3割程度と推計されています。本来受給できる人の多くが、差別や偏見を恐れて申請していない可能性があります。
子どもへの影響として、日本弁護士連合会の調査では、生活保護世帯の子どもの約3割が、受給していることで学校でいじめや差別を経験したと報告されています。
これらのデータは、差別が単なる個人の問題ではなく、社会全体の課題であることを示しています。
生活保護は憲法で保障された権利

憲法第25条の生存権
生活保護は、日本国憲法第25条に基づく正当な権利です。
憲法第25条第1項には、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と明記されています。
第2項では、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定められています。
つまり、生活保護は「もらうもの」ではなく、憲法で保障された「権利」であり、国には困窮者を保護する「義務」があるのです。
生活保護法の理念
生活保護法第1条には、制度の目的が明記されています。
「この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする」
この条文から、生活保護が以下の理念に基づいていることがわかります。
・無差別平等の原則:すべての国民が等しく保護を受ける権利があります。性別、年齢、職業、病歴などによる差別は許されません。
・最低生活の保障:健康で文化的な最低限度の生活を国が保障します。
・自立の助長:単に保護するだけでなく、受給者の自立を支援することも目的としています。
差別は人権侵害
生活保護受給者への差別は、憲法第14条が定める「法の下の平等」に反する人権侵害です。
憲法第14条には、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と規定されています。
生活保護受給という「社会的身分」を理由とした差別は、明確な憲法違反です。受給者は堂々と権利を主張してよいのです。
差別を受けた場合の対処法

職場での差別への対応
職場で生活保護を理由とした差別を受けた場合の対処法を説明します。
採用拒否の場合、生活保護受給を理由とした採用拒否は、就職差別に該当する可能性があります。労働基準監督署やハローワークに相談しましょう。厚生労働省は「公正な採用選考」を企業に求めており、生活保護受給を理由とした不採用は不適切とされています。
職場でのハラスメントの場合、同僚や上司から差別的な言動を受けた場合、まず社内の相談窓口(ハラスメント相談窓口、人事部など)に相談します。改善されない場合は、労働基準監督署や労働局の総合労働相談コーナーに相談できます。
記録を残すことが重要です。いつ、誰に、どんなことを言われたか、メモや録音で記録しておくと、後の証拠になります。
住居探しでの差別への対応
入居拒否などの住宅差別に対する対処法です。
入居拒否は違法の可能性があり、正当な理由なく生活保護受給者の入居を拒否することは、「居住の権利」を侵害する行為です。家賃の支払い能力があるにもかかわらず、生活保護というだけで拒否するのは不当です。
福祉事務所の住宅扶助担当に相談すると、入居可能な物件の情報を持っていることがあります。また、不動産業者への同行や交渉を手伝ってくれる場合もあります。

居住支援法人の活用として、住宅確保要配慮者(生活保護受給者を含む)の入居を支援する「居住支援法人」があります。自治体の住宅課や福祉事務所に問い合わせてください。
法テラスへの相談として、明らかな差別で権利侵害がある場合、弁護士に相談することも選択肢です。
子どもへの差別・いじめへの対応
生活保護世帯の子どもがいじめや差別を受けた場合の対応です。
学校への相談:担任教師、学年主任、スクールカウンセラーなど、信頼できる教職員に相談しましょう。学校には、いじめを防止し、解決する責任があります。
教育委員会への相談:学校の対応が不十分な場合、教育委員会の相談窓口に連絡します。
福祉事務所のケースワーカーへの相談:必要に応じて学校との連携を依頼できます。
子ども自身の心のケアが重要で、スクールカウンセラーや児童相談所の心理士など、専門家のカウンセリングを受けることも検討しましょう。
生活保護が恥ずかしいことではないと、子どもに伝えることが大切です。困ったときに助け合うのは当然のこと、誰でも困窮する可能性があることを、年齢に応じて説明しましょう。
インターネット上の誹謗中傷への対応
SNSやネット掲示板での誹謗中傷に対する対処法です。
反応しないことが基本です。匿名の誹謗中傷に反論しても、さらに炎上する可能性があります。相手にせず、無視するのが最善です。
通報・削除依頼により、明らかな人権侵害や名誉毀損に該当する書き込みは、サイト運営者に削除を依頼できます。TwitterやFacebookなどのSNSには、通報機能があります。
法的措置として、悪質な場合は、弁護士に相談し、発信者情報開示請求や損害賠償請求などの法的措置を検討できます。法テラスで無料相談が受けられます。
心の健康を守るために、誹謗中傷を見続けると精神的に追い詰められます。SNSから距離を置く、信頼できる人に相談するなど、自分の心を守りましょう。
差別を助長する言動とは

「不正受給」の過度な強調
一部の不正受給事例を過度に強調することは、受給者全体への偏見を助長します。
不正受給の実態として、厚生労働省の統計によると、不正受給件数は全受給世帯の約0.4%程度です。99.6%以上は正当な受給であり、不正受給はごく一部の例外です。
メディアの報道姿勢では、不正受給は報道価値があるため大きく取り上げられますが、適正に受給している大多数の人々は報道されません。このバランスの欠如が偏見を生みます。
制度の改善は必要ですが、それを理由に受給者全体を疑いの目で見ることは不当です。
「働けるのに働かない」という決めつけ
働いていない受給者を「怠け者」と決めつける言動も、差別を助長します。
受給者の実態として、生活保護受給者の約半数は高齢者世帯、約3割は傷病・障害者世帯です。「働ける世代」の受給者も、精神疾患、介護、求職中など、様々な事情を抱えています。
見えない障害・病気により、外見では分からない精神疾患や内部障害を抱えている人も多くいます。「元気そうだから働けるはず」という判断は、無理解の表れです。
就労支援の実施として、働ける可能性のある受給者には、福祉事務所が就労支援を行っています。単に「働け」と言うだけでは解決しません。
「税金の無駄遣い」という批判
生活保護費を「税金の無駄遣い」と批判する言動も、偏見の一種です。
社会保障の役割により、生活保護は、憲法に基づく社会保障制度であり、社会全体のセーフティネットです。「無駄」ではなく、社会の安定のために必要な支出です。
誰でも受給者になる可能性があり、病気、失業、災害など、誰でも困窮する可能性があります。「今は自分に関係ない」と思っても、明日は我が身かもしれません。
予算の誤解として、生活保護費は国の予算の約1%程度です。「税金の大部分が生活保護に使われている」というのは誤解です。

差別をなくすために必要なこと

正しい知識の普及
差別をなくすには、まず生活保護制度への正しい理解が必要です。
教育の場での啓発として、学校教育で、社会保障制度の意義や生活保護の役割を教えることが重要です。憲法第25条の生存権、助け合いの大切さを学ぶべきです。
メディアの責任として、メディアは、不正受給だけでなく、制度の本質や受給者の実態をバランスよく報道する責任があります。
自治体の広報活動では、生活保護制度の正しい情報を住民に伝える広報活動を強化すべきです。
当事者の声を聴く
受給者自身の声に耳を傾けることが、理解を深めます。
体験談の共有により、受給者がどのような経緯で保護を受けるようになったか、どんな苦労をしているか、体験談を知ることで、イメージが変わります。
当事者団体の活動として、生活保護受給者や支援者の団体が、偏見をなくすための活動を行っています。こうした活動を知り、支援することも大切です。
対話の場を設けることで、受給者と地域住民が対話する機会を作ることで、相互理解が深まります。
支援者・理解者を増やす
差別に立ち向かうには、支援者・理解者の存在が重要です。
周囲の人ができることとして、差別的な発言を聞いたら、「それは偏見だよ」と指摘する、受給者を孤立させず、普通に接する、困っている人がいたら、生活保護という選択肢を教えることができます。
専門職の役割として、福祉職、医療職、教育職など、受給者と接する専門職は、差別を防ぎ、権利を守る役割があります。
社会全体の意識改革として、「困ったときはお互い様」という助け合いの精神を、社会全体で共有することが大切です。
生活保護受給者が尊厳を保つために

引け目を感じる必要はない
生活保護を受けることに、引け目を感じる必要はありません。
憲法で保障された権利であり、繰り返しになりますが、生活保護は権利です。病気になったら医療を受けるのと同じように、困窮したら生活保護を受けるのは当然のことです。
誰でも困窮する可能性があり、人生には予測できない出来事があります。今は受給していない人も、いつか受給者になる可能性があります。
自分を責めないことが大切です。困窮は個人の責任だけではありません。社会構造、経済状況、運など、様々な要因が絡み合っています。
前向きに生きる
生活保護を受けながらも、前向きに生きることが大切です。
自立に向けた努力として、健康を回復する、スキルを身につける、就労に向けて準備するなど、自分のペースで自立に向けた努力をしましょう。
趣味や楽しみを持つことで、生活保護費の範囲内でできる趣味や楽しみを見つけることも、心の健康に大切です。
社会とのつながりにより、孤立せず、地域の活動やボランティア、当事者団体などに参加し、社会とつながりを持ちましょう。
支援を求める勇気
一人で抱え込まず、支援を求めることが重要です。
ケースワーカーは、単に保護費を支給するだけでなく、様々な相談に乗ってくれます。困ったことがあれば、遠慮なく相談しましょう。
専門機関として、法律問題は法テラス、心の問題は精神保健福祉センター、就労は就労支援センターなど、専門機関を活用しましょう。
仲間・支援者は、当事者団体や支援団体に参加することで、同じ境遇の仲間や理解ある支援者と出会えます。
一人ではありません。支援の手はあります。
よくある質問と回答

生活保護を受けていることを隠すべき?
答え:状況によりますが、無理に隠す必要はありません。
職場や住居探しなど、不利益を受ける可能性がある場面では、積極的に話す必要はありません。ただし、聞かれて嘘をつくのは問題です。
一方、信頼できる友人や地域の人には、話すことで理解と支援を得られることもあります。自分の判断で、話す相手を選びましょう。
差別的な発言を受けたらどうすれば?
答え:状況に応じて、毅然と対応しましょう。
身の危険がある場合は、その場を離れ、警察や相談機関に連絡します。職場や学校など組織内の問題は、しかるべき窓口に相談します。
一対一の場面では、「生活保護は憲法で保障された権利です」と冷静に伝えるのも一つの方法です。ただし、無理に反論する必要はありません。自分の心を守ることを最優先にしてください。
子どもに受給のことをどう伝えれば?
答え:年齢に応じて、正直に、前向きに伝えましょう。
小さい子どもには、「今は大変だけど、国が助けてくれているんだよ」と簡単に説明します。
思春期の子どもには、「困ったときに助け合うのは当然のこと」「恥ずかしいことではない」と伝えつつ、学校で話す必要はないことも教えます。
隠すのではなく、正しく理解させることで、子ども自身が自信を持てます。
まとめ:差別のない社会を目指して

生活保護への差別について、重要なポイントをまとめます。
差別の実態を認識しましょう。職場、住居、地域、ネットなど、様々な場面で差別が存在します。差別の背景には、誤った情報、自己責任論、制度への無理解があります。データが示すように、差別は受給をためらわせ、社会問題となっています。
生活保護は権利であることを理解してください。憲法第25条で保障された正当な権利です。生活保護法も無差別平等の原則を定めています。差別は憲法第14条に反する人権侵害です。
対処法として、職場・住居・学校など、場面に応じた対処法があります。記録を残し、相談機関を活用しましょう。法的措置も選択肢です。一人で抱え込まず、支援を求めることが大切です。
社会を変えるために、正しい知識の普及、当事者の声を聴くこと、支援者・理解者を増やすことが必要です。「困ったときはお互い様」の精神を共有しましょう。
最後に
生活保護への差別は、受給者個人の問題ではなく、社会全体の問題です。一人ひとりが正しい知識を持ち、偏見をなくす努力をすることで、誰もが安心して生きられる社会が実現します。
受給者の方へ。あなたは何も悪くありません。堂々と生きる権利があります。差別に負けず、支援者とつながりながら、前を向いて歩んでください。
すべての人へ。明日は我が身かもしれません。他人事ではなく、自分事として考え、助け合える社会を一緒に作っていきましょう。
この記事が、差別のない、温かい社会を実現する一助となることを願っています。


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