生活保護を受給している方やその家族の中で、「介護が必要になったらどうすればいいのか」「介護施設に入所できるのか」「費用は支払えるのか」と不安を抱えている方は少なくありません。
本記事では、生活保護受給者が介護施設に入所する際の仕組み、費用負担、入所手続き、施設の選び方まで、知っておくべき情報を法的根拠と具体例を交えて詳しく解説します。
生活保護受給者の介護施設入所の基本

生活保護でも介護施設に入所できる
結論:生活保護を受給していても、介護施設への入所は可能です
生活保護制度には「介護扶助」という仕組みがあり、要介護認定を受けた受給者の介護サービス費用を補助します。これにより、経済的な理由で介護を受けられないということはありません。

介護扶助の仕組み
介護扶助は、生活保護の8つの扶助の一つで、介護保険サービスの自己負担分を補助する制度です。
生活保護の8つの扶助
- 生活扶助(日常生活費)
- 住宅扶助(家賃)
- 教育扶助(子どもの教育費)
- 医療扶助(医療費)
- 介護扶助(介護サービス費)
- 出産扶助(出産費用)
- 生業扶助(就労支援費)
- 葬祭扶助(葬儀費用)

介護保険との関係
生活保護受給者も40歳以上であれば介護保険に加入します。
介護保険料の支払い
- 65歳以上(第1号被保険者):介護保険料加算として生活保護から支給
- 40~64歳(第2号被保険者):医療保険料に含まれる
介護サービス利用時
- 通常は自己負担1割~3割
- 生活保護受給者は「介護扶助」により自己負担ゼロ
つまり、生活保護受給者は介護保険サービスを無料で利用できます。

入所できる介護施設の種類

特別養護老人ホーム(特養)
対象者
- 原則として要介護3以上
- 特例で要介護1~2も入所可能な場合あり
特徴
- 公的施設で費用が比較的安い
- 終身利用が可能
- 待機者が多い(入所待ちが長い)
生活保護受給者にとってのメリット
- 費用が抑えられる
- 終の棲家として利用できる
- 多床室(相部屋)なら費用がさらに低い
月額費用の目安(生活保護受給者の場合)
- 多床室:実質負担ほぼゼロ~約3万円
- 個室(ユニット型):約5万円~8万円
介護老人保健施設(老健)
対象者 要介護1以上
特徴
- リハビリ重視の施設
- 在宅復帰を目的とする
- 原則3~6ヶ月の入所期間
生活保護受給者にとっての特徴
- 一時的なリハビリ施設として利用
- 特養の入所待機中に利用することも
- 費用は介護扶助でカバー
月額費用の目安
- 多床室:実質負担約2万円~4万円
- 個室:約4万円~7万円

介護療養型医療施設
対象者 要介護1以上で医療的ケアが必要な方
特徴
- 医療と介護の両方を提供
- 2024年3月末で廃止予定だったが、一部は介護医療院へ転換
生活保護受給者にとっての特徴
- 医療的ケアが充実
- 費用は介護扶助と医療扶助でカバー

介護医療院
対象者 要介護1以上で長期療養が必要な方
特徴
- 介護療養型医療施設の転換先
- 日常的な医学管理と介護を提供
- 生活の場としての機能も重視
月額費用の目安
- 多床室:実質負担約3万円~5万円
- 個室:約5万円~8万円
有料老人ホーム
種類
- 介護付き有料老人ホーム
- 住宅型有料老人ホーム
- 健康型有料老人ホーム
生活保護受給者の入所可能性 入所可能な施設もありますが:
- 入居一時金が不要な施設に限られる
- 月額利用料が住宅扶助と介護扶助の範囲内
- 「生活保護受給者可」を明示している施設を探す必要がある
注意点
- 多くの有料老人ホームは高額で生活保護の範囲を超える
- 生活保護対応の有料老人ホームは限られる
グループホーム(認知症対応型共同生活介護)
対象者 要支援2以上で認知症の診断を受けた方
特徴
- 5~9人の少人数での共同生活
- 家庭的な雰囲気
- 地域密着型サービス
生活保護受給者が入所する場合の注意点
- 施設により受け入れ可否が異なる
- 月額費用が保護費の範囲内であることが条件
月額費用の目安 約10万円~15万円(施設により大きく異なる)

介護施設入所時の費用

費用の内訳
介護施設の費用は主に以下で構成されます。
1. 施設サービス費
- 介護保険の対象
- 要介護度により異なる
- 生活保護受給者は介護扶助で全額カバー
2. 居住費(室料)
- 個室か多床室かで異なる
- 生活保護受給者は「補足給付」の対象
3. 食費
- 1日3食分
- 生活保護受給者は「補足給付」の対象
4. 日常生活費
- おむつ代、理美容代など
- 一部は介護扶助、一部は生活扶助から
補足給付(特定入所者介護サービス費)
生活保護受給者は、居住費と食費について「補足給付」を受けられます。これにより、居住費と食費の自己負担が大幅に軽減されます。
補足給付後の負担限度額(令和6年度基準)
| 施設の種類 | 居住費 | 食費 | 合計/日 |
|---|---|---|---|
| 特養(多床室) | 0円 | 300円 | 300円 |
| 特養(個室) | 320円 | 300円 | 620円 |
| 老健(多床室) | 0円 | 300円 | 300円 |
| 老健(個室) | 320円 | 300円 | 620円 |
月額にすると
- 多床室:約9,000円
- 個室:約18,600円
実質的な自己負担
生活保護受給者の場合
介護施設入所時の支給
- 介護扶助:施設サービス費の自己負担分(実質ゼロ)
- 介護施設入所者加算:約3,000円~10,000円/月
- 生活扶助:日常生活費の一部(減額される)
実質的な負担
- 補足給付後の居住費・食費:約9,000円~18,600円/月
- 日常生活費:おむつ代、理美容代など
- 合計:月額約2万円~5万円程度
生活保護費の範囲内で入所が可能です。
介護施設入所の手続き

ステップ1:要介護認定の取得
介護施設に入所するには、まず要介護認定を受ける必要があります。
申請先
- 市区町村の介護保険窓口
- 地域包括支援センター
申請に必要なもの
- 介護保険被保険者証(65歳以上)
- 健康保険証(40~64歳)
- 主治医の氏名・病院名
認定までの流れ
- 申請
- 認定調査(訪問調査)
- 主治医意見書
- 審査判定
- 認定結果通知(申請から約30日)
認定区分
- 要支援1・2
- 要介護1~5
ステップ2:ケースワーカーへの相談
要介護認定を受けたら、福祉事務所のケースワーカーに相談します。
相談内容
- 介護施設入所の希望
- 施設の種類の希望
- 経済的な不安
ケースワーカーの対応
- 介護扶助の説明
- 入所可能な施設の情報提供
- 必要な手続きの案内

ステップ3:ケアマネージャーとの面談
介護認定を受けると、ケアマネージャー(介護支援専門員)が配置されます。
ケアマネージャーの役割
- ケアプランの作成
- 施設の紹介
- 入所手続きのサポート
重要 ケアマネージャーに「生活保護を受給している」ことを伝え、費用面での配慮が必要な旨を説明しましょう。
ステップ4:施設見学・選定
複数の施設を見学し、比較検討します。
見学時のチェックポイント
- 施設の雰囲気
- スタッフの対応
- 清潔さ
- 他の入所者の様子
- 設備・環境
- 生活保護受給者の受け入れ実績
質問すべき事項
- 生活保護受給者の入所は可能か
- 月額費用の詳細
- 入居一時金の有無
- 個室と多床室の空き状況
ステップ5:入所申込
入所を希望する施設に申し込みます。
必要書類
- 入所申込書
- 介護保険被保険者証
- 生活保護受給証明書
- 健康診断書
- 主治医の意見書
- 戸籍謄本または住民票
審査 施設側で入所の可否を判断します。
ステップ6:入所契約
入所が決まったら契約を結びます。
契約時の注意点
- 契約書の内容を十分確認
- 費用の詳細を確認
- 退所の条件を確認
- 不明点はケースワーカーに相談
ステップ7:福祉事務所への手続き
入所が決まったら、福祉事務所で以下の手続きを行います。

必要な手続き
- 介護扶助の申請
- 介護施設入所者加算の申請
- 住宅扶助の停止手続き(自宅を引き払う場合)
- 生活扶助額の見直し
提出書類
- 入所契約書のコピー
- 施設からの費用明細
- 補足給付の認定証
施設選びのポイント

1. 費用が生活保護の範囲内か
最も重要なのは、月額費用が生活保護費の範囲内に収まるかどうかです。
確認事項
- 月額費用の総額
- 入居一時金の有無(原則ゼロの施設を選ぶ)
- 追加費用の可能性

2. 生活保護受給者の受け入れ実績
「生活保護受給者可」を明示している施設、または受け入れ実績がある施設を選びましょう。
確認方法
- 施設に直接問い合わせる
- ケアマネージャーに相談
- 福祉事務所に情報を聞く
3. 立地とアクセス
家族が面会しやすい場所にあるかも重要です。
チェックポイント
- 自宅や家族の住まいからの距離
- 公共交通機関でのアクセス
- 駐車場の有無
4. 施設の種類と特徴
自分の状態に合った施設を選びましょう。
要介護度が高い場合
- 特別養護老人ホーム
- 介護医療院
医療的ケアが必要な場合
- 介護療養型医療施設
- 介護医療院
認知症がある場合
- グループホーム
- 認知症対応型特養
リハビリを希望する場合
- 介護老人保健施設
5. 個室か多床室か
個室のメリット
- プライバシーが守られる
- 自分のペースで生活できる
個室のデメリット
- 費用が高い
- 孤立しやすい
多床室のメリット
- 費用が安い
- 他の入所者との交流
多床室のデメリット
- プライバシーが限られる
- 他の入所者との相性が重要
生活保護受給者の場合、費用面から多床室を選ぶことが多いです。
入所後の生活保護費

生活扶助の減額
介護施設に入所すると、在宅時と比べて生活扶助が減額されます。

減額の理由
- 食費は施設で提供される
- 光熱費が不要
- 家賃が不要(自宅を引き払った場合)
減額の目安 入所前の約50~70%程度に減額されることが一般的です。
介護施設入所者加算
一方、「介護施設入所者加算」が支給されます。
加算額
- ユニット型個室:約6,000円~10,000円/月
- 従来型個室:約5,000円~8,000円/月
- 多床室:約3,000円~5,000円/月

住宅扶助の扱い
自宅を引き払う場合 住宅扶助は停止されます。
自宅を保持する場合 一定期間(6ヶ月程度)は住宅扶助が継続されることもありますが、原則として引き払うよう指導されます。
例外
- 配偶者が在宅で生活している
- 近い将来の退所が見込まれる

実際の支給例
入所前(在宅、単身、東京都区部)
- 生活扶助:約75,000円
- 住宅扶助:約53,700円
- 合計:約128,700円
入所後(特養、多床室)
- 生活扶助(減額後):約30,000円
- 介護施設入所者加算:約5,000円
- 介護扶助:施設サービス費(実質ゼロ)
- 居住費・食費:約9,000円(補足給付後)
- 合計支給:約35,000円
- 実質手元:約26,000円(居住費・食費を支払った後)
この金額で、日用品費や小遣いを賄います。

注意点とトラブル防止

1. 契約内容の確認
入所契約を結ぶ前に、必ず以下を確認しましょう。
- 月額費用の詳細
- 追加費用が発生する可能性
- 退所の条件
- サービス内容
不明点はケースワーカーに相談してから契約しましょう。
2. 施設とのコミュニケーション
生活保護を受給していることで差別的な扱いを受けることがあってはなりません。
不当な扱いを受けた場合は
- ケースワーカーに報告
- 施設の相談員に相談
- 市区町村の介護保険担当窓口に相談
3. 定期的な見直し
入所後も、以下の点を定期的に見直しましょう。
- 要介護度の変化
- 健康状態の変化
- 施設での生活の満足度
- 費用の変動
4. 自宅の処分
自宅を所有している場合、施設入所後どうするか検討が必要です。
選択肢
- 売却する(資産として保有できないため)
- 配偶者が居住し続ける
- 一定期間保有を認められる場合もある
どのような選択肢を選ぶにしろ必ずケースワーカーと相談して決定しましょう。
よくある質問

Q: 入居一時金が必要な施設には入れませんか?
A: 生活保護受給者は、まとまった資産を持つことができないため、入居一時金が必要な施設への入所は困難です。入居一時金ゼロの施設を選びましょう。

Q: 特養の待機期間中はどうすればいいですか?
A: 介護老人保健施設(老健)やショートステイを利用しながら待つことが一般的です。ケアマネージャーと相談しましょう。
Q: 施設で使うおむつ代は誰が払いますか?
A: 施設サービス費に含まれている場合と、別途請求される場合があります。別途請求される場合は、介護扶助の「介護用品費」として支給されます。

Q: 個人的な嗜好品(タバコ、お菓子など)は買えますか?
A: 手元に残る生活扶助費の範囲内であれば購入可能です。ただし、金額は限られるため、計画的な支出が必要です。

Q: 施設から退所を求められることはありますか?
A: 医療的ケアが必要になった場合や、他の入所者とのトラブルなどで退所を求められることがあります。ただし、正当な理由なく一方的に退所させることはできません。
Q: 家族が面会に来る際の交通費は出ますか?
A: 面会者の交通費は生活保護の対象外です。家族が自己負担する必要があります。
Q: 施設入所中に病院に入院した場合はどうなりますか?
A: 入院中は医療扶助が適用され、施設の費用は一時的に停止されます。退院後、再び施設に戻ります。

まとめ

生活保護を受給していても、介護施設への入所は可能であり、費用も生活保護の範囲内で賄えます。
重要なポイント
- 介護扶助により自己負担はほぼゼロ
- 施設サービス費は介護扶助でカバー
- 居住費・食費は補足給付で軽減
- 入所可能な施設
- 特別養護老人ホーム(推奨)
- 介護老人保健施設
- 介護医療院
- 一部の有料老人ホーム
- 月額費用の目安
- 多床室:約2万円~3万円
- 個室:約4万円~6万円
- 手続きの流れ
- 要介護認定取得
- ケースワーカーに相談
- ケアマネージャーと施設選定
- 入所契約
- 福祉事務所で介護扶助申請
- 施設選びのポイント
- 生活保護受給者の受け入れ実績
- 費用が保護費の範囲内
- 入居一時金ゼロ
- 立地とアクセス
介護が必要になっても、適切な支援を受けながら安心して生活できる環境を整えることができます。不安があれば、まずはケースワーカーや地域包括支援センターに相談しましょう。

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