「病院に行きたいけどタクシー代が払えない」「生活保護を受けているけど、タクシーで通院しても良いの?」「移送費は全額支給されるの?」生活保護受給者が通院や移動にタクシーを利用する際、こうした疑問や不安を抱く方は非常に多くいらっしゃいます。
実際、厚生労働省の調査によれば、生活保護受給者の約15%が通院のための交通費支給を受けており、そのうち一定割合がタクシー利用によるものです。適切な条件を満たせば、タクシー代も医療扶助の一部として支給されます。
本記事では、生活保護受給者がタクシー代の支給を受けられる条件、申請方法、支給金額の基準、利用時の注意点まで、福祉事務所の実務に基づいた正確な情報を徹底解説します。
この記事でわかること
- タクシー代が支給される具体的な条件
- 通院交通費(移送費)の申請方法と必要書類
- タクシー代の支給基準と上限額
- タクシー利用が認められる場合・認められない場合
- 申請が却下された場合の対処法
- タクシー以外の交通手段との比較
生活保護における移送費(通院交通費)の基本

移送費とは
移送費とは、生活保護法における医療扶助の一つで、医療機関への通院や入退院に必要な交通費のことです。

生活保護法第15条では、医療扶助として以下が定められています。
- 診察
- 薬剤または治療材料
- 医学的処置、手術及びその他の治療並びに施術
- 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
- 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
- 移送(通院交通費)
つまり、移送費は法律で定められた正当な医療扶助の一つです。
タクシー代も移送費の対象になる
移送費の対象となる交通手段には、以下が含まれます。
公共交通機関
- 電車
- バス
- 地下鉄
その他の交通手段
- タクシー
- 自家用車(ガソリン代)
- 救急車(緊急時)
つまり、適切な条件を満たせば、タクシー代も移送費として支給されます。
移送費支給の原則
ただし、移送費は無条件で支給されるわけではありません。以下の原則があります。
経済性の原則 最も経済的な交通手段を選ぶことが求められます。
必要性の原則 医療上の必要性が認められる場合に限ります。
合理性の原則 通院経路や手段が合理的である必要があります。
タクシー代が支給される具体的な条件

タクシー代が移送費として支給されるには、明確な条件があります。
条件1:身体的理由により公共交通機関の利用が困難
認められるケース
- 歩行困難(杖、車椅子、歩行器が必要)
- 重度の障害(身体障害者手帳1・2級など)
- 寝たきり状態での通院
- 骨折等で一時的に歩行困難
- 高齢で長距離歩行が困難
- 妊娠中で公共交通機関の利用が困難
- めまいや意識障害のリスクがある疾患
医師の意見書が必要 これらの状態は、主治医による「通院にタクシーが必要である」という意見書や診断書で証明する必要があります。
条件2:公共交通機関が利用できない地域
認められるケース
- 最寄りのバス停・駅まで徒歩30分以上
- バスの本数が極端に少ない(1日数本など)
- 医療機関の診療時間に公共交通機関がない
- 深夜・早朝の通院で公共交通機関が運行していない
地理的条件 離島、山間部、過疎地域など、公共交通機関が整備されていない地域では、タクシー利用が認められやすくなります。
条件3:緊急性がある場合
認められるケース
- 急な発熱、腹痛などで緊急受診が必要
- 症状が悪化し、公共交通機関での移動が危険
- 医師から緊急受診の指示があった場合
緊急時の事後申請 緊急の場合は、タクシー利用後に事後申請することも認められます。ただし、事前にケースワーカーや福祉事務所に連絡することが望ましいです。

条件4:感染症対策上の必要性
認められるケース(COVID-19の経験から)
- 感染症に罹患しており、公共交通機関の利用が適切でない
- 免疫力が低下しており、感染リスクを避ける必要がある
- 医師から公共交通機関の利用を控えるよう指示された
条件5:医療機器の運搬が必要
認められるケース
- 酸素ボンベが必要な患者
- 透析患者で医療機器の運搬が必要
- 大量の医療用具を持参する必要がある
タクシー利用が認められない典型的なケース
以下の場合、タクシー代は原則として認められません。
❌ 認められないケース
- 単に「楽だから」という理由
- 公共交通機関が利用可能なのに、タクシーを選ぶ
- 雨が降っているから
- 荷物が多いから(医療上の必要性がない荷物)
- 時間に遅れそうだから
- 自己都合の理由
タクシー代の申請方法と手順

タクシー代を移送費として支給してもらうための具体的な手順を説明します。
申請の基本的な流れ
事前申請が原則 タクシーを利用する前に、福祉事務所またはケースワーカーに申請することが原則です。
緊急時は事後申請も可能 ただし、緊急時は事後申請も認められます。
ステップ1:ケースワーカーへの事前相談
タクシーでの通院が必要と判断したら、まずケースワーカーに相談します。
相談内容
- なぜタクシーが必要なのか(身体的理由、地理的理由など)
- 通院先の医療機関
- 通院の頻度
- タクシー代の概算
ステップ2:医師の意見書・診断書の取得
身体的理由でタクシーが必要な場合、主治医に意見書または診断書を書いてもらいます。
意見書に記載されるべき内容
- 患者の病状
- 通院の必要性
- タクシー利用の必要性
- タクシー利用が必要な期間
費用 意見書・診断書の作成費用(通常3,000円~5,000円)は、医療扶助で賄われます(患者の自己負担なし)。
ステップ3:移送費支給申請書の提出
福祉事務所から「移送費支給申請書」を入手し、必要事項を記入して提出します。
申請書に記載する主な内容
- 申請者の氏名、住所
- 通院先の医療機関名、住所
- 通院日時
- タクシー利用の理由
- タクシー代の金額(領収書添付)
ステップ4:必要書類の提出
以下の書類を申請書と一緒に提出します。
必須書類
- 移送費支給申請書
- タクシー代の領収書(原本)
- 医師の意見書または診断書(身体的理由の場合)
場合により必要な書類
4. 医療券(すでに発行されている場合)
5. 通院先の診察券のコピー
ステップ5:審査
福祉事務所が、申請内容を審査します。
審査のポイント
- タクシー利用の必要性
- 通院経路の合理性
- 金額の妥当性
審査期間 通常、1週間~2週間程度
ステップ6:承認・支給
審査が通れば、移送費が支給されます。
支給方法
- 本人の口座に振り込み
- または福祉事務所窓口で現金受領
支給時期 承認後、1週間~1か月程度
定期通院の場合の簡略化
毎週または毎月定期的に通院する場合、毎回申請するのは煩雑です。そのため、以下のような簡略化措置があります。
事前包括承認
- 一定期間(例:3か月間)のタクシー利用を事前に包括的に承認
- 毎回の申請が不要に
- ただし、領収書の提出は必要
定期通院証明
- 医師による定期通院の必要性を証明する書類を提出
- これにより、一定期間のタクシー利用が認められる
タクシー代の支給基準と上限額

移送費として支給されるタクシー代には、基準と上限があります。
支給される金額の原則
実費支給が原則 実際にかかったタクシー代(メーター料金)が支給されます。
合理的な経路 最短または最も経済的な経路でのタクシー代が基準となります。
支給上限の考え方
明確な上限額はない 法律上、移送費の明確な上限額は定められていません。ただし、「合理的な範囲内」という制限があります。
合理的な範囲とは
- 最短経路でのタクシー代
- 深夜早朝料金も含む
- 高速道路料金は事前承認が必要な場合が多い
地域による差
都市部
- タクシー初乗り:500円~600円
- 1kmあたり:300円~400円程度
地方
- タクシー初乗り:600円~700円
- 1kmあたり:250円~350円程度
往復か片道か
原則:往復支給 通院の場合、往復のタクシー代が支給されます。
片道のみの場合
- 病院から自宅までは家族が送迎できる場合、片道のみ
- 入院時は片道のみ
付き添いが必要な場合
付き添い者のタクシー代 以下の場合、付き添い者の分も含めたタクシー代が支給されます。
- 本人が一人で通院できない状態(高齢、障害、子ども)
- 医師が付き添いを必要と認めた場合
支給される金額 通常、付き添い者の運賃は別途請求されないため(同乗)、本人分のタクシー代のみで済みます。
複数人で同乗する場合
複数の生活保護受給者が同じ病院に通院する場合、タクシーを相乗りすることで費用を抑えられます。
費用の按分 タクシー代を人数で割った金額が、それぞれに支給されます。
例
- タクシー代:3,000円
- 乗車人数:3人
- 各人への支給額:1,000円
タクシー利用時の注意点と領収書の取得

領収書は必ず取得
重要性 領収書がないと、移送費の申請ができません。
領収書に必要な記載事項
- 日付
- 金額
- タクシー会社名
- 領収書番号
- 乗車区間(可能であれば)
紛失した場合 領収書を紛失すると、原則として移送費は支給されません。領収書は大切に保管しましょう。
タクシー会社の選択
原則:自由 どのタクシー会社を利用しても構いません。
推奨
- 信頼できる大手タクシー会社
- メーター制のタクシー
- 領収書を確実に発行してくれるタクシー
避けるべき
- 白タク(無許可営業)
- 知人の自家用車での送迎を「タクシー」と偽る
事前予約の活用
定期通院の場合 タクシー会社に事前予約しておくと、確実に利用できます。
福祉タクシー 一部のタクシー会社では、車椅子対応などの福祉タクシーサービスがあります。必要に応じて利用しましょう。
不正請求は厳禁
不正の例
- 実際はバスで通院したのに、タクシーの領収書を偽造
- 友人に頼んで通院したのに、タクシー代を請求
- タクシー代を水増しして請求
発覚時のペナルティ
- 生活保護法第78条による費用徴収(全額返還+最大40%の加算金)
- 詐欺罪での刑事告発の可能性
- 生活保護の停止または廃止
正直に申請することが最も重要です。

タクシー以外の交通手段との比較

タクシー以外の選択肢についても理解しておきましょう。
公共交通機関(バス・電車)
メリット
- 費用が安い
- 移送費の申請・承認がスムーズ
デメリット
- 身体的に利用困難な場合がある
- 乗り換えが必要な場合がある
- 時間がかかる
移送費の支給 バス・電車賃も移送費として支給されます。申請手続きはタクシーより簡単です。
自家用車(ガソリン代)
生活保護受給者は原則として自動車の保有が認められていませんが、例外的に認められる場合があります。

自動車保有が認められるケース
- 障害者が通勤・通院に必要
- 公共交通機関がない地域での通勤に必要
ガソリン代の支給 自家用車での通院が認められている場合、ガソリン代相当額が移送費として支給されます。
計算方法
- 距離 × 燃費 × ガソリン単価
- 例:往復20km、燃費15km/L、ガソリン160円/L
- 計算:20km ÷ 15km/L × 160円 = 約213円
福祉有償運送
福祉有償運送とは NPO法人等が、障害者や高齢者を対象に有償で行う送迎サービスです。
特徴
- タクシーより安価
- ドア・ツー・ドアのサービス
- 車椅子対応車両もある
移送費の対象 福祉有償運送の料金も、移送費として支給される場合があります。ケースワーカーに相談してください。
介護タクシー
介護タクシーとは 介護が必要な方のための専用タクシーです。
特徴
- 車椅子のまま乗車可能
- ヘルパー資格を持つ運転手
- 乗降介助あり
費用 通常のタクシーより高額ですが、必要性が認められれば移送費として支給されます。
救急車
利用すべきケース
- 意識がない
- 呼吸困難
- 大量出血
- 激しい胸痛
費用 救急車は無料です(移送費の申請不要)。
注意 緊急性がないのに救急車を呼ぶことは避けましょう。
申請が却下された場合の対処法

タクシー代の移送費申請が却下される場合もあります。
却下される主な理由
1. タクシー利用の必要性が認められない
- 公共交通機関が利用可能
- 身体的に問題がない
- 医師の意見書がない
2. 経路や金額が不合理
- 遠回りのルート
- 不必要に高額
- 複数の医療機関を回っている(各々の必要性が不明)
3. 書類不備
- 領収書がない
- 医師の意見書がない
- 申請書の記載漏れ
対処法1:理由を確認し、再申請
ステップ1:却下理由の確認 ケースワーカーに、なぜ却下されたのか詳しく聞きましょう。
ステップ2:不備の補完 書類不備であれば、必要書類を揃えて再申請します。
ステップ3:医師の意見書の取得 必要性が認められなかった場合、医師により詳細な意見書を書いてもらいます。
対処法2:不服申立て
却下に納得できない場合、不服申立てができます。
審査請求
- 却下決定を知った日から3か月以内
- 都道府県知事に対して行う
- 費用は無料
再審査請求
- 審査請求の裁決に不服がある場合
- 厚生労働大臣に対して行う
対処法3:他の交通手段の検討
タクシーが認められない場合、他の交通手段を検討しましょう。
選択肢
- バス・電車(移送費支給の可能性大)
- 福祉有償運送
- 知人・家族の送迎(ガソリン代は原則支給されない)
対処法4:支援団体への相談
相談先
- 社会福祉協議会
- 生活困窮者自立支援制度の相談窓口
- 弁護士(法テラスで無料相談可能)
専門家に相談することで、適切なアドバイスを受けられます。
特殊なケースでのタクシー利用

ケース1:透析患者の通院
特徴
- 週3回程度の定期通院が必要
- 透析後は体力が消耗し、公共交通機関の利用が困難
タクシー利用 透析患者は、タクシー利用が認められやすいです。医師の意見書を提出し、定期的なタクシー利用の承認を得ましょう。
ケース2:精神科への通院
特徴
- 症状により、公共交通機関でパニックになる可能性
- 人混みが苦手
タクシー利用 医師が「公共交通機関の利用が精神的に困難」と認めた場合、タクシー利用が承認されることがあります。
ケース3:妊婦の通院
特徴
- つわりがひどい
- 切迫早産のリスク
- 臨月で長距離歩行が困難
タクシー利用 妊娠中の体調不良や、医師の安静指示がある場合、タクシー利用が認められます。
ケース4:小児の通院
特徴
- 乳幼児を連れての通院
- 子どもの体調不良
タクシー利用 乳幼児や体調不良の子どもを連れての通院では、タクシー利用が承認される可能性があります。
ケース5:リハビリ通院
特徴
- 骨折後のリハビリ
- 脳梗塞後のリハビリ
タクシー利用 リハビリ期間中、一時的にタクシー利用が認められることがあります。医師に、タクシー利用が必要な期間を明記してもらいましょう。
よくある質問(Q&A)

Q1: タクシー代は全額支給されますか?
A: 合理的な範囲内であれば、実費が全額支給されます。ただし、不必要に遠回りしたり、高速道路を使った場合(事前承認なし)などは、一部が自己負担となる可能性があります。
Q2: タクシーを使ったのに申請を忘れました。後から申請できますか?
A: 原則として、利用から一定期間内(通常1か月以内)であれば、事後申請も可能です。ただし、事前申請が原則なので、次回からは必ず事前に申請しましょう。領収書があれば申請できる可能性が高いです。
Q3: 毎週透析に通っています。毎回申請が必要ですか?
A: 定期通院の場合、事前に一定期間(例:3か月)のタクシー利用を包括的に承認してもらえることがあります。ケースワーカーに相談してください。ただし、領収書は毎回提出する必要があります。
Q4: 雨の日だけタクシーを使いたいのですが?
A: 「雨だから」という理由だけでは、タクシー利用は認められません。ただし、身体的理由(関節痛が悪化する、転倒リスクがあるなど)があり、医師が認めた場合は可能性があります。
Q5: 領収書をなくしてしまいました。どうすればいいですか?
A: まずタクシー会社に連絡して、領収書の再発行が可能か確認してください。多くのタクシー会社は、日時と金額が分かれば再発行してくれます。それでも無理な場合は、ケースワーカーに相談しましょう。
Q6: 知人の車で送ってもらった場合、ガソリン代は支給されますか?
A: 原則として、知人の車でのガソリン代は支給されません。移送費は、公共交通機関、タクシー、または例外的に認められた自家用車のみが対象です。
Q7: 複数の病院を回る必要があります。全てのタクシー代が支給されますか?
A: 各病院への通院が医療上必要であれば、それぞれのタクシー代が支給される可能性があります。ただし、合理的な経路(効率的に回る順序)でなければなりません。事前にケースワーカーに相談することを強く推奨します。
Q8: 付き添いの家族も別のタクシーで行く必要があります。両方支給されますか?
A: 基本的には、受給者と付き添い者は同じタクシーに乗ることが求められます。別々のタクシーでの費用は、特別な理由がない限り認められません。
まとめ:生活保護のタクシー代支給は条件を満たせば認められる

本記事の重要なポイントをまとめます。
タクシー代支給の基本
- 移送費(通院交通費)は医療扶助の一部
- 適切な条件を満たせば、タクシー代も支給される
- 事前申請が原則(緊急時は事後申請も可)
支給される条件
- 身体的理由で公共交通機関の利用が困難
- 公共交通機関が利用できない地域
- 緊急性がある場合
- 感染症対策上の必要性
- 医療機器の運搬が必要
申請方法
- ケースワーカーに事前相談
- 医師の意見書を取得(身体的理由の場合)
- 移送費支給申請書の提出
- 領収書と必要書類を提出
- 審査・承認
- 支給
重要な注意点
- 領収書は必ず取得・保管
- 不正請求は厳禁
- 合理的な経路を選ぶ
- 定期通院は包括承認を検討
却下された場合
- 理由を確認し、再申請
- 不服申立て
- 他の交通手段の検討
- 支援団体への相談
最後に
生活保護を受けていても、適切な条件を満たせば、タクシーでの通院は可能です。身体的に困難な状況で無理に公共交通機関を使う必要はありません。
ただし、タクシー利用には明確な基準があり、事前の申請や医師の意見書が必要です。わからないことがあれば、一人で判断せず、必ずケースワーカーに相談してください。
適切な手続きを踏むことで、安心して通院でき、健康を守ることができます。あなたの健康は、何よりも大切です。必要な医療を受けるために、移送費の制度を適切に活用しましょう。

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