「生活が苦しくて、病院にかかりたくてもお金がない」「医療費の支払いが不安で、症状があっても受診をためらってしまう」こうした悩みは、決して特別なものではありません。
日本では一定の割合の世帯が経済的な困窮状態にあり、医療費の負担がその生活をさらに圧迫しているケースが少なくありません。
この記事では、貧困によって医療費が払えないときに使える公的制度を、根拠となるデータや法律とともにわかりやすく解説します。
「医療費が払えない」は特別なことではない

日本の相対的貧困率
日本における経済的困窮は、統計データからも裏付けられています。厚生労働省の国民生活基礎調査によると、貧困線は直近の2021年に127万円で、相対的貧困率は15.4%と、30年前より1.9ポイント高くなっています。
経済協力開発機構(OECD)の統計と比較すると、米国は21年に15.1%、英国は20年に11.2%であり、日本は米英と比べても国内の経済格差がやや大きい状況といえます。
特にひとり親世帯は厳しい状況にあり、子どもがいる世帯で大人が一人だけの場合の貧困率は44.5%と、大人が二人以上いる場合の8.6%を大きく上回っています。
経済的理由による受診控えという問題
貧困は、医療機関へのアクセスそのものにも影響を及ぼします。経済的な理由から医療機関にかかることができない、あるいは「この程度なら…」と医療機関にかかることを控えてしまうことで健康に支障をきたしてしまうというケースがあります。
「払えないから我慢する」という選択は、症状の重症化につながりかねないため、まずは使える制度を知ることが重要です。
医療費が払えないときに使える公的制度一覧

貧困によって医療費の支払いが難しい場合、状況に応じて複数の制度を段階的に検討できます。
(1) 高額療養費制度・限度額適用認定証
まず基本となるのが、公的医療保険の高額療養費制度です。1ヶ月の医療費が自己負担限度額を超えた場合、超過分が払い戻される仕組みで、事前に「限度額適用認定証」の交付を受けておけば、窓口での支払い自体を自己負担限度額までに抑えられます。
マイナ保険証を利用していれば、この認定証の提示も不要になります。
(2) 国民健康保険の一部負担金減免制度(国民健康保険法第44条)
高額療養費制度の自己負担限度額すら支払えない場合に検討したいのが、国民健康保険法第44条に基づく一部負担金減免制度です。高額療養費制度で自己負担の上限が決まっていても、その上限額すら払えない場合にこの制度を利用できる可能性があり、両制度は併用が可能です。
この制度の対象と内容は以下の通りです。国民健康保険法の第44条には、特別な理由があった場合は一部負担金の減免を行うという制度があり、これは「国保減免」と呼ばれています。対象となるのは主に災害、倒産、失業などによって収入が下がった方などです。
具体的な減免基準としては、事業の休廃止・失業、世帯主の死亡・入院・傷病等により著しく収入が減少し、支払いが困難な場合で、活用する資産・預貯金(生活費を除く)がないことなどが挙げられます。減免が認められると一部負担金の10割(全額)が免除され、期間は3か月を基本に、やむを得ない場合の更新(1回限り)を含めて連続して最大6か月まで延長できる自治体もあります。
減免の判定は、収入と資産の両面から行われます。対象者の属する世帯が一時的に生活困難であるが資力回復の見込がある場合には、6か月以内の期間に限って一部負担金の徴収が猶予される仕組みもあります。相談窓口はお住まいの区市町村役場の国保年金担当窓口です。
実際にこの制度を活用して医療費が全額免除された事例も報告されています。頚椎狭窄症の治療のために入院していたある方は、国民健康保険法44条の適用により医療費(薬代も含め)が全額免除されることになり、「これで安心して治療に専念できる」と喜びの声を上げています。「国民健康保険一部負担金免除証明書」の交付を受けたことで、3カ月間の医療費が全額免除されました。

(3) 無料低額診療事業
生活保護には該当しないが、医療費の負担が重くて受診をためらっている方向けの制度もあります。
社会福祉法第2条第3項第9号の規定に基づき、生計困難者が経済的な理由によって必要な医療を受ける機会を制限されることのないよう、無料または低額な料金で診療を行う事業です。対象は低所得者、要保護者、ホームレス、DV被害者、人身取引被害者等の生計困難者で、医療保険加入の有無、国籍は問われません。当該医療機関に直接相談するほか、福祉事務所や社会福祉協議会に相談する方法もあります。

ただし対象は限定的です。無料低額診療事業は生活保護に該当しないけれど医療費が重い人を救済する仕組みですが、「借金など自己責任の困窮」は原則対象外とされています。

(4) 生活保護の医療扶助
生活全体が困窮し、医療費だけでなく生活費全般の支払いが難しい場合は、生活保護の申請を検討する段階です。


生活保護の「医療扶助」は、受給者が病気・けがで治療や入院が必要になったとき、医療費を代わりに支払う制度です。


受給者が窓口でお金を払う必要はなく、福祉事務所が直接医療機関に支払います。ただし医療扶助が使えるのは都道府県・指定都市が指定した「指定医療機関」のみで、事前にケースワーカーへ相談し指定医療機関かどうかを確認する必要があります。

制度早見表

| 制度 | 主な対象 | 窓口 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 高額療養費制度 | 公的医療保険加入者全般 | 市役所(国保)・健保組合等 | 自己負担限度額を超えた分が払い戻される |
| 一部負担金減免制度(国保法44条) | 国保加入者で災害・失業等により収入減少 | 市区町村の国保年金担当窓口 | 上限額そのものが減額・免除される場合がある |
| 無料低額診療事業 | 生活保護に該当しないが医療費負担が重い人 | 実施医療機関・福祉事務所・社会福祉協議会 | 診療費の全額または一部が減免 |
| 生活保護(医療扶助) | 生活全般が困窮している世帯 | 福祉事務所 | 医療費が原則自己負担ゼロになる |
相談すべきタイミングと相談先

症状が出た時点、または受診をためらった時点で相談を
医療費が支払えなくて困っている人に対して、このような減免制度は十分に知られているとは言えない状況にあります。制度の存在自体を知らないまま受診を諦めてしまう人が少なくないため、まずは相談してみることが第一歩です。
医療ソーシャルワーカー(MSW)という専門職
多くの病院には、経済的な相談に対応する医療ソーシャルワーカーが在籍しています。「治療費が払えないかもしれない」と感じた段階で、病院の相談窓口に声をかけることが、制度活用への近道になります。

生活困窮者自立支援制度も並行して検討する
医療費だけでなく、家賃や生活費全体が苦しい場合は、生活困窮者自立支援法に基づく自立相談支援機関への相談も並行して行いましょう。家計改善支援や就労支援など、包括的なサポートを受けられます。
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よくある質問(FAQ)

Q1. 高額療養費制度と一部負担金減免制度は同時に使えますか?
A. はい、併用可能です。高額療養費制度で自己負担上限を抑えたうえで、その上限額すら支払えない場合に一部負担金減免制度を申請できます。
Q2. 国保以外(会社の健康保険)に加入している場合、44条の減免は使えますか?
A. 国民健康保険法第44条による減免は国民健康保険加入者が対象です。健康保険組合等に加入している場合は、加入先の保険者に類似の減免制度がないか確認しましょう。
Q3. 一部負担金減免制度の審査には何を用意すればいいですか?
A. 収入状況や資産状況を確認する書類が必要になるのが一般的です。詳細は自治体ごとに異なるため、お住まいの市区町村の国保年金担当窓口に確認してください。
Q4. 借金が理由で医療費が払えない場合、無料低額診療事業は使えますか?
A. 借金など自己責任による困窮は原則対象外とされています。この場合は、家計相談や債務整理も含めた総合的な相談が必要になるため、自立相談支援機関や弁護士への相談も検討しましょう。
まとめ

貧困による医療費の支払い困難は、統計上も約15%の世帯が直面しうる決して珍しくない問題です。
「払えないから受診を諦める」のではなく、高額療養費制度、国民健康保険法第44条に基づく一部負担金減免制度、無料低額診療事業、そして生活保護の医療扶助と、状況に応じた段階的な公的支援があることを知っておきましょう。
制度は知らなければ使えません。少しでも不安を感じたら、病院の医療ソーシャルワーカーや市区町村の窓口、福祉事務所に、ためらわずに相談することが、健康と生活を守る第一歩になります。

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